降格争い
「ふぃー、疲れた……」
ハンブルクシュタディオンが背後にある学校から出てきた鷲介は大きく背を伸ばす。長時間椅子に座っていたからだ。
「ルーヘン寄っていこう。あそこのコーヒーが今、ものすごく飲みたい」
鷲介の隣で疲れた顔をして言うガブリエル。二人はつい先ほどまで学校にて補習授業を受けていたのだ。
鷲介とガブリエルはプロサッカー選手である。しかし同時にまだ学生でもあった。そして彼らが出てきた学校はハンブルク・フェアアインと業務提携している学校だ。
欧州においてプロサッカーチームと学校が業務提携をしているのはほぼ当たり前であり日本のJリーグでも同じようなチームがいくつもある。これはチームに所属する若い選手たちがサッカーはもちろん学業にも集中できる環境を作る為だ。
またロート・バイエルンやハンブルクFが業務提携している学校においては『育成コーディネーター』という存在が常駐している。彼らはドイツサッカー協会の免許を持つ育成の専門家で、選手が練習と授業を両立できるように時間割り、また遠征などで授業を受けれなかったときの補習の手配をしてくれるのだ。
数十年前から続くこの恩恵を受けてサッカー選手としてはもちろん、引退した後別の進路で大成したドイツ人は多い。昨シーズンRバイエルンを引退したフィリップ・カレンベルクもその一人だ。
「ははは。二人とも補習お疲れ様」
脱力している鷲介とガブリエル二人にそう声をかけるのは優しげな風貌の少年だ。
彼はヴァレンティーン・ヘルメス。ハンブルクFの選手の一人でありドイツU-20代表でもある少年だ。年齢は鷲介たちより二つ上の19歳。
ガブリエルと同じく17歳でトップチームデビューを果たし、今季前半では準レギュラーとしてそこそこ活躍した彼だったが前半終了間際怪我により離脱。最近復帰したのだ。
「ヴァレンティーンさんはいつも戻り平気そうですね……」
「普段からしっかり勉強しているからね。君たちもやっていればそうなるよ」
「だそうだ。ガブリエル、そうなれると思うか?」
「ちょっと想像できないなぁ……」
話しながら歩いてると目的地が見えてくる。カフェ・ルーヘン。ハンブルクシュタディオンの目と鼻の先にある喫茶店兼料理店だ。
店の入り口を開け、扉についているベルを鳴らしながら三人は店に入る。いつもどおりというべきか、店内のあちこちにハンブルクFサポーター、もしくは学校帰りの学生の姿がある。
「おお、我がチームの若手三人がそろって来店とは。これは運がいい!」
そう言ったの入り口近くの席に座っている恰幅がいい男性だ。見知った顔ではないがどうやらハンブルクFのサポーターのようだ。
「いらっしゃい! サービスするよ!」
「我らハンブルクFの将来を担う若手に乾杯!」
「明日は頼むぞ!」
店主や反応するサポーターたちに挨拶をして三人は席につき、メニューボードに書かれてある品々を注文。そして誰が最初かわからないが、各々のことについて話し出す。
チェスが趣味のヴァレンティーンが最近日本の将棋にはまったこと、18歳になったらさっそく免許を取り、車の購入を考えているガブリエルが購入を考えている車や教習場についてヴァレンティーンへ相談し、鷲介は近づいている由綺の誕生日プレゼントについて二人に訪ねては冗談半分でやっかまれたりなど等。
運ばれてきた品々を口にしながら、年頃の若者らしく談笑する三人。しかしやはりプロサッカー選手である彼ら、好き勝手に話し終えた後は自然とサッカーの話に移る。
「長かったシーズンもあと二試合か。優勝はRバイエルンかレヴィアー・ドルトムントのどっちかだろうけど、降格争いはどうなるか」
「ってヴァレンさん。他人事みたいに言わないでください。僕たちのチームは降格争いの真っただ中んですから」
眉根をひそめてガブリエルが言う。ドイツリーグ32節を終えた現時点のハンブルクFの順位は14位。だがハンブルクを含めた14位から18位までのチームの勝ち点差はたったの2という近年稀に見る大混戦状態。残り試合の結果で二部降格が充分にあり得る状態だ。
「しかも次の相手は15位のフッガーシュタットか。あのチームもハンブルクFと同じく今季は調子が悪いな」
昨シーズン初昇格ながらも6位となりEL出場権を獲得したフッガーシュタットだったが、今シーズンは不振の一言。怪我人や移籍などで自慢の堅守が形を成さず現在15位と言う有様だ。
「まぁ昨シーズンが上手くいきすぎたと言えるからね。それよりも明日の試合、なんとしても勝たないと」
「確かに。引き分けても下にいるダルムシュタット・オリンピア、FCブライスガウ、ジンスハイムFCが勝てば順位が下がる可能性もあるからな」
注文されてきたパン屋コーヒーに手をつけえながら鷲介とガブリエルは言う。
降格争いをしているライバル、ダルムシュタットOは16位、FCブライスガウは17位、ジンスハイムFCは18位だ。そして彼らが戦う相手は中位のチームばかり。彼らが勝つ可能性は十分にある。
「何より最終節のことを考えたら絶対に勝っておかないと不味いからね。……何せ相手があのレヴィアー・ゲルセンキルヒェンなんだから」
悩ましい声でヴァレンティーンが言う。レヴィアー・ゲルセンキルヒェン。近年ドイツリーグで常に上位、また優勝争いをしている強豪チームだ。
