表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダッシュ!!  作者: 浮雲士
第二部
99/196

頂に登るは天使か鷲か2






「青井君、君の期待に柳君は見事に応えてくれたね」

「期待以上ですよ」


 前半のハイライトシーンが繰り返されているスクリーンを見ながら広助は言う。

 得点するまで目立った動きや活躍はなかったが、同点になってから怒涛の2ゴール1アシスト。もはや言葉もない。


「さて後半はどうなるかな。並みのチームなら前半で勝負ありといってもいいのだが、相手は同格のRマドリー」

「ええ、このままでは終わらないでしょうね」


 ハーフタイムが終わりピッチに入ってくる両チームイレブンを見ながら広助は頷く。

 3失点したもののRマドリーの様子は悪くない。そして自陣に散っていくイレブンたちにもリードされているという負い目の気配はほとんど見られない。

 そしてベンチに落ち着いた様子で座っているRマドリーの監督の姿を見て後半、Rバイエルンの一方的な展開にはならないと強く思う。

 響く後半開始の笛の音。両チームとも選手の入れ替えはない。システムも変更されていない。

 リードしているRバイエルンは前半ほどの勢いはないものの攻勢に出ている。一方のRマドリーはやや守勢だが前半に比べて高い位置を取っており、またコンパクトな守備で相手の攻撃を防いではカウンターを発動している。

 後半十分が経過。ここまで一進一退だった両チームだが徐々にアウェーチームがホームチームを押し返し始めている。リードされているにもかかわらず相手の攻撃を冷静に対処しているRマドリー。ジークフリートのシュートに柳のドリブルなどをことごとく防いでいる。

 そして安定した守備はチームに安心感をもたらし、前へ進ませる原動力となる。そしてカウンターの場面ではアーギアにパウリーノ、ラウルとエドゥアルドの四人が素晴らしい動きを見せる。

 テクニカルなドリブルや動き、そしてRバイエルン守備陣の隙間を通すようなスルーパスを放つアーギア。快速を生かしサイドを爆走、またはダイアゴナルランで中に切れ込むパウリーノ。強靭な肉体と素晴らしい跳躍力で競り勝ちボールをキープするエドゥアルド。

 そしてラウルは向かってきたいかなるボールもぴたりと収めてしまう。また相手チームの選手が寄ってきても奪われる前に周囲の味方に正確なパスを通してしまう。──とにかく敵にボールを奪われないのだ。

 彼ら四人の動きによりRマドリーのカウンターは得点にこそ結びつかないが、途中でボールを奪われてのカウンターという場面はないし敵陣深くまで選手とボールは侵入している。相手ボールになるのはRバイエルンゴール前かペナルティエリア付近だ。

 

「ラウル選手もさすがですが、エドゥアルド選手も見事ですね」


 トラップ、ボールコントロール技術に長けるラウル。強靭な体を生かしたポストプレーとキープ力に優れたエドゥアルド。

 長所こそ違うが二人ともオールラウンダータイプのFWだ。自らゴールを決める力もあるがチームのために黒子にもなれる。

 そして彼らどちらかが黒子になった時、片方がストライカーとなる。また両方が黒子になった時、点を取るのはアーギアを含めた中盤、後方の選手だ。

 後半17分、エリックへのボールをパウリーノがスライディングでカット、縦パスを放ちそれをエドゥアルドが収めラウル、アーギアへとボールが繋がれる。

 ミドルサードの左ハーフレーン辺りでボールを受け取ったアーギアは立ちはだかったドミニクをフェイントで揺さぶり横を通り過ぎようとする。しかしそれは罠で抜き去ろうとした方向をフリオが塞ぎドミニクが距離を詰めてきた。

 普通なら奪われるであろう挟み込み。しかしアーギアはダブルタッチでドミニクの体当たりのような突撃をかわしパスを出した。

 飛んだボールは弧を描いておりしかも速い。Rバイエルン守備陣の頭上を通過したそれに唯一、反応していたエドゥアルドが裏に抜け出しボールを足元に収めた。


(上手い!)


