2.ダンジョンクリエイト!
アドバイザーさんにナビゲートされているフォスに、優しく鷲掴みされながら運ばれること体感六時間。
[見えてきました。あれが〔未踏の大地〕です]
よ、ようやく着いたんだ。
そろそろお腹のあたりが圧迫されて苦しかったから助かった。
アドバイザーさんからのアナウンスからしばらくして、ズズンという重々しい音が少しの衝撃と同時に聞こえてきた。
おうっふ……今の状態でこの衝撃はちと堪える……!
必死で吐き気をこらえていると、フォスが優しく地面に降ろしてくれた。
ありがとうフォス……でもその優しさは別のところで感じたかったんだぜ……
「……あ、ありがとう……お疲れ様、フォス」
足が震えて小鹿のようになっていたけどなんとか立ち上がり、目の前にあったフォスの鼻の頭を撫でると嬉しそうに目を細められた。
くっ、可愛い……!さっきまでの不満やらなんやらが吹き飛ぶ……!
フォスをひとしきり愛でた後、ぐるーりと周囲を見渡す。
おお……見渡す限り背の高い木が見える……こんなにたくさん木が生えてるところなんて初めて見た。
……そういえばアドバイザーさんからここに着いた後のことを聞いてなかったな。
「アドバイザーさん。
〔未踏の大地〕に着いたわけだけど、私は何をすればいいの?
考えがあるって言ってたけど」
[はい。リナ様には岩山の麓から〔未踏の大地〕まで繋がるダンジョンを生成していただこうかと]
「待って?」
ダンジョン?今度はダンジョンを造れと?マジで?
「……理由は?」
[まずは食糧調達のためです。
〔未踏の大地〕には魔物はおろか動物すらおりませんから、ダンジョン、及び魔物を生成することで解消させようと]
「なるほど。……まずはってことはまだ理由がある?」
[はい。次に、町に行った折に売却する素材の確保です。
お金は天下のまわりものと申しますし、持っていて損はないかと。
物作りの素材として手元に置いておくのもよいかもしれませんね]
なるほどなぁ。
確かに魔物からとれた素材は鎧を作る時の素材として使えそうだし、いいかもしれない。
それにしてもダンジョン、ダンジョンかぁ。
「……私、戦闘スキル皆無なんだけど。大丈夫かなぁ……」
[フォスに攻略を任せれば大丈夫かと。
フォス一匹では心配というならば、もう一匹魔物を生成してはいかがでしょうか]
「どんだけデカいダンジョン造らせる気なんです?」
このサイズのドラゴンが入るダンジョンって。
しかも攻略される側じゃなくてする側。
[大丈夫です、問題ございません。
リナ様が造られたドラゴンは"エンシェントホワイトドラゴン"でございますから、自動的に《人化》スキルを取得しております]
《人化》?
《人化》って何ぞと首をひねっていると、フォスが突然光りだした。
光を放ち始めたフォスはゆっくりと小さく、そしてその形を竜から人型に形状を変えていった。
光がおさまるとそこには、真っ白な長い髪に、天色の瞳をした十七歳くらいの白皙の美貌を持つ男の子が立っていた。
……全裸で。
「……、……。……うん!まずは服だな!」
誰に何と言われようと、ダンジョンより何より服を優先して作る!
見てて寒いしなにより目のやり場に困るし!
見た目年齢が同い年くらいの男が全裸とか、そんな原始的な格好、お母さんは許しませんよ……!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
結果といたしまして。
《生命創造》で四匹ほど家族が増えました。
衣服に強そうという理由で蜘蛛系の魔物を二匹と、フォスの兄弟分が二匹。
まずはキラースパイダーのルヴィニ。
目の色がルビーのように綺麗な赤色をしていたからそう名付けた。
全長が大体私と同じくらいで、高さは私の腰あたりまで。そんでもって全身に黒い体毛が生えている。
ちょっとだけ撫でさせてもらったがとても撫で心地が良かった。
次にクイーンアラクネのイリス。
艶やかな長い黒髪と菖蒲色の瞳が色っぽい、ボンキュッボンのアラクネのお姉さんだ。
……うん、こちらもフォスと同じく全裸でした。
というか、人型をした子達は須らく全裸だった。
んで、この二匹には早速お仕事していただいております。
ルヴィニは《織布》スキルが、イリスには《裁縫》スキルがあり、ものすごいスピードで布と服を作っております。
そんなわけで早々に衣食住の「衣」は確保完了しました。
そしてフォスの兄弟分。
こちらは妹分と弟分が一人ずつだ。
女の子はフラム、男の子はアストと名付けた。
まずはフラム。翼竜人の活発な性格をした女の子だ。
ドレイクっていうのは竜の角と瞳、そして翼と尾を持った人型の魔物のことだそうだ。
外見は真っ赤な髪をポニーテールにした、蜂蜜みたいな金色の瞳をしていて、人間で言うと十五歳くらいの体つきをしていた。
次にアスト。陸竜人の真面目な性格の男の子。
ドラゴニュートはドレイクと違って翼がなく、代わりに体中に覆われている鱗の面積が多い。
そんでもって空を飛べない代わりに走るのが大の得意という魔物なんだとか。
外見は髪が金色のウルフカット、瞳が翡翠のような綺麗な色をした、これまた十五歳くらいの体つきだった。
と、こんな感じで家族が増えたので、急ぎ残りの「食」と「住」を何とかしていこうと思います。
そう、いよいよダンジョン作成だ。
ついでにダンジョンを生成している間、ルヴィニとイリスは引き続き衣服の製作を、フォス・フラム・アストの三人には石の斧を手渡して木の伐採をお願いしました。
石の斧はそこらへんに転がっていた倒木と岩を素材に、《製造》というスキルでちょちょいと作った。
……うん、岩の一部がうにょーんと変形する様は面妖以外の何物でもなかったよ……
閑話休題。
ダンジョンを造る、と一口に言ってもどんなダンジョンにするべきかな。
うーん、ダンジョン……ダンジョン……あ、そうだ。
「不思議のダンジョン!」
[不思議のダンジョン、ですか?]
「うん。入る度に地形が変わるダンジョン。
入る度っていうのは何かと困ることが出てきそうだから毎日に変えて、難易度を任意で変更することができるようにしよう」
ダンジョンで真っ先に連想したのが某風来の旅人が主人公のローグライクゲームの"不思議のダンジョン"だったんだよね。
やりこみ要素も沢山あって好きだったなぁ。
そうだ、それだったらお店とかモンスターハウスみたいな要素も入れよう。
私が《迷宮創造》スキルでダンジョンの構想をガンガン設定していると、アドバイザーさんが[ふむ]と声を上げた。
「どうかしたんですか?」
[いえ、このダンジョンでしたら他の目的にも利用できそうだなと。
まあ実現できるかどうかは定かではありませんので、お気になさらず]
「そっか」
他の使い方ねぇ。
このダンジョンを中心に町を作ったりとか?
まさかね。