特にここ五年はCLにも出場しておりそのうち二回は決勝トーナメントにも進出している。今季はグループリーグ敗退だったが決勝トーナメントに進出したRNSミラン、ブルーライオンCFCの二チームを最後の最後まで苦しめていた。
現在五位でありすでに優勝の可能性はないがCL出場の可能性は残されている。なんとしてもそれを手に入れよう残り試合、全力でくるだろう。
「フッガーシュタットに勝ったうえで他の残留争いチームが全部負ける。そうなれば残留は確定するけどそう簡単にはいかないよなぁ」
「フッガーシュタットはもちろん他の残留争いしているチームも死にもの狂いだろうからね」
ため息まじりに鷲介がいい、ガブリエルも悩ましく眉根をひそめる。
「まぁ俺としては最後までもつれるとは思っていなかったよ。終盤になる前、君が残留を確定させてくれると思っていたんだけどね」
「そうですねー。まさか鷲介君が5試合で二回も退場するなんて、さすがにだれも予測できないですよねー」
「う……」
やや冷たいハンブルクF育ちの二人の言葉に鷲介は表情をひくつかせる。
そう、日本より帰国した鷲介だがガブリエルの言うとおり二度も退場していた。一度目は再開直後の28節メンヒェングラードバッハSCとの試合だ。
日本代表での好調を維持していた鷲介は前半開始早々ゴールを決め、後半にもアシストと絶好調。その活躍もあって試合には勝利したが、メンヒェングラードバッハSCのCB、クロアチア代表ニコ・ドルビッチの荒っぼくしつこいマークに苛立ちを募らせていた鷲介はアシストを決めた直後、彼からのファウルに反撃してしまい一発レッドとなってしまった。
そして次の退場は復帰した30節だ。対戦チームは当時6位だったフランクフルトKだ。先制点こそ許すも前半終了間際レネの同点弾、そして後半終盤こぼれ球を鷲介が押し込んで逆転し、勝利目前のことだった。ロスタイムも終わろうかと言う時間、守備に回っていた鷲介の手が相手選手の蹴ったボールに当たってしまう。それによりイエローを提示され、しかも前半途中でカードをもらっていた鷲介は二枚となり退場。チームもイエローと同時に提示されたPKを防ぎきれず引き分けとなった。
さらに鷲介が欠場した29、31節はどちらも敗戦。特に31節はチームのゴールゲッターであるレネが負傷してしまい逆転負けをしている。前節の鷲介は疲労を考慮しての途中出場でスコアレスドロー。結果としてリーグ再開後の五試合、一勝二分け二敗という結果となっていた。
「メンヒェン戦はともかくフランクフルトK戦は完全な誤審だろ。あれがハンドってないだろ……」
「ま、確かにメディアでも誤審ってさんざん言われているけどね。結果が全てだからね」
微笑みながら言うヴァレンティーンに鷲介は閉口する。
「とにかく、明日の試合は何としても勝たないとね。お互い頑張ろう」
「もちろんです」
「はい!」
◆◆◆◆◆
雲一つない青天に眩しい太陽。午後三時前のフッガーシュタットシュタディオンのピッチに立つ鷲介は相対する対戦相手と周囲から異様なものを感じていた。
(なんか、妙だぞ)
注目されるのは毎回のことなのだが、フッガーシュタットの視線は今までのチームとは明らかに違う。なんというかどす黒い何かが込められているような感じがするのだ。スタジアムに響く声援もどこか鋭く尖がっており、そして必死そうに聞こえる。
違和感を覚えつつ、鷲介は相手チームをぐるりと見渡す。システムは以前戦った時と同じ4-5-1。ハンブルクF同様長いシーズン中怪我人が出ているフッガーシュタットはスタメンが何人か欠けているがキープレイヤーであるルーマニア代表ニコラエ・コマネチ、韓国代表パク・ジョンムの姿がある。
「鷲介」
相手チームを肉眼で確認していると声を掛けられる。振り向けばそこにはウーゴがいた。
「なんですかウーゴさん」
「先程監督も言っていたけど前半の内はあまりドリブルはせず、裏へ飛びだしてくれ。ペアたちがきっちり守り、僕らが必ずボールを送るから」
先程監督より説明された前半のゲームプランは、守ってからのカウンターだ。アウェーと言う事もあってとにかく前半はきっちり守るよう言われている。
「それとしつこいようだけどもう一度言うよ。フッガーシュタットは君を潰しに来る。くれぐれも気を付けてくれ。
レネ、そしてセザルさんがいない今君まで負傷退場したら本当に不味いからね」
ここ数試合フル出場していたセザルだが激しいマークを受けた影響か、先日の試合で足を痛め今日は欠場となっている。
もっとも軽度と言う話なのでおそらくは最終節に万全の状態で出場するために、今日は彼を出さないのだろう。最終節の相手はセザルがいて初めて勝つ可能性が見えるほどの難敵なのだから。
「はい、わかりました」
「あとカードには気を付けてね。今日退場でもしようものならセザルさんだけじゃなくてチームメイト全員から袋叩きに合うよ」
「わかってます!」
やけくそ気味に返事を返す鷲介。苦笑したウーゴが戻っていき時間となって、試合が開始される。
相手ボールで始まった試合は序盤からフッガーシュタットが攻勢に出てきた。前がかりになり激しいプレスをしてくる。ボールを奪取するとニコラエが両ウイングにボールを放ち、それを収めた両翼がサイドを駆けあがり、またはワントップであるパクへボールを放つ。
(おいおい、さすがに飛ばしすぎじゃないか? ……って危ない!)
