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07「小説⑥」

#006「高圧電線」


舞台は、生徒会室。

登場人物は、新聞部副部長、生徒会長、保体科教員の三人。


「スクープです」

「生憎だが、部長は、スーパーダイハチの木曜夕市に、特売の卵を買いに走ったところだ」

「ダイハチは、土曜朝市のキャベツも見逃せないところですね。それはさておき、スクープです」

「それより、生徒会室を、勝手に新聞部の部室にするな。クラブとして、生徒会が認証した覚えは無いぞ?」

「会長、会計長、書記長の三人だけで使うには、もったいない場所ですよ。限りある資源は、有効に使わないと、環境に悪影響です。とにかく、スクープを」

「分かったから、落ち着け。その、小脇に抱えた卒業アルバムが、何か関係しているのか?」

「良い質問ですね。この八回生のアルバムには、知られざる秘密が隠されていたのです」

「禁帯出のラベルが貼られているが、司書の先生には、ちゃんと許可を取ったのか?」

「新聞部たるもの、報道の自由を前に、些細なことを気にしてはいけません」

「あとで説教されても、俺は、知らぬ存ぜねで通すからな」

「九組のページを見てください」

「この頃の制服は、詰襟とセーラー服だったのか」

「その点は、あまり重要ではありません。集合写真の名前に、注目してください」

「これは、古文のダルマじゃないか」

「それだけではありません。担任写真を見てください」

「こっちは、数学のチェシャ猫野郎か」

「そう。かつて、この二人は、教師と生徒という関係だったということです」

「それにしても、ダルマは痩せてて、精悍な顔をしているし、チェシャ猫野郎も、まだ白髪が生える前だな」

「ダルマが、若い時はサッカー部でゴールキーパーをやっていて、そこそこモテてたというのも、あながち、嘘ばかりとは言えないかもしれません」

「チェシャ猫野郎が、バレンタインの度に、女子から山ほどチョコレートを貰ってたというのも、だな」

「この頃は、一クラス四十八人だったんです」

「今は、一クラス三十六人で四クラスだから、当時は、今のちょうど三倍の生徒が、この学校に在籍していたことになるな」

「空き教室に詰め込まれた、大量の椅子と机の謎も、これで解けました」

「損傷や劣化が激しい机と順次入れ替えられているだろうけどな。とはいえ、数が数だから、置き場に困るんだろうな」


  *


「おい。自称、新聞部副部長の、小猿は居るか?」

「その声は、保体科の熱血教員にして、わが一年一組の担任教員、百ワットではありませんか」

「悪かったな、電球頭で。放課後に、一組の保体ノートを、体育教官室まで取りに来いと言ったはずだが」

「そう言われてみれば、そう言われた覚えが、無いでもないような気がします」

「気がしなくてもいいから、黙って俺について来い」

「そういうことなので、あとは、生徒会長にお任せますね」

「ちょっと待て、俺が返しに行けと言うのか?」

「担任の至上命令には、逆らえません」

「どうして、俺の周囲には、こうも面倒を持ち込む人間が集まるのだろうか?」


#007「矢印の行方」


舞台は、給湯室。

登場人物は、男性教員二人、女性教員の三人。


「校内は全面禁煙ですよ」

「給湯室は、治外法権という訳にはいきませんか」

「生徒に見られたら、どうするおつもりですか?」

「換気扇の下で灰皿を用意しているのですから、マナー違反は無いと思います」

「そういう問題ではありません。それから、理科担当教員から聞きましたけど、時々実験室で、珈琲を淹れているそうですね?」

「使った器具は、全て洗浄して乾燥棚に置きました」

「濾紙と蒸留水が、減っております」

「それくらいは、実験による消耗として処理してくださいよ」

「いいえ。今度ばかりは、見逃す訳にはいきません」

「職員室で、生徒会の書記長が呼んでいますよ」

「ひとまず、席を外しますけれど、この件について、水に流す訳ではありませんからね」

「分かりましたから、早く行ってください」

「今度は、何をしでかしたのですか?」

「若い君には、分からないだろうよ」

「生徒に対して、お節介なことを言ったのではありませんか?」

「それは君のことだろう、僕は、必要以上に生徒に干渉しない」

「私が生徒にいつ、お節介なことを言いましたか」

「四組のホームルームの冗長さは、有名だよ」

「一組のホームルームが、愛想無いだけです」

「僕は、伝達すべきことだけを、簡潔にまとめて伝えている」

「私は、その上に、生徒が誤解しないよう、説明を加えているに過ぎません」

「そういう良かれと思ってする小さな親切が、生徒には大きな迷惑に感じるだよ」

「人の思い遣りを、何だと思っているのですか」

「ベクトルが、みんな自分に向いているうちは、理解できないだろうね」

「人をからかうのも、いい加減にしてください」

「冷めるぞ、豚骨担麺」

「それくらいは、言われなくても分かります」

「小さな親切、大きなお世話」

「そういうことですか」

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