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魔法使いの孫は魔法使い、のはず  作者: 都森 のぉ
第一章

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11/13

偽物と本物

 喉の奥が引き攣り、返すべき言葉が一つも浮かんではこなかった。

その沈黙を、ヴィクトールは愉快そうに鼻で笑い飛ばした。


「言葉も出ないか。まあ、無理もないことだ。ソウの血筋とはいえ、所詮は魔法も知らぬ人間界の子供に過ぎないからな」


 ヴィクトールは雄哉から視線を外し、退屈そうに広間の隅を見やった。


「だが、ただ追い返しては私の気が済まぬ。そこで一つ、提案をしよう。我が息子、エリオールとお前で戦いをするのだ。どちらが石の所有者に相応しいか、実力で示せば文句はあるまい」


 その言葉を聞いた瞬間、エミールの顔が驚愕に染まった。


「お父様! それはあんまりです。雄哉はまだ魔法の使い方も・・・」


「黙れ、エミール。私は彼を高く評価しているのだよ」


 ヴィクトールはエミールの言葉を遮り、再び雄哉をねめつけた。

ヴィクトールは、雄哉の内に眠る膨大な魔法使いの素質を見抜いていた。

石という媒体が無くとも魔法を使いこなせるほどの素質は、彼にとって最大の脅威であった。

ここで雄哉を亡き者にしたいが、自らが直接手を下せば、他の四候から糾弾される恐れがある。

だからこそ、息子であるエリオールを身代わりにした決闘という形を選んだのであった。


「一週間後、この広間で決闘を行う。勝てば石は返してやろう。負ければ・・・お前のその命、石の代わりとして私が預かることにする」


 ヴィクトールは翻り、再び玉座へと戻っていった。


「案内は引き続き、娘にさせよう。せいぜい、短い余生を楽しむがいい」


 絨毯が足音を消す廊下をエミールの案内で歩く。

足取りが重く、エミールは一週間の猶予があったところで雄哉が兄のエリオールに勝てるとは思っていない。

不意打ちでエリオールの魔法を無効化できたとしても魔法界でなら雄哉に勝ち目は薄い。


「父上も甘いな」


「お兄様」


「一週間後だろうと、今だろうと結果は変わらない。ここはユリニエラン家の支配下にある。四方からお前を狙っている」


 雄哉は足元から這い上がってくる黒い蛇や天井や壁から蛇が鎌首をもたげて見下ろしている。

逃げようにも足が動かない雄哉は声も出せない。


「へ、へび・・・へび・・・」


「行け!」


「蛇ーーーーーーっ!」


 目を閉じて雄哉は頭を抱えた。

エミールは無数の蛇が雄哉を通り過ぎて行くのを見た。

蛇に襲われる恐怖で、エリオールは雄哉が気を失うか、死んだと思って心臓を止めると思った。


「なぜだ! お前は蛇が嫌いなのだろ!」


「ひぃ、エミール、蛇いない? もういない?」


「えっ、えぇ」


「本当に?」


「いないわよ」


 片目ずつうっすらと開けて蛇がいないことを確認した雄哉は胸を撫で下ろす。

エリオールが不意打ちを狙っていることを知っていたヴィクトールは、離れたところで成り行きを見ていた。

失敗したことを知ったヴィクトールは、間隔の空いた拍手を送る。

 雄哉とエミールは、急いで通って来た扉に向かう。

通り抜けて襖を閉めると二人は大きく息を吐いた。


「びっくりした」


「へぇー、これがソウの石か」


「ひぃー、蛇ー」


 手のひらに乗せた石を見ている雄哉の腕に廿楽が巻き付いた。

蛇が駄目な雄哉は腕を振り上げた。


「おっと、あんがとさん」


「ちょっと!」


「何を騒いでるにゃ」


「くそ猫! あいつが石を飲み込んだのよ」


 雄哉の手から離れた石を廿楽は丸呑みすると尻尾で器用に襖を開けて魔法界に帰ろうとする。

襖は律儀に三回に一回の決まりを実施して魔法界に繋いだ。


「騒ぐにゃ。魔法使いは騙し合い。廿楽が、にゃーたちを騙していたのなら向こうが上手だっただけにゃ」


「そんなっ」


「廿楽にとって、雄哉の蛇嫌いは誤算だったにゃ。仲良くなって、譲ってもらうつもりが会話すらままならない。仕方なく強奪することにしたにゃ」


「最高の魔法使いの石となれば、誰もが喉から手が出るほど欲しい物だからね」


 襖が開いて少年が入ってきた。

エミールと雄哉は驚いていたが、玉藻は小さく一瞥しただけに留める。

エリオールのような分かりやすい敵意は無いが、仲間のように思っていた廿楽が裏切ったことに疑心暗鬼になっていた。


「次はラファエラン家の孫が来たにゃ。雄哉の再従兄弟になる敵か味方か分からん男にゃ」


「酷いな。そこは嘘でも良いから味方だと言ってくれないかな?」


「にゃーは正直者だから舌が避けても言えないにゃ」


「良く言うよ。まあ、“嘘”は魔法使いの専売特許だ。それに蛇は古来より裏切りの象徴でもある。僕のことは、ハルトとでも呼んでくれ」


 ハルトは口許だけの笑みを浮かべた。

玉藻はラファエラン家でも教師を務めたが、ハルトが産まれた頃には解任されている。

ソウが魔法界から出奔したことの責任を問われる形での処分となり、ハルトのことは存在だけを知っていた。


「ラファエラン家は、ソウの弟が跡を継いだにゃ。弟もソウに匹敵するくらい腹の底が読めない奴だったが、その孫も匹敵するにゃ」


「失礼だな。せっかく廿楽の行き先を教えてあげようと、はるばる人間界まで来たというのに」


「廿楽は、お父様のところに帰ったのではないの?」


「そう単純なことではないよ。ガブリエラン家も関わっているからね」


 水面下での策略は魔法使いが好む手段だ。

直情型のエミールが最も苦手としている部分だ。

その部分が魔法使いとして致命的な欠陥であり、エミールが父親から見放されている原因でもあった。


「どうしてガブリエラン家が出てくるの? あの家は事なかれ主義で無関心でしょ?」


「無関心、とは少し違うな。共倒れしたところを利益だけ奪っていく。今、ガブリエラン家に力をつけられるのは、ラファエラン家としても困るんだ」


「ラファエラン家のかくし球にゃ。ハー・・・」


「玉ちゃん、と呼んで欲しいんだったよね? 僕のことは、ハルトとでも呼んでくれ」


「・・・ハルトの言う通り、ガブリエラン家が力をつけると厄介にゃ」


 魔法界の四候の在り方に詳しくない雄哉は玉藻の言葉に首をかしげる。

エミールもまだそこまで教育を受けていない。

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