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ダッシュ!!  作者: 浮雲士
第二部
70/196

太陽は輝き、星々はきらめく4






 今日八度目のキックオフの笛が鳴ると同時にジークフリートは相手陣内へ飛び込む。

 当然Aマドリーはボールを後ろに回すため奪えないがそれは別に気にしていない。見たかったのはそのボール回した。


(やっぱりというか、俺のゴールへの動揺があるな)


 まぁ無理もないと思う。二点リードでほぼ勝利を手中に収めた状況からの同点劇。個人──それも極めて少数──ならまだしもチーム全体がいつものようになるのはほぼ不可能だ。

 最終ラインからのパスを受け取るフランシスコ。前からフランツ、後ろから鷲介が迫るが、挟み込まれるぎりぎりでフォローに来たリコにボールを渡す。

 左サイドにいるペドロにボールが渡るかと思ったがリコは一気に最前線──ミカエルのところへボールを蹴る。


(どうやら彼はまだ動揺しているようだな)


 ”ゾーン”状態のミカエルに何とかしてもらおうと思っているようだが、あまりにも軽率なパスだ。思った通りミカエルに届く前にブルーノが飛び出しボールをカットしてしまう。

 表情を強張らせたリコを横目で見ながら味方が前に出る。──そして敵、味方両方の視線がジークフリートに注がれるのを感じる。

 敵ゴール前に来るとレオナルドが後ろにぴったりついてきていた。なんとしても止めるといった気迫のこもった顔だが、その中に幾分かの恐れも混じっている。

 いや、彼だけではない。守備陣全体からそのような気配が感じられるのだ。そしてそんなものを感じるのは久しぶりだ。


(今期の俺は調子が出ていなかったんだな)


 今になってはっきりとそう思う。試合には出ているしゴールは決めている。怪我の復帰後もいつも通りだと感じていた。

 だが今感じている周りから怯えられるほどの警戒の気配は昨季ほどではなかった。てっきり慣れたからそうだと思っていたが、自分に怒髪天をついてプレーをしてそうじゃないことに気が付いた。


(スレイマニさんがいなくなったため、チームに献身的になったからだろうな)


 FWのリーダーだったスレイマニの移籍。そして彼の代わりにFW陣をまとめなければいけないという思いがジークフリートのプレーに影響を与えていた。チームを、FWたちをまとめるためエゴが出にくくなっていたのだ。

 先程の2ゴールの場面は昨季までならそう珍しくはなかった。だが今季はあのようなゴールはほぼ皆無。似たような場面だとより確実的なプレーを選択していただろう。

 それに気が付いたのは二人の”ゾディアック”のおかげだ。彼らのエゴを前面に出したプレー。それらは若さや勢いに任せた危ういものではあるが、チームに活力を与えてもいた。

 そして先程の鷲介の言葉──机上の空論、いや暴論と言ってもいい言葉もそうだ。チームメイトたちはそれに呆れつつも、彼の言葉に乗った。いや、乗せられたのだ。今季不調だったチームの中で奮戦し結果を出した鷲介を信じて。


(情けない……! 本来なら、それは俺がやるべきことだというのに! チームのエースたるこの俺が!)


 この試合が意地のぶつかり合いだということはわかっていた。だがCL突破が確定していることや過去、Aマドリーと同格の強敵と幾多も戦い敗北してきた経験故か、心のどこかでは敗北を受け入れていた。FWリーダーとして先を見据え、CL決勝トーナメントがある。ここで負けてもそこには何の支障もないということを理由にして。

 だが鷲介の言葉にジークは冷や水を浴びせられた気分になり、そしてそんな思いを抱いている今の自分に腹が立った。昨季までの自分なら敗北を予感しても、受け入れまではしなかった。ピッチにいる以上、勝つために最後の最後まで走っただろう。


「ジークフリート!」


 チェックを受けて体勢を崩しながらもアントニオからジークフリートへボールがやってくる。そこへリコが突っ込んでくるがジークフリートは彼のスピードや動きを看破している。トラップと同時にボールを前方──リコの左に転がし、自身もそちらに動く。

 リコをかわして前に出たジークフリートの前にすぐさまレオナルドが立ちふさがる。彼はこちらだけに注視しているのか、周囲のDFたちへのコーチングはフリストが行っているのが見える。


(ここだ!)


 右足を振りかぶったジークフリートを見てレオナルドが警戒する。しかしジークフリートはパスを選択、右足から蹴りだされたボールはフリストとイゴールの手前にいる鷲介に収まる。


(俺のゴールが、見事に効いているな)


 右足を振り上げた瞬間、対峙するレオナルドだけではなくほかの面々も一瞬硬直した。ジークフリートの二度のスーパーゴールを間近で見た影響だろう。

 そしてジークフリートに注視したため周囲への反応が遅れ、鷲介にあっさりとパスが通ったのだ。本来ならば鷲介にパスを出した瞬間、フリストかイゴールどちらかが反応していただろう。

 鷲介は一瞬、こちらに視線を向けてゴールに向かってドリブルを開始する。その前に立ちはだかるイゴールに鷲介はシザースで惑わし中に切れ込もうとする。

 当然中央に身を寄せるイゴール。しかしイゴールが動いた瞬間、鷲介は中とは逆の、イゴールの左側に動き同時にペナルティエリアへ侵入する。

 この時間帯にもかかわらず鋭い動きを見せる鷲介。イゴールとて疲労しているだろうがそれでも今のようにあっさりと抜かれるようなDFではない。今のは単純に鷲介が彼に勝っただけの話だ。


