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02「小説①」

ショートショート集『人間寸劇場』

タイトルの前にあるナンバーは、連載当時の順番です。

#001「サイモン・セッズ」


舞台は、郊外にある、小さな事務所。

登場人物は、男性社員、女性社員、社長の三人。


「専務さんが言いました。残業しなさい」

「船長さんみたいに言うなよ」

「冗談でも言わなきゃ、やってられないじゃない」

「否定はしない」

「でも、肯定もできないって訳ね。とにかく、早いところ片付けましょう」

「何で俺らが、こんなアルバイトがするような単純作業をやらなきゃならないんだ」

「人手不足なのに、誰も雇おうとしないからよ。嫌なら、大手に就職すればよかったのよ。仮にも公立大学を出てるんでしょ?」

「社長と親父が、昔からの知り合いなんだ。顔を立てる必要があった。それに、今どきは四大卒なんて、何の特典にもならない」

「否定はしないわ」

「でも、肯定もできないって訳だ。それにしても、全然、作業量が減らないなぁ」

「気長にやりましょう。終バスまでには片付くわ」

「そうだな。二日連続でタクシーを使いたくはない」

「あんまり社用で領収書を切ると、専務さんが不機嫌になるものね」

「最近、社長と揉めてるみたいだしなぁ。経営方針で、意見が対立してるんだろうか?」

「あ、それは違うわよ。この前、取引先の若い女性が来たの、覚えてる?」

「覚えてる。たしか、三ヵ月ぐらい前だったよな?」

「そうそう。どうも社長さんは、その後も何度か、その女性とプライベートで会っているらしいのよ。それが専務さんは気に入らないみたい」

「夫婦間のいざこざを、社内に持ち込まないで欲しいな」

「君たち、こんな遅くまでどうしたんだ? もう、終業時間は過ぎてるだろう?」

「あ、社長。お疲れさまです」

「あいにく、専務さんから残業を命じられまして」

「たいした仕事じゃないんだろう? あとは、家内と僕とで片付けるから、君たちは、バス便が無くなる前に帰りなさい」

「そうですか。では、お言葉に甘えて、お先に失礼します」

「社長さん、ありがとうございます」

「はい、ご苦労さん。急げば三十七分に間に合う」

「社長さんが言いました」

「早く帰りなさい、ね?」


#009「天網恢恢」


舞台は、郊外にある、小さな事務所。

登場人物は、男性社員、女性社員、専務、社長の四人。


「あら、社長さん。どちらへ?」

「うん、ちょっとな。小一時間ほどしたら戻るよ」

「角の雀荘ですか?」

「分かるかい? 実は、そうなんだ。サ店のマスターから連絡が入ってね。一人抜けたからどうだ、と言われたんだ」

「わかりました。今日の仕事は、今のところは、この伝票の束を片付けるぐらいですし、専務さんには、わたしから適当に取り繕っておきますから、ごゆっくり」

「そうかい。悪いね、助かるよ。何か急ぎの用があったら、すぐに連絡してくれ。キリの良いところで抜けてくるから」

「行ってらっしゃいませ。お気をつけて」

「おう」

「さて。早いところ、入力を済ませてしまいましょう。項目十一が二千三百、項目十二はそのまま、項目十三がプラス百九十、項目十四が七百五十。あら、電話が」

『もしもし?』

『もしもし? わたしよ』

『あぁ、俺だ。社長は?』

『席を外しているわ』

『いつもの喫茶店か?』

『その二階よ』

『じゃあ、しばらく戻ってこないな。こちらは午前、午後、ともに予定通り進捗中だって、社長に連絡してもらえるかな?』

『あら、直帰?』

『宴会シーズンだろ? 午前の得意先から誘われてしまってね。断れなかったんだ』

『そうなの。一報、入れておくわ』

『頼んだ。切るよ』

「えーっと。項目十四が七百五十で、項目十五が六千とんで四十八。合計に間違いはないわね。あとは、伝言を社長のアドレスに送信して、と。よし」

「あれまぁ。あなた、おひとりだったの?」

「二人とも、お付き合いのお誘いを、お断りできなかったみたいですよ」

「こんな可愛い女の子を、たった一人で働かせて。男として失格よ」

「専務さんがいらしたので、一人ではありませんよ?」

「屁理屈をこねるんじゃありません」

「失礼しました。ところで、その書類は?」

「三人揃っていれば、人海戦術で一掃しようと思ってたんだけど、二人だと大変だし、さほど急ぎじゃないから、明日に回すわ」

「半分だけでも片付けましょうよ。ちょうど、今日の分が終わったところだったんです」

「いいえ、結構よ。今日は、これまでとします。それより、あんた。今晩、お暇かしら?」

「えぇ。あとは、家に帰るだけですから」

「じゃあ、付き合ってよ。ご馳走するから」

「わぁ。良いんですか?」

「男性陣だけが楽しんでちゃ、不公平だわ。女性陣も楽しまなきゃ」

「それも、そうですね。ありがとうございます」

「角のカフェの斜向かいに、小洒落たエスニック料理屋がオープンしたの、ご存知?」

「いいえ、初耳です。前は、別のお店でしたよね?」

「そうそう。ちょっと前までイタ飯屋だったところよ。そこにしましょう。事務所口で待っててちょうだい。すぐに支度するわ。じゃあね」

「……面白くなってきたわ」

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