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ダッシュ!!  作者: 浮雲士
三部
143/193

原点回帰こそ最善の道(2)





 マンチェスターの空の下で、声援が響いている。場所はマンチェスター・アーディックのホームスタジアム、アスフールスタジアムだ。

 マンチェスターFCと同じマンチェスターをホームタウンとし、二十数年前までは古豪、エレベータークラブとも揶揄されていたクラブだったが、今現在では中東の大富豪がオーナーになったことで得た莫大な資金を使いイングランド、そして欧州のビッククラブとなっている。

 数年前に新築されたというスタジアムはミュンヘン・シュタディオンより大きく、広い。収容人数も八万と欧州のスタジアムでも屈指の大きさだ。

 そのスタジアムは今、マンチェスター・Aのホームカラーである青と白の色に染まっている。Rバイエルンの赤色もあることにはあるが、それに比べるとあまりにも小さい。


「……」


 その少ないサポーターをピッチから見ていた鷲介は小さく息をつく。ニュースでも言っていたが今日は少し風が強く、時折突風が吹く。

 スタジアムの一角にある、小さなアウェー席。そこに由綺がいるかと思ったが姿はない。やはり来ないか、それとも同時刻に行われているもう一つの試合、マンチェスターFCとユヴェントゥースTFCの試合の方に行っているのか。


(って、いないのなら仕方がない。頭を切り替えよう)


 かすかにうつむいた頭を上げて、鷲介は対峙するマンチェスター・Aのスタメンを見る。

 システム、メンバーともに前回と変わっていない。4-4-2のGKはイングランド代表のハリー・バーン。4バックは右から元イングランド代表のブライアン・ブルッキング、ドイツ代表のオズワルト・ヘスラー、ポルトガル代表のネルソン・シウバ、イングランド代表のミック・シルトン。欧州屈指のパス技術を持つ4人のDFたちはこの一カ月、マンチェスター・Aの得点と無敗記録に貢献している。

 中盤、ボックス型のダブルボランチの一人は前回の試合で散々Rバイエルンの攻撃の邪魔をした”ゾディアック”が一人、カメルーン代表のパトリック・ミラ。もう一人はウェールズ代表のアンディ・ラッシュ。

 そして前二人、右SMFはスコットランド代表のクリス・アーチボルト。直前のリーグ戦では負傷交代したそうだが、どうやら軽傷だったようだ。

 左SMFは前回の戦いでは劇的な同点弾を叩き込んだチームの中核、エースのベルギー代表のフランキー・ヴァンデンベルグ。

 ツートップはカールと同じく好調な二人。右は直前の試合でハットトリックを決めたオランダ代表のパトリック・ニースケンス。左はこの一月全試合でスタメン出場し、結果こそ1ゴールと寂しいがゴールに必ず絡んでいる韓国代表のアン・ソンユン。

 鷲介としては前回の試合の後、リーグ戦3試合で2ゴール2アシストと好調なカールを先発にすると思っていたのだが。前回と同じく彼はベンチだ。

 しかし気合が入っているのはベンチに座っている姿からでもわかる。後半どのタイミングで投入してくるのか。試合の勝敗に大きく影響しそうだ。

 一方、アウェーの我がRバイエルンのシステムはいつも通り4-3-3。GKはアンドレアス。DF4人は右からフリオ、ジェフリー、クルト。そしてジュニオールだ。

 ジュニオールのスタメン出場にファンやメディアは少なくない反発を示した。前回の試合の後からもスタメンになることは少なく、代わりに出場していたブルーノが好調だったからだ。

