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ダッシュ!!  作者: 浮雲士
三部
148/193

因縁の再戦(1)


「康生。お誕生日おめでとう!」

『おめでとう!』


 快晴に恵まれた四月下旬の今日、祝いの声がリビングに響く。

 その中心にあるテーブルとケーキの傍にいるのは先日、病院から退院した直康だ。

 誕生日の主役である子供と楽しそうにしている様子を見て、客として招かれた鷲介は小さく微笑む。

 三月下旬に行われた──2-2で引き分けた──フランス戦。負傷した直康は試合のすぐ後、大事を取ってすぐ病院に運ばれた。

 怪我は中等度の捻挫。早急な完治と試合復帰のため入院しそれが功を成したのか予定より早く退院。数日前に行われたリーグ戦にも出場していた。


(無事完治して、本当に良かった)


 不器用ながらも子供と協力してケーキを切り分ける直康を見て、鷲介は笑みを深くする。

 直康は代表選手の中で最も親しく、親交がある一人だ。またハンブルクFにいた時も何度か彼の家に招かれ、楽しい時間を過ごした。


「やれやれ。ピッチで倒れ蹲ったときはどうなるかと思ったが」

「ええ。無事に完治して何よりです」


 そう言うのは鷲介の傍にいる南郷と英彦だ。隣では鹿島が頷いており、彼らの視線は直康に向けられている。

 ドイツリーグにいる日本人選手──それも代表に縁がある者たちは皆、今日のパーティにやってきていた。

 直康の子供、康生君の誕生日パーティを祝う気持ちもあるだろうが、何より彼らは直康の様子を見たかったからだろう。


「ダイジェストだが試合に出場している姿も見た。まぁ現在で70%ぐらいか」

「残り三試合でどれだけ調子を上げられるかですね」

「残り三試合が勝負。──そういえば鷲介たちもそうだったね」


 そう言ってにこりと微笑む英彦に鷲介は渋面を浮かべる。

 今英彦が言った通り、今季のドイツリーグ戦は残り三節。そして鷲介は、Rバイエルンは、それら全てに勝利しなければならない状況となっている。

 フランス戦の後行われたリーグ戦27~31節。五試合の結果は二勝二分け一敗。

 28、31節では勝利するも27節のヴォルフFC、30節は引き分け。そして29節のドイツダービー、Rドルトムント戦では敗戦。

 優勝するには負けも引き分けも許されないRドルトムント戦に負けたこと、さらにそのショックを引きずり痛恨の引き分けとなった30節。

 その結果がこれだ。


 1位 Lミュンヘン 31戦23勝6分2敗 勝ち点75

 2位 Rドルトムント 31戦22勝7分2敗 勝ち点73 

 3位 Rバイエルン 31戦20勝9分け2敗 勝ち点69 

 4位 Rゲルセンキルヒェン 31戦19勝9分3敗 勝ち点66 

 5位 ヴォルフFC 31戦20勝6分5敗 勝ち点66 


 鷲介自身は調子は悪くない。5試合中4試合出場しており3ゴール2アシストと好調だ。

 だがクラブはそうではなかった。そしてその主な原因はCL準決勝にある。


(勝ちはした。だが代償が大きすぎた)


