13「小説おまけ」
詩集『心の言葉』
ふと浮かんだフレーズの記録。
#000「命名」
名付けることで、
特別になる。
名付けることで、
区別できる。
名付けることで、
差別される。
名付けることで、
命が吹き込まれる。
#001「波紋」
エックス、ワイ、
サイン、コサイン、パイ、
それから、ラムダ。
物理の教科書に並ぶ、
たくさんの文字。
波と波がぶつかると、
大きな波ができ、
擦れ違いに進んでいく。
波と波がぶつかると、
小さな波になり、
消えてなくなっていく。
たくさんの波が
あるところでは衝突し、
別の場では消失する。
社会の波も、
また、人間の波も。
#002「花壇」
赤い花を咲かせようと、
赤い花の種を買い、
花壇に播いた。
芽が出た。
一番に、芽が出た。
土の中から、一番に、芽が出た。
二番、三番の芽は、
一番の芽が枯れないように、
根付く前に、摘み取った。
虫が食わないように、
薬を撒いた。
鳥が食わないように、
覆いをした。
水をやり、肥料をやり、
大事に、大事に、育てたが、
咲いたのは白い花だった。
#003「蜜の味」
他人を馬鹿にする者は、
他人から馬鹿にされる。
他人の失敗を嗤う者は、
他人から失敗を嗤われる。
他人の不幸を嗤う者は、
他人から不幸を嗤われる。
他人の悪い噂を流す者は、
他人から悪い噂を流される。
伝言ゲーム。
言葉のブーメラン。
身近な他人の欠点は、
あなたの欠点の鏡写し。
#004「夢」
ある、若者は悩んでいた。
筆を折って生きるべきか、
夢を追って死ぬべきか。
ある、長老は悩んでいた。
あのとき、筆を折るべきだったか、
はたまた、夢を追うべきだったか。
日が昇り、日が沈み、
月が昇り、月が沈む。
それは、昼に、
目覚めた後で追うものであり、
それは、夜に、
眠りの中で視るものである。
#005「眺望、展望」
一頁の裏は、二頁、
二頁の隣が、三頁で、
三頁の裏に、四頁。
奇数頁を読むあいだ、
読み切り、頁を捲るまで、
偶数頁は読めない。
奇数頁に絶望して、
頁を捲る手を止めれば、
偶数頁の希望を逃す。
絶望と希望は隣接しているもの。
#006「比較相対性」
従僕あっての、英雄であり、
愚者あっての、賢者であり、
義賊あっての、騎士であり、
農民あっての、武士であり、
庶民あっての、貴族であり、
悪漢あっての、警吏であり、
教徒あっての、牧師であり、
檀家あっての、僧侶であり、
俗人あっての、聖人であり、
暴力あっての、慈悲であり、
悲劇あっての、喜劇であり、
束縛あっての、自由である。
#007「交際」
書面を介して、
受話器で、
そして画面越しに。
テクノロジーは、
距離を近づけ、
触れ合いを遠ざけた。
いつでも、どこでも、
誰とでも。
便利になったけど、
まだ、完璧ではない。
活字では伝わらない、
声だけでは伝わらない、
筆跡でも伝わらない。
そんなときは、
テクノロジー以前に戻ろう。
#008「キレイなものだけ」
善いもの、悪いもの、
美しいもの、醜いもの、
明るいもの、暗いもの、
好きなもの、嫌いなもの、
正しいもの、誤っているもの。
自然から人工、
人間から機械、
アナログからデジタル。
閾値、
夾雑の排除、
全か無かの法則。
清らかさを求めるほど、濁りが増し、
陽気さを求めるほど、陰気さが増す。
純粋さは、ときに牙を剥く。
他に対しても、自に対しても。
#009「ダブル・バインド」
意欲を出したら、
落ち着きがないと言われ、
淡々とこなしたら、
情熱が感じられないと言われ、
意見を述べたら、
口出しするなと言われ、
指示を仰いだら、
考えて動けと言われた。
自己中心、
二重拘束、
統合失調。
すべては、あなたの匙加減ひとつ。
#010「シンメトリー」
エックス二乗、
プラス、エックス・ワイ、
プラス、ワイ二乗。
線を挟んで、こちらとそちら。
点で回れば、こちらと同じ。
これまで、これから、変わらず同じ。
こちらで良いことがあったなら、
あちらで悪いことがあるのかな?
こちらで嫌なことがあったなら、
あちらで好いことがあるのかな?