ペナルティエリア外からパクが放ったミドルシュートがゴールポストに当ったのを見て、鷲介はヒヤッとする。
相手のことを考えている場合ではない。向こうが攻めてくるのであればこちらはカウンターのチャンスでもあるのだから。
「鷲介!」
激しいプレッシングをかいくぐりサイドを駆けあがってきた直康からボールが来る。センターサークル中央付近にいた鷲介はそれを受け取り、闘牛のような勢いでやってきた相手チームの選手を軽やかにかわす。
(際どいタイミングだ。だが単なる突撃じゃ俺は捕まえられないって)
いつもの癖でドリブルを開始しようとするが、フッガーシュタットのメンバーから注がれる異様な視線、そして監督や先程のウーゴの言葉を思い出して思いとどまる。
すぐさま他のフッガーシュタットの選手が距離を詰めてくるが後ろからフォローに来ていたウーゴにボールを返し、相手のDFラインへ侵入。幾度かボールが自陣で行きかうのを見ながら、最後にボールを収めたガブリエルが視線を向けると同時に、タイミングを見計らって鷲介は飛びだす。
(いいタイミングだ!)
練習、そして試合でも何度も放たれていたガブリエルのロングパス。元々精度が高かったそれは月日と共に磨かれ、さらに正確かつ鷲介の息に合うようになっていた。
全速力で飛び出した鷲介が右サイドでボールを収め、ゴールへ向かう。進む先に走ってきて立ち塞がるのは冬の移籍で加入したトーゴ代表のコムラン・マニだ。
鬼気迫る表情とスピードでマニが迫ってくるが、鷲介はいつもの高速シザースで相手を惑わしバランスを崩し、相手の右を突破する。
(気合でどうにかなるほど俺のスピードとドリブルは甘くねーよ)
心中で呟く鷲介。前回対戦した時よりも鷲介のレベルは格段に増している。ブルーノら世界クラスならばともかく、それ以下の相手は歯牙にもかけないほどに。
ペナルティエリア右側の外にいる鷲介の視界に見えるのは、距離を詰めてきているGKとエリアに入ろうとしている相手DF。それを見てこのままエリアに侵入して切り返してシュートを撃つと思ったその時だ、ゴール前で走ってきたサイードが声を張り上げながら──母国語でじゃべっているのか何を言っているかわからない──こちらへ指をさす。
そしてその直後体の右側から強い衝撃が走る。視線を向ければ先ほどかわしたはずのマニが体当たりのようなタックルをしていた。
「ん、なっ……!」
体重をかけ、さらにユニフォームを掴んでのタックルに「ファウルだろ!」と心中で叫びつつ鷲介はバランスを崩す前に走ってきているサイードへボールを出す。だがそのボールを戻ってきたDFがカットしてしまう。
「カウンター来るぞ!」
鷲介が叫ぶと同時、前線へ放たれるロングボール。それにパクとペアが競り合い、ボールがこぼれる。
ヤンが拾いウーゴとのワンツーで相手をかわすが、かわした相手に食い下がられる。それでも左サイドに出したボールにガブリエルが駆け寄り中央に走っているウーゴへダイレクトに出すが、それとニコラエがカットしハンブルクFの右サイド──フッガーシュタットから見た左サイド──へボールを蹴りだす。
スペースに流れるボールに走るフッガーシュタットのSMF。少し長いボールに彼が追いつき、ガブリエルがいないサイドを駆けあがる中、ハンブルクFのDF陣もゴール前に戻り守備を固める。
ゴール前に上がるボールにパクとペアが動く。先に反応しヘディングを放つパクだが、ペアがその巨体で防ぐ。こぼれ球を戻ってきたヤンが拾うが、近くにフッガーシュタットの選手がいたため、クリアを優先する。蹴ったボールはラインを割りフッガーシュタットのスローインだ。
「人数いるぞ! 注意しろ」
ペアがコーチングの声を張り上げる中、ボールがピッチに投げ込まれる。右サイドを抉ろうとするフッガーシュタットだが戻ったガブリエルらの守備に押され、今度は逆サイドに。しかしそちらでも直康たちが奮闘してサイドをいかれるもセンタリングを上げさせる隙は作らない。
(いい守備だ。そして絶好のカウンターチャンスだ)
ボールをキープし続けているフッガーシュタットだが人数をかけ前に出ているため後方──守備の人数が少ない。これならロングボールがこちらに来れば、スピードを生かしてあっという間にゴールまで迫り、ゴールを決めることができる。
その機を虎視眈々と鷲介が窺っているとハンブルクF陣の中央、ニコラエがボールを受け取り前に出る。すかさずウルリク達がアタックに行くが彼は巧みなボールコントロールとボディコンタクトでボールを奪わせず、またフォローに来た味方にパスを出すと見せかけて、隙のできたハンブルクFの守備を突破する。
(まずい!)
