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ダッシュ!!  作者: 浮雲士
第一部
34/191

最終節3






 ハンブルク・ファアアインのゴール前に飛ぶ強く速いボール。それに真っ先に反応するのは今のCKの原因となったサミュエルだ。

 高い位置から放たれるヘディングをペアが体を張って防ぐ。しかしこぼれたボールにユーリが駆け寄り押し込もうとするが、ほんのわずかだが早く駆け寄ったセザルがボールをクリアーする。

 しかし高く蹴り上げられたボールをまたしてもハンブルクFのゴール方向へ弾くのはコーナからゴール前に走ってきたゲルトだ。彼がジャンプして出した足で弾かれたボールは右サイドに転がり、それをトルステンが収めるとマークに来た直康をフェイントでかわし再びセンタリングを上げる。


「また来てるぞ!」


 トルステンのセンタリングに飛びつくハンス。しかし鷲介が叫んだとおり同時にサミュエルもそれをゴールに叩き込もうと反応している。

 僅かにハンスのパンチングが早くクリアーされたボール。だがそれを拾ったのは自陣に戻ろうとしていたヨーゼフだ。

 一度胸でボールをトラップし、ロングシュートを放つヨーゼフ。FK、ロングシュートの名手として名高い彼のシュートは正確にハンブルクFゴールの左隅に向かっている。


(入るー!!)


 心中で絶叫する鷲介。しかしそれに必死の形相のガブリエルが伸ばした足が当たりボールは軌道を変更。ポストに当たり跳ね返る。

 しかしまだ続くレヴィアー・ゲルセンキルヒェンの攻撃。こぼれ球をティトがダイレクトでシュートを放つ。それを見て今度こそやられたかと青くなる鷲介だったが体を張ってゴール内に向かったボールを防いだのは先程交代で入ってきたザンビディスだ。強靭なフィジカルを持つギリシャ人の体に止められ落ちたボールをハンスが抑え、そこでようやくRゲルセンキルヒェンの攻撃は終わる。


「あ、危なかった……」


 大きく安堵の息を吐きながら鷲介は呟く。現在後半四十分を回ったところだが、ハンブルクFは幾度も窮地になっていた。

 そしてその原因はハンブルクF──鷲介の超低空オーバーヘッドと言うスーパーゴールで逆転した直後に、それを一蹴するかのような超ロングシュートを叩き込み即座に同点としたゾーンに・・・・入った・・・サミュエルだ。


(世界トップレベルのストライカーがゾーンに入ると、こんなトンデモ性能を発揮するのかよ……!)


 映像などで同様の現象を見たことは幾度もあるが、映像で見るのと目の当たりにするのとでは、あらゆる意味で違いすぎる。

 ゾーンに入ったサミュエルはまさしく敵なし状態だ。今までマークにつかれてそれなりにやりあっていたペアを全く一顧だにしない。あっさりドリブル突破しては一点もののシュートを放ち、危険なキラーパスを供給する。

 それを見て監督はトムに変わりフィジカルに長けたザンビディスを投入、ペアと二人でマークにつかせるがそれでもゾーンに入ったサミュエルは止まらない。結果この十分弱で三本のシュートと二本のCKのきっかけを彼に作られていた。

 エースの変貌にチームもまた変化する。前半のように前に出てきてはハンブルクFゴールに逆転弾を叩き込もうとプレスをかけてくる。そしてそれが実にハンブルクFイレブンに効果覿面だった。後半終盤と言う疲れた状態のため前半ほどの勢いは当然ないが、疲労で動きが鈍っているのはハンブルクFとて同じこと。さらにそれにゾーンに入ったサミュエルが加わったことで状況は一気にRゲルセンキルヒェンへと傾いた。


(これじゃあいつゴールを割られても不思議じゃない……!)