 しかし彼を起用した監督は試合前の記者会見で、点を取らなければいけない今日の試合でより攻撃的にいくための起用と説明。一応メディアを納得はさせた。

 中盤三人はボランチにドミニク、両SMFの右はフランツ、左はアントニオ。実力、調子ともに問題はないベストなメンバー。

 そしてスリートップ。右は鷲介、中央にエリック、左にアレンとなっている。

 アレックスにジークを欠いたFW陣はベストではない。だが現状編成できる中でこれが一番ではある。


「最近と比べて表情が少し柔らかいな。今日は行けそうか」


 そう声をかけてきたのはフランツだ。


「わかりません。正直に言いますとまだいろんな考えが頭の中をぐるぐるしています。

 でも勝つ気は十分にありますから」

「そうか。なら活躍を期待してるぜ、”黒鷲シュヴァルツ・アドラー”」

「はい」


 離れていくフランツを見送り、鷲介は視線を対峙するマンチェスター・Aイレブンに向ける。

 ホームなためか、前回以上の圧を感じる青と白のユニフォームを着た選手たち。その中の一人、同じ”ゾディアック”であるミラは鷲介に挑発的な表情を向けている。


──ひりつくような勝負を期待してるぜ


 前回の試合の後、別れ際に彼が行った言葉は心中で反芻。

 鷲介は負けじと彼をにらみ返し、呟く。


「期待に応えられるよう、全力を尽くすぜ。

 そしてその上で、敗北をプレゼントしてやるよ」


 そう呟いた直後、試合開始の笛の音がピッチに鳴り響くのだった。










 宙に浮いたボールがピッチを跳ねる。それを拾うチームメイトを見て鷲介は心中で歯噛みする。

 試合が始まりすでに15分が経過。試合はRバイエルンが攻め込みマンチェスター・Aが守りに徹するという、予想通りの状況となっている。


(前回の試合は1-1での引き分け。アウェーゴールルールがあるため相手は無理して攻める必要はない──)


 ホームだからそんな状況を無視して攻めてくると期待はしたが、やはり思うようにはいかない。

 亀のようにひきこもるマンチェスター・Aの守りは固い。5レーンアタックにも5バックでしっかりと対処してくるし、ミラを中心に全員が素早く動いては危険の芽を刈り取ってしまう。ツートップを残して全員が自陣に引くという徹底ぶりだ。


(とはいえこのまま逃げ切るはずもない。どこかで攻勢に転じてくるはず。

 その前に得点を奪うため攻めているが……)


 ピッチを動き回りながら鷲介は次の攻撃手段を思考する。

 そして5分後の前半20分、ボールが相手に触れてラインを割った時だ、監督が前に出て合図を送るのを見て鷲介は目を見開く。


(総攻撃の合図。思った以上に勝負に出るのが早いな……!)


 攻撃に力を注いでいるRバイエルンだが、当然ながらカウンター対策はしている。

 そんな対策を解除しても前に出てゴールを奪うという指示。出されることは頭にあったが、早くても前半終了近くだと思っていた。

 鷲介と同じように考えていた幾人かのメンバーも、戸惑った様子で監督やフランツに目を向ける。だが指揮官はもちろん司令塔も揺るぎもしない様子を見て、彼らは前を向く。

 ジュニオールはもちろんフリオ、そしてクルトもセンターライン付近まで上がる。自陣に残っているのはジェフリーだけというハイリスクな状況だ。

 だがリスクを冒したかいはあった。22分、Rバイエルンの攻撃は細やかなパスワークで左サイドを突破、ジュニオールの上げたグラウンダーセンタリングに中央にポジションチェンジをした鷲介がスルー、直前に鷲介と入れ替わるように右にいたエリックが強烈なダイレクトシュートを放ちCKを獲得する。

 その3分後の25分、今度は右サイドからの攻撃だ。フリオ、ドミニク、フランツ、そして鷲介も絡んだ、先程よりギアを上げた速いボール回し。

 その変化にマンチェスター・Aの守りへの対処は遅れるも、最後にフランツが放ったミドルシュートをミラが体を張って防ぐ。

 そして前半30分、Rバイエルンの攻撃が防がれ、ミドルサードとアタッキングサードの境目にいた鷲介の元に跳ね返ってきたボール。鷲介はそれを収め前に出る。


(より攻勢に出たRバイエルンの攻撃に向こうは完全に対応しきれてない。

 そしてミラとの距離も離れている。チャンスだ……!)


 今までなら──今日の試合も含めて──5レーンを行うべくすぐにパスを出していた鷲介。

 だがRバイエルンの攻撃を防いだ直後のマンチェスター・Aの守りの乱れを見てドリブルを開始した。

 すぐさま近くにいたアンディが距離を詰めてくるが、鷲介は緩急を効かせたフェイントで彼を突破。目の前にいて味方のフォローを待つオズワルトに突っ込んでいく。

 厳しい表情をして待ち構えるオズワルド。そこにミックが右から寄ってきたその時だ、鷲介はペナルティアークを踏み、聞き足である右でミドルシュートを放つ。

 放たれたグラウンダーのシュートは滑るような勢いでオズワルドの右を通過。そのままゴール左隅に向かう。


(先制点だ!)