 CL準々決勝で当たった相手はフランスリーグ王者のFサンジェルマン。

 難敵ではあるが”ゾディアック”を有さないことを考えるとベスト8に残ったクラブの中で言えば一番楽な相手だと言えた。

 試合結果もホームで2-0。アウェーでも3-1の完勝。鷲介も両方の試合に出場しており合計1ゴール1アシストを上げている。

 しかしその試合で主力たちが負傷。特に司令塔であるフランツとエースであるジークが30節までリーグ戦を欠場することとなった。

 一方CLを敗退したRドルトムントとLミュンヘンはほぼ万全の状態でリーグ戦に挑み勝ち点を重ねている。

 Rバイエルンにも優勝の可能性はあるが全勝しても残り三試合でLミュンヘンが二勝、または一勝二分けとなれば優勝はできない。

 ドイツリーグの優勝争いは事実上、LミュンヘンとRドルトムントに絞られたというのが世間一般の意見だ。


「厳しい状況であることは認めますよ。

 でも最後まで諦めませんしカップ戦ではタイトルを取れる可能性はありますからね」


 リーグ戦と同じく終盤となっているドイツ杯。Rバイエルンは決勝まで勝ち進んでいた。

 そして決勝の相手は、リーグ首位のLミュンヘンである。

 後季での試合、5レーンに固執しすぎていたとはいえ0-4という大敗は未だ生々しい記憶だ。


「そしてCLも準決勝と大詰め。Rバイエルンの相手はRマドリー」

「昨季負けた相手との対戦か。──非常に楽しみだ」


 にやつく英彦たちに冷たい眼差しを向ける鷲介。

 数日後に行われるCL準決勝。残った四チームはRバイエルン、Rマドリー、マンチェスターFC,RNSミランの四クラブだ。

 そしてRバイエルンは英彦が言うようにRマドリーと対戦。昨季と同じ組み合わせにチーム内でも盛り上がっている。もちろん鷲介もだ。


(Rマドリーは現在スペインリーグ首位、カップ戦も取っている。勢いはあるが付け入るチャンスはある……!)


 Rマドリーは直近に行われたスペインカップ決勝を制しており、すでに一冠を獲得している。

 スペインリーグではバルセロナR、Aマドリーと激しく優勝争いをしているものの2位のバルセロナRとは勝ち点6の差をつけている。

 もちろん残り五試合──スペインリーグはドイツリーグより試合数が多い──で十分挽回可能な数字だ。しかし土をつけれそうなクラブは直接対決が残っているバルセロナRぐらいだ。

 二冠も確実な状況。しかし世界屈指のビッククラブとはいえCL準決勝まで着て無傷と言うことはない。

 Rバイエルンがジークやフランツを欠いていたように、Rマドリーも長いシーズンの中、幾人かの主力が負傷している。

 エースストライカーであるエドゥアルド、そしてスペインカップ決勝後、クラブのエースであるアーギアが負傷しCL準決勝第一試合に出場できないのは確定している。

 ラウルは健在だが、それでも攻撃の二大エースとも言われるアーギアたちがCL第一試合に出ないのはRバイエルンにとって大きなチャンスだ。


「ええ、楽しみにしていてください。俺たちが白い巨人を倒すのを」


 余裕の態度を見せて鷲介が言うと英彦は苦笑、南郷と鹿島はジト目を向けてくる。

 Rマドリーに対し、こちらは負傷していたジークやフランツは復帰を果たしている。

 絶好調とは言えないがそれでも復帰戦である31節には見事な動きを見せていた。

 十分活躍は期待できるし、それはリーグ戦、CL、カップ戦など出場した試合で結果を出している鷲介も同じだ。

 いかにRマドリーが相手とはいえ、勝機は十分にある。


「わぁ……新しいサッカーボールだ。

 ありがとうお父さん、これでまたボルツプラッツで一緒に遊ぼうね!」


 聞こえてきた喜びの声。視線を向けると真新しいサッカーボールを手にして喜ぶ康生とそれに頷く直康の姿がある。

 微笑ましい親子の光景。それを見ていると南郷がぽつりと呟く。


「……本当に間に合ってよかった」


 感慨深く言う南郷。以前南郷から聞いた話だが直康とはJにいた時からの付き合いだという。

 どちらも東京エストレヤ出身であり南郷がドイツに来た時も最初のころは何かと世話を焼いてもらったと聞いている。

 それだけに四年前、直康が直前で代表落ちした時は憤慨し、彼を慰めたという。


(まだ選ばれると決まったわけじゃないが、今言うのは野暮だな)


 鷲介としてもハンブルクF時代はもちろん、代表でも彼の世話になっている。

 中山と言う新たなライバルはいるが代表のスタメンも、本戦メンバーにも選ばれてほしいとは思う。その実力も兼ね備えているのだから。

 そう思っていると鷲介は視線に気づく。近くを見ればきらきらした目を向けてくる康生と同い年の少年少女の姿が。

 鷲介は微笑み、南郷たちと共に少年たちに近づくのだった。











「それじゃあにぃにぃ、行ってくるね!」


 サッカーボールを手に、溌剌とした声を上げてリーザは公園の中に入っていく。

 子供はもちろん大人たちも気軽にサッカーをしているこの公園はボルツプラッツ。ドイツ国内にあちこちある小さなサッカーコートだ。

 鷲介の家から歩いて十分の距離にあるここは、最近のリーザのお気に入りの場所だ。自分を意識しているのか近所の子供たちとよく一対一をしては自分のようなドリブル突破をしようとしている姿を見る。

