ミュンヘン・ダービー2
「にぃにぃのしあい。にぃにぃのしあいっ♪」
浮かれた様子のリーザを見て由綺は微笑む。そんな彼女と手をつないで向かう先はミュンヘン・スタディオンだ。
「いつにもまして人が多いわねー」
「当然だよ。今日はミュンヘン・ダービーだし両チームともリーグでは上位にいる。サポーターが集まらないわけがない」
スタジアムへ通じる道に両チームの多くのサポーターが向かっているのを見て言うのはイザベラとグスタフだ。
「さーて、スタメンが予想される鷲介だが、今日は試合に出るかねぇ」
「でるよ。そしてゴールするよにぃにぃは!」
「ははっ、そうだな。最近すっかりスタメン出場が多くなったからなー」
からかうような修一のつぶやきに反応するリーザ。そしてそんなリーザの頭を修一は優しくなでる。
「今季序盤はアレン選手と交代交代するような形だったけど、最近はもっぱらスタメンが多いわよね。……レギュラー確定かしら」
「僕もそうだけど、そう思っている人は多いね。移籍してしまったスレイマニさんの代役を十分以上に努めているって評価だよ」
喫茶店のお客さんからもそういう声が多いというグスタフ。
「とはいえ今日はあのマックス・ハインケスとのマッチアップが多くなるだろうし、出場するなら接戦は必至だろうね」
「ドイツリーグNo1サイドバックって言われる人だよね。でも今の鷲くんが苦戦する人なのかな」
由綺としては今の鷲介を真っ向から止められるのはポウルセンやラモン、ジェフリーなど世界最高峰クラスのDFぐらいではないかと思っている。素人目だがそれぐらい今の鷲介には実力と勢いがある。
しかしそんな由綺の言葉を兄がやんわりと否定する。
「DFの実力ははた目にはわかりにくいからな。だがリーグNo1と言われるほどの実力者であることは間違いない。
そして鷲介が最も苦手とするタイプのDFだし、グスタフの言う通り苦戦は免れないだろうな」
そう言う光明と共に進み、スタジアム前で待ち合わせをしていたマルクス、セレスティーヌ達と合流しする。
「凄い人ねー。リーザちゃんたちをしっかり見ておかないといけないわね」
入場ゲートもそうだったがイザベラの言う通りスタジアム内にも大勢の人の姿がある。中にはすでにビールを飲んでいる人や、酔っ払いの姿も見受けられる。
それらを避けつつ指定席までたどり着き、由綺は思わず周囲を見渡す。スタジアムの雰囲気がいつもと違うのだ。
どことなくピリピリした空気が漂っており、試合開始前だというのに両チームの応援チャントを始めている姿も見られる。警備の人の姿もいつもより多いようにも思える。
「なんか空気がいつもと違うわね」
「同じ街をホームとするチームのダービーマッチだからね。しかもどちらも優勝を狙える順位だし、こうなってしまうよ」
「それに加えて両チームの事情や歴史も絡んでいるからな。特にLミュンヘン側のサポーターのほうは気合が入りまくってるな」
そう言って修一は両チームについて語り始める。
RバイエルンとLミュンヘン。現在でこそどちらも強豪ではあるが、弱かった時期がなかったわけではない。
まずRバイエルン。リーグ創設期こそ下位だったが中期にかけて優勝争いに絡む強豪へ成長、しかし優勝したことはない優勝候補どまりチームだった。一方のLミュンヘンは創設期より強いチームで幾度も優勝経験があるリーグの本命だった。
しかしドイツサッカーのレジェンドたる”皇帝”と”爆撃機”がRバイエルンに所属し、またそれらに惹かれるように才能あるプレイヤーが集ったRバイエルンが初めてリーグ優勝を収めた1970年代初期から両チームの事情は大きく変わり始める。
国内リーグやカップ戦、CLの前身である大会を幾度も制し強豪となっていくRバイエルンに人が集まる一方、Lミュンヘンは真逆に弱体化し始める。理由は長年強豪だった驕りや若くて才能のある選手の育成に失敗、また資質のある選手がRバイエルンやほかのクラブに奪われた、当時のオーナーや幹部が汚職疑惑等々。
ともあれ二十年の月日がたった1990年代ごろには立場は逆転、いやそれ以上の差がついていた。Rバイエルンはドイツリーグの覇者となっており、Lミュンヘンは残留争いや二部降格を繰り返す弱小チームにまで凋落していた。
しかしそれからさらに十年が経過した2000年代、二部から這い上がってきたLミュンヘンはクラブのレジェンドであり西ドイツ代表でもあった選手がクラブのオーナーに就任し、チームは復活し始める。一部と二部を行ったり来たりだったエレベータークラブからリーグ中位へ、そして2010年代から現在までに数度優勝し、また優勝争いに絡む強豪へと、見事な復活を遂げたのだった。