 自陣のセンターサークル付近で歯噛みする鷲介。ゾーンに入ったサミュエルを見て鷲介は守備に戻ろうとしたが、セザルと監督二人に止められてこの位置にいる。

 ハンスのゴールキックからのボール。ガブリエルにウーゴを経由して前に出たセザルにボールが渡る。

 そこへゲルトとユーリが二人がかりで向かって行くが、歴戦と言う経験を積んだセザルは合わせる素振りを見せず前に出てきたウーゴとワンツーでゲルトを突破、ユーリがショルダーチャージを仕掛ける直前で鷲介へボールを出す。

 それを収め前を向く鷲介。当然マーカーであるラモンが側にいるが、先程から彼は以前のように積極的に前に出てこない。腰を低くして待ち構えており、また常に不敵な笑みを浮かべていた顔は落ち着いたそれとなっており、鋭く睨んでいる瞳には油断の欠片もない。

 そんなラモンを見て鷲介は心中で舌打ちする。鷲介がラモンとここまでやり合えていたのは彼より素のスピードで鷲介が上だったこともあるが、対峙していた彼もどこか油断の気配があったからだ。

 だが今の彼はそれが全くない。そして近くにいるヨーゼフたち味方でこちらの警戒心をあおりながら、動くのを待ち構えている。


「鷲介!」


 後ろから聞こえるヴァレンティーンの声。鷲介は即座に反転し周囲を確認した直後、彼にパスを出す。

 そしてボールを収めたヴァレンティーンがRゲルセンキルヒェンの選手からチェックを受ける直前、上がってきたガブリエルの進む先にボールを出す。それを見た鷲介はガブリエルがボールに追いつくのと同時に、一気に走り出す。


「ガブリエル!」


 手を上げて鷲介が名前を呼ぶのと同時、ガブリエルはダイレクトでボールをラモンの後方──裏へ蹴りだし、そこへ鷲介が走りこむ。練習や試合で幾度もやったプレイだ。

 しかし後半終盤と言う時間帯なせいか、ボールは落下地点を大きく逸れてしまう。それでも全力で追う鷲介だが、前に出てきたシューマッハがいち早くボールに駆け寄り、ダイレクトでハンブルクF陣内へ蹴りだす。


(くそっ……!)


 歯噛みしながら後ろへ視線を向ける鷲介。ハンブルクF陣内に飛んだボールを競り合うユーリとウルリク。

 若干身長の高いウルリクが競り勝つがユーリもただでは競り負けない。背中でウルリクの動きを押さえ、そのこぼれたボールをゲルトが拾う。

 一呼吸の後、ゲルトの右足が強く速いパスを通す。さながら弾丸のようなそのパスはハンブルクFのDFの間を通り過ぎ、裏に飛び出したサミュエルの足元へ向かう。


「ゴール前!」


 鷲介が叫ぶと同時、ペナルティエリアに侵入したサミュエルがゲルトからのパスに対し大きく右足を振り上げた。

 ダイレクトでシュートが来る。そう鷲介が思うのと同時、ペアがシュートコースに割って入る。

 しかしサミュエルはシュートを撃たなかった。ゲルトの弾丸キラーパスをダイレクトで左にはたく。そしてそのボールにティトが猛スピードで突っ込んでくる。


(ゴール左ががら空きだ!)


 心中で悲鳴を上げる鷲介。だがティトのダイレクトシュートはスラィデング体勢でゴールを塞いだザンビディスの足が防ぐ。そして軌道が変わったボールはゴールポスト上部に当たり宙に浮く。

 それを押さえようと飛ぶハンス。しかし彼がキャッチしようとしたその時、ゴールに背を向けたサミュエルが大きく跳躍してそのボールめがけて右足を振り上げた。


「俺の真似かよ!?」


 鷲介が声に出すと同時、サミュエルの右足がボールを捕え、ゴールに叩き込む。

 それを見てさっと血の気が引く鷲介。しかし直後審判が笛を慣らしファウルを指摘する。サミュエルのオーバーヘッドキックが危険なプレイと判断されたようだ。


「なんつー人だ……」


 ナイジェリアを初め、身体体能力を生かした優れたFWが多いアフリカ。しかしその中でも当代No1と言われるサミュエル。その真の実力を今まざまざと見せつけられている。この試合でもすでにハットトリックを達成しており三年連続得リーグ点王ランキング二位は確実だろう。


(このままでいいのだろうか……?)


 現在ハンブルクFは勝ちに行こうとしている。最初こそそれに同意したが、今の状況を見て鷲介は迷ってしまう。

 このまま守りきり引き分けになれば勝ち点一は手に入る。そうなれば残留は他会場の結果に左右されるが負けるよりは残留の可能性は高くなるだろう。


(って何弱気になってるんだ俺は!)


