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魔法使いの孫は魔法使い、のはず  作者: 都森 のぉ
第一章

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猫の一喝

 雄哉も詳しくないため玉藻に質問する。


「玉ちゃん、どういうこと?」


「ガブリエラン家の戦い方は完全防御。自分の縄張りを“霧”で覆い、侵入者の認知を狂わせるにゃ。そこに道があっても“無い”と思えば道が消えるにゃ。そんなことが魔法界全体に広がれば大問題」


「今のところ、ラファエラン家、ユリニエラン家、サーマエラン家の当主がガブリエラン家当主より強いから打ち消せている。四候のパワーバランスを均衡にするために五大公があるが、指示役が静観と宣言し、あまつさえガブリエラン家の肩を持つようなことをしている」


「廿楽は昔からパワーバランスを崩すのが趣味にゃ」


「つーちゃんって、偉い人だったの?」


 無邪気なまでの素直さで雄哉は廿楽の愛称を呼んだ。


「領主をすると自由に動けないという理由で、息子に地位を譲ってフラフラしてるにゃ」


「ガブリエラン家が魔法界を支配するのは避けたい。だが、四候同士が争うことは禁止されている。だから、ラファエラン家の血筋であり、人間界育ちの君に白羽の矢を立てたんだよ」


 ハルトは雄哉に接触した理由を話した。

玉藻は不機嫌そうにしたが口は挟まなかった。


「僕たち魔法界育ちと違って、このままガブリエラン家に行っても惑わされて終わるだろうけど、成長のためには必要なことだ。そうだろ? 玉ちゃん」


「いけ好かない奴にゃ。教育係の顔が見てみたいものよ」


「呼んだ?」


「お呼びでないわ。引っ込んどれ。薄氷(うすらい)


 襖を足爪で開けて梟が入ってきた。

雄哉は魔法使いの使い魔というと梟の印象を持っている。

近づいても逃げない梟を雄哉は心行くまで眺めた。


「いやー。教育係の顔が見たいって言うから来てやったのに、その言い種はないだろ」


「雄哉、思いっきり撫で回してやれ」


「ウモッ」


 眼を輝かせて雄哉は薄氷を両手で掴み、モフモフを堪能する。

逃げようにもしっかりと握られていて毛並みが乱れるまで撫で回された。


「もうボサボサじゃねぇか。どんな教育を受けてんだよ」


「玉ちゃんが良いって言ったよ」


「ほんと良い教育してるわ」


 薄氷はこれ以上乱されては敵わないと襖を開けて魔法界に帰ろうとするが、布団の壁に激突する。

三回に一回の罠に引っかかり薄氷は気まずい思いをしながら帰った。

ハルトは教育係の薄氷が撫で回されたことに笑いが込み上げて、顔を背けて耐える。


「雄哉くん、最高だよ。薄氷があんなに焦っていたのを初めて見たよ」


「それで何の用にゃ?」


「雄哉くんをガブリエラン家に案内しようかなと思ってね」


 玉藻は目を細めたが雄哉に魔法を感じさせるには手っ取り早いとは考える。

エミールは不安そうにハルトと玉藻の顔を見比べた。


「今の雄哉では惑わされて終わるにゃ。でも必要なことでもあるにゃ」


「玉藻。それで雄哉が戻って来られなかったらどうするのよ」


「繋ぎ止める物があれば良いだけにゃ」


 玉藻は無言でエミールを見つめた。

エミールは真っ直ぐな視線に一瞬戸惑ったが、すぐに弾かれたように自分の胸元に手をやった。


「・・・これを使って。お父様たちには内緒で作っていたお守りなの」


 エミールが差し出したのは、銀の糸で不器用に編まれた小さな結晶のような飾りだった。

それは蛇の気配を消すだけでなく、持つ者の意識を繋ぎ止める効果がある。

打算や嘘が渦巻く魔法界において、真っ直ぐで直情的なエミールにしか作れない純粋な魔力の塊だった。


「気休め程度の力しかないけれど、あなたに貸してあげるわ」


 雄哉はその温かいお守りを受け取り、力強く頷いた。

襖の前で大きく深呼吸した雄哉は意を決して三回、開けて閉める。

そして三回目に、目に見えたのは視界を遮るほどに濃く、湿り気を帯びた白い霧の世界だった。


「・・・真っ白だ。何も見えない」


「怖がっちゃだめよ、雄哉」


「エミール、手を繋いでもいい?」


「仕方ないわね」


 エミールと手を繋ぎ、雄哉が先頭に立って霧の中へと足を踏み出す。

後ろでは玉藻が悠然と歩き、ハルトは楽しげな表情で傍観を決め込んでいる。

進むにつれ、霧はますます深く、重くなっていった。


「あっちの方が霧が薄いね」


「そうね」


 歩くたびに、地面の感覚が曖昧になり、前後左右の区別すらつかなくなる。

まるで、自分という存在が霧の中に溶け出して消えていくような感覚を覚えた。


「エミール・・・こっちで、合ってるよね?」


「ええ、たぶん・・・。でも、なんだか体が重いわ。ねえ、私たち、本当に歩いているの?」


 雄哉の不安は、そのまま繋いだ手を通してエミールへと伝わった。

二人は知らず知らずのうちに、同じ場所を円を描くように彷徨い始めていた。


「だめだ・・・どこを向いても白くて、息が・・・」


 雄哉の意識が遠のき、膝が折れそうになった。

エミールも足を止めてしまう。

この濃い霧の中で、しっかりと雄哉とエミールを見ていた玉藻は切り裂くような鋭い声を響かせた。


「いつまで無様にうろついているにゃ!」


 玉藻の怒声が、静寂を突き破る。

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