「LミュンヘンのチームやサポーターとしてはRバイエルンを意識するなと言うほうが無理な話だ。過去のこともあるが、それにここ十年はリーグやカップ戦制覇の機会は幾度もあったが、それらすべてあと一歩のところでRバイエルンに阻まれているしな」
「それゆえ”ミュンヘンダービー”は”ドイツダービー”とならぶドイツ国内でも屈指のダービーマッチとして有名なんだよね」
修一の説明に続くグスタフの言葉。
由綺が自然に頷いたその時、周囲から歓声が沸く。
「両チームの選手がウォーミングアップに出てきたわね」
イザベラの言う通り両チームの選手がピッチに広がり、アップを始める。それを見てスタジアム中のサポーターの応援の声がますます大きく、高まる。
「にぃにぃ、にぃにぃどこ?」
「あそこだよリーザちゃん」
きょろきょろと周りを見渡すリーザに微笑み、由綺はチームメイトと並んで体を動かしている鷲介のほうを指さす。
「にぃにぃだー」と喜ぶリーザの声を聴きながら由綺も軽快な動きでアップを続けている恋人の姿を見て、笑みを深くする。
(貫禄がついてきたなぁ)
率直に由綺は思う。
デビューしたての去年はチーム全体で見るとどこか浮いている感じがあった。自然体で動いているチームメイトたちと比べて、鷲介とミュラーの二人だけは懸命にそれについていこうとしていた。常に全力で余裕がなかった。
しかし今は他のメンバーと同じく適度に緊張を保ちながらもリラックスした様子でアップをしている。ジュニアユースやユース時代の時のアップと同じ雰囲気となっている。
「……恰好いいなぁ」
思わず由綺は小さい声で呟く。が、直後、両肩に手が置かれる。
左に視線を向けるとニマニマした顔の親友に微笑ましそうな笑顔のグスタフ。そしてリーザを挟んでの右側にいた兄はニヤニヤと実にいやらしい笑みを浮かべている。
「べた惚れだな妹よ」
「ラブラブねぇ」
「二人とも、からかったら悪いですよ」
三者の言葉に由綺は顔を赤くするも否定せず、小さく咳をする。
そしてしばらくして両チームの選手がアップを終え控室へ姿を消す。すると二つのゴールの上に設置されている大型ビデオスクリーンに今日のスタメンが表示される。
「Rバイエルンは見慣れた人が多いね。システムもいつも通りの4-3-3。
GKはアンドレアス選手。DFはフリオ選手、ドミニク選手、ジェフリー選手、ウーヴェ選手。中盤はロビン選手、アントニオ選手、アレン選手。トップ三人は鷲くんにジークさん、アレックス選手」
「ブルーノ選手とフランツ選手、主力二人を欠いての布陣か。さて、Lミュンヘンは──」
もう一つのスクリーンに目を向ける修一。こちらにはLミュンヘンイレブンの今日のスタメンと布陣が表示されている。
「システムは5-3-2。GKはU-23ドイツ代表のヨルグ・フィッシャー。5バックの右SBは元ドイツ代表でRバイエルンのラッセ・クラフト選手。三人のCBは右から元ドイツ代表のホルスト・クロイ選手。現役のベルギー代表であるガビ・プロドーム選手にトルコ代表でもスタメンを張っているギョクハン・ブル選手。
そして鷲介とマッチアップするであろう左SBは、現役ドイツ代表でありドイツNo1SBと名高いマックス・ハインケス選手」
「中盤のワンボランチはブルガリア代表のエース、ゾラン・ミハイロフ選手ね。ロングシュートの名手で今季二度ほど相手ゴールにボールを叩き込んでいるわ。
右SMFのハンネス・ライツィハー選手はオランダ代表。鷲介ほどじゃないけど快速のドリブラー。左SMFはチームのパサーであるスペイン代表バスコ・マルティネス選手」
「そしてツートップは今季リーグアシスト王のイングランド代表、ブラットフォード・ゴールドバーク選手。昨季までRバイエルンにいたチーム得点王のルディ・ゲイツさんか」
グスタフ、イザベラ、由綺がLミュンヘンのスタメンについて語る。
「なぁグスタフよ。お前としては誰に注目するよ」
「もちろんもっとも注意すべきはラッセ選手にマックス選手、ルディさんですかね。
でも彼ら以外となればブラッドフォード選手か、バスコ選手ですね」
「アシスト王のブラッドフォード選手はともかくバスコ選手も? 今季はそう目立った活躍はしてないと思うけど……」
イザベラたちが話す中、ビデオスクリーンに両チームのスタメンが一人一人画面に表示される。そのたびにサポーターからは歓声が上がる。
その中でも特に大きいのが六人。Rバイエルンからはジークとアレックス、鷲介。Lミュンヘンからはマックス、ブラッドフォード、ルディだ。
「鷲介もですけどアレックスさんも声援が大きいですね」
「三年前移籍してきたが出番に恵まれずずっとサブだった。年齢から考えてどっかに移籍してもおかしくはないがそれに耐えて着実に実力を伸ばしていたからな。