 この状況でも監督から守るよう指示がないと言う事はすでに腹をくくっているのだ。ならば鷲介がやるべきことはゴールを奪うこと、もしくはそのきっかけを作ることだ。

 両手で頬を叩き、鷲介は叫ぶ。


「ボールを! ボールをくれ!」


 大仰な手振りでボールを要求する鷲介に周囲のRゲルセンキルヒェンの選手たちからの圧がより一層強くなる。

 だが気にはしない。いやしてなどいられない。こんなプレッシャー、今後幾つも体験するだろう。これ以上のものも。そんなものがある場所へ行き、さらに高みを目指そうと言う自分が負けていられるものか。


「いきなり気合いの入った顔になったな。どうしたよ」


 側にいるラモンが言う。口調こそ軽いが眼差しは真剣で警戒の色も先ほどより強くなっている。


「別に。必ず勝つって改めて思っただけです」

「そうかい。ならやって見せてもらおうか」

「ええ。やって見せますよ」


 負けないと意志を込めて彼の赤い瞳を睨み、鷲介は自陣の方に顔を向ける。

 先程と同じくハンスのゴールキックは近くに寄ってきた味方に渡る。Rゲルセンキルヒェンがさっそくボールを奪うべく動くが、そのプレスをギリギリのところでかいくぐりボールが鷲介の元へとやってくる。

 センターサークル付近でボールを受け取りRゲルセンキルヒェンゴールへ振り向く鷲介。当然ラモンが先程のように待ち構えており、さらにそこへ先程交代で入ってきたDMFのアルジェリア代表、アムール・ラセンが距離を詰めてくる。


(だからなんだ!)


 ラモン一人でも手に余っている現状でさらに二人。しかし鷲介はそんな事実を強引に無視し、動く。三対一だろうが突破してやると言う強い思いを抱いて。

 左から来たアムールをまた抜きで左にするりとかわし、続いてやってきたデニスをスピードに任せて強引に突破する。──しかしそこへラモンとイザークが挟み込むような形で来る。

 だがそれを見て鷲介はにやりと笑みを浮かべると、左足を振るう。誰もいない左サイドに出たボールに追いついたのはオーバーラップしてきたガブリエルだ。

 先程のミスを見ても分かる通り、もう限界が近いにもかかわらず前に出てくるガブリエル。それを見て鷲介はますますモチベーションが上がり、自身に鞭を打って動く。

 鷲介からのボールをトラップして右サイドを駆けあがるガブリエル。イザークが下がりながら距離を詰め、またラモンはペナルティエリア正面に向かう鷲介のマークについているのでしばらくマークも受けず走る。

 そしてペナルティエリア近くまでやってきたガブリエルはイザークからのチェックを受ける前にボールを相手ゴール前に入れる。頭上を越えたボールを見てミスったかと思う鷲介だが、ボールの行く先にはハンブルクFのストライカー、レネの姿があった。


(さっきまで自陣にいたのに、走ってきたのかよ!)


 ガブリエルと同じ執念が篭った表情をしているレネ。ヨーゼフがマークに行こうとするが、それより一瞬早く彼はボールの落下地点に走りこみボールの軌道に合わせて跳躍、右足を振るう。

 センタリングをダイレクトボレーと言う非常に難易度の高いプレーをするレネ。しかし彼の執念かそれとも奇跡か、ボールはレネの右足に当たりゴールへ向かう。

 しかしその奇跡と同じ奇跡をサッカーの神は相手に与えたのか、ゴール右へ向かうそのボレーシュートを横に飛んだシューマッハのパンチングが弾く。


(ゾーンにでも入っているのかあの野郎!)


 今日の試合でも数々の超反応とスーパーセーブを見せたシューマッハを心中で罵しながら鷲介は走る。レネのシュートは防がれたもののボールの勢いはさして変わらず、ゴールポストに命中したあとゴール前に転がったのだ。

 

(ゴールががら空きだ!)