(まったく、頼もしくも恐ろしいな)


 鷲介の驚くべき成長速度にジークフリートはそう思う。彼の成長はチームメイトとしては喜ばしいが、同じポジションを争うライバルとしては脅威に感じるのだ。


「撃て!」


 ジークフリートが叫ぶと同時、鷲介は右足を振り切る。渾身の力が込められたボールは勢いよく飛びゴール枠内に飛ぶがコースが甘く、ハビエルのパンチングで防がれてしまう。

 パンチングではじかれたボールはゴールポスト右に当たりエリア内に転がる。真っ先に駆け寄ってきたエリックがダイレクトシュートを放つが、モデストの顔面ブロックで再びボールがゴールから遠ざかる。

 そして宙に浮いたボールはジークフリートのところへ飛んでくる。それを見て笑むジークフリートだが、正面にはまたしてもレオナルドの姿があり、しかも距離を詰めてきている。

 なんとしてもシュートは撃たせないという気迫と執念が見える必死の形相のレオナルド。しかしジークフリートは平然とそれを見ると同時、周囲の状況を確認して次の行動を選択した。


「撃たせん!!」


 落ちてくるボールに右足を振りかぶるジークフリートの、数十センチという至近距離まで近づいてくるレオナルド。必死ながらも彼はどこか勝ち誇ったような顔となる。

 その理由はわかる。これだけ近づけばジークがミドルを撃ってもレオナルドの体が防ぐからだ。また彼はハンドをしないためかきっちり両手を後ろに回している律儀ぶりだ。

 そんなレオナルドを見ながらジークフリートは右足を振り上げる。しかしいつものように振り切らない。

 だがそれで問題はなかった。右足で蹴られたボールは狙い通りレオナルドの頭を緩やかなスピードで越えてゴールに向かったからだ。


(俺が強烈なシュートしか撃たない。──そう思い込んだのが、お前の敗因だ)


 ジークフリートが世界最高峰のストライカー──一部では世界一と言われている理由は三つある。相手のマークを外すオフ・ザ・ボールとシュート精度。そしてあらゆるシュートを自在に放つからだ。

 『竜殺し』と言う異名がつくような剛のシュートばかりでゴールを決めているジークフリートだが、三点目のダイレクトボレーや、今放ったループシュートのような(テクニック)のシュートとてそれに負けず劣らず得意なのだ。

 そしてジークフリート自身、シュートに関しては世界中のストライカーたちの中で一番だと思っている。いや、サッカー史に記されているレジェンドのストライカーにさえ負けていないと思っている。

 レオナルドの頭上を越えたダイレクトループシュートは狙い通りゴール左に飛んでいく。ハビエルが慌てた様子でそちらに走っていくがもう遅い。ハビエルが間に合わない位置に飛ばしたのだ。


「これで、逆転だ」


 そうジークフリートがつぶやくのと同時、ボールがゴールに収まり、手を伸ばしていたハビエルがピッチに倒れるのだった。






◆◆◆◆◆






 ホームスタジアムに響くサポーターの大音量が体を叩く。しかしそうされながらもミカエルは呆然と、逆転に沸くロート・バイエルンを見つめている。


「……馬鹿な」


 信じられなかった。残り時間十五分で二点差。しかもスペインリーグでも1、2を争う堅守を誇るアシオン・マドリーが相手なのだ。

 一点返されるのはまだわかる。同点に追いつかれるのもギリギリ許容できるだろう。だが逆転される事はさすがに想定外だ。こんな事態、レイ・マドリーやバルセロナ・リベルタ相手でさえ起ったことはない。

 そしてほかのチームメイトも自分と同じく目の前で起きたことを受け入れるのに時間がかかっている。あのペドロやフランシスコでさえ肩を落とし、天を仰いでいる。


「いつまで呆けている! さっさと動き出せ!」


 誰かの怒声が響き視線を向ける。自分と皆の視線の先にはボールを投げようとしているレオナルドの姿があった。


「……そうだね。さぁみんな、早く自分のポジションにつこう」

「まだ時間はある! 追いつくぞ!」


 レオナルドの叱責に続くフランシスコとペドロの声。それに従うようにミカエルたちは自陣に戻る。

 しかしその動きはいつもに比べて鈍い。たった十五分で逆転されたという事実がチームの中核である三人の呼びかけを上回っているのだろう。また呼びかけた三者の声にもいつもより力がなく、動揺の影があるのも一因だろう。


(ジークフリート・ブラント……。これが、世界No1ストライカーと言われる男の底力……!)