エリックが不調なのもあるが今季は出番も以前より多く結果も残している。これが続けばエリックからスタメンを奪うのも夢じゃない」
「一転特化型が多いRバイエルンのFW陣の中で唯一のオールラウンダータイプですからね。どこでも十全の力を発揮しますし貴重です」
ビデオスクリーンによるスタメン、サブの紹介も終わりスタジアムは再び静かになる。
しかしそれは噴火前の火山と言った感じの静けさであり、両チームの選手たちがピッチに姿を見せた時、再び周囲から大声援が巻き起こる。
「盛り上がってきたな。さて、今季初めてのミュンヘン・ダービー。どうなるかな」
修一がつぶやくと同時、Lミュンヘンのキックオフで試合は開始された。
◆◆◆◆◆
Lミュンヘン陣内に下がっていくボールを見ながら、鷲介はジーク達とともにゆっくりと敵陣へ入っていく。
敵のシステムは5-3-2。堅守速攻型のフォーメーションだ。そしてこのチームのカギを握るのは左右の両SB──
(いきなり上がってきたのか)
味方からボールを渡されたラッセを見て鷲介は思う。本来右SBの彼だが今はボランチより前目の位置にいる。
チェックを仕掛けてくるアレックスをワンツーでかわして前に出るラッセ。続いてアントニオが距離を詰めるがラッセは前に行くフェイントをした後ボールを中に返す。
そのボールに駆け寄ってくるゾラン。アントニオが前を塞ぐ前に彼はいきなりダイレクトで前線にボールを蹴る。ラインの裏を狙った速いボールにブラッドフォードが反応するが、それより先に動いていたドミニクがボールをはじく。
だがそのこぼれ球を拾うのはバスコだ。彼は足元にボールを収めるとすぐにRバイエルンゴール前に向かってボールを蹴る。間髪入れず蹴られたボールに反応しているのはルディとジェフリーだ。
わずかに反応が早かったルディがヘディングを放つ。しかしジェフリーもしっかりとコースを消しておりボールは彼の膝に当たってコースが変わり、それを飛び出していたアンドレアスが抑える。
いきなりのゴールとならなかったワンシーン。しかしLミュンヘンサポーターからは声援が沸き起こる。
(移籍して半年なのにずいぶんとチームに馴染んでいるな。ってユース時代やデビューしてRバイエルンに移籍するまではチームに在籍していたんだったか)
ルディ・ゲイツ。ドイツ代表であり元Rバイエルンである彼はドイツ人サッカー選手には珍しくないドイツ国内クラブ限定の選手だ。
もっとも在籍したチームはRバイエルンとLミュンヘンの二つだけ。18歳でトップチームデビューを果たし、22歳の時Rバイエルンへ移籍。そして今年再びLミュンヘンに戻ってきたのだ。
カットされたアレックスのパスが敵にわたり、再びゴール前にいるルディへボールが渡る。Rバイエルン随一のフィジカルを持つジェフリーの当たりにしかしルディは顔色を変えず受け止めている。
さすがのフィジカルと鷲介が感心すると同時、右サイドから突っ込んできたハンネスへボールが渡る。彼はルディが下がって開けたスペースに猛スピードで突っ込んでいきシュートを放つが、直前でドミニクが前を塞ぎ体で防ぐ。
先程に続いて二度目のこぼれ球を拾ったのはロビンだ。それを見ると同時、鷲介たちFW陣は一斉に動き出す。
アントニオ、オーバーラップしてきたウーヴェ、アレン、そしてアレックスとそのパスをスルーしたジークを経由して鷲介の元へやってくるボール。ボールを収め前を向く鷲介だがそこへマックスが立ち塞がる。
(さて、行くか)
不敵な笑みを浮かべているマックスを見ながら鷲介は距離を詰める。そしてシザースからのフェイントで右に動く。
鷲介の加速に当然のようについてくるマックス。だがそれは予測済みだ。エラシコでマックスの広がった股間を抜き左へ抜き去る。
「おおっ!?」
驚いたようなマックスの声を聞きながら突き進む鷲介の前に今度はギョクハンが立ち塞がる。抜き去った直後の隙を狙った見事なタイミングの突撃。
だが、こんな展開は慣れっこだ。一瞬減速した次の瞬間、全速力で右に切り返して強引に突破する。
(よし、これでもう前には──)
ペナルティエリアラインが目前と迫り鷲介がそう思ったその時だ。右手側から猛スピードで何かが突っ込んでくる。
そしてその突っ込んできた何か──マックスは体ごと投げ出すようなスライディングで鷲介の足元から少し離れたボールに接触、転がったボールをヨルグがクリアーしボールはハーフウェーライン近くのラインを割る。
「ふー危ない危ない」
言葉とは裏腹の笑顔のマックス。一方止められた鷲介は視線を鋭くしてマックスを見つめる。
スローインから再開されるRバイエルンの攻撃。再びアレックスがいる左サイドから展開される攻撃だがラッセたちを中心とした四人のDF達による堅固な守りを中々崩せない。
