11「小説⑩」
#012「お疲れさま」
舞台は、寝室。
登場人物は、女性主任、主夫の二人。
「お粥ができたぞ」
「済まないねぇ、病弱なばかりに、苦労をかけて」
「提供は、某石鹸メーカーか? こんな時まで、他人を笑わそうとするとはな。ほら、スプーン」
「大阪人の性よ。どうも」
「体温計は?」
「ネズミに引かれた」
「電飾パレード中か? 冗談は良いから、渡しなさい」
「はい」
「九度二分か。もう少し下がってると思ったんだがなぁ。この分だと、月曜の仕事は、休むしかないな」
「せっかく、企画が順調に進み始めたところだったのに」
「そりゃ、残念だな。でも、今は仕事のことより、自分の身体のことを優先しろよ」
「チーフとして、情けない話だわ」
「責任感が強い人は、こういう時に厄介だよ。いいから、何も考えずに寝とけ。じゃないと、治るものも、治らない」
「略して、ナサバナ」
「提供が、某洗剤メーカーに変わったな。お休み」
*
「しりとりをしよう」
「昨日、誰かさんの看病をしたから眠いんだけど」
「しりとりの、り」
「俺の意見は無視か。倫理」
「いきなり小難しい言葉を言うのね。リス」
「硯」
「り、攻撃ね。負けないわよ。リンゴ」
「ゴスロリ」
「あんたの語彙に、その言葉があるとは思わなかったわ。リトマス試験紙」
「真理」
「り、リゾット」
「鳥取」
「り、り、リトアニア」
「阿闍梨」
「よく、事も無げに、そんなマニアックな単語がでてくるわね。リビア」
「アルキメデスの定理」
「アルキメデス、で良いじゃない。リツイート」
「帳」
「とばり、なんて普段使わないくせに。リオ」
「おやすみ」
「やっと、り、縛りが終わった。ん? あ、寝るんじゃない」
#038「聖なる柊」
舞台は、リビング。
登場人物は、女性主任、主夫の二人。
「ごちそうさま」
「おそまつさま。それで二人は、さっき予告編をやってた、あの映画を観に行ってきたって訳か」
「そうなのよ。面白そうな映画だと思わない?」
「興奮と感動を、臨場感たっぷりの演出でお届けとか何とかいう謳い文句だったな」
「予告編のほうが面白いって場合もあるけど、これは本編を観ないと損する気がするわ」
「ツァイガルニック効果を否定するのか?」
「何なの、まるでフランス料理店のシェフの気まぐれ料理みたいに、舌の縺れそうな名前の効果は?」
「結論が出ないまま、『続きはシーエムのあとで』と言われると、気になってチャンネルをそのままにして見入ってしまうだろう?」
「そうね。でも、さんざん扇動する番組に限って、落ちが大したこと無い場合が多いのよね」
「それ言うな。テレビ局の業界人たちは、不完全なまま放って置かれると続きが気になってしまうという人間心理を利用してるわけだ」
「視聴者は、ディレクターとかプロデューサーとかいう人たちに、乗せられて踊らされてるのね」
「彼らだって、慈善事業家じゃないんだから、商業主義に走るなとは言えない」
「でも姑息な手段を弄するのは、どうかしらね?」
「線引きが難しいところだな。あれ、何でこんな真面目な話になったんだっけ?」
「イタリア料理の話からよ」
「そうそう、ナポリタンはナポリには存在しないって。いやいや、そんな話はしてなかった」
「ノリツッコミをするようになったわね」
「誰かさんに影響されてな」
「誰かしらね。きっと美人で仕事の出来るかっこいい人なんでしょうね」
「家事の出来ない、酒豪だよ」
「良いじゃない。最近は洋酒だけじゃなくって日本酒も、お洒落で凝った入れ物で販売してるんだもの。ついつい、手に取ってしまうのよ」
「良いけどさ。自分で稼いだものを、どう使おうがさ」
「そう来なくっちゃ。そうだ、明日は早く帰れそうだから、夕食は外で食べない?」
「良いね。どこにしようか?」
「この前、出てすぐの国道沿いに、創作和食のお店がオープンしたって話、したじゃない?」
「あぁ。チラシに、和の伝統と革新の新たな調和とか何とか書いてあったな。あの店か」
「あたしは、そこが良いと思うの」
「そうだな、そこにしよう。それで、そのあとに映画館に行って、話題の洋画作品を観よう。異議はあるか?」
「異議なし。議長に賛成」
「よし。俺は後片付けをするから、シャワーを浴びてきなよ」
「手伝うわ」
「いいから。台所は俺に任せてくれ」
「そう。じゃあ、お願いね」