 今までミカエルはジークフリートのその評価に納得がいっていなかった。確かにすさまじい結果は残しているがそれでも同胞であり、ライバルクラブであるバルセロナRのエースストライカー、アルフレッド・オマール・ケンペスほどではないと。

 だがそれが間違いだったことを痛感する。例えスペインリーグNo1ストライカーと言われ、アルゼンチン代表不動のエースストライカーであるアルフレッドさえ、このような結果を残すのは至難の業だ。

 両チームのイレブンが自陣に戻り試合再開と思われた時だ、両チームとも選手が変わるようだ。Rバイエルンはエリックに代わりアレックス、ロビンに代わりドミニクがピッチに入る。

 そしてAマドリーもリコに代わってU-20スペイン代表のグスタボ・マルティネスが、サウロに代わってスペインU-23代表のセスク・バラハが交代する。

 グスタボは中盤どこでもこなせるパサータイプ。また精度の高いパスだけではなく遠距離からのミドルも得意としており、隙あらば撃って今期もゴールを挙げている。アフロヘアーのセスクは190センチの長身でヘディングとポストプレーに長けた選手だ。どちらも攻撃的な選手だ。


(最後まで俺たちの意見を尊重してくれるのか……)


 グスタボたちと入れ替わりで下がったリコたちを抱擁する監督をミカエルは見る。ちょび髭を生やした恰幅のいい彼はAマドリーの監督、ホセ・アルカンタラ。

 後半のゲームプランだが、実はミカエルたちの意見も混じっている。失点していた当時、前半のような前がかりはやめていつもの堅守&カウンターに戻し、同点となった後はそれを続けるはずだった。

 それにミカエルとイグナシオ、ペドロが同点後も攻撃的に行くべきだと意見した。堅守&カウンターという基本戦術ではビッククラブにさえ渡り合えるAマドリーだが、前がかりとなって同格に勝った試合は少ない。

 勝敗が重要でないのならこの試合、とことん攻撃的に行ってみてはどうか。三人の主張に監督は数秒悩み、OKをくれた。彼自身リーグのライバルクラブやCLの強豪たちに撃ち負けた試合の後、必ずと言っていいほど負けた相手に比べて攻撃力のなさを指摘されており、気にしていたのだろう。

 ともあれ──ミカエルの”ゾーン”もあったとはいえ──二点リードした試合。だが瞬く間に同点、逆転されてしまった。しかし監督はそれに怯まず攻撃的選手を投入してくれた。

 ミカエルの視線に気づいた監督はにかっと笑みを浮かべ、サムズアップする。それを見てミカエルも同じリアクションを返すとフランシスコとペドロから離れたようとした二人のそばへ寄っていく。


「ボールを持ったらまず俺を見ろ。そして俺にボールをよこせ」

「だいぶ疲れているようだが、やれるのか」

「”やれるのか”じゃねぇ。”やる”んだよ。ロスタイムは五分。逆転するには十分な時間だ」


 ミカエルが睨みつけながらそう言うと、顔色を少しも変えずグスタボは言う。


「なるほど。疲労は極みにあるが気合は十分のようだな。

 だがボールはお前には直接届けん」

「ああ!?」

「セスク、またはイグナシオさんを中継してお前に届ける。お前は相手ゴール前でのドリブル突破だけに力を注げ。そうすれば逆転も不可能ではないだろうからな」


 そう言ってグスタボはセスクに視線を向ける。自慢にしているアフロヘアーを撫でながら彼は言う。


「ま、疲れているイグナシオさんに代わってゴール前のポストプレーが俺の主な役割だしな。──だがボールを収めたら有言実行しろよ。チャンスはそう多くはないぜ」

「当然だ」


 逆転するには一つのミスも許されないことはわかっている。今のミカエルは”ゾーン”状態ではなくなり、体力も限界に近い。だがグスタボの言う通りドリブルだけに力を注げば逆転は十分に可能だ。

 センターサークルに置かれたボールの前にくるミカエル。ボールに触れる直前、一瞬鷲介、そしてジークを睨み、思う。


(このままじゃ、終わらせねぇよ)


 主審の笛と同時に止まっていた試合は動き出す。後ろにボールを渡すとイグナシオ、セスクとともに相手ゴール前に向かう。前に出るAマドリーに対しRバイエルンも下がる様子はない。ロスタイムも、最後まで打ち合いになりそうだ。


「ヘイ!」


 イグナシオに代わり中央にきたセスクが手を上げる。そこへフランシスコから強く早く正確なボールが飛ぶ。

 セスクとボールを競り合うのはジェフリーだ。共に190センチの長身である両者は闘牛のように激しく体をぶつけ合う。

 ジェフリーが万全の状態ならば彼に軍配が上がっただろう。だが今日はイグナシオと幾度も激突したうえ、ロスタイムと言う現在の時間。若く、スタミナも十分にあったセスクが勝利し、彼が落としたボールをグスタボが拾う。


(来い!)


 加速してブルーノからのマークを外すミカエル。だがグスタボはミカエルにボールを渡さず中に切れ込むとミドルシュートを放つ。正確かつ威力のあるミドルはゴール右に向かうが、そちらへ飛んでいたアンドレアスの片手に当たりラインを割る。


「おい!」

「焦るな。ボールは必ず渡す」


 こちらを見もせず走り去っていくグスタボにミカエルは舌打ちしながらもコーナーに備える。

 右のコーナーへ走っていったフランシスコはすぐにボールを蹴る。ショートコーナーだ。ボールは右サイドにいたグスタボの足元に届く。

 周囲の動きを見ながらミカエルは再びブルーノのマークを外す。一瞬フリーとなったミカエルはボールが来るのに備えるが、グスタボの蹴ったボールはミカエルの頭上を越え、ペナルティエリア中央でヘディング体勢にあったセスクの元へ飛ぶ。

 動きの鈍いジェフリーを引きはがしフリーとなったセスクのヘディング。だが前を塞いだドミニクの体に当たり、再びボールはラインを割る。


(何やってんだ……!)