 今日もそうしようとしているのか、勝負する相手を探している。微笑ましい姿に鷲介は微笑しながらふと今日のチーム練習のことを思い出す。

 Rマドリー戦前の最後のチーム練習の今日、当然ながら皆気合は入っていたが一人だけ精彩を欠いている選手がいた。今季監督と共にマンチェスターAからやってきたジュニオールだ。


(ジュニオールの奴、大丈夫だろうか)


 SBながら攻撃的選手であり守備力に問題がある選手だった。それでもシーズン最初まではチームに合わせてバランスを取っていたが、今はプレー一つ一つが中途半端だ。

 今日の練習の最後に行ったミニゲームでも攻撃時には中途半端な上がりをしてクロスを上げられない、守備時はマッチアップした鷲介に裏を取られるということが何度もあった。

 変わらず安定したプレーをしているブルーノと比べればスタメン落ちもしょうがないという出来だった。


(Rマドリー戦でもベンチスタートにはなるだろう。

 ただ第一戦か二戦、どこでかはわからないが本来の彼なら出番はある。だが今のジュニオールとなると──)


 ジュニオールの最大の特徴であるドリブルとパス精度。また鷲介ほどではないが足も速い。

 攻撃時、彼が上手く絡めばたとえRマドリーでもチャンスは生まれる。ただ守りが拙いので現時点ではスーパーサブ的な位置になっているのだが。

 しかし今の調子ならスーパーサブとして出場することも危ういのではないか。そんなことを思いながら鷲介はコートに目を向ける。

 人見知りしないリーザはさっそく相手を見つけ一対一をしていた。勝ったり負けたりの繰り返しだが笑顔でプレーするその姿を見て鷲介はほっこりとさせられる。


「……?」


 視界にとある少女が目に入り、鷲介はそちらを見る。

 リーザより一つ、いや二つぐらい年上だろうか。小学生になったばかりと言う感じの褐色の少女。

 彼女はコートの隅で一人、リフティングをしている。その姿に鷲介は目を奪われる。


(……上手い)


 コート上で一人だけと言うこともあるが目を引いた理由はボールコントロールの正確さだ。

 さまざまな姿勢となってリフティングする少女。だというのにボールも彼女の動きも乱れがない。

 さながらボールが体と一体化しているような感じさえ受ける。


(あんな娘見たことがない。どこからか引っ越してきたのか)