チームのエースの活躍のホームスタジアムに駆けつけているサポーターが湧き上がる。ゴール前単独フリーとなったニコラエは大きく右足を振りかぶる。
ミドルを防ぐべく動くトム。しかしニコラエはシュートフェイントをすると右へパス。そのボールを先程フォローにやってきた味方がトムが動き出来たスペースにダイレクトでボールを蹴る。
ペナルティエリアギリギリ中でそれに反応するパクとペア。今度はペアが先に動き、パクの前を塞ぐ。
ボールを足元に収めたパクは即座に空いている左へ動き左足を振りかぶる。だがその前方にはハンスが待ち構えておりペアもシュートを撃たせまいと動いている。
強引にシュートに持っていこうとするパク。しかし鷲介に比べれば動き出しも足の振りも格段に遅い。予想した通りペアはシュートを撃たれる前にパクの足からボールをさらう。
(よし、カウンター!)
小さく笑んだ鷲介が走りだそうとしたその時だ、主審が笛を吹きペナルティスポットを指す。PKだ。
「はぁっ!?」
思わず素っ頓狂な声が出る。ペアのプレイには何も問題はなかったはずだ。
鷲介がそう思ったのはペアはもちろん他の選手も同じなのか、彼らは主審を囲んで猛抗議している。だが主審は首を横に振り下がるよう指示するだけだ。
ファウルのリプレイがスタジアムの電光掲示板に表示される。ペアがボールを奪った直後、彼の足にパクの足が引っ掛かり倒れたのがファウルと判断されたようだ。
だがあの程度の接触でファウルになることは殆どない。またパクの倒れ方もどこかわざとらしい。逆に彼に対してカードが提示されてもおかしくない。
「抗議はその辺にするんだ! PKに備えろ!」
しつこく食い下がるペアたちに監督がサイドラインぎりぎりまで飛びだして叫ぶ。彼の言うとおりだ。これ以上抗議を続ければペアが二枚目、もしくは他の誰かがカードをもらってしまう。
ウルリクやウーゴたちが強引にペアたちを引きはがして事なきを得たが、フッガーシュタットサポーターからのブーイングは続いている。
PKが始まる前、両手を叩き気合を入れるハンスだがキッカーであるニコラエのボールは鋭くゴール左隅を突き刺す。前半十四分、1-0。先制されてしまう。
「まだ時間はある。逆転するぞ!」
フッガーシュタットの選手たちが喜び、サポーターの歓喜のうねりがピッチに響く中、珍しくウーゴが声を張り上げる。
普段大人しく冷静沈着な彼の言葉に全員が顔を上げて、前を向く。そして理不尽なPKに対する怒りを瞳に宿している。
(おおう、気合入ったな。──まぁ俺もだけどな!)
先制した勢いでさらに攻めてくるフッガーシュタット。それに対してハンブルクFは先程と同じく守ってのカウンターだ。
だが一つだけ違うのは全員が前に出たことだ。以前は相手の攻撃を受ける、逸らしてからの受け身のカウンターだったが、今は前に出て相手の攻撃を積極的に潰してからのカウンター。攻撃的カウンターだ。
「ふんっ!」
ボールを奪うべく寄ってきた選手を一息のもとかわす鷲介。すぐにマニがすごい形相で向かってくるが、最初と同じく彼の股を抜き前に出る。
(いくら顔が怖かろーが、そんなもんで俺を止められるかよ!)