 苛立つミカエル。先ほどといい今といい自分はフリーだった。ボールさえくればRバイエルンのDFたちを抜き去ってゴールしたものを。

 左からのコーナーキック。フランシスコからのボールは中央に飛び、飛び出したアンドレアスがパンチングではじく。

 それを拾ったのはまたグスタボだ。だがミカエルが動く前に彼はセンタリングを上げボールはイグナシオの元へ。低いグラウンダーセンタリングをイグナシオは振り向きざまのダイレクトシュートを撃つもフリオの足に当たり、三度コーナーとなる。


「グスタボ! なんで俺にもボールを寄越さねぇ!」


 怒涛の連続攻撃。しかし全くボールが来ない状況にミカエルはグスタボに食ってかかる。


「何を怒っている。確かに俺はお前にボールを渡すといったがそれはあくまでお前が点を取れるポジションにいた場合だ」

「さっきも今も俺はフリーだっただろうが!」

「今の疲れ切ったお前では無理だ。もっといい位置に来い。まぁそうしなくてもお前が動くたびRバイエルンの守備網は大きく歪み穴ができるから、つけ入るスキは生まれるが」

「俺のドリブルなら多少無理な状況でも行ける! さんざん見てきただろうが!」

「……。思いあがるなよミカエル。俺たちは試合に勝つために投入された。勝利するための行動を俺はしているだけだ。

 お前のドリブルは勝つための手段の一つに過ぎない。それともお前のエゴでチームの勝機をみすみす潰せというのか」


 鼻が触れる距離まで顔を近づけ、グスタボは言う。微塵も顔を変えないチームメイトをミカエルは睨む。

 実のところ、グスタボとの関係はそこまで良好ではない。表情を変えず物事をズバズバいう彼とは練習でも幾度か衝突しているのだ。そして彼もまたこちらを嫌っているのかセスクに対するように友好的に接したことはない。


「誰もがボールを預けるような、完璧なポジショニングをしろ。そうしたら俺もパスを渡す」


 離れていくグスタボ。ミカエルは怒りのあまり歯ぎしりをするが揉めている暇や体力はないと思い、心中の憤りを抑えピッチを見渡す。

 そして気づく。相手DFがイグナシオ、セスク寄りになっていること。そしてミカエルに対するマークがやや緩くなっていることに。


(あいつ、もしかしてこれを狙っていたのか)


 ロスタイムという短い時間、パワープレーというわかりやすいプレーをすることでミカエルに対する守備の意識を薄れさせた。

 まさかと思うが、そうであるとミカエルは確信する。グスタボはあれでなかなかの策士だ。ペドロ、フランシスコという壁に阻まれベンチに甘んじているが、リーグの下位チームなら余裕でレギュラーになれる技量と頭脳を持つ。

 個人的には嫌いなグスタボ。だが選手としては頼りになる。厄介なやつである。

 三度目のコーナーもショートコーナー。フランシスコからボールを預かったグスタボはペナルティエリア内にいるイグナシオとセスクのほうをぐるりと見渡し、右足を振り上げる。

 それを見てミカエルは動く。何故ならグスタボが周りを見渡した際、こちらへ突き刺すような視線を向けていたからだ。そして思った通り、左サイドから強いグラウンダーのパスがペナルティアークに移動したミカエルの元に来る。


(来た!)


 それはグスタボからのボール、そしてこちらを常に警戒していたブルーノの二つのことだ。歴戦のウルグアイ代表はミドルを撃たれまいとミカエルの正面を塞ぐ軌道で接近してくる。

 しかし彼の動きを事前に察知していたミカエルは当然ミドルシュートを撃たない。左から来たボールを振り上げた左足でコントロール、体とともに右へ移動しブルーノを抜き去る。


「……このぉ!!」


 ブルーノの無念の声を聞くと同時、ペナルティエリアに侵入するミカエル。時を置かず今度はクルトが立ち塞がるが再びのシュートフェイントで彼の右手側に切れこむ。

 ワールドクラスたる二人をあっさりかわせたのはミカエルの洗練されたボールコントロールがあったからだ。こちらの動きにすぐさま対応する二人はさすがというべきだが疲労もあってその動きは雑だった。もちろんミカエルもいつも通りではないが、サッカーを始めた時から今まで自分が最も得意としてきた、最大の武器であるドリブルは彼らのそれに比べれば洗練されていた。

 そこへ突っ込んでくるアンドレアス。だが彼がそう来ると読んでいたミカエルはすでに動いていた。アンドレアスが前に動くと同時にチップシュートを放っていた。ふわり、と浮かせたボールが彼の頭上を越えて無人のゴールに向かう。


(同点だ!)


 さながらジークフリートの逆転シーンのような無人のゴールにゆっくり飛ぶボールを見てミカエルが確信したその時だ、視界の左隅から何かが猛烈なスピードで突っ込んでくる。

 そしてゴールラインを越えようとしていたボールをオーバーヘッドで蹴りだしてしまった。


(なんだと!?)


 ミカエルは大きく目を見開く。なぜならばそのボールをクリアしたのはヤナギだったからだ。

 最前線でカウンターの用意をしているはずの奴がなぜここに──。そう思いながらミカエルはクリアされたボールへ視線を送る。

 高く宙に飛んだボールへイグナシオが頭を寄せる。しかしそれより先にジェフリーのヘディングがボールをゴールから遠ざける。そしてそれを拾うフランシスコ。だが鋭い突撃で迫ったドミニクが彼がボールを捌く前に強引に奪い去ってしまった。


(まずい!)


