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プロローグ

 夕焼け小焼けのオルゴール放送が流れて、小学生たちがランドセルを揺らしながら家路に就く中、一人の少年が寂し気に公園のブランコに乗っていた。

帰ろうとした友人たちが声をかけるが、少年は首を小さく振って一緒に帰るのを断る。

少年の両親は忙しく、家に帰っても一人で、唯一の少年の理解者である祖父も心臓が悪く検査入院をしていた。

帰っても冷たいコンビニ弁当を食べるという生活を一週間続けている。

家に帰りたくなくなっても仕方のないことだった。


 錆びついたブランコを漕ぎながら少年は茜色から黒くなっていく空を見上げる。

巡回をしている警察官が少年を見つけて声をかけた。


「何をしているんだい? 家に帰ろうか」


「・・・帰らない」


「お家の人が心配する。お巡りさんが送ってあげるから帰ろうか?」


「・・・いないもん」


「そんなことないだろう? ほらお腹も空いただろう?」


 帰りたくは無いが、ずっと公園にはいられない。

促されて少年は、警察官と一緒に家に向かった。

電気が消えた家に、渡された鍵を穴に差し、回す。


「お家の人はいないのかな?」


「仕事・・・」


「そうか。暗くなると危ないから早く家に帰るんだよ」


「うん」


 廊下の電気を点けて、廊下にランドセルを下ろすと少年は、真っ直ぐ洗面所に向かった。

冷たい水で手を洗うと、台所のテーブルにメモと一緒にお弁当が置かれていた。

宿題をしなさいと書かれたメモを少年は握り潰してゴミ箱に捨てる。

冷めたご飯とメインのハンバーグを少しだけ食べて、残りは同じようにゴミ箱に捨てた。


「・・・おじいちゃん」


 祖父が入院する前には、料理上手な祖父が少年の好きなものを作ってくれた。

それに比べると、毎日同じお弁当は少年の食欲を減退させていた。



§§§§§



 縁側で囲碁をしている祖父は、少年に言ったことがあった。


「おじいちゃんはな、魔法使いなんだよ」


「魔法使い?」


「あぁ、だけど魔法使いの石を盗まれてしまったんだよ」


「盗まれちゃったの?」


「息子の昭には魔法使いの才能がないから孫の雄哉に渡そうと思ったんだけどな」


 残念そうに言う祖父の言葉が印象に残り、いつか取り戻そうと心に決めた。



§§§§§



 寝る前に窓を開けて星を見ていると、黒猫が寄って来た。

ここらで見る野良猫ではなく、どこかで飼われているイエネコなのだろうと思われた。


「迷子?」


「迷子じゃないにゃ」


「しゃ、しゃべった!」


「む、そんなに驚くことかにゃ? ソウの孫のくせに」


「おじいちゃんのこと知ってるの?」


 黒猫は呆れたように喋ると、我が家のように部屋に入った。

雄哉はネコを見つめる。


「知ってるも何もソウは、最高の魔法使いにゃ。まぁその息子には魔法使いの才能は無かったみたいにゃ」


「最高の魔法使い」


「孫のくせに何にも知らないのにゃ。まぁ窓は閉めた方が良いにゃ。夜は悪い魔法使いにとって天国みたいなもの」


 窓の外では梟が鳴いていた。

雄哉は喋る黒猫の言う通りに窓を閉めた。


「息子に無かった分、孫には魔法使いの才能があるみたいにゃ。才能はあっても資格は無いみたいにゃけど。石があれば召喚契約してもらおうと思ったにょに」


「召喚契約?」


「ソウから(にゃん)にも聞いてにゃいにゃ?」


「うん、魔法使いだったんだよとは聞いたことあるよ」


「それだけかい! あのおいどれ、えぇ加減にしとけよ、ワレ」


 黒猫は流暢な言葉で悪態をついた。

語尾ににゃとつけて話している可愛らしさとは、かけ離れた。


「ぇっと、黒猫さん?」


「にゃーの名前は、玉藻にゃ。気軽に玉ちゃんと呼んで欲しいにゃ」


「玉ちゃん」


「そうにゃ、それでソウの孫の名前は(にゃん)にゃ?」


「雄哉」


 玉藻の目が妖しく光った。

今まで小さな猫だったのに、突然大きくなりライオンくらいになった。

雄哉は驚いて腰を抜かすが、玉藻は舌舐め擦りをして雄哉を見下ろす。


「だめにゃよ。簡単に名前を教えちゃ。魔法界の住人は名前で相手を縛るにゃ。石も持たない子どもにゃんかイチコロにゃ。気をつけるにゃよ」


「う、うん」


「分かったにゃら良いのにゃ。にゃーは雄哉を縛る気も食べる気もにゃいにゃ」


 体を猫の大きさに戻すと玉藻は毛繕いをする。

いきなりのことで頭がついていかないが、玉藻は平然としている。


「今まではソウが隠していたみたいだけど、これからはそうもいかにゃいにゃ。にゃーが守るから石が見つかったら召喚契約して欲しいにゃ」


「隠す? 守る?」


「魔法使いは、魔法界の住人からすればご馳走にゃ。骨の髄までしゃぶりたくなるもの。まぁ、にゃーほどになると食べたいとも思わにゃくなるから安心するといいにゃ」


 安心しろと言われても安心は出来ないが雄哉は一応、頷いた。

一人もとい一匹は納得したように頷いた。

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