監督から言われたとおりマニはパワーと瞬発力に優れたDFだ。だがDFとしての技術はそれほどではない。鷲介を一発で止められるような実力者ではない。
禁止指示が出ていたが鷲介は構わず幾度もフッガーシュタット陣内をドリブル突破で斬り裂いていた。だが鷲介のパスやシュートはギリギリとのところで防がれ、またゴールバーに弾かれる。
そして競り合った相手選手やマニから幾度も削られるがそれも意に介さない。痛みがあまり感じられないこともそうだが、試合に集中していること、また先程の理不尽PKに対しての怒りで分泌されているアドレナリンのせいだろう。
カウンターで相手を何度も脅かしつつもあと一歩で点が入らない状況。だがそれでも鷲介に焦りは無かった。感情のまま後先考えず鷲介が暴れまわったせいか、DFの陣形が乱れに乱れている。
「鷲介!」
フッガーシュタット陣内の左サイド──ハンブルクFから見た右サイド──を駆けあがってきたガブリエルからボールが来る。それを収め寄ってきた選手をかわし鷲介はサイドを駆けあがりゴールへ迫る。
俊足を生かしたドリブルはあっという間にペナルティエリアへ迫る。DFが寄ってくるが鷲介は微塵も迷わずエリアに向かって突撃、高速シザースで相手を揺さぶり突破する。
(よし! これで同点──!)
そう思いながら左足を振りかぶろうとしたその時だ、左側にいたマニが突撃するような勢いで体をぶつけてきた。
あまりにいきなりかつ乱暴なそれを受けてさすがに鷲介は吹き飛び、転ぶ。だが痛みを感じながらも鷲介は間違いなくPKを得たことに対して喜んでいた。
吹かれる主審のホイッスル。駆け寄りながら胸元に手を伸ばした審判を見ながら鷲介はゆっくりと起き上がる。
だが主審はカードを提示するはずのフッガーシュタットのDFの横を通り過ぎると鷲介の前に立ち、黄色いカードを掲げる。
「……はぁ!?」
信じられない光景に鷲介は数秒ぽかんとし、そして声を上げる。
シュミレーションと判断されたのはわかる。だが理解不能だ。明らかに先程のマニの接触はファウルだったはずだ。しかも決定機阻止。鷲介がカードをもらう理由はないはずだ。
「ふざけるなよ審判! ●●●●●●ーー!」
一番近くにいたサイードが激怒して審判に駆け寄る。後半は意味不明な言語を口にしている。多分彼の母国語であるアラビア語だ。
彼とて今日は幾度も悪質とも入れるファウルで潰されている。堪えてはいたが決定的チャンスに誤審が下されて頭に血が上ったのだろう。
もちろん鷲介も彼に続こうとしたが走って来たウーゴ、そしてガブリエルに取り押さえられる。
「押さえろ鷲介! 君がいなくなってしまっては勝ち目が薄くなる!」
「さすがに三回目の退場は言い訳が効かないぞ! こらえるんだ!」
二人に抑えられながらも鷲介は一歩足を踏み出したその時だ、抗議したサイードに審判がイエローカードを突き出す。
それを見て鷲介はさらに憤慨するが、同時に理性と先程の二人の言葉がに強い歯止めをかける。顔を俯かせ、砕けんばかりに力で歯軋りする。
(ふっざけやがって。このくそ審判が──!!)
怒りに体を震わせながら、心中で審判に対して罵詈雑言を吐き出す鷲介だった。
◆◆◆◆◆
「くそがっっ!!」
「ふざけやがって!」
「はいはい、落ち着けよ。あと危ないから物を投げるな当たるな」
ハーフタイム中のロッカールームで鷲介とペアが同時に叫ぶ。一息で飲み欲し空となったボトルを投げつけようとするが、セザルの声で動きを止める。
「苛立つ気持ちは分かるが押さえろ。審判や相手のラフプレーに反応していたらキリがないし、こっちが損をするだけだ」
「わかってますよ! でもこうもあからさまにホームに有利なジャッジばかりされて押さえろってのが無理な話です!!」
「まったくです。何なんですか今日の審判は。おかしすぎますよ!」
荒々しく音を立ててベンチに腰を落とす鷲介。と言うのも前半終了間近、ハンブルクFは対戦相手のゴールネットを揺らしたのだがその前の接触プレーがファウルとされ、ノーゴールとなっていたのだ。明らかにいつもの試合ではファウルとならないプレーだった。
「あの審判はいつもなら普通なんだが、今日はフッガーシュタットやスタジアムの空気に当てられているんだろう」
「空気ですか?」
「鷲介、相手チームや周りの雰囲気に妙なものを感じなかったか? 違和感でもいいが」
「それは……」
「心当たりはあるようだな。そういえばお前が降格圏にいるチームと、それも終盤も終盤で戦うのは初めてだったな」