 誰でも気軽に来れるボルツプラッツは近所の公園のようなものだ。その為自然と家が近い者たちばかりが集まり、見慣れる顔が多くなる。しかし彼女は初めて見る。

 鷲介だけではなく見学している面々や周りの子供たちも少女に気付き、そのリフティングに驚きと感心の視線を向けていく。

 誰かが声をかけるのも時間の問題。鷲介が思ったその時だ、リーザが彼女に声をかけた。


「ねぇ、いっしょにゲームしようよ!」


 名前も名乗らず、率直すぎるリーザの要求に目を白黒させる少女。

 よほど少女のリフティングに感心したのか、リーザの目はきらきらと眩く輝いていた。


「リーザ、初めて会う人には何をするんだ?」


 明らかにびっくりしている少女を助けるため、鷲介は興奮している妹をたしなめる。

 するとこちらにふり向いた少女が目を大きく見開き、頬を赤くして絶句した。


「ヤナギ選手……!? うそ、ほんとうに会えるなんて……!」


 小さい声で言う少女に鷲介も驚く。周囲に気付かれないようサングラスをかけるなどしているのだが初見で身バレするとは。


「──これはこれは。せっかくですから私を含めて四人でゲームでもしませんか」


 聞こえてきた声の方に鷲介たちはふり向き、少女は「お父さんパパイ!」と驚く。

 傍に来ていた少女と同じ褐色の男性。帽子をかぶり動きやすそうなカジュアルな服装をしている男性──と言うか彼は、


「ジュニオール? なんでここに……」

「まぁまぁ。そんなことはどうでもいいじゃありませんか。ゲームをしましょう」


 普段とはまるで違う礼儀正しい物腰のジュニオール。鷲介を見て口チャックのしぐさをする。

 彼の申し出に鷲介が驚く中、リーザは「やるー!」と息巻き、ジュニオールの娘と思われる少女は「ヤナギ選手とプレーできる……!」と興奮状態。

 そして笑みを浮かべウインクしてくるジュニオールを見て鷲介は小さく吐息、彼の申し出を受ける。

 ジュニオールは他に数名の子供たちにも声をかけ、即席の五体五のミニゲームが行われる。

 当然ながら主役となるのは子供たち。鷲介とジュニオールは子供たちの邪魔にならないよう、フォローに徹したプレーをする。

 子供たちをシャッフルなどして数ゲーム行った後、鷲介とジュニオールはコートの外に。

 元気に走り回る子供たちを見ながら鷲介は隣の彼に声をかけた。


「それで、何でここにいるんだ」


 自分と同じく子供を連れて遊びに来たのはわかる。

 しかしジュニオールの住まいは鷲介の家とは別地区。もちろんそこにもボルツプラッツがありそこで遊ぶはずだが。


「最近あの子が元気がなくてね。環境でも変えようかと思ってここに来たんだ。

 噂で君が妹と来ていると聞いていたから、もしかしたら君に会えるかもとそそのかして連れてきたら大当たりというわけさ。

 あの子──カルラは君の大ファンでね。帰る時でいいからサインをくれないかな?」


 そう言ってジュニオールは少女をを見る。

 父や義母がリーザに向けるのと同じ眼差しを見て、鷲介は言う。


「お前の娘か」

「うん。今年で七歳になる僕の可愛い可愛い娘だよ。将来のセレソンになる娘さ」


 親馬鹿前回のジュニオールの言葉だが、確かにカルラは上手い。

 今行っているミニゲームの相手チームには年上の男子もいるが、それらを圧倒するようなプレーをしている。

 そんな彼女をしばらく見ていると、ジュニオールが言う。


「……鷲介、本当にありがとう」

「礼を言われるようなことはしていないと思うんだが」

「今日、君がここにいたというだけで十分だよ。カルラは今、あこがれの人の前でプレーできる喜びに満ちている。

 あんな無邪気な笑顔を見るのは久しぶりだ……」


 娘を見るジュニオールは微かに瞳を潤ませる。しかしすぐに安堵と申し訳なさが同居する表情となる。

 その顔を鷲介は良く知っている。過去、父が時折鷲介に向けて見せていた、子供に対し申し訳なく思う親の顔だ。


「元気がないと言っていたが、何かあったのか」

「僕のせいだよ。あの子が学校で喧嘩をしてしまってね。その理由が僕を馬鹿にされたからだというんだ」

「……」


 著名な親や兄弟を持つ者によくある話。

 また以前リーザが幼稚園で類似の騒ぎを起こしたことを思い出し、鷲介は眉間に皺を寄せる。


「なぁジュニオール。この際だが聞くけど最近どうしたんだ。

 今日もそうだったがプレー一つ一つが中途半端、と言うか迷いがあるように思える」


 鷲介が知るジュニオールはサイドを縦横無尽にかけ上がる攻撃SBだ。

 しかし最近の彼はどうしたことか、中に入り込むことが多い。しかもそのポジショニングは中途半端に見え、安定性がない。

 またそのせいでできた左サイドのスペースに相手チームの選手とカウンターのボールが来るのをよく見る。


「そうだね。認めるよ。君を見ていたら俺もいろいろと試行錯誤していてね」

「俺が原因なのか……?」

「一因ではあるね。今季君は何度も迷いに迷っていたのにそれを克服して活躍している。

 それを見れば僕も自分を顧みて、改善したくなったのさ」

「改善……」


 言われて鷲介は納得する。最近のジュニオールの中途半端なプレーの数々は、そのように見えなくもないと。

 しかし一方でこう思い、鷲介は彼に問う。


「それはわかった。けどジュニオール、それを今やる必要はあるのか」


 これがシーズン序盤や中盤なら文句はない。しかし今は四月下旬という欧州サッカーにおける終盤の時期だ。

 現状のままならジュニオールはスタメンどころか途中出場さえも怪しい。ジュニオールは守備に問題があるとはいえ攻撃としては間違いなくRバイエルンの力となるし、チームの5レーンアタックに最も精通している彼なら途中出場しても即座にチームに対応できる。