 ハリーも反応しているが間に合わない。そう思う鷲介だが、左から飛び出してきた、体を投げ出すようなスライディングをしたミラがゴールを阻む。

 目一杯伸ばした彼の足がボールに当たり、コースを変更。右に移動したボールをハリーが掴んだ。

 

「くっそ。もう少しだったのに……!」


 観客からのどよめき声を聞きながら鷲介は舌打ちを混じらせて呟く。

 ボールが移動するのを見ながら鷲介は監督に目線を向ける。こちらの視線に気づいた監督は無言で頷く。

 シュトルム夫妻と話した翌日、鷲介は監督に自身の問題点のことを伝え、状況が許せばドリブルをする許可を求めた。

 彼は少し考えこみ、OKを出した。そのあっさりした許可に鷲介は少し拍子抜けした。

 許可を出すにしても長い話し合いが行われるか、下手をしたら許可されないと思っていたからだ。

 再び鷲介の元にやってくるボール。反転してドリブルをしようとするがその前にミラが立ちはだかった。


「少しはマシになったみたいだな!」

「期待に応えないとと思ってな!」


 不敵に微笑むミラに鷲介は突撃。緩急を効かせたフェイントをして、右に切れ込む。

 それに見事反応し追尾するミラ。さらには足元のボールにも足を伸ばしている。

 前回対戦した時も感じたが、驚くべき一瞬の反応速度と動き。攻撃的守備という一面だけならあのヴァレリーさえも凌駕している。


(だがそう来ることは、予測済みだ)


 対戦するチームの要注意人物であり同じ”ゾディアック”。研究しないわけがない。

 ミラの足がボールを奪うより早く、鷲介はダブルタッチを発動。さらに一歩強く踏み込んで加速し、前に出る。

 しかし以前と同じくすぐに追尾してくるミラ。だがそれも前回の戦いで学習済みだ。

 鷲介はセンターレーンにいるエリックにパスを出し、自身はハーフレーンに突撃、リターンを要求。

 それにエリックの傍にいたオズワルトが一瞬気を取られ、近くにいたネルソンが動く。エリックはそれを見逃さず強引に切れ込み、ペナルティエリアギリギリ外からシュートを放った。

 マンチェスター・Aゴールに飛ぶ強烈なシュート。だがイングランド代表のハリーが横っ飛びのパンチングでボールを弾く。シュート直前、遅れながらもエリックの動きに反応したオズワルドが足を伸ばしてシュートの邪魔をしたせいだろう。


(クソ、やってくれる)


 仲間と声を掛け合うオズワルドを見て、鷲介は思う。

 今オズワルドが見せたシュートコースを限定する動き。クルトのそれによく似ている。

 いや、クルトから聞いた代表では年長者である彼に世話になったという話からするに、おそらく彼の技術がクルトに伝わったのだろう。

 ともあれ、鷲介が見せるドリブルと突破はチームをさらに勢いづける。

 そしてその勢いと攻撃に耐えきれなくなったのか、マンチェスター・Aも攻勢に転じようとするが、前に人数をかけているRバイエルンイレブンの激しいプレスで思うようにボールが運べない。


(行ける……! この調子なら前半のうちにゴールが奪える!)


 そう鷲介が確信した前半39分、久しぶりに発動するマンチェスター・Aのカウンター。

 だが最後に残っていたジェフリーが体を張って止め、事なきを得る。相手にFKを与えてしまったが、その間に皆は素早く自陣に戻り守りを固める。

 この状況、そしてこの時間帯で失点するわけにはいかない。皆の表情がそう物語っていた。

 フランキーが蹴ったボールは左へ。サイドでボールを収めたパトリックはすぐにRバイエルンのゴール前にセンタリングを上げる。

 それにクリスとジェフリーが飛び込み体をぶつかり合わせる。巨躯二人の激突はジェフリーに軍配が上がり、ボールはエリア外にこぼれる。

 それを拾うミラ。パスを出すかと思いきや、彼はミドルシュートを放ってきた。しかしそのボールをジュニオールの伸ばした足が弾く。

 それでもRバイエルンゴールに向かうボールだが、ボールが浮かんだ高さを見て鷲介は安堵した。


(よし。浮き上がりはしたがこの高さならボールはゴールバーを超える。

 ひとまずピンチは脱した)