「そりゃあ今年プロ一年目ですから。──それで、あの妙な感じは、なんなんですか」
正直なところ、近寄りがたいものを感じる。あれに似たような感じに覚えはあるがそれよりもずっと濃く粘っこい、どろどろしたものを感じるのだ。
「一言でいえば執念、怨念、殺気。そう言った感情の集合体だな。なんとしても一部に残ろうっていう思いから生まれた。
まーフッガーシュタットも創立数十年でようやく一部昇格したクラブだ。二部に落ちたくない気持ちは他のクラブに比べて人一倍強いんだろうさ」
「それだけであんな妙な雰囲気になり、審判が向こうに有利なジャッジをするものですか」
「珍しい話ではないね。チームや場の空気に呑まれてホームチーム有利な判定をする、または誤審をするっていうのは1シーズンに一度は聞く話だよ。そう言ったこと、もしくは類似の話は流石に耳にしたことはあるだろう?」
セザルの言葉を引き継ぐヴァレンティーン。二本目のボトルをこちらに差し出してくる。
「ま、審判も人間ってことだ。怒るなとは言わんが内に抑えろ。それもプロとして重要な事だ」
そうセザルが締めくくり、監督が穏やかな口調で幾つかの修正と後半のゲームプランを説明する。
「それじゃあ後半、よろしく頼むよ」
『はい!』
監督の声に全員が声をそろえる。鷲介も未だ胸の内にもやもやしたものが残ってはいるが、思考の過熱は抑えられている。
セザルの説得もあるが、今日のハンブルクFの攻防どちらも調子は悪くない。そしてその核となっているウーゴは、
「今日もいい調子だウーゴ。後半も頼むぞ」
「はい、セザルさん」
穏やかな様子のセザルとウーゴ。そしてそのウーゴだが最近──ロート・バイエルン戦以降からか、プレイが変わりつつある。
以前のように攻防に走り回るというわけではない。守備重視なのは変わりないが、相手の隙ができた時は──以前ならばパスだけだったのだが──ドリブルで前に出ることが多くなっていた。またピッチ上では普段の落ち着いた様子から一変し、怒鳴り声ようなコーチングで味方へ指示を飛ばすようになっていた。また後方からロングシュートを撃つこともしばしばあり、そのこぼれ球が得点につながったこともあった。
鷲介やセザルが望んでいたかつてのような彼に戻ったわけではない。しかしそれは確かにチームにいい影響を与えている。またウーゴも守備やパスだけに注いでいた力がドリブルなどの方にも分配され、しかもそれらが無理なく無駄なく巡っているように見える。
(この間の会話が効果あったのかな)
そう思いながらウーゴを見つめていると、鷲介の肩に誰かが手を置く。
振り向けばユニフォーム姿のヴァレンティーンが立っている。
「後半、一緒に頑張ろう」
「あ、はい」
前半、幾度もファウルを受け足を痛めていたサイードとの交代だ。そして彼と共にピッチへ戻る。
ピッチに出ると応援席より異様な雰囲気が放たれているのが感じられる。しかしヴァレンティーンはそれをどこ吹く風と言ったように平然と受け止めている。プロの試合経験が鷲介より豊富なせいだろうか。
(何はともあれ、冷静な人が側にいるのはこっちの頭も冷えて心強い)
フッガーシュタットの選手も少し遅れてピッチに戻ってきては、後半が開始される。
前半、攻めまくっていたフッガーシュタットは後半一転して、全体的に引いている。また激しいプレスも減っており、結果としてハンブルクFが長時間ボールをキープすることとなった。
そして攻めの起点となっているのはウーゴと、交代で入ったヴァレンティーンだ。ハンブルクFの若きストライカーは前線からのボールをポスト、またはキープしては味方にパスを供給する。またあるときはドリブルで一人かわしてはロングシュートを打ったり、鷲介へスルーパスを出したりもしている。
ドイツU-20代表のヴァレンティーンはトータルバランスに優れたFWだ。去年、一昨年とカップ戦やドイツユースリーグのチャンピョンシップで対戦した時もその器用さに驚いたものだ。
だがそれでもハンブルクFはゴールを奪えないでいた。フッガーシュタットは要所要所で前半同様の激しいプレスを行い、また監督がエリアギリギリに飛びだしては絶えず指示を送っている。また選手間同士でも怒鳴り合うようなコーチングの声がピッチに響いている。
結果としてハンブルクはボールをキープしてはいるが決定的チャンスが作られる前に潰される、できたとしても人数をかけた、また連携のとれた守りで得点が奪えない状態が続いた。
(くっそー……!)