 ドリブル突破と見せかけてのパス。相手守備陣の反応、対応を遅らせるそれはサッカーではよくあるがアーギアは特にこれを得意としている。彼は優れたパサーでもあるが相手を一瞬でかわせるアジリティとドリブル技術も持っている。

 ボールを収めたエドゥアルドに迫るアンドレアス。しかしスペイン代表FWは落ち着いた様子でシュートを放つ。彼の蹴ったボールはアンドレアスの脇を通り過ぎゴールネットに突き刺さった。

 反撃の1点に沸くRマドリーイレブンとサポーター。試合再開の笛が鳴った後も白のイレブンは慌てず冷静に走りボールを動かす。

 その落ち着きぶりにリードしているRバイエルンが動揺したのか、攻守に乱れが生じ始める。その隙をついたRマドリーは後半20分に立て続けにビックチャンスを生み出す。

 ラウルのトラップからの相手選手をかわしてのダイレクトボレーとアーギアのオーバーヘッドシュートがRバイエルンゴールに向かう。どのシュートも入っていてもおかしくなかったが、アンドレアス達の懸命な守りで何とか防がれた。

 零れたボールを拾おうとするリュカ。しかしその背後から柳が迫る。味方の声でそれに気づきかわすリュカだが、その彼にフランツが突撃してボールを奪取した。


「む」


 緑川が顔をしかめた次の瞬間、フランツが縦パスを放った。自陣に残っていたルイスたちCB二人の頭上を越えたボールに真っ先に反応したのは前線に唯一残っていたジークフリートだ。

 オフサイドにならずボールを収めるジークフリート。その彼に追いつきボールを奪おうとするルイス。

 しかしジークフリートはそれをものともせず、30メートル近くの場所でロングシュートを放った。ペナルティエリアライン上まで出ていたビクトルはすぐさま反転してボールを追うが、ボールはネットを揺らした。

 しつこい相手を振り切る4点目にスタジアムに歓喜の声が轟く。流石のRマドリーイレブンも落胆を隠せない。

 だが試合再開の笛の音が鳴って数分で彼らは先程の冷静さを取り戻し、淡々としかし確実に相手ゴールへ迫り、脅かす。

 そして後半三十分になろうという時間、RマドリーのCK。アーギアの蹴ったボールをジェフリーがはじき返すが、それをRバイエルンの右サイドでラウルが拾う。

 すぐさま近くにいたフランツが距離を詰めるがラウルはアーギアに似たテクニカルなフェイントで彼をかわしてサイドを進む。そして次に立ちはだかったフリオにはサイドを突き進むと見せかけて大きく右に切り返してパスを出す。

 ペナルティエリアラインから遠ざかるマイナスのパス。それに駆け寄ったのは直進してきたセルヒオだ。彼は迷うことなく右足を振り上げてシュートを放つ。

 Rバイエルンイレブンが跳ね返すべく動くが、セルヒオのシュートの方が早かった。彼の蹴ったボールは人の壁を通り抜け、ゴール左上に突き刺さった。


「やはりというべきか。この試合も最後まで目が離せなさそうだね」


 スクリーンに今のゴールシーンのリプレイが流れる中、緑川はそう言うのだった。






◆◆◆◆◆






 喜びながらも素早く自陣に戻るRマドリーイレブン。それを見ながら鷲介は歯噛みし、苦笑する。

 3-1とリードした時、このまま終わるとは思っていなかったがここまで食い下がってくるとは。さすがあのバルセロナRやAマドリーと毎シーズン激闘を繰り広げているチームというべきか。

 チームメイトたちも顔を上げているが幾人かは徒労感を出さまいとしている。喜怒哀楽がはっきり出るフランツも無理やりといった感じに声を張り上げてチームを鼓舞していた。


(だが、関係ない。また突き放すだけだ)


 そう思いながら鷲介はセンターサークルに入る。そして主審の笛の音と共にボールを動かし敵陣に入っていく。

 フランツの檄とホームサポーターからの大声援に押されてか、仲間たちは前に出る。しかしあと1点まで迫ったRマドリーも一歩も引かず両チームは共に最終ラインを高くし、狭い地域でボールを回し、奪い合う。

