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9.日本人の朝の食卓と言えば


 朝方意気揚々と出かけて行ったフォス達が、お昼ごろにニコニコとご機嫌に帰ってきた。

 どうやら取引に成功したらしい。

 アドさん曰く、胡椒30㎏がお米50㎏になったとのこと。

 やったぜ。

 しばらくはお米に悩むことはなさそうだ。


「ほう、こいが米か」

「うん。見たところ精米してないみたいだね」

「せーまい?」

「このお米を美味しく食べるために必要な工程だよ。

 玄米のままでも食べられるけど、精米した方が食べやすくなるんだよ」

「ほーん……」


 ただこの精米、かなり根気がいる工程のはずなんだよな……もみすりほどじゃないけどさ。

 うーん……スキルでなんとかならないかなぁ……

 例えば加工系のスキルとかでぱぱっと……あ、できた。

 どうやら一から作るだけじゃなくて加工もできるようだ。

 ちなみにスキルの名前は《加工プロセッシング》というらしい。まんまだな。


「おお、真っ白になった」

「これが精米された状態のお米だよ。綺麗でしょう」

「これもおっかんのスキルでこうなったんか?」

「うん、そうだよ。スキルなしで精米しようとしたら何日かかることやら……」


 先生から豆知識で教えてもらったけど、本当に面倒くさいんだよなぁ。

 小さい瓶の中に適量の玄米入れて、瓶の口をギリギリ通るすりこ木で上下にくんだけど、毎日三時間を一週間続けても地球の日本で市販されてるお米みたいに真っ白にはならないんだとか。

 そんなの根気が続かんわ。

 精米機なしで精米してた昔の人ってすごい。


「ところでリナ様、ライスで何を作るんですか?」

「そうだね、主食だからお肉とかのおかずを用意して一緒に食べるのが主流なんだけど……」


 せっかく久しぶりに食べるんだからお米自体の味を楽しみたい。

 そうして導き出された私の答えは、


「たまごかけごはんが食べたい」


 たまごかけごはん。略してTKG。

 アレルギー持ちでない日本人なら誰でも一度は食べたことがあるだろう。

 ご飯の上に卵を割り入れ、醤油をたらしてお箸でかき混ぜて一気に啜るようにして食べることができる、お手軽な朝食の定番。

 ……今は真昼間だけど食べたいんだから仕方ない。


 たまごかけごはんの食べ方は人によってそれぞれだ。

 卵黄と白身を分けて、白身だけを泡立てて後から卵黄とご飯に合流させるタイプもあるし、醤油以外に七味やごま油などをトッピングするタイプだってある。

 ちなみに私はオーソドックスに卵とご飯を混ぜて、醤油だけで味付けしたのが好きだ。

 もうお昼もいいところだけど、食べたいものは食べたいのだから仕方がない。


「たまごかけごはん、ですか?」

「うん。たまごかけごはん。

 シンプル故にご飯と卵、それぞれの素材の味が楽しめる魅惑の料理だよ。

 生卵を使うから今朝産まれたての卵を使おう」


 卵は最近飼い始めたワイルドコッコさんの卵で代用します。

 ちなみにワイルドコッコさんは、私が『お米食べたい病』を発症する前に「卵が食べたい」とぼやいた際に、アストがメスとオスを二羽ずつ生け捕りにしてきてくれた。

 ちなみにそれなりに強い部類の魔物なんだとか。

 ……見た目まんま鶏なんだけどなぁ。

 普通にソルが作ったトウモロコシ啄んでるし。

 うん、物凄く普通の鶏だ。

 そんなワイルドコッコさんは、毎日結構な量の卵を産んでくれている。

 有精卵と無精卵の見分けは《鑑定アプレイズ》でできるので、諍いも起こったことはない。

 むしろ最近となっては無精卵を自主的に差し出してくれるようになってきた。

 ……うん?あれ?ここら辺はあんまり普通じゃないね……?

 まあいっか。便利だし。


 閑話休題。

 とにかくたまごかけごはんを作ろう。

 まずはご飯。

 ソルが開墾した時に偶然見つけた粘土を引っ張り出して、《製造メイキング》でちゃっちゃと土鍋を作る。

 そしてその土鍋にきっちりといだお米と適量のお水を入れて炊いていく。


「はじめチョロチョロ中ぱっぱ、ジュウジュウ吹いたら火を引いて、一握りのわら燃やし、赤子泣いても蓋取るな♪」

「なんじゃそれ?」

「ばあちゃんに昔教わった、お米を炊くときの手順を示した歌だよ。

 一番最初は弱火で加熱して、途中から一気に強火で沸騰させる。

 そんでもって土鍋の中の余分な水分を最後に加熱することで飛ばして、すぐ蓋を取らずに高温でしっかり蒸らす。

 これで美味しいお米が炊けるんだよー」

「ほーん……」


 そうやってとりとめのない話をはさんだり、炊きあがるのを待つ間に精米していない玄米を精米して保存庫に仕舞ったりしている間に大体炊きあがってきたのか、お米が炊けるいい匂いがし始めてきた。


「……これ、これ、なんじゃ……?