腕で汗をぬぐい鷲介は苛立つ。相手の守備が堅固なのもあるが、相手チームの選手たちから向けられる視線が鬱陶しくてしょうがないのだ。
ヴァレンティーンとの連携も悪くない。だが相手をこじ開けられない。あと一歩と言うシーンは後半二十分近くとなった現在で二度ほどあったが、どれも凌がれている。
「フッガーシュタット! フッガーシュタット!」
観客席から轟く声援を目にしながら鷲介はじっと相手チームを観察する。自分同様彼らも疲労はしているが、チームから放たれている執念のオーラはより深く、濃くなっているように感じる。
(なんとしても一部に残りたい、か。……まぁその気持ち、わからないでもないけどな)
何としても残ろうと言う執念。それはRバイエルンのユース昇格試験やトップ昇格試験で味わったことがある気持ちだ。
ユースに在籍する人数は日本のサッカー強豪校と比べて非常に少ない。だが彼ら全員がプロサッカー選手になれるわけでは当然ない。
ユース、トップチーム昇格試験で落ちた選手たちは別のチームからのスカウトを受けそのチームのトップ、またはリザーブチームに行く幸運に恵まれるものもいなくはないが、それは数少ない好例だ。特に最終であり最後の難関であるトップ昇格試験に落ちたほとんどがサッカーを辞めている。
諦めず他のチームの試験を受けるものもいるがそのチームもドイツや各国の三部や四部といった下位リーグばかりだ。そこから一部に這い上がった例は決して多くは無い。
ジュニアユースとユース時代、チームの絶対的エースだった鷲介とてその気持ちはよくわかる。何せ所属していたクラブが世界トップクラスの一つであるあのRバイエルンなのだ。同年代の中でも精鋭中の精鋭と言ってもいい彼らは試験の際には味方であり敵でもあった。生き残るために彼らを利用し、利用されたりもした。
(でもだからといってこのまま負けてやるつもりはないんだよ……!)
同じ降格を争うものとして、なによりかつての友人を押しのけ、蹴落としてきた鷲介としてはどんな事情があれど遠慮する気は一切ない。向かってくるなら問答無用で負かし、蹴落とす。今までそうしてきたように。
鷲介はちらりとヴァレンティーンを見る。こちらの視線を感じた彼は顔を少しだけ鷲介の方に向け、小さく頷く。
「ヘルメス!」
センターサークル付近にいるヴァレンティーンが直康からボールを受け取る。それを見た鷲介は一気に加速して彼の方へ走っていく。
「ヴァレンさん!」
声を上げると同時、鷲介はゴールの方向に指をさす。こちらの動きにヴァレンティーンの背中に張り付いていたDFが一瞬気を取られ、マークの圧が弱まる。そしてそれをヴァレンティーンは見逃さず鋭く左に反転して突破する。
前に出たヴァレンティーンへすぐさま別の選手が距離を詰めてくる。だがチェックを受ける前に彼から鷲介に向けてパスが出ていた。首振りで周囲を確認していた鷲介は収めたボールをDFのいない方にトラップしてはボールを転がし、そして自身もそちらへ動くと同時にボールを奪いに来ていたマニをかわす。
加速する鷲介。そこへニコラエがやってくるが鷲介はダブルタッチであっさりをかわし、さらに前──ペナルティエリア正面へ進む。
「後ろから来ているぞ!」
左へ走るヴァレンティーンからの警告。鷲介はそんな彼の姿を見て小さく唇を緩ませると、ペナルティエリアで待ち受けているDFの元へ真っ直ぐに進むとスピードに任せて右へ切り返す。
左斜め前に見えるシュートコース。だがそこは前に飛びだしていたGKの体ですぐに塞がれる。またDFもボールを奪うべく体を寄せてきている。
(それを待っていたんだよ!)
心中で笑うのと同時に鷲介は右足でボールを蹴る。ボールはヴァレンティーンが左へ走り最終ラインのDF一人を外へ釣りだし、ボールを受け取った鷲介が右に動き、その動きに反応して鷲介の方へ寄ってきたDFによりできたスペース──ペナルティエリア中央へ転がる。
そのスペースにいの一番で走りこむのは走りこむヴァレンティーンだ。練習でも試したこの連携を、やはり彼も思い浮かべていてくれたようだ。外から内に方向転換した彼の動きに遅れたのか、ヴァレンティーンの後ろには彼が釣ったフッガーシュタットのDFがいる。
GKが驚愕の視線をボールへ送るがもう遅い。鷲介からのボールをヴァレンティーンはダイレクトでインステップシュート。ボールをゴールへ押し込んだ。
「ナイスゴールです! ヴァレンさん!」
「そっちこそナイスパスだ!」
駆け寄り両手を合わせ、抱き合う二人。ウーゴたちも寄ってきて鷲介たちを祝福する。
主審の笛と共に再開される試合。フッガーシュタットの選手たちは──当然と言うべきか──先程とはうって変わって前に出てくる。
またより剣呑な雰囲気となっている。だがもはやそれに鷲介はもちろんハンブルクFの皆が怯むことはない。──負けられないのはこちらとて同じなのだ。
