03「小説②」
#002「夢枕の獏」
舞台は、寝室と、オフィス。
登場人物は、オーエル二人と、……。
「眠れないようだね」
「誰? どこから入ったの?」
「愚問だよ。俺には、実体がないんだからさ」
「ゆ、幽霊」
「俺を、そんな奴等と一緒にして欲しくないね。これでも、夢を司る神の端くれなんだからさ」
「そんな話、信用するとでも思ってるの?」
「おやおや。忘れてしまったのかな。神や妖精を信じていた頃の気持ち」
「いい年をした大人が、そんなもの存在すると思ってる訳ないじゃない」
「じゃあ、聞くけどさ。そんなものが存在しないとしたら、今、あんたの目の前にいる俺は何なのさ」
「さしずめ、疲れが溜まり過ぎて、頭のどこかが変になったことで視えるようになった幻覚ってところね」
「それなら、月の光が見せるホログラムか何かだと思ってくれるほうが、まだ良いんだけど」
「随分、図々しい神様ね」
「いやぁ、それほどでも。おや、これは何だろう?」
「褒めてないわよ。ちょっと、何してるのよ」
「へぇ、同僚がオッチョコチョイな奴なのか。あのさ、見られたくないなら、机の上に開いて置いたりせずに、鍵でも掛けておきなよ」
「若い女性に対するデリカシーの欠片もないわね」
「まだまだ若いと思っているとは、いい年をした大人が、図々しい」
「もう。何なのよ」
「このまま話し続けても、埒が明く前に夜が明けてしまいそうだから、この辺で閑話休題して、俺が来た理由を言っておこう」
「ただの気紛れじゃなくて?」
「そう、カリカリするなよ。あんたの不眠を治さないと、俺は楽園に帰れないんだからさ」
「どういうこと?」
「実はさ、溜まってた仕事を、楽に片付けようと思って、長老のステッキを黙って拝借したんだ」
「それが、長老に見つかった訳ね。呆れた」
「長老は、もう、オカンムリでさぁ」
「当たり前よ。それにしても、いやに俗っぽい神様もあったものね」
「だから言っただろ、端くれだって。神様にもピンからキリまであるさ」
「あんたが詰まらない誤魔化しをした所為で、あたしは、とんだとばっちりだわ」
「そうイライラしないでくれ」
「怒らせたのは誰よ。もういいわ。それで、どうやってあたしを眠らせる訳?」
「協力してくれる気になったみたいで何より。差し当たりは、眠れない理由を突き止めて、それを解決する」
「何だか、心療内科みたいね。おまじないでも始めるのかと思ったのに」
「魔術師と一緒にするな。それより、理由に心当たりはないのか?」
「あったら自分で解決してるわ」
「これは、こっちが愚問だったな。そうだなぁ、半身を起こした状態じゃ、眠れないだろう? とりあえず、布団に潜って、瞼を閉じてくれないか?」
「そんな無防備な姿を晒すのは癪だけど、起きててもしょうがないわね。これで良い?」
「完璧。今からは、俺が一方的に話しかけるから、あんたは、何か愉快なことでも思い浮かべてくれ。例えば、オッチョコチョイの同僚のことが良いんじゃないかな……」
*
「それで、朝までスヤスヤ眠れた訳?」
「そうなの。久し振りにグッスリ寝たから、スッキリしたわ」
「夜中に目が覚める理由は、何だったのかしらねぇ」
「さぁ。些細な苛立ちが溜まってたんじゃないかな。大した事じゃなかったのよ、きっと。それに、あんな変な神様に遭うのは、もう御免よ」