 跳ね返ったボールを叩き込もうとボールへ駆け寄る鷲介。しかしボールを押さえたその時、ラモンがゴール前に立ち塞がり、コースを消す。


「……っ!」


 体を広げ、壁のように邪魔するラモン。一瞬またを抜こうと考えるがそれを察したのか、開いていた足元が閉じる。

 そして鷲介が躊躇している間にシューマッハは立ち上がりさらにイザークも寄ってくる。レネへのパスコースも消されてしまう。


「後ろに下げろ!」


 こうなったら一か八かドリブルで強引に隙を作ろうかと思っていた鷲介の耳にセザルのコーチングが響く。即座に体を反転させパスを出す。

 濃い疲労の色を面に出しながらも走ってくるセザル。しかしその彼にゲルトとデニス二人がチェックに来ている。

 奪われる。そう鷲介が思ったその時だ、鷲介からのパスをセザルはリターンすると、それと同時に叫ぶ。


「中に!」


 指示を聞き一瞬右へ視線を向ける鷲介。そしてその意味を理解すると同時、鷲介は還ってくるボールによってはダイレクトで中──ペナルティエリア前に走ってきているウーゴへパスを出す。


「撃てー!!」

(撃て!!)


 セザルが吠えるように言い、鷲介が心中で叫ぶ。ウーゴはそれに答えるようにダイレクトでシュートを放つ。

 地を這うような低空のシュートはゴール左隅へ向かう。鷲介の方に完全に気を取られていたにもかかわらずシューマッハは動き、手を伸ばす。

 それを見て防がれるかと鷲介が思うのと同時、シューマッハの伸ばした手はボールを掠める。しかしボールの勢いは変わらず、ゴール左隅のネットを揺らした。


「─────」


 一瞬、静まり返るピッチ。しかし次の瞬間、劇的なゴールにスタジアムにいるハンブルクFサポーターが地鳴りを思わせる喜びの声を上げる。


「うおおおおおおお! ウーゴ!! よくやったぁ!」

「ナイスシュートだ!」

「やればできるじゃねぇか!」


 そして狂喜しているのはサポーターだけではない。セザルに直康、そしてゴール前にいたペアがウーゴの元へ駆け寄り彼を抱きしめる。


「ナイスシュートです、ウーゴさん!」


 そんな光景を見ながら鷲介もサポーター前に行っているウーゴに駆け寄り、彼の肩を叩く。自然と頬が緩む。何せ今のシュートシーンは鷲介が映像で見た、かつての彼そのものだったからだ。

 いや、と鷲介は思い直す。かつてと思うのは間違いだ。彼のプレイスタイル自体は初めて会った時に比べ、多少しか変化はしていない。しかし”多少”とはいえ変わっているのは確かだ。そして彼はまだ22歳。いくらでも変わることができる。

 もしウーゴがかつての攻撃力と現在の守備力の二つを兼ね備えれば、それは味方としては間違いなく頼もしい仲間に、そして敵としては非常に厄介な存在になるだろう。ふと、そんなことを鷲介は思う。


「さぁ、いつまでも喜んでばかりもいられません。試合終了まできっちり守りましょう!」


 皆に祝福されながら言うウーゴの言葉に全員が頷く。今日9回目の笛が後半ロスタイムの時間帯に響く。

 劇的な勝ち越しを許したRゲルセンキルヒェンは当然前がかりとなる。しかしウーゴのゴールで勢いづくハンブルクFの選手たちはそれに負けまいと激しく動く。前に進ませず、パスを防ぎ、跳ね返す。ボールを奪っては必死にキープする。


「くそがっ!」


 こぼれたボールに駆け寄るラモン。しかし彼の前に鷲介が立ち塞がる。


「ここまでだ!」

「ほざけや小僧!」


 罵りながら力任せに強引に突破しようとするラモン。しかし鷲介の体を投げ出すようなスラィデイングでボールがこぼれ、それをセザルが大きく前に蹴りだす。

 ラインを割るボール。そしてその直後、主審の試合終了のホイッスルが長く高らかにピッチに響き渡った。






◆◆◆◆◆






「うおおおおおーーーー!!」


 試合終了のホイッスルと同時に両腕を振り上げ、歓喜の叫びを上げるセザル。そして他の皆も残留確定と言う喜びにセザルと同じように叫び、また近くのチームメイト抱き着いている。


「鷲介ーー!」

「やったぜガブリエル! 直康さん!」

「ああ、残留決定だ!」


 そして鷲介も例外ではない。特に仲がいい二人の元へ駆け寄り抱きしめあう。心中に安堵が広がり、彼らのように涙が湧きあがってくる。


(ユースリーグで優勝した時の達成感に似ているな。……いや残留争いは裏天王山って言われることもあるし、不思議でもないのか)


