百合
「ただいまー」
「……、って誰もいないよね。」
無駄に広い家に虚しく私の声が響いた。家に帰っても誰もいないというのは少し寂しい。
(百合、何しにしてるのかな。大丈夫かな。)
つい二週間前まで同居人だったその子を思う。
その子の名は白沢百合。彼女は私の従者だ。しかし、私は彼女のことを一度も従者だなんて思ったことがない。私たちは「大切な家族」、そういうふうにお互いに思っている。そのため、百合は私のことを2人でいる時は「由佳姉」と呼んでくれるし、私も「百合」と名前で呼び捨てしている。
2人で住みだしたのは、私が中学生になった時だった。なぜ、そうなったのかというと、私が家を出たからだ。家に居づらかったのだ。私は分家からもらった養子で、風月院家の直系ではなかった。そのため、姉にはひどくいじめられた。毎日のように怪我をさせられたり、物を隠されたりした。そういうこともあって、私が家を出る時、父親がせめてもと1人暮らしでは危ないと、小さい頃から私の従者になるべく育てられた百合を私に遣わした。その時、彼女はまだ小学校4年生だった。しかし、彼女はしっかりと従者の仕事をこなし、家事スキルも抜群だった。申し分のない従者だった。
そもそも、私たちが出会ったのは百合が5歳、私が7歳の時だった。私はその時、まだ養子として風月院家に入って、数年だった。入った当初は今よりひどく、姉や親族にいじめられていた。そして、友達もいなかった。そんな私に父親が見るにみかねて、百合を私の元に連れてきたのだと今は思う。百合もまた孤児で、私と気が合うだろうというのが父親の推測だろう。確かに私たちは本当によく気があった。そして、もう1つ彼女を選んだのは、彼女は魔法に関するズバ抜けた才能があったからだ。おそらくこの才能を勝る従者は風月院家の従者の中にはいないと言っても過言でないだろう。
しかし、今年百合が中学生になり、勉強に専念するため、父親の命令で、百合は本家で暮らすことになった。そして、私は本当に1人暮らしになってしまった。今まで、家事は全て百合にやらせてしまっていたので、料理が皆無と言っていいほどできない。そのため、ここ二週間はコンビニ弁当か外食だった。
(さて、今日はどうしようかな。コンビニ弁当も飽きちゃったし。外食でもするか。)
そう思い、クローゼットを開けた瞬間、携帯が鳴る音がした。
(誰だろ?あ、雛かな。)
そう思い、携帯の表示を見ると、思わぬ人からの電話だった