(今度はマックスさんが上がっているのか)
先程までSMF近くまでいたラッセが元のポジションに戻っており、逆にマックスが──左SMF近くまで──上がってきている。間違いなくこちらからボールを奪った時のカウンターに備えてだ。
Lミュンヘンの特徴の一つがこれだ。ラッセ、マックス両SBが自在に上がり下がりすることによりシステムが柔軟に切り替わるのだ。試合開始前は5-3-2、開始直後は4-4-2のボックス型、そして今は4-4-2のダイアモンド型へと。
(だったらこっちも──)
鷲介はマックスの位置を確認するとジークに視線を送る。それに気づき振り向いたチームのエースはこちらの意図を察し右サイドのほうへ体を傾け、同時に鷲介もゆっくりと中へ歩いていく。
「こっちだ!」
アレックスからボールを渡されたアントニオへジークが手を挙げて下げる。そこへボールがやってくるのを見て鷲介は一気に加速し右ハーフレーンからセンターレーンに入る。
ゴールに背を向けてボールを収めたジークから来るパスを受ける鷲介。そしてジークが自分がいた右ハーフレーンに動くのを見ると同時、ゴール正面に突っ込んでいく。
立ちはだかるホルストとガビ。ホルストはチーム最年長のキャプテンであり二年前まではRドルトムントにいた猛者だ。突っ込んでくるガビも彼と同等かそれ以上の実力者である。
だが鷲介が幾度となく相対してきた世界トップレベルのCB達──ポウルセンやラモン、レオナルド──に比べたら、残念ながら格はやや落ちる。シザースで惑わし彼を突破する。
先程のギョクハンと同じく抜いた直後の隙を狙って前に出てくるホルスト。彼よりも正確なタイミングだ。
だが鷲介は慌てない。かすかな笑みを浮かべて右へパスを出す。オフサイドにギリギリ引っかからないボールに反応していたのは先程右サイドに動き、今はペナルティエリアライン上に飛び出したジークだ。
(よし、先制だ!)
ポジションチェンジによる強襲。上手くいったことに喜び先制点を鷲介が確信したその時だ、右足を振り上げたジークの左側へマックスが現れる。
(!?)
それを見て鷲介がぎょっと大きく目を見開くのと同時、ジークの右足がシュートを放つ。だがマックスの出現によりコースを塞がれたボールはゴール右ポストに直撃してラインを割る。
絶好のシーンを外したことによりRバイエルンサポーターからは落胆のLミュンヘンサポーターからは安堵の声が響く。
(俺と同レベルのスピードと加速。話には聞いていたけど、これは思った以上に厄介だな)
そう思いながら鷲介はチームメイトと話し合うマックスを見つめるのだった。
◆◆◆◆◆
「あー惜しいわね!」
「うん、あと少しだったよ。でもハインケスさん、凄く速かった」
マックスのチェックに由綺とイザベラが驚いた声を上げる。隣に座るリーザも兄が二度も邪魔されたことに対し「むー」とほほを膨らませている。
「そりゃそうだ。スピードだけならリーグのSBの中で断トツ。全ポジションを含めても鷲介と同じ五指には入るだろうしな」
「にしたって守備位置に移動するのが速すぎない? 最初はともかくさっきの寄せはどうして間に合ったのよ」
イザベラの疑問はもっともだ。普通なら間に合うはずはない位置にマックスはいた。
そして間に合った理由をグスタフが言う。
「簡単だよ。マックスさんはRバイエルンの攻撃を読み切って、守備範囲ぎりぎりの前に出ているからね。
普通の選手なら間に合わないだろうけど、鷲介と同レベルのあのスピードに加速なら可能なんだろうね」
「Rバイエルンのスリートップの攻撃範囲をしっかりチェックしているからこそできる芸当だ。
それに加えてフィールド・アイの保持者でもあるからな」
マックスがドイツリーグNo1SBと言われる理由の一つだ。LV3相当の視界を彼は持っているとされている。
ちなみにRバイエルンが左サイドから攻撃を仕掛けていたのもマックスを警戒してのことだ。迂闊に右サイドから攻撃してボールをマックスに奪われてからのカウンターはLミュンヘンの攻撃の一つであり、それがきっかけで今季もいくつものゴールが生まれている。
それからしばらく試合は膠着状態に入る。攻めるRバイエルンだがマックスが再び左SBの位置に戻りシステムが5-3-2に戻ったことにより、ボール保持時間は長いが硬いLミュンヘンの守りを崩せない。一方カウンターを狙っていたLミュンヘンもそれに対応してウーヴェたちが上がらなくなりロビンもいつもよりやや下がり目の位置にいる。
左サイドのアレックスはポストプレーで効果的にパスを散らしているも決定的な仕事はできず、ジークフリートも裏へ飛び出したりロングシュートを撃つが、相手DFの体を張った守りにあと一歩及ばない。