 ミカエルの心底が一気に冷えたのと同時、ボールを奪取したドミニクは前線へボールを蹴る。センターサークルでそれを収めるのはドミニクと共に交代で入ってきたアレックスだ。

 前を向いた彼にフリストが立ち塞がる。残っているのはDFの枚数を把握している──彼とレオナルド、そしてGKのハビエルの三人──のか、彼はアレックスとの距離を詰めない。

 しかしフリストの時間稼ぎに当然ながらアレックスは付き合うつもりはないらしく、少しずつではあるが前に突き進む。しかもフリストたちが嫌がるような動きで。

 ジークフリート、エリック、そして柳。この世界トップレベルの三者に阻まれスタメンとなる回数が少ないが、このアレックスも彼らに匹敵するほど厄介なプレイヤーだ。万能型FWと称されている通り、FWとしてあらゆる要素で一定以上の水準を持っているからだ。

 グスタボが後ろからアレックスに迫る。それを軽やかにかわすアレックスへペドロ、そしてフリストが挟み込む。

 しかしボールを奪えるあと一歩と言うところでアレックスはパスを出し、上がってきたフランツがダイレクトでAマドリーの左サイドに蹴り、それをオーバーラップしたフリオがフリーで収め、駆け上がる。Aマドリーの右サイドにいたアレックスと中央にいたジークフリートにDFが偏っていたからこそのフリーだ。

 とはいえパスが出された瞬間、フリオの行く先にイゴールが動いては先回りしている。上がっていたフリオはペナルティエリア前で立ち塞がった彼を見て動きを止めた。


「ジークフリートの動きを見逃すな!」


 戻りながらフランシスコがそう叫ぶと同時、フリオは動く。外に切れ込むと見せかけてイゴールのマークを半歩ずらし、下がってきたジークフリートへパスを出す。

 ボールを収めるジークフリート。しかしレオナルドがすぐ密着マークと言うほどの距離まで近づいてきたのを察したのか、ゴール方向へは振り向かず、駆け上がってきたフランツへボールを戻す。

 ボールに駆け寄るフランツの横からフランシスコがスライディングで突っ込んでくる。トラップしていたら確実に前を塞がれていたが、フランツもそれはわかっていたのか先程のようにダイレクトでボールを蹴る。ドイツ代表の右足のパスはフランシスコやジークフリート、そしてレオナルドを越え、その後ろへ落ちる。

 そしてそこへ左から斜めに走ってくるのはアレックスだ。フリストも追尾しているがやや遅れている。

 トラップと同時、ボールを蹴りだしてさらに前に出るアレックス。フリストを引き離し完全フリーとなった彼はその勢いのままペナルティエリアに侵入、Aマドリーサポーターの悲鳴が聞こえる中シュートを放つ。

 アレックスの放ったシュートは前に出て距離を詰めていたハビエルの右側を通過する。シュートを防ごうとハビエルの伸ばした右足も届かない。

 それを見て総毛だつミカエル。しかし狙いすぎたのか、ボールはゴールポストに当たって跳ね返る。


「早く前線へ送れ!」


 焦りを含んだレオナルドの声。ポストに当たり跳ね返ったボールにはアントニオとモデストの二人が必死の形相で駆け寄っており、間一髪、モデストのほうが早くボールを蹴りだす。

 そしてクリア気味のパスがハーフェーラインまで下がってきたミカエルの元へやってくる。それを見てミカエルが首振りをしようとしたその時だ、背後から何かが動く気配を察する。


(ブルーノ!)


 幾度もやりあっている仇敵は迷うことなく走り、ミカエルの正面で跳躍。やってきたボールを頭でAマドリー陣内へ跳ね返してしまった。

 再び自陣に転がったボールを拾ったのはアントニオだ。しかし彼の後ろからモデストが、左前方からはグスタボが距離を詰めている。

 挟み込まれたアントニオを見て奪える。そうミカエルが思ったその時だ、アントニオは二人からチェックを受けながらもボールを蹴る。

 ピッチ中央へ転がった勢いの弱いボールへペドロが駆け寄っていく。だが赤いユニフォームの選手が彼より早くそのボールへ駆け寄り、同時にスピードに任せて突破してしまう。


(シュウスケ・ヤナギ!)


 先程同点となるはずだった自分のシュートの邪魔をした彼を見て、ミカエルは眦を上げるのだった。






◆◆◆◆◆






「っ……!」


 足元から離れそうなボールを歯を食いしばって何とかコントロールする鷲介。そしてスタミナが枯渇寸前状態の体を気力で動かしゴールへ突き進む。

 ボールをキープして時間稼ぎしようという気はない。チーム全体がもう一点を取ってとどめを刺す気満々なのが感じられるからだ。またあんな挑発した自分がそんな真似をすれば試合後、チームメイトから何を言われるか分かったものではない。


(ジークさんは──)


 ラストパスを送る最優先の相手に視線を向ける。そして大きく目を見開く。理由は二つだ。ジークのそばにはフリスト、そしてフランシスコの二人がいることと、ボールを持った自分にレオナルドが向かってきていたからだ。

 すぐさまほかのチームメイトを見る。だが誰もがゴールから遠い。


(しかたない。下げるか──)


 そう思ったその時だ、視界の左にいたジークがこちらへ向けた視線を鋭くして中に切れ込んでいく。その動き、そして視線がどういう意図なのか鷲介は察し、心中で仰天する。


(最後まで一人で行けって!? いくらなんでもそれは無茶だろ!)