 裏に抜け出そうとした鷲介だがまたしても線審が旗を上げ、笛の音が響く。視界に入ったセルヒオがにやにやとした笑みをこちらに向けている。

 これで後半4度目のオフサイドだ。そしてその仕掛人は間違いなくセルヒオだろう。


(全く。フリオさんが代表でレギュラーになれないのも納得だな)


 SBとしての能力だけなら大きな差はない。しかしセルヒオはDFラインの統率、精度の高いロングシュートといったフリオが持っていない武器がある。

 世界最高の右SBと称されるセルヒオ。人格はアレだが実力は噂通りなのは疑う余地はない。

 Rバイエルン陣内に飛ぶボール。それをラウルがまたしてもあっさりと収め味方にパスを出す。昔と何も変わらない、理不尽と感じるほどのボールタッチだ。

 ライバルであるバルセロナRのようなパス回しで敵陣に深く侵入するRマドリーの選手たち。しかしエリア内にいたエドゥアルドに出たボールを後ろから飛び出したクルトがカットする。

 そのクルトがボールを味方に出さず、なんと前に進む。すぐにアーギアが前を塞ぐが並走したドミニクとのワンツーでさらに前に出る。


(なるほど。クルトさんも俺と同じ意見ってわけか……!)


 また突き放す。そう言う意思を込めた強い眼差しをするクルトを見て鷲介も周囲を見ながら走り出す。

 自陣のミドルサード半ばまで上がったクルトにシモンが向かうが、クルトは右にパス。それをフランツがダイレクトで右ハーフレーンに上げ、敵陣センターサークルにいたアントニオが胸トラップで抑える。

 そこにセルジュが迫るがアントニオはアーギアのような動きを見せて彼を翻弄。中に切れ込みそのままドリブル突破すると思いきや急停止。反転して上がっていたブルーノの前方にスルーパスを出す。

 ボールを収めたブルーノにセルヒオが迫る。一瞬スピードを落としたブルーノだが、次の瞬間加速してサイドを突き進む。それにセルヒオも追尾しパスを出させまいとするが、ゴールラインぎりぎりまで上がったブルーノが出したパスを止められなかった。

 上がったセンタリングに飛びつくのはエリックだ。飛びつくような彼の突撃にルイスが反応するが僅かに遅く、ヘディングはゴールに向かう。

 地面に叩きつけられたボールに手を伸ばして弾くビクトル。そこにジークが詰め寄るが先に触ったニコラがボールを大きく蹴りだす。

 一気にセンターサークル近くまで飛んだボール。しかしそれを収めたのはまたしてもクルトだ。傍にいたラウルからチェックを受けるより早く前方にパスを出す。

 そのボールをセンターレーンに移動した鷲介が受け前を向く。しかし目の前にはシモンが立ち塞がっていた。


(またこいつか……!)


 顔には出さず心中で舌打ちする鷲介。

 今日の試合、ゴールこそ決めているもののそれ以外では活躍らしいプレーはあまりできていない。

 セルヒオやセルジュたちのせいもあるが、立ち塞がったベルギーの新星もその一人だ。

 アフリカにルーツを持つシモンはとにかく身体能力が凄まじい。体の入れ方は上手く当たりも強いし、アフリカ系によくある腕や足が思いもよらないところから出てきてボールの挙動を乱す。

 そう言うタイプを幾度もいなしてきた鷲介に、同じくフィジカルに長けたエリックさえも苦戦を強いられるレベルだ。

 20歳にして代表、クラブ共にレギュラーのシモン。資質は”ゾディアック”に匹敵、いや同等かもしれない。


(だからといって引くわけにはいかないけどな……!)


 そう思いながら鷲介は仕掛ける。ゆっくりと間合いを詰め左に全速で切り返す。

 それに彼が反応し足を出した瞬間、左足を鞭のように振るってボールを右に急転換。自分も素早く右に切り返しスピードに乗ってシモンを振り切る。鷲介のスピードとアジリティが合わさった超高速エラシコだ。

 一気に最高速となった鷲介はRマドリーのペナルティアークに到達する。その眼前にニコラが立ちはだかるが鷲介は構わずスピードで切れ込む。


(あのニコと代表でコンビを組む選手。

 いいDFだけど、ニコほどじゃない……!)