そして鷲介も今のところマックスに抑えられている。裏に抜け出してパスやセンタリングを上げようとするが追いつかれて防がれ、また上げたとしても精度の低いものやコースを限定したものばかり上げさせられ、それを中にいるLミュンヘンDF陣が弾きかえす。
最初のような一対一も一度はあったが、マックスは味方と協力して守備ブロックを形成したり鷲介にとって嫌な位置にいてドリブルを遅らせ、又は阻害している。鷲介もボールを奪われた後のカウンターを警戒しているのか、最初ほど突っ込む様子を見せない。
「ああ、また防がれた」
「もー本当に硬いわね」
ジークフリートの足元からこぼれたボールに駆け寄ったアレックスのミドルシュートが弾かれたのを見て落胆する少女二人。
しかし修一としてはそこまで驚くべきことではない。Lミュンヘンはもともとリーグ屈指の堅守で知られるチームであり、今季も現時点でRドルトムントに次ぐ最少失点チームでもある。
「攻めあぐねてるなー」
「そうですね。とはいえ手がないわけではありませんけど」
「だな」
さすが元Rバイエルンジュニアユースにいたグスタフ。自分と同じく鷲介のポジションの微妙な変化に気づいていたようだ。
「兄さん、何かあるの?」
こちらの声に反応する妹。修一は頷き、ピッチにいる鷲介を指さす。
「鷲くん?」
「よく見ておけ。そろそろ鷲介の奴が動くぞ」
修一がそう言ったその時だ、鷲介にボールが入る。当然マックスがチェックに行くが鷲介はすぐさま中央にいるジークフリートへボールを渡し、右サイドへ流れていく。
そのジークフリートもゴールに背を向けたまま少し下がり、追ってきたガビにフェイントを一度入れて、中に入って左サイドから中に向かうアレックスへパスを出す。
しかし彼をついてきたラッセと前に出たホルストが囲む。正面、斜めにドリブルをするのは至難な形であり二人のブロックではミドルを撃っても弾かれる。
だがアレックスがジークフリートからのパスをダイレクトで右に流す。ギョクハンの手前に流れるボール。パスミスかと思われたがそのボールに右サイドから超スピードで鷲介が突っ込んできた。
それを見て慌ててギョクハンが動き出そうとするが遅い。鷲介はギョクハンと入れ替わるような形でペナルティエリアに侵入する。
体を盾に飛び出してくるヨルグ。しかし鷲介はそれと同時に右足を振り切っていた。スピードに乗った動きと見事連動した右足のシュートはゴールポスト右に当たり、内側のネットへ突き刺さった。
「っ! よし!」
ガッツポーズをとるグスタフ。修一も思わず笑みを浮かべる。
同時にスタジアムから先制点に喜ぶRバイエルンサポーターの大歓声が沸き上がり、肌を震わせる。
「ナイスゴールよ鷲介ー!」
「鷲くん!」
「にぃにぃー!」
歓声に負けじと声を張り上げる妹たち。特に由綺は膝の上にいるリーザを放り出して溢れんばかりの笑顔だ。
サポーターに向かっていつものゴールパフォーマンスをする鷲介。しかしそれをするのは彼だけではなくジークフリートやアレックスたちも続く。ここ最近見られるようになったRバイエルンのゴールパフォーマンスだ。
「それにしてもあっさりとエリアに侵入したわね。ハインケス選手がマークについているはずじゃなかったの?」
「もうすぐしたらスクリーンにゴールシーンが映るよ。それを見ればわかるよ」
グスタフが興奮冷めやらぬ様子で言う。そして彼の言う通り大型スクリーンに今のゴールシーンが映し出される。
いろんな角度からのゴールシーンを見て、修一は自分が予想していた答えと事実が一致したことを確認する。
「イザベラ、由綺。わかったか?」
「うーん……わかんないわね!」
「わたしも……」
「にぃにぃのゴールがどうしたのー?」
眉根を顰める妹たちと首をかしげる金髪幼女。修一はリーザの頭を撫でて口を開く。
「鷲介だけじゃなくて全体を見たらわかるが、マックス選手の鷲介に対する動きをジークフリートさんが邪魔したんだよ」
右サイドから突っ込んできた鷲介に当然ながらマックスも動いていた。だがジークフリートはマックスが鷲介に追いつく最短の道の途中に姿を現したのだ。
それによりマックスのスピードが鈍る。ごくわずかな時間だったが、世界最高クラスの加速力とスピードを持った鷲介に追いつくにはそれは致命的と言うべきロス。
結果、鷲介はフリーでアレックスからのパスを受け、その勢いのままエリアに侵入。ゴールと至ったのだ。
「さすがジークフリートさん。見事なスクリーンだ」
アレックスにボールを出したあと、ジークフリートは右のハーフレーンに移動。そして鷲介が突っ込んでくるのと同時、マックスが鷲介を追ってくるであろう最短経路に向かったのだ。
ちなみにファウルではない。邪魔したといっても正確にはマックスが走る軌道上に半身を見せただけ。接触すらしていない。