 なんかわっぜ懐かしかにおいがすっどん」


 あ、それ多分日本人だったころの記憶です。

 言わないけどね。

 もうすぐ炊きあがるから卵と醤油の用意をしてほしいと言うと、ソルはいそいそと保存庫に足を運んで行った。

 ちなみに他のメンツはすでに自分のお椀とお箸を用意してスタンバっていた。

 ……まだ指示出してなかったんですけど。

 え?なに?もしかしてお米の炊ける匂いで内なる日本人精神が疼いたの?

 ……き、気にしないでおこう。うん。


 蒸らしまで終わったので、ちゃんと綺麗に炊けているかドキドキしながら土鍋の蓋を開く。

 もわり、と炊けたお米の匂いと一緒に、大量の湯気が立ち込める。

 土鍋の中には、夢にまで見た真っ白で一粒一粒、粒の立った綺麗なお米様が「炊き立てだぜっ!冷める前にとっとと食いな!」と全力で主張していた。

 初めてにしては上出来だと思わずガッツポーズをしてしまう。

 ……と、そこで後ろから催促するように、待っている元日本人連中の腹の中にいる虫が盛大にブーイングをしてきたので、慌てておひつによそって食卓に運ぶ。

 もう一同、ほかほかと湯気を立たせているご飯に目が釘付けだ。

 一人だけ「?」を浮かべていたアドさんでさえ、目の前のご飯に目を奪われていた。


 一人一人のお椀にご飯をよそって、自分のご飯の上に卵をそうっと割り入れる。

 ご飯の上で主張しているぷりぷりの卵にお箸を突き立てて、ざっくりと混ぜ合わせてお醤油を一回し。

 そして、ずるり、と一啜り。


「~~~~~~ッ、んっまあああああああああああい!」


 これ!これだよ!これこそが最大限にお米を楽しむことができる料理!

 お米本来の甘さと、黄身のまろやかさ。そしてそこにお醤油という冴え冴えとした塩味が加わることによって、TKGたまごかけごはんは完成に至る。

 私の絶叫に我に返ったのか、みんなも一斉によそわれた炊き立てご飯に産みたて卵を割り入れ、同じようにざっくりと混ぜた後に醤油を一回しして啜った。

 その後たっぷり十秒ほどかけて沈黙が降り、そして。


「「「「「「「「うっまあああああああああああああああい!」」」」」」」」


 と絶叫が響いた。


「何ですかこれ?!何ですかこれ?!ライスって、卵ってこんなに美味しかったんですか?!」


 お米を食べるのが初めてのアドさんが絶叫し続ける。

 たまごかけごはんを勢いよく食べすすめる手はそのままだ。


「何だろう……なんだか、物凄く懐かしい気分になるな……」

「ホンマそれな……」

「うまかー……」


 そう言ってしみじみと噛み締めているのがフォス・アイトリア・ソルの三人。

 フラムとエニュは無言で口にかきこんでいるし、アストは無言でじっくりと味わっていた。

 ちなみに自分でたまごかけごはんを作れないルヴィニはイリスに平皿で作ってもらい、一口食べては小躍り、一口食べては小躍りを繰り返していた。可愛い。


 そうやって思い思いにたまごかけごはんを堪能した後、全員同時に満足そうにため息を一つ吐いた。

 うん、やっぱりたまごかけごはんは正義だわ。


「……これ、危険ですね……病みつきになります」

「それな。他にも白身だけ泡立てたりとか卵を温泉卵にしたりと無限の可能性がだな」

「待ってください、底なし沼じゃないですか!」

「嫌かね?」

「ぜんっぜん嫌じゃないです!」


 うん、アドさんならそう言うと思ってたよ。

 だって初めてご飯(Notお米様)を食べた時だって目がキラッキラしてたもんね。

 今だってめちゃくちゃいい笑顔だし。


「今日から毎日たまごかけごはんを食べましょう、そうしましょう」

「あ、それじゃあこれから朝ご飯はたまごかけごはんにしようか」

「「「「「「「「賛成!」」」」」」」」


 満場一致で可決されたので朝ご飯はたまごかけごはんを食べることになりました。

 ちなみにお夕飯に、フォス達がダンジョンからもってきたブラッディホーンブルのお肉を使った牛丼もどきを作ったら、今度は丼フィーバーが発生した。

 ……うん、大変お気に召していただけたようで何よりです。


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