「左からニコラエが来てるぞ! 遅らせろ!」
「直康遅れてる! パクへのコースを潰せ!」
「ペアさんはそこにいてください! 俺が行きます!」
DFやボランチたちがフッガーシュタットのコーチングやサポーターの応援に負けない大声を張り上げては相手チームの攻撃を防ぐ。また交代で入ったザンビディスの運動量がより守備を強固にし、荒々しいDFがパク達フッガーシュタットの選手たちを吹き飛ばしていた。
「鷲介、後ろだ!」
「はい!」
センターサークルでヴァレンティーンからボールをもらい振り向きざま一人かわそうとしたその時、後ろから聞こえたウーゴの声に鷲介は反応。ヒールでボールを渡し、彼のコーチングに従って右サイドへ走る。
ボールを受け取ったウーゴはニコラエからのチェックをヤンとのワンツーでかわして前に出てはボールを左サイドへ送る。ボールをもらった直康にすぐさまフッガーシュタットの選手が奪いに行くが、彼は下がってきたヴァレンティーンにボールを渡すとその裏へ走る。
「ボールを!」
そう叫んだのは足を止めず走ってきたウーゴだ。ヴァレンティーンのポストプレーから放たれたボールを彼はダイレクトでフッガーシュタットの左サイドの裏──走りこんでいた直康の元へ送る。
止まらないハンブルクの攻めとボール回しに前に出ていたフッガーシュタットは面食らい、対応が遅れる。ボールをもらった直康にDFが向かって行くが一足遅く、彼はグラウンダーの強いボールをゴール前に送り、そこへ鷲介が飛び込む。
「もらったぁ!」
ペナルティエリアギリギリ中に来たボールを、鷲介は叫ぶと同時にダイレクトで合わせる。だが次の瞬間、空いていたシュートコースにマニが体で塞ぎ、鷲介のシュートを弾く。
だがこぼれたボールは鷲介の前に転がる。慌てて近くのDFが駆け寄ってくるが鷲介の方がわずかに早く再び右足がボールをミートする。
枠内に行き今度こそ決まったと心中で喝采した鷲介だがGKの伸ばした手がボールの軌道を変更。ボールはゴールバー上部に当たり跳ね返る。
(くっそ、しぶとい!)
跳ね返ったボールをマニに抑えられ、鷲介は歯軋りする。だが次の瞬間、マニの背後から飛びだしたヴァレンティーンが彼にチェックをかけてボールをかすめ取ってしまう。
一安心した後の大ピンチにぎょっとするフッガーシュタットの面々。ボールを奪われたまにはすぐさま取り返そうと動くが、あまりにも遅かった。ボールを奪ったヴァレンティーンは即座に聞き足である左足を振りぬいていたからだ。
ハンブルクの若きFWが蹴ったボールはGKから最も遠いゴール左隅に突き刺さった。
◆◆◆◆◆
「勝ったぁぁぁ---!」
鳴り響く試合終了のホイッスルを聞いて、鷲介は両腕を振り上げる。
思わず声が出てしまったがそれもしょうがない。逆転した後の試合展開は、まさしく死闘と言うべきものだった。
フッガーシュタットは残っていた交代枠を全て使いロングボールとパワープレーに専念。なんとしても勝ち点をモノにしようと言う執念を感じさせるそのプレーぶりに鷲介たち全員が一丸となって守りに入るほどだった。そのおかげか決定的チャンスが二度ほど作られはしたものの得点は許さず、こうしてタイムアップを迎えたのだ。
ともあれアウェーでの逆転勝利。しかも相手は同じ降格争いのフッガーシュタットだ。この勝利は果てしなく大きい。
「本当ナイスゴールですヴァレンさん!」
「鷲介も、よかったよ。一点目のアシスト、ありがとう」
勝利の立役者の元へ真っ先に駆け寄る鷲介。点を決めた時のようにがっしりと抱き合う。今日の勝利は間違いなく彼のおかげだ。
ウーゴやガブリエル、直康もヴァレンティーンの元へ駆けつけ、賞賛の言葉をかけたり、鷲介と同じく抱擁する。それを遠目で見ながら鷲介は沈痛な雰囲気となっているフッガーシュタットのイレブンとサポーターを見る。
(もし負けていたら、俺たちもこうなっていたかもな)
試合前や最中の執念じみた気迫は微塵もなく大半のイレブンが肩をがっくりと落している。無理もない。最終節の相手は五位のヴォルフFCでありしかもアウェーだ。
ヴォルフFCもCL出場権を争っているチーム。よほどのことがない限り彼らが勝つことはおろか、引き分けさえ至難だろう。
「そういえばRドルトムントの今日の対戦チームは……」
鷲介が呟いたその時だ、スタジアムの電光掲示板に他会場の結果が表示される。シーズン終了間近と言う事もあって今日と最終節は全ての試合が同時刻に行われ、終了することになっているのだ。
「……え?」
ざっと結果に目を通し、鷲介は自分の目を疑った。しばし瞬きをして、今度はゆっくりと電光掲示板に表示された結果を見る。
「3-2でRゲルセンキルヒェンの勝ち……!?」
Rドルトムントが3点奪われ負けた。信じがたい結果が表示されていた。