 そう思いながら鷲介はスタジアムへ目を向ける。ピッチで喜ぶ仲間たちと同じように観客席のサポーターも喜び、涙している。

 それを見ていると後ろで小さく声が上がる。振り向けば先程まで項垂れていたRゲルセンキルヒェンのイレブンたちの放つ空気が安堵したものとなっている。


「どうやらあっちも目的は無事に果たせたみたいだな」


 そう言って直康が視線を向け、鷲介もそちらを振り向く。視界に映った電光掲示板には他会場の試合結果が表示されている。RゲルセンキルヒェンとCL出場権を争っていた五位のヴォルフFCは2-2の引き分けとなっていた。

 結果、RゲルセンキルヒェンはヴォルフFCに勝ち点で並ばれたものの得失点差で上回り、CL出場権を獲得したようだ。


「そしてRバイエルンもきっちり優勝を決めたみたいだな」


 直康の言うとおりRバイエルンは最終節も見事に勝利を収め優勝。Rドルトムントも同様に勝利したが前節の敗北によって勝ち点が及ばず二位となっていた。

 残留争いをしていたほかチームは、フッガーシュタット以外前半終了と変わらないスコアで試合を終えていた。結果今季降格となったのはフッガーシュタットとジンスハイムの二チームとなった。ハンブルクFの最終順位は14位だ。


「シュウスケ・ヤナギ」


 いきなりフルネームで呼ばれ振り向けば、そこには無表情なゲルトの姿があった。

 ユニフォームの交換かと思ったが彼は彼は短く一言告げる。


「この借りは来季のCLで返す」


 そう言ってさっさと立ち去ってしまうゲルト。声をかけてきたわりに、あまりにもそっけない態度に思わずぽかんとしているとそこへシューマッハがやってくる。


「ゲルトさんは誰にでもああなんだ。気にしなくていいぞ」

「そ、そうか」

「ま、あの人の言葉を借りるわけじゃないけど俺も同じだ。──来季は完封してやるぞ。たとえお前がRバイエルンにいようとな」

「じゃあ俺も今日みたいにゴールを決めてやるって宣言しておくぜ」


 数秒睨む合う鷲介とシューマッハ。しかし同時に苦笑して握手を交わし別れる。


「まるで映画のワンシーンみたいな会話だったな」


 からかうように言うセザル。鷲介は苦笑し、しかしすぐ真顔となり彼のほうを向くと小さく頭を下げる。


「セザルさん、長い間お疲れ様でした」

「ん? ……あ、ああ。ありがとうな。

 しかしお前も良くやってくれたよ。俺たちの想定以上にな」


 何故か微苦笑するセザル。しかしすぐに彼の表情が真剣なものへと変わる。


「だが気を抜くなよ。来シーズンからお前へのマークやプレッシャーは今年の比じゃないぐらいきつくなるだろうからな。

 それにCL──欧州、いや世界最高峰の舞台とも言えるあの場所はあらゆるものがお前の想像を絶する。数多のワールドクラスのプレイヤーとお前より一足先にその舞台を踏んでいる”ゾディアック”もいる。わかっていると思うが奴ら紛れもなく本物であり怪物だ」


 セザルの言葉を聞き真っ先脳裏に浮かんだのはカールにマリオ、アーサーたち今季CLに出場した顔見知りのプレイヤーたちだ。

 彼らのチームはCLのグループリーグを突破し、決勝トーナメントで激しい戦いを繰り広げた。その試合で彼らは他のワールドクラスのプレイヤーに決して引けを取っていなかった。自分がそうであるように、確実にU-17W杯の時よりも強くなっていた。

 そんな彼らゾディアックと彼らと同等以上の化け物ワールドクラスが数多くいるCL。欧州、いや世界最高峰の舞台へ来季から鷲介は身を投じるのだ。


「だが資質だけならお前も負けてない。そいつらと戦い自分を磨きあげ”ゾディアック”達に追いつき──追い越せよ」

「はい! ありがとうございます」


 かつてその舞台で幾度も戦った先達へ、そして今季でピッチから去るハンブルクFのレジェントへ、鷲介は覇気を込めて返事を返す。

 自分も彼のようにあの場所で戦っていくことを、そして頂点を取ることを強く思って。


「さてと、そろそろ我らがサポーターの所に挨拶に行くとするか。プロなら最後までしっかり締めないとな」

「はい!」


 頷き、鷲介はサポーターの方へ視線を向ける。

 そして応援に来ていた家族や由綺を発見すると、そっちの方へ真っ先に向かうのだった。






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