 そう思った時だ、唐突に少し強い風がピッチに吹く。

 そしてその影響なのか、ボールは下に沈み込み、コースも変わる。ゴール左に向かったボールはゴールバー下部に当たりゴールラインを跳ね、Rバイエルンゴールの内側のネットに優しく沈み込んだ。


「……嘘だろ!?」


 予想外の先制点に喜ぶマンチェスター・Aイレブンとサポーター。そして頭を抱える仲間たちを見て、鷲介は叫ぶのだった。









「……あ」

「どうしたんですか由綺さん。……あらあら」


 由綺のスマホに表示されたアスフールスタジアムの試合状況を見て、隣に座るアイリスが控えめに驚く。

 今由綺がいるのはマンチェスターFCのホームスタジアムの観客席──その中でも選手の家族など親しい者が入ることが許されるVIP席だ。

 由綺の目の前で行われている試合、マンチェスターFCとユヴェントゥースTFCのゲームも向こうとほぼ同じ時刻に前半が終わっており、現在ハーフタイム中だ。

 ちなみにクラーラはアウェー席にいる。アウェーにいる少ないユヴェントゥースTFCサポーターと共に懸命な様子で応援をしていた。


「Rバイエルン、先制されてしまいましたか」

「試合内容を確認したところDFに当たってのディフレクションゴール。Rバイエルンにとっては不運なゴールと言えます」


 そう言うのはアイリスの傍に控えている執事チャーリーだ。アイリス同様彼もマンチェスターFCのファンらしく、由綺に対し前半何度か選手やチームの解説をしてくれた。


「そしてマンチェスター・Aにとってはラッキーな得点ですな。これでマンチェスター・Aはだいぶ余裕を持てるでしょうし、Rバイエルンはこれまで以上に攻勢を仕掛けなけてはいけなくなりました。厳しくなりましたな」

「そうなの? 前半の試合内容を見ていたサポーターのコメントや反応を見たけど、そこまで悲観しているものはなかったみたいだけど」


 スマホを操作しながらアイリスは言う。

 主の言葉にチャーリーは頷きつつも、


「確かに前半の勢いが続けばRバイエルンの勝利は十分にあり得ます。しかし忘れてはならないのは、Rバイエルンはジークフリート選手がいないということです。

 世界最高峰のストライカーである彼がこの試合にいれば、おそらく前半のうちに先制はしていたでしょう」


 チャーリーは確信が強く籠った声で言う。そして眉根を潜ませ、


「それにマンチェスター・Aの監督が、選手たちが何も手を打たないはずがありません。後半は大きく状況が変わるでしょう」


 さながら予言者のように宣言するチャーリーを見て、由綺の胸中で不安が大きく膨らむ。

 それを感じ取ったのか、隣のアイリスの小さく奇麗な手が由綺の膝に触れる。


「由紀さん、大丈夫ですか?」

「え、ええ」

「試合開始前も言いましたけど、アスフールスタジアムに行きたくなったらいつでも行ってくださいね。

 すぐにチャーリーが速く、安全にお送りしますので」


 アイリスの言葉に由綺は頷き、改めてスマホを見つめる。

 由綺がここイギリスにいるのは先週の月曜日、アイリスから遊びに来ないかと、またRバイエルンとマンチェスター・Aとの試合を観戦しないかと誘われたからだ。

 平日と言うこともあり有給が使用できるか確認したら、あっさりと許可は下りた。Rバイエルンのファンであり鷲介との関係を知る園長からは応援に行くと勘違いされ、しっかり応援してきなさいと肩を叩かれもした。

 そんなこんなで日曜日にやってきたロンドンだが、クラーラがいたことに由綺は仰天した。彼女もアイリスに誘われ、しかもマンチェスターFCとユヴェントゥースTFCのアウェー席まで用意してもらったという。


「せっかくの遊びの、いえCL観戦に誘ってもらったからね。断る理由はないわ!」


 そう言う彼女とアイリスと共に由綺は四日間過ごした。久々の、それも異国の旅行はとても楽しかった。

 ただ時折鷲介のことを思い出し、物思いにふけってはいたが。


(鷲くん……)


 鷲介と喧嘩したことは何度もあるが、たいてい数日でどちらかが謝り仲直りしていた。だから今回のような一月