だがマックスのようななまじスピードがある選手にはそれで十分だ。速くスピードに乗った選手ほど急停止からの再加速は難しいからだ。
「でもジークフリートさんのスクリーンだけじゃないよ。鷲介もマックス選手の守備範囲を予測し、それのギリギリ外側にポジションをゆっくりと移動していたんだ」
「鷲介がこの試合、いつもより首振りをしていることが多かっただろう? 周囲の状況を探るのはもちろんだが、それ以上にマックスの位置に注視していたんだ。
最初の時のように後ろから邪魔されないようにな」
マックスが一度振り切られても再び追いすがり邪魔をするのは最初のプレーで止められ鷲介も実感できただろう。ゆえに鷲介はゴールを狙いつつも厄介なマックスの行動範囲を図ることにしたのだろう。
もっとも現時点でそれもだいだいと言うレベルであり正確にはまだ遠い。先程の先制点のところも、もしジークフリートのスクリーンがなければギリギリ追いつかれ、邪魔をされていた可能性が高いからだ。
前半二十五分に決まった先制弾。それがきっかけで試合の流れはRバイエルンに一気に傾く。全体的に前に出てはLミュンヘンにプレスをかけてボールを奪い、速いショートパスの連続で敵ゴールへ迫る。
再びジークフリートとポジションチェンジをしてセンターに来た鷲介にボールが入る。アレックス、ジークフリートがボールを要求するがラッセやマックスがすぐさま彼らのマークにつく。
「パスコースがないわね」
「これは後ろに戻すしかないかな」
前を向いた鷲介に迫るガビ。ホルスト、ギョクハンもしっかりとブロックを作って待ち構えている。そして後ろからはアレン、左側からはアントニオがボールを要求しているのが見える。
しかし鷲介はアントニオの方をちらりと見た次の瞬間、ドリブルを開始する。いきなりの加速による接近と繰り出されるシザースにガビは反応が遅れ左側を突破される。
そこへすぐさまギョクハンとホルストが囲んでくる。絶妙なタイミングでの距離の詰め方だ。だが鷲介はさらにスピードを上げて強引に二人の間を通過してしまう。
「──!」
刹那の三人抜きに思わず修一は息を呑む。
だがスピードに乗り切った鷲介の前にヨルグが飛び出してきていた。鷲介は構わずシュートを放つが正面に飛んだボールをヨルグがパンチングではじく。
(さすがにシュートコントロールする余裕はなかったか)
パンチングではじかれたボールはポスト左に跳ね返る。──そこへスライディング体勢で右足を伸ばしたアレックスが突っ込んできて、ボールをゴールに押し込んだ。
「二点目よー!」
周囲から再び湧く喜びの声援。笑顔となり由綺の肩を叩くイザベラ。リーザも由綺の膝上で喜んでいる。
「強引な、でも見事な突破でしたね」
「ああ。今の鷲介なら可能とは思っていたが、さすがに目の当たりにすると驚くな」
感嘆した様子で言うグスタフ。アレックスたちとゴールパフォーマンスをする鷲介を見ながら、修一も少し引きつった笑みを作る。
鷲介のスピードドリブルがもはやリーグでも最上位であることは今季の活躍で証明されている。デビュー時から並はずれていたそれは一年半という時間で研磨されていたからだ。
だがそれでも最初のチャレンジでいきなり成功するのは驚いた。それも今季リーグ最少失点チームであるLミュンヘンのDFメンバーが相手にだ。
ドイツリーグ最硬の守備陣は言うまでもなくRドルトムントだ。個としても組織としてもリーグ一。
そしてそれに次ぐ守備力を持つチームがLミュンヘン、Rバイエルンの二チーム。その中でLミュンヘンは組織としてはRドルトムントと同等、もしくはそれ以上とも言われている。とにかく守備ブロックを作るのが早く、中々崩しきれないことで有名だからだ。コーチングやオフ・ザ・ボールの動きもCLクラスとも言われている。
SBの二人はリーグ随一であり中の三人もポウルセンやラモンには劣るが一級品のDFたち。ワールドクラスと評されRドルトムント、ドイツ代表でも頑強なDFと言われていたホルスト。若いガビ、ギョクハンもクラブ、代表でもポジションをキープし続けている。
(字に違わぬ活躍ぶりだ)
“サムライソード”。スピードに乗ったドリブルで対峙した相手を一瞬でかわすことが由来の鷲介の字だ。その名の通り、今の鷲介はまさしくあらゆる守りを無慈悲に切り裂く刀剣だ。
「すっかりスレイマニ選手の代わりになったな。
いや、そういう言い方は鷲介に失礼か」
「とにかく今の鷲介がスレイマニさんのようにRバイエルンの攻撃の軸の一つとなっているのは事実ですね」
グスタフの言葉に頷く修一。昨季までチームにいたスレイマニ。欧州トップクラスのテクニック系ドリブラーである彼の突破からゴールが生まれるのはここ数年、Rバイエルンのゴールパターンの一つだ。タイプは違えど鷲介もスレイマニのそれになりつつある。
