入学式5
講堂には普通科の生徒はもういた。入学式は普通科と特別科、合同に行われるのである。
入学式は午前9時にスタートした。式の内容は他の学校と比べて変わったところはなく、普通なものだ。校長は魔法関係者ではあるが、 特に目立つことのないよく街にいるような初老の男性だった。挨拶も無難に終わった。
(確か次は…)
「特別科生徒会長挨拶」
あえて「特別科」と言うのは特別科と普通科では生徒会が別れているからである。挨拶は特別科の生徒会長が代表してやるらしい。
壇上に1人の少女が上がっていく。長い艶やかなストレートの髪をカチューシャでとめている。背が高くて、手足が長い。かなりスタイルがいい。モデルになれそうなくらいだ。
「特別科生徒会長を務めさせていただいております、水越渚です。」
透き通った綺麗な声だ。
(水越渚……聞いたことある名前だな。水越家の長女だっけ。)
水越家というのは水を司る水月院家の分家だ。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。………」
とても凛としている。その雰囲気がいかにも生徒会長らしく、彼女の容姿にも似合っていた。
「……………………挨拶とさせていただきます。」
最後まで何もかも完璧な挨拶だった。そのため、講堂からは大きな拍手が送られた。そして、その拍手が鳴り終わると同時に司会の進行があった。
「新入生代表挨拶」
今度は1人の少年が壇上に上がっていく。黒髪に黒い瞳。遠山翔だ。背が高い。180cmくらいだろうか。
(あの顔にあの高身長、かつ頭もいいなんて、モテ要素満載でしょ。)
内心つっこんだ。
「今年、新入生代表を務めさせていただきます、遠山翔です。本日は…」
少年らしいが、深みのある声。
(ん?この声どっかで聞いたことあるような…)
(え、もしかしてどこかで会ったことある?)
でも、遠山翔とは面識がないはずだ。会ったことがあるなら、絶対にわかる。というのは、自分で言うのもなんだが、記憶力がかなりいい方だ。だから、滅多なことがなければ忘れたりしない。
(人違いか…)
気にしないことにした。
遠山翔の挨拶は容姿はハイレベルなものだが、挨拶は可もなく不可もなく、普通に終わった。そして、入学式も当たり障りなく終わった。
控え室に戻ると、特別科の校舎へ移動するよう誘導があった。特別科の校舎へはバスに乗ってここから15分ほどの山の中にある。かなり不便だ。しかし、それは魔導士の存在を隠すためには仕方のないことだろう。
私はさっさと荷物をまとめ、雛と一緒に控え室を出た。