05「小説④」
#004「自動現金預払機」
舞台は、オフィス。
登場人物は、男性社員二人。
「なぁ、聞いてくれよ」
「昼飯を買いに、コンビニへ行きたいのだが」
「俺の弁当を、半分やるからさぁ」
「半分も食えねぇよ、この大食漢」
「お前が小食なだけだ。まぁ、好きに食えよ。ほら、割り箸と紙皿」
「やけに用意が良いな。それで?」
「もうすぐクリスマスだろ? それで、娘に今年のプレゼントは何が良いか聞いたんだ。――きんぴらは全部食っていいぞ」
「そういうのは、サンタクロースにお願いしているものじゃないのか? ――少しは食物繊維を摂れ。半分は食えよ」
「ウチの娘は、女房に似て現実主義なんだよ。幼稚園の頃に、『明日、サンタさん来るかなぁ』って言ったら、『そういう小芝居は、いらないから』って言われてさ。――唐揚げは俺のだからな」
「随分、辛辣な口の利き方をするんだなぁ。――卵焼き、もらうぞ」
「だろう? それで、プレゼントの話だけど。――半分、残せよ」
「洋服やバッグやアクセサリーでもねだられたのか? ――唐揚げがあるだろ?」
「モノを頼んでくれるなら、良いほうだよ。『金一封』って言われたんだ。ショックだよ。どこで、そんな言葉を覚えたのやら。――それとこれは、別だ」
「おおかた、テレビのクイズ番組だろうな。クリスマスプレゼントに現金か。お年玉と一緒だな。――じゃあ、ポテトは俺のだ」
「俺のことを、エーティーエムだと思ってるんじゃないかって、心配でさぁ。――仕方ないなぁ」
「聖夜にコンビニへ振り込みに行くサンタクロースか。――好きに食えと言ったくせに」
「シュールすぎて笑えないよ。――あ、唐揚げ食ったな」
「直前まで気長に待てよ。そのうち気が変わって、欲しいモノが出てくるさ。――ひとつぐらい良いだろ? ご馳走様」
#022「ハイアンドロー」
舞台は、動物園とデパート。
登場人物は、男性二人、女性二人の四人。
「なぁ、ライオンの旦那」
「何だね、黒ヒョウよ」
「俺たち、まだ何も悪いことしてやしないのに、何だって四六時中、檻に入れられてなくちゃならねぇんだ?」
「他の動物に危害を加える、かもしれないからだろうよ」
「だったら、そこの触れ合い広場にいるスモッグの餓鬼だって、目の前のヒヨコをいじめる、かもしれないぜ?」
「二人とも、お待たせ」
「何の話をしてたの?」
「檻の中に居たら、周りの人間のことをどう思うか、って」
「何も悪さをしてないのに、檻に入れられてたら、って」
「何それ?」
「囚人の話?」
「いや。たいした話じゃないから。な?」
「そうそう」
「二人して、変なの」
「今度は、四人で観覧車に乗りましょうよ」
「高いところは、苦手なんだが」
「俺も」
「何よ、だらしないわよ」
「そうよ。パスは一回限りよ。ほら、行くわよ」
「逃げられないのは、俺たちのほうだな」
「そうだな」
*
「歳末セールに、初売りバーゲン」
「女性陣を人混みに向かわせる原動力は、何なのか?」
「俺らのボーナスによる懐の暖かさと、日頃のストレスってところだろうな」
「なるほど」
「毎日、満員電車に揉まれてる俺らには、想像もつかないけどな」
「何を好き好んで、というところだな」
「お待たせ。はい、これ持って」
「ちゃんと荷物、見ててね」
「どこ行くんだ?」
「中身は何だ?」
「今度はコスメ売り場に行くのよ」
「早く行きましょう。売り切れるわ」
「……僕、稼ぐ人」
「わたし、使う人。フェミニストのお叱りを受けそうだ」
「今、おかっぱ髪で、鬼瓦みたいな顔の評論家のイメージが思い浮かんだ」
「同感」