 先ほどペドロを走ってきた勢い+スピードで強引に抜き去ったが、レオナルド相手にそんな真似は通用しない。何せあのポウルセンに匹敵する相手なのだ。

 だがジークの意思に連動するかのようにゴール付近にいたアレックス達も動き守備をかく乱する。こちらからボールを貰うような動きだが、それがフェイクでありジークと同じく自分の単独突破を成功させようとしているのは彼らの動きをみればすぐわかる。


「鷲介! 後ろからきているぞ!」


 フランツの声にはっとする鷲介。そして言われた通り後ろから重圧を感じる。間違いなく一人、いや二人以上の選手がこちらを追っているような重厚なプレッシャーだ。


(……こうなったらやってやる!)


 前の味方へラストパスを送ることはできず、後ろにボールを下げることもできない。前門の虎、後門の狼という非常に厳しい状態だ。

 ならばせめて少しでも前に出て、ボールをゴールに近づけてやる──。そう思い鷲介はゴールへ、前を塞ぐレオナルドへ突き進む。


(……っ!)


 近づくにつれて強まるレオナルドの圧。試合終了間際だというのに以前と何ら変わりない。

 生半可な動きではボールを奪われてカウンターの起点になる。ならば自身の最大の武器を使うしかない。かといってスピードによる強引な突破はおそらく通じない。ならば──

 鷲介の脳内で行われる刹那の計算。出た答え(プレー)は成功率は低いが現時点でもっとも通用する可能性があるもの。これに賭けるしかない。

 レオナルドの守備範囲に入ったのと同時、残り僅かな気力、体力を体を動かすエネルギーにして鷲介は動く。


(ダブルタッチ!!)


 鷲介は本気の加速で左に切れ込む。当然レオナルドがそれに反応しているが、鷲介は左足をいつもより速く──釘を打ち付けるような勢いで踏み込み、左へ流れたボールを右へ強引に軌道修正する。

 そして鷲介自身もすぐに右側へ動く。だがそれは今までとは微妙に違う、加速100%状態におけるダブルタッチだ。

 今までの鷲介のダブルタッチは先に動くときと後に動くとき、どちらかは必ずスピードを落としていた。それはそうしなければAマドリークラスのチームの選手にダブルタッチが通用していなかったからだ。

 加速100%を維持した状態でのダブルタッチなどのフェイントは、練習での一対一ならば通用してはいたが、紅白戦などのゲーム形式となるとさっぱりだった。最も多く対峙したブルーノやクルト曰く「発動する前の挙動がわかりやすい」、「突破した後のボールコントロールがお粗末だから、わざと突破させた後を狙えば問題はない」とのことだ。

 今までのレオナルドとの一対一でも突破の可能性はよくて50%だった。今まで通りにやれば止められる可能性は高い。ならば残る力全てを使ったうえでのイチかバチか、乾坤一擲の思いで加速100%状態のダブルタッチを使用してみようと思ったのだ。

 

「くっ……!」


 いつもとほとんど変わらぬ動きから繰り出された鷲介の加速100%状態ダブルタッチに、さすがのレオナルドも反応が遅れ、置き去りにされる。

 だが鷲介に喜ぶ余裕はない。初めて繰り出し成功したスピードを殺さないダブルタッチだが、繰り出す一瞬で多くの集中力に残っていた残り僅かな体力をほとんど消費したうえ、ボールや動きの軌道も予想よりずれたからだ。すぐさま修正する鷲介だが、その時左側にレオナルドが体を寄せてきていた。

 鷲介を吹き飛ばすような勢いのレオナルドの突進。場所もペナルティエリアのギリギリ外。ファウルになってもFKだ。

 それらの情報が頭をよぎり、鷲介は刹那の一瞬でシュートモーションに入ることを選択する。ハビエルがこちらに反応しているがもはやそれ以外の道はない。


(これが、正真正銘、今日最後のシュートだ!)


 残ったすべての力を込めてレオナルドの接触に一瞬耐える鷲介。そしてそれと同時に右足で渾身のシュートを放つ。


(入れ──!)


 鷲介は倒れながら利き足で蹴ったボールがゴール右へ飛ぶのを見る。だがそれにハビエルが反応しており、彼の伸ばした左手が鷲介の渾身のシュートをはじいた光景が視界に焼き付く。

 ピッチに倒れこむ鷲介。倒れた痛みで思わず視界が閉じる。


「……痛ぅ。入らなかった、か」


 呻きながらそうつぶやいたのと同時、主審の笛が鳴り響き、スタジアムがサポーターの声で大きく揺れる。

 どちらもレオナルドのファウルにしては妙に大きな反応だ。そう思ったその時、興奮したフランツの声がかかる。


「よくやった鷲介!」

「え……?」

「ゴールだよ、ゴール! 君のシュートが!」


 同じように興奮したアレックスがそういい、ゆっくりと鷲介を起こす。

 そして彼が指し示す先には、ゴールラインを超えたボールがある。


「ハビエルさんに弾かれたはずじゃ……」

「弾かれたボールだが、勢いが完全に殺せなかったみたいだな。

 今、モニターにリプレイが表示されている。見てみろ」


 いつの間にかそばにいたジークが言う。彼の言う通りゴール裏のモニターに先程のシーンが映し出されていた。

 鷲介が顔を上げたとき、ちょうどハビエルが鷲介のボールを弾いたところが映っている。そしてジークの言う通り、ハビエルの左手に弾かれたボールは勢いを弱めつつもゴールへ向かいゴールポスト上部に激突。そして一度ゴールライン上にバウンドしながらも、ゴールへ入っていった。