前半ですでに二点差。もしかしたらこの試合、僅差になるという修一の予想とは大きく外れるかもしれない。そう思った時だ、
「……ん?」
修一は眉根を顰める。Rバイエルンサポーターの声援がスタジアムに響く中、Lミュンヘンイレブンの誰もが落ち着いた様子だったからだ。鷲介に突破されたホルストたちも変わった様子は見られない。
(何か策があるんだろうか)
そう修一が思う中試合は再開され、二点先行したRバイエルンの攻めの時間が続く。しかしLミュンヘンも失点前と変わらぬ動きで相手チームの攻撃を防ぎ、弾き続ける。
「Rバイエルンの時間が続いているわね」
「Lミュンヘンは攻めの姿勢は見せるけどカウンターする様子は見せないね。前半も残り十分を切ったから守備を優先したのかな……?」
浮かれるイザベラとは対照的に不可解な様子のグスタフ。その気持ちはよくわかる。
堅守がウリのチームであるLミュンヘンだが、常に守りつつ強烈なカウンターを放つチームだ。勝っている状況ならともかく負けている今、このような消極的なサッカーをするとは考えにくい。
それに相手がRバイエルンなことを考えても不自然だ。Rバイエルン相手には決まってしぶとく──すっぽんのように──食らいついてくるチームだというのに。
そう修一が心中で首を傾げながら試合を見続け、前半残り五分と言うところでジークフリートの強烈なシュートを抑えたヨルグが即座に立ち上がると、オーバースローでボールを投げる。
「!」
そのボールを胸トラップして前を向くのは若きスペイン代表のバスコだ。そして彼が前を向くのと同時、ルディ達ツートップが同時に動き出す。
それに一歩遅れる形で反応するジェフリーたち。しかしバスコは二人ではなく左──Rバイエルンの右サイドへボールを蹴る。
ポジションを上げていたフリオの後ろに向かうボール。しかし味方は誰もおらずパスミスかと修一が思ったその時だ、そのボールへ青い影が猛スピードで迫る。
(マックス・ハインケス!)
ピッチを跳ねてラインを割ろうとしたそのボールを上がってきたマックスはジャンプトラップで止め、前に蹴りだす。そしてすぐに着地しては前に転がったボールを拾い、Rバイエルンゴールへ駆けあがる。
「は、速っ……!」
驚愕するイザベラの声。無理もない。先ほどのボールへ駆け寄った速度もだが、それを拾い走るスピードも尋常ではないからだ。
鷲介と同等と言われているスピードと加速力。それが偽りでないことを修一達は目の当たりにしている。
瞬く間にRバイエルンのペナルティエリアまで近づくマックス。だがその進む先をロビンが塞ぎ、すぐ後ろにはフリオが迫っている。
だがマックスはスピードを落とさずサイドを駆け上がる。そして敵陣深く駆け上がって体を180度反転させるとRバイエルンゴール前にセンタリングを上げる。
「ルディさんだ!」
グスタフが言うのと同時、マックスの上げたボールへルディが跳躍して頭で合わせようとしていた。しかしマークについていたジェフリーもそれに反応しており、アンドレアスもヘディングに備えている。
そしてボールがルディの頭に当たる。しかしそのボールはゴールへ向かわず横に流れる。
完全な虚を突いたルディのプレイ。そしてそのボールにはもう一人のFWであるブラッドフォードが右足で合わせ、ゴールに蹴りこんだ。
「……!」
修一が息を呑むと同時、周囲から大きい悲鳴が響く。昨季までいたルディにまんまとしてやられたことを嘆く声だ。
「あそこで頭でパスなんて……」
「そう驚くことじゃないよ。ルディさんはヘディングのスペシャリスト。今季ではあまり見られなかったけど昨季やそれ以前ではあんな感じに味方のアシストをしていたしね」
口惜しさと関心が入り混じった顔で言うグスタフ。その気持ち、Rバイエルンのサポーターとしてはよくわかる。
また今のゴール、ジェフリーたちを責めるというわけにもいかない。ゴールを決めたブラッドフォードだが、センタリングを上げる直前までペナルティエリア外におりドミニクがマークについていた。そのイングランド代表FWはボールが上がりルディ達がそれに反応するのと同時、機敏な動きでマークを振り切ってエリアに侵入したのだ。あの場面でルディがパスを出すのを知っているからこその動きだといえる。
(それにしてもマックスのオーバーラップ。生で何度か見たことはあるが……)
Lミュンヘン一筋の友人に誘われLミュンヘンの試合を観戦したことは何回かある。その際にもマックスの鋭いオーバーラップを見たことはあったが、今のはその中でも一、二を争うほど動きとスピードにキレがあり迷いもなかった。