昼の池の、水面の向こう、
夜の窓の、ガラスの向こう、
それから、鏡の向こう。
対称性って、不思議だね。
対称性って、面白い。
#011「労働」
自分さえ楽になれば良いと思う人間には、
誰も無償で手を差し伸べない。
他人を楽にさせたいと思う人間には、
誰かが必ず手を差し伸べる。
働くことは、
傍を楽にすること。
そして、
誰かの働きで楽になったなら、
労いの気持ちを伝えよう。
わたしの働きが、
あなたの楽に繋がりますように。
それから、
いつも、ありがとう。
#012「威光」
ある村に、カリスマがいた。
カリスマは、何でも知っていた。
カリスマは、どんなことも出来た。
カリスマは、どんなものでも創り上げた。
村人たちは、カリスマの魔力に魅せられた。
あるとき、カリスマが死んだ。
カリスマは、敬われた。
カリスマは、奉られた。
カリスマは、崇められた。
そして、まだ、
村人たちは、カリスマの魔力に魅せられたまま。
#013「導師」
リーダーが若いと、
集団は、夢見がちになる。
何が出来て、何が出来ないか、
現実を知らないから。
リーダーが老いていると、
集団は、刹那的になる。
自分が居なくなったあとは、
どうでも良いと思うから。
もう、若くはないが、
まだ、老いてもいない。
そういうリーダーを、
集団は、望んでいる。
#014「インキュベーター」
本屋さん、服屋さん、
魚屋さん、八百屋さん、
お花屋さん、お薬屋さん、
お菓子屋さん。
お母さん、お姉さん、
お父さん、お兄さん、
お婆さん、お爺さん、
お隣さん、お坊さん、
お巡りさん。
孵卵器の中の胎児たちは、
様々な夢を見ている。
カリソメ、ニセモノ、
リスペクト、オマージュ、
バーチャル、フィクション。
あなたは、本当に存在する?
そこは、真の現実世界?
#015「宝石箱」
言葉の海から、
語彙の森から、
適当な表現を探し出し、
適切な意味を当てはめる。
玉もあれば、石もある。
わたしが集めた、
わたしだけのコレクション。
並べて、飾って、入れ換えて。
誰も知らない、
わたしの秘密の楽しみ。
#016「系統樹」
オオカミ、キツネ、タヌキ。
これは、イヌ科。
ライオン、トラ、ヒョウ。
これは、ネコ科。
モモ、イチゴ、アーモンド。
これは、バラ科。
トマト、トウガラシ、ホオズキ。
これは、ナス科。
ユウガオ、ヒョウタン、ラカンカ。
これは、ウリ科。
それから、
オランウータン、ゴリラ、チンパンジー。
これは、ヒト科。
古代では、アリストテレス。
近代では、リンネ。
分かるためには、
分けなければならないらしい。
#017「青少年」
家庭、学校、社会。
それぞれ、求められる資質が異なる。
通過儀礼、伝統行事、式典祝祭。
特定少数から、不特定多数へ。
ホップ、ステップ、ジャンプ。
大人の階段を、三段跳び。
登ったあとに見下ろすと、
より広くを見渡せるという。
だから、早く登って来いと、
大人たちは言うけれど。
わたしは、このまま、
ずっと子供でいたい。
#018「老若男女」
フォーマルな格好をしていたら、
若造の癖に生意気だと腐された。
カジュアルな格好をしていても、
近頃の若者は無礼だと貶された。
他人に嫌味を言う人間は、
相手にするだけ無駄である。
とどのつまり、その人間は、
自分が同じ思いを出来ないことを、
悔しがってるだけだから。
子供のままの大人には、
こちらが大人になるしかない。
#019「潤滑油」
おはよう、おはようございます。
おあがりなさい、いただきます。
ごちそうさま、おそまつさま。
いってきます、いってらっしゃい。
こんにちは、こんばんは。
ありがとう、どういたしまして。
すみません、ごめんなさい。
おつかれさま、さようなら。
ただいま、おかえりなさい。
おあがりなさい、いただきます。
ごちそうさま、おそまつさま。
おやすみなさい、おやすみ。
あなたに笑顔を向けるのは、
わたしがあなたを好きだから。
それから、あなたに、
わたしを好きでいて欲しいから。
以上で、今回の黒歴史公開は終了します。
イラストは、ほぼ全てを公開しましたが、小説は、この数倍の量が残っています。
もし興味があるかたは、ピクシブで作者名を検索してみてくださいませ。