「ナイスゴールだ、鷲介」


 勇ましい笑みを浮かべたジークが肩に手を置く。そしてそれと同時に主審の笛が鳴り響く。

 センターサークルを指で指し示しながら吹かれる笛。試合終了の笛だ。


「勝った……」

「ああ。試合は、意地の張り合いは俺たちの勝ちだ」


 そういってジークは、鷲介の右腕を掲げるのだった。






◆◆◆◆◆






「終わったー……」


 呆然として言い、鷲介はゆっくりと立ち上がる。まるで老人のような遅さだが体力的に限界なためだ。


「しっかりと立て。サポーターのところへ……。何か用か」


 ジークの声に地面に向けていた視線を上げる。すると正面にミカエルの姿がある。


「今日の試合、お前の勝ちだ。

 だが次は俺が勝つ」


 いつものふてぶてしい様子は欠片もない殊勝と言うべき様子。しかしいつになるかわからない次の試合で勝利宣言をするのはなんというか彼らしいと思い、鷲介は頬を緩める。そしてゆっくりとユニフォームを脱ぐと彼に差し出す。

 鷲介の行動にわずかながら目を見開くミカエル。だが彼もすぐに同じようにユニフォームを脱ぐとこちらに向けて差し出してくる。


「それじゃあ、またな」

「ああ。またな」


 短い別れの言葉をかわす二人。ロッカールームへ向かっていくミカエルの元へペドロが駆け寄り、慰めるように肩を抱く。


「先程はすまなかった。体のほうは大丈夫か」


 そう言って近づいてきたのはレオナルドだ。


「はい、問題ありません。レオナルドさんのチャージにかえって堪えなかったせいもあると思います」


 いつもなら踏ん張っていただろうが後半終了間際という時間帯なためそうする体力はなく、そのためあっさりと吹き飛んだのだ。

 はた目から見て派手な転び方だったが実のところあまり体に痛みはない。


「改めて言わせてもらうが完敗だ。素晴らしい活躍だったな。あの高慢ちきなミカエルがライバル視するだけのことはある。それとロナウドが君との試合を待ち望んでいたことにも納得だ」


 ミカエル、ロナウド。“ゾディアック”両名の名前を出されて鷲介は微苦笑し、思う。今日の試合で、少しは彼らに追いつけたのだろうかと。


「バルセロナRも俺たちと同じく最終節前に決勝トーナメント進出を確定させている。もしかしたら一回戦で激突するかもしれないな」


 彼の言う通り、RバイエルンやAマドリーと同じく決勝トーナメント進出を確定させているバルセロナRだが、最終順位は確定していない。

 もし2位となった場合、彼の言うカードが実現する可能性もあるのだ。


「ジークフリート、貴様の活躍にも脱帽だ。人が変わったようで俺たち皆、面食らっていたぞ」

「……ま、あなたのところのミカエルや鷲介(こいつ)をみて、自分のふがいなさを再認識しただけです」


 そういって鷲介の頭に手を置くジーク。鷲介はその言葉の意味が分からないがレオナルドはそうではないようで、面に理解の色を表す。


「五点取られた試合は久しぶりだった。世界一と称されるバルセロナRの攻撃陣に匹敵するかもしれないな。

 もしこの先お前たちとバルセロナRが対戦したときは、楽しみに見させてもらう」


 そういってユニフォームを脱ぐレオナルド。先程の自分のようにジークもそれに応じる。

 レオナルドと別れ、鷲介たちも駆けつけてくれたサポーターへ挨拶を済ませてロッカールームに引き上げる。


「なんというか、プロになって今までで一番疲れた試合だったかもしれません……」


 濃い疲労のこもった溜息を吐き、鷲介は言う。先程ジークとともにインタビューを受けたが、答えることさえ億劫だった。できるなら体を地面に投げ出して、しばらくぼーっとしたい気持ちさえある。