あそこまで前に出ること、出れたことを不思議に思いながらスクリーンに表示される今のゴールシーンのリプレイを見る。そしてその理由を悟る。
(攻撃に傾倒しすぎたRバイエルンの隙を突いたのか)
先程のRバイエルンは全体的に高い位置を取っており、最終ラインもハーフウェーライン近くだった。さらに攻撃の意識にメンバーが引っ張られていたためか陣形も崩れていた。
それ故にマックスのオーバーラップを許し、今の高速カウンターが見事に決まったのだろう。
ロスタイムに入る直前で吹かれる主審の笛。Lミュンヘンの反撃を受けたRバイエルンは攻撃に傾倒していた頭が冷えたのか、イレブンの位置がいつものそれに戻っている。
(ロスタイムは二分。さてどうなるか)
そう思う修一の目に鷲介に行ったボールをヨルグが抑え、先程のようにオーバースローでボールを前線の味方へ送る姿が映る。
ハンネスを経由したボールはバスコに届く。だが当然、ジェフリーたちが待ち構えており、先程のような高速カウンターはできない。
それでもバスコは下がってきたルディにパスを出す。足元に収めるルディへジェフリーとロビンが同時に行くが間一髪、二人にボールを奪われる前に味方へパスを出す。
体勢を崩したルディからパスを受けとるのはブラッドフォードだ。しかし彼にもドミニクとウーヴェが挟み込み、慌ててボールをフォローに来た味方に渡す。
陣形を維持しコンパクトな守備をするRバイエルン。一方、ボールをキープしながらも無理に攻めようとしないLミュンヘン。
このまま前半が終わるかと修一が思ったその時だ、再びバスコからルディに向かってパスが放たれる。
さっきと同じくジェフリーたちからチェックを受けるルディ。そしてフォローに来た味方にボールを渡すのも同じ──
(ん?)
しかしそこから先は違った。ルディからボールを受け取ったハンネスはダイレクトで右に出す。そしてそれを受け取るのはいつの間にか上がってきていたラッセだ。
(いや、ラッセだけじゃない。なんだこのLミュンヘンの陣形は。密度は……!)
いつの間にかLミュンヘンのシステムが変わっている。よく見る4-4-2や3-5-2ではない。3-4-3という攻撃的なシステムに。
しかもLミュンヘンのメンバーの距離が異様に近い。FWとMFはもちろん、最終ラインのCBの二人もハーフウェーラインを越えてきている。自陣にいるのはホルストとGKのヨルグだけだ。
Lミュンヘンは多人数が同時に連動しながら繰り出す速いショートパスとダイレクトパスでボールを左右に散らし、Rバイエルンはそれに翻弄される。そしてボールは瞬く間にペナルティエリアへ近づき、Rバイエルンの右サイドに上がってきたマックスの足元に届く。
「鷲介が行ったわ!」
イザベラが言う通りマックスの後ろから下がってきていた鷲介が迫る。しかし味方の声でそれを知ったのかマックスはすぐさまパスを出す。
味方のダイレクトパスで再びRバイエルンの左サイドにいるハンネスにボールが入る。左サイド深くに入っていくラッセにパスを出すか自ら切れ込むか──。しかしハンネスはそのどれでもなく前に速いパスを出す。
ペナルティエリアライン上にいるブラッドフォードに入るボール。だがブラッドフォードはダイレクトで再びボールを下げ、自身は外に流れる。
そのボールへ走ってくるのはミドルの名手ゾランだ。大きく右足を振りかぶった彼とゴールの距離は二十数メートル。彼の射程距離だ。
しかしそこを間一髪ロビンが前に回り込み塞ぐ。あれではシュートを撃ってもロビンの体に当たり入らない。
(時間ももうない。ゾラン選手のミドルが最後のプレー)
そう思い修一が安堵したのと同時、ゾランはシュートではなくパスを出す。
Lミュンヘンの右ハーフレーンからセンターレーンに出たボールはペナルティアークへ転がっていく。左右に動いたLミュンヘンの選手に釣られてできた小さいスペースがある。しかしそこにはLミュンヘンの選手は誰もいない──
しかし次の瞬間、そこへ左から弾丸のような勢いでマックスが突っ込んでくる。そしてその勢いのままマックスはRバイエルンゴールへシュートを放つ。
マックスのスピードと体重が乗った強烈なシュートは直線的な軌道でRバイエルンゴール左に飛び、ゴールネットに突き刺さった。
「……なん、と」
修一がかすれた声を漏らし、四つの音が耳朶に響く。一つはまさかまさかのロスタイムの同点弾に驚き悲しむRバイエルンサポーターの声、二つ目は真逆に狂喜するLミュンヘンサポーターの声。
三つめは騒ぐ妹たちの声で、最後は主審が立て続けに吹いたゴールと前半終了の笛の音だった。
リーグ戦 10試合 11ゴール4アシスト
カップ戦 1試合 1ゴール1アシスト
CL 4試合 6ゴール0アシスト
代表戦(二年目)5試合 9ゴール2アシスト




