04「小説③」
#003「蜩の鳴く中で」
舞台は、子ども部屋。
登場人物は、男子生徒二人。
「夏休みも、残り僅かとなったわけだけど」
「暑い。カキ氷でも食いたい気分だ」
「悪いね。エアコンはないんだ」
「北極のシロクマが羨ましい」
「北極より、南極のほうが気温は低いけど」
「ペンギンも良いな。コウテイ、いやキングかな」
「小型化? どっちかというと、イワトビだと思うけど」
「髪型で判断するな。英語のほうが、響きが良いだろ。皇帝は……」
「エンペラー」
「溥儀か」
「中国のラストエンペラーだね」
「中華そば、冷麺もいいな」
「夏だね。話を戻すけど、あと三日で始業式なのに、どうして、こんなに課題が残っているのかな?」
「残り物には、福がある」
「二度は、逸らさせないよ。エックスの範囲を求めよ」
「エックスよりも……」
「下ネタ厳禁」
「おいおい。それでも、健全な男子高校生か?」
「高校生の本分は、学業です」
「泌尿器科に行って、パラグアイを処方してもらえよ」
「それを言うなら、って、言わないよ?」
「何を一人で赤くなってんだよ。勉強に集中しろ」
「君に言われたくはないよ」
#046「戯言」
舞台は、子ども部屋。
登場人物は、男子生徒二人。
「もうすぐバレンタインだな」
「そうだね。でも、その前に、君にはやるべきことが残っていることを、お忘れなく」
「それにしても、冷えるな」
「夏にも言ったけど、エアコンは無いんだ」
「ところで、いつまで注連縄を飾っておくんだ? 門松は、もう無いが」
「地域によって違うけど、この辺では門松が七日までで、注連縄は正月いっぱい飾っておく家が多いね。さて、英語の続きをするよ」
「結露に家鳴り。春の訪れは、まだ先だな」
「もうすぐ立春なのにね。リスニングの答えあわせをするよ」
「訪れ、音ズレ」
「さっき聞いたのは、サリバン先生とヘレンケラーについての文章だったんだ。だから答えは三番のウォーターが正解」
「水だ、水だ、マイムマイム」
「次、行くよ。イラストの問題。トムはチョコのアイスを注文した訳だから、答えは右下が正解」
「チョコのアイス、女工哀史」
「さっきの日本史のことは一旦、忘れて。目の前のことに集中してよ」
「たくさん作ろう、殖産興業。大正デモクラシー、灯台下暗し。あれ、あのガムみたいな音楽記号は何だった?」
「リタルダンドのこと? 今は、英語だから」
「コンビナートのコンビーフ。塩漬け肉の缶詰工場」
「次は、チャーリーの趣味についての自己紹介。猫を数匹飼っていると言っているから、正解は一番」
「チョコレート工場じゃ、ありませんか」
「チャーリー違いだね」
「猫、見ましたか。寝込みましたニャー」
「ふざけるのも、いい加減にしてよ。先に進まないじゃないか」
「一ドル百円から八十円になると、円安になるんだったか? 円安になると輸入が増えるんだっけ」
「完全に、英語から逃避に走ってるね。しかも、逆だよ。一ドル百円から百二十円になるのが円安で、増えるのは輸出だよ」
「何で、そうなるんだ?」
「円の価値が下がるからだよ。さっきも同じ説明したのに」
「聞いてたよ」
「覚えて無いじゃん」
「もうすぐバレンタインだよなぁ」
「何回も言うなよ」
「聞き飽きて、ゲシュタルト崩壊してるのか?」
「男子校で、バレンタインも何も無いよ」
「ときめきが無いよな。共学に行けば良かった」
「それこそ、何度目だよ」
「昨年は、食堂の小母ちゃんに『本命』って書いたチョコを渡して、苦笑いされたからなぁ」
「そんなことしてたのか。既婚者を狙うなよ。いい迷惑だよ」
「耳下腺炎で寝込まなければ、再試験を受けずに済んだというのに」
「タイミングが悪かったね。さ、気持ちを切り替えて頑張ろうよ」
「耳下腺炎、時価千円」
「今度は長文読解だね。『嵐が丘』とブロンテ姉妹についての長文。設問はエミリーの姉は誰かを聞いてるから、二番のシャーロットが正解」
「共学に行ってたら、お前と会うことも無かったから、男子校で正解だったかもな」
「おだてても、勉強は止めないよ」
「つれないなぁ」