「まだCLのグループリーグだ。これぐらいでへこたれていたら先が思いやられるぞ」


 そういうジークの顔は厳しくも、温かい顔だ。その顔を鷲介はしばし見つめてしまう。


「どうした?」

「いえ、なんというか……試合前と印象が変わったような気がして」


 今季のジークフリートはどこか大人しいというか控えめだった。鷲介たちFW陣にもどこか一歩引いたような感じだった。

 だが今は昨季やプレシーズンマッチの時と同じ──いや、それよりもさらに感情がむき出しになっているような感じだ。


「……そうか。まぁさっきレオナルドにも言ったがお前たちが原因だ。それに悪いことではないからあまり気にするな」


 そう言ってジークは小さく笑う。確かに彼の言う通りジークの表情はどこかさっぱりしており、悪い気配は少しもない。

 自分たちがどういう理由でジークを大人しくさせていたのか聞きたくはあったが、なんとなく聞かないほうがいいような気がしたため追及はやめる。


「さぁ次からは決勝トーナメント。今日と同じかそれ以上の試合が立て続けに続く。しっかり調整しておけよ」

「はい。頑張ります」


 姿勢を正し頷く鷲介。そんな鷲介にジークはまぶしそうな表情を浮かべ、微笑むのだった。






◆◆◆◆◆





「あー、くそっ。負けたぁぁー!」


 控室に入ると同時、ミカエルは大声を発し、天を仰ぐ。いつもなら誰かが諫めるような行為だが誰も動かない。それは見慣れた光景だからだ。

 一方、ミカエルのこの様子を初めて見るグスタボは眉根を顰めミカエルに近づく。だが隣にいたフランシスコが苦笑を浮かべつつも、彼を止める。

 ミカエルはすぐに姿勢を戻すと、近くにおいてある給水ボトルをつかみ一気に飲み干す。そして大きく息を吐くとさっぱりしたような顔となって言う。


「ま、今季はこれで終わりってわけでもない。次は俺たちが完膚なきまでに勝利するだけの話だ」

「ミカエル? お前は何を言っているんだ?」


 首をかしげるグスタボ。ミカエルは彼に振り返り、呆れたような顔で言う。


「何ってCL決勝トーナメントで戦うってことに決まってるだろうが。Rバイエルンと俺たち、どちらも勝ち進めば再戦するんだから。

……なんだその呆けた顔は。考えもしなかったって顔だな。だからスタメンになれないんだよお前は。

 リベンジするのに来年やその先まで待っていられるかよ。今季味わったこの屈辱は今季のうちに返すのは当然だろうが」


 氷のような冷たい無表情となるグスタボ。

慌ててセスクが両者の間に入り、ミカエルに視線を向けて言う。


「なぁミカエル。お前確かリーグ戦でRマドリーやバルセロナRに負けた時も同じようなことを言っていたと思うんだが」

「そうだな。だがそれがどうした? 倒すべきチームがまた一つ、加わっただけの話だろ」

「いやな、現実的にその三チームと都合よくあたるなんてあり得ないってことだ」

「だから、それがどうしたよ。たとえ対戦しなくても、連中へのリベンジを誓わない理由にはならないだろうが。

 大体RマドリーやバルセロナRはリーグ後半戦やカップ戦でもあたる可能性はあるってこと忘れてるんじゃないのか」

「──ま、要するにだ。次当たった時は借りを返すということだよ。遅かれ早かれ、どちらにしても」


 困惑するセスクたち二人にそう言うペドロ。微苦笑を浮かべると二人は納得しきれていない様子だが、無言で引き下がる。


「ミカエル、もう少し他人が理解できるように喋ろうか」

「? 普通に誰にでもわかるでしょう? ねぇ」


 そういって周りを見回すミカエルにチームメイトとスタッフたちは様々な反応を見せる。無言で苦笑するもの、肩をすくめるもの、力強く首を縦に振るもの。

 ただ誰しも、ミカエルの言葉に疑問を投げかけはしなかった。それが示すのは一つ、皆がミカエルと同じ気持ちだということだ。


「ミカエル」

「はい」

「次は、勝とう」

「当然です」


 ミカエル・アルマンド・レオン。Aマドリーの中心選手の一人であり、また問題児でもある。しかしサッカーへの比類なき情熱と才能を持ち合わせている稀代の天才でもある。

 敗戦直後だというのにこの気迫。過去、リーグやCLなどでライバルと呼ばれたクラブに負けた後に必ずと言っていいほど見られた光景だ。

そしてペドロはこんな彼の姿を見るたびに、この若き18歳の少年がいずれチームだけではなくリーグ、そして世界のサッカー界の中心になることを夢想するのだった。






◆◆◆◆◆






「いやー最後の最後まで目が離せない試合でしたね」

「あのAマドリーから、しかもアウェーで5点を取ったか。わかってはいたが凄まじい攻撃力だ」

「ジークフリートさんの電撃的ハットトリックも凄いですけど、柳君のここぞというときの爆発力も驚きですねー」


 自宅の居間のTVに映る試合後の様子をルディが見ている横で、チームメイト二人は対称な様子を見せている。

 感心した様子の若者はマックス・ハインケス。眉根をひそめている髭を生やした男性はラッセ・クラフト。


「……ま、過剰に警戒しなくても大丈夫だ。ハットトリックを決めたジークだがあの勢いはフルタイム続かないだろうし。

 それに鷲介はお前さんが抑えきるんだろう?」

「まー、完封できるとまでは言いませんが。任せてもらって大丈夫だと思いますよ」

「さすがドイツリーグNo1SB。自信に満ちた言葉だ」


 どこか嫌みったらしく言うラッセにマックスは気にした風もなく微笑む。そしてこちらへ顔を向けて、言う。


「そういうルディさんも平然としていますね。──やっぱり古巣だからチームの弱点とかを知っているからですか」


 マックスの言葉にルディは肩をすくめるだけだ。

 だがつけ入るスキはある。勝つ可能性も十分に。ルディの所属するクラブはそれほどのチームだ。

 返答しないルディのことを気にする様子もなくマックスは静かな闘志を秘めた笑顔を浮かべ、言う。


レーベ・ミュンヘン(うち)とRバイエルンとの試合。他の強豪との試合と同じく、激しいものになりそうです」







リーグ戦 10試合 11ゴール4アシスト

カップ戦 1試合 1ゴール1アシスト

CL 4試合 6ゴール0アシスト

代表戦(二年目)5試合 9ゴール2アシスト


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