 また六月に開催されるW杯。彼はアントニオと同じくブラジル代表に選出されるのが濃厚だと聞いているが、今のままではスタメンは厳しいという話だ。


「あるね」


 躊躇なく言い切るジュニオール。思わず鷲介は彼の方を振り向く。

 全く迷いの無い表情をしているジュニオール。彼は小さく笑みを浮かべ、続ける。


「確信がある。あと一つ、何かのきっかけで俺は一つ階段を上がれるっていう。

 そして改善、いや変化は俺に限った話じゃない。監督もだ。

 鷲介は気づいていないようだけど」

「監督も?」

「以前の監督なら今の君に激しく注意していたよ。無駄なドリブルはするな、システムに、自分のサッカーに従順であれと。

 結果を残していてもスタメン降格もありえただろうね」

「……確かに」


 言われて気づく。確かにクラブに来た時のヨシュアならジュニオールが指摘したような苦言を呈しただろう。

 しかし今、ジュニオールの言う通りそう言うものはない。判断ミスやプレーをした時に注意をされはするが。


「あの人が変わったのはLミュンヘンに負けたあたりからかな。

 なんていうか、俺たちのプレーに少しだけ無駄、いや、自由さを許してくれたようなそんな印象があるなぁ。……おっ!」


 唐突に目を輝かせるジュニオール。

 彼の視線の先を見ればボールが相手ゴール内に転がり、そしてその傍でハイタッチをしているカルラとリーザの姿があった。


「リーザちゃんとのワンツーからのカットインシュート。まるで俺のようだ、素晴らしい……!」


 娘の活躍に感激するジュニオール。

 その後相手の反撃を受け同点にされるも再びリーザとカルラのコンビがゴールを決めて勝利。

 試合をした者たちと握手、挨拶を済ませ幼女二人がやってくる。


「かったよ、にぃにぃ!」

「ああ、見事なゴールだったな」

「うん、にぃにぃみたいなゴールだった! かっこよかったでしょ!」

「わ、私も柳さんみたいなカットインからのゴールを決めました。どうでしたか?」

「……。う、うん、凄かったぞカルラ」


 息を弾ませながらも笑顔の少女たち。

 持ってきたドリンクを手に二人が休憩する中、ジュニオールは言う。


「鷲介、君はまだ若く自覚はないだろうけど俺たちサッカー選手の選手寿命は短い。

 だから改善や変化はいついかなる時でもするべきものだ」

「それはまぁ、そうですね」


 変化、そして改善の大切さと恐ろしさ。今季で嫌と言うほど理解した。


「次に戦うのは昨季の欧州王者Rマドリー。そして昨季の準決勝でRバイエルンを粉砕したクラブだ。

 間違いなく厳しい戦いになるだろうし、苦境を迎えるだろう。

 だがそんな時こそ自分が進化、成長するためのきっかけは見つかるものさ」


 確信めいた物言いをするジュニオール。


「けれどこの調子ですと、今期はサブ確定ですよ」

「ははは、もうサブ確定だよ。ブルーノさんが怪我をするか調子を落とさない限りはね」


 あっけらかんとした様子のジュニオール。

 軽い挑発の意味も込めて言ったが全く効いていない。この様子では止める気はなさそうだ。


「でもいつまでもサブに甘んじる気はないよ。──俺はさらに進化して、必ずスタメンの座を奪い取る。

 君がそうしたようにね」


 鷲介が向けた呆れの眼差しを感じたのか、ジュニオールは真剣な表情で言う。


「そうですか。ま、後悔しないよう頑張ってください」

「もちろんだとも」


 それから鷲介たちはリーザたちがブルツプラッツで満足するまで付き合い、ジュニオール親子と別れて帰宅。

 入浴と夕食を済ませリーザが寝た後、鷲介は自室で最近、ジュニオールが出場した試合の映像を見る。


(……この調子じゃRマドリー戦、出番はないかもな)


 改めて見るとジュニオールが言った通り、何かを試す、探るような動きを彼はしている。 

 だがそれがどのような答えになるのか鷲介にはわからない。ただ言えるのはPC画面に表示されている曖昧な動きやポジショニングをしているのであれば、CL準決勝では彼の出番はないだろう。

 ジュニオールの中途半端な動きやポジショニングが原因で、PC画面に映るRバイエルンの陣形の形やバランスは崩れ、それにより発生した穴を突かれてピンチを招いたり、失点したりしているのだから。


「しかし……」


 画面に映るジュニオールを見ながら鷲介は思う。

 今はちぐはぐに見えるが彼の動きがチームと一致すれば、何か凄いことが起きるのではないかと。





リーグ戦 23試合 17ゴール10アシスト

カップ戦 2試合 1ゴール3アシスト

CL 7試合 9ゴール4アシスト

代表戦(三年目)2試合 3ゴール1アシスト


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