 エリア内ということもあって間合いの詰め方が甘いニコラ。その隙を鷲介は当然見逃さず右足を振り切る。

 スピード、体重、体のバランス。全てが十分な状態から放たれたシュートはビクトルの手を逃れてゴールネットに突き刺さる。


「──どうだぁっっ!!」


 サポーターの歓声に負けないぐらいの大声を上げて、鷲介は大きくガッツポーズを取るのだった。






◆◆◆◆◆






 高く空に舞い上がったボールを見上げる中、試合終了の笛の音が響く。

 CL準決勝Rマドリーとの1stレグは5-3。ホームのRバイエルンの勝利で終わった。


「勝った……」


 空を仰ぎ呟く鷲介。

 この勝利はただの勝ちではない。宿敵であるラウルから得た、初めての勝利なのだ。


「大活躍だったな鷲介!」

「この大舞台でハットトリックか。生意気だな!」


 感慨に浸っているところへジーク達がやってくる。

 手荒くも暖かい祝福を受けていると今度は白のユニフォームを着たイレブンたちがやってきた。


「おめでとう。見事な勝利だったよ。

 でも次は僕たちが勝つ」


 ラウルは表情も声音も堅い。悔しさを抑え込んでいる人のそれだ。

 かつて二度、自分が彼に見せた態度と同じそれを見て、鷲介は改めて彼に勝ったことを実感する。

 ユニフォーム交換を申し出ようと思ったが、それより早くラウルは背を向けて去って行ってしまった。


「ははは。らしくないことを言うなラウルの奴。

 でもまぁその気持ち、わからんでもないが」


 笑うセルヒオ。彼はフリオと二、三言葉をかわした後、鷲介の方を向く。


「評判通りの活躍ぶりだったな。だがまだもう一試合残っているのを忘れるなよ。

 次はRマドリーのホームだ。楽しみにしておけよ」


 余裕すら漂う笑みを浮かべて彼も立ち去っていく。

 それを見てエリック達チームメイトが口々に言う。


「ははっ。あんな負け惜しみを言うとは、ヤナギにやられたことがよほど堪えたみたいだな」

「だが彼の言う通りこれで終わりじゃない。残るもう一試合の結果次第では立場が逆転する可能性はあります」

「関係ないです」

「鷲介?」


 怪訝な表情となるジーク達に鷲介はハッキリと言う。


「次も勝てばいいだけです。そうすればだれにも文句を言われることなく、決勝に進めるんですから」

「うむ、そのとおりだ!」

「頼もしいねぇ。我がチームの若きエース君は!」


 再びもみくちゃにされながら、鷲介は次戦での必勝を誓うのだった。






◆◆◆◆◆






「どうだったかねセルジュ。セルヒオ」

「いや噂以上でした監督。瞬間的ならあのロナウドに匹敵すると言われていましたが、下手をしたら互角じゃないですかね」

「ただ、こちらの想定を超えてはいませんでした。

 ハットトリックされたのは、まぁ予測の範囲ぎりぎりでしたけど」

「なるほど。つまり彼はロナウドと同じ、典型的な”ゾディアック”というわけか」

「ロナウドほどじゃありませんが、その傾向が強いですね。

 能力ではうちのラウルと大差ないですが、サッカー選手としての完成度は完全にラウルが上でしょう」

「そうか。──しかし私としては一つ予想外なことがあったよ」

「なんですか?」

「負けたことだ。君たちならば引き分けに持っていけると思っていたのだがね」

「う……」

「まぁいい。一週間もあれば十分だ。この借りは我がホームにて返すことにしよう。

 我がチームの”ゾディアック”もやる気満々のようだしな」

「ええ、そうですね」

「いつもの表情だが瞳に悔しさや負けん気が溢れてるなぁ」

「そうでなくては困る。彼はこのRマドリーの旗手バンディエラとなるべき男なのだから」





リーグ戦 23試合 24ゴール10アシスト

カップ戦 2試合 1ゴール2アシスト

CL 9試合 14ゴール4アシスト

代表戦(二年目)7試合 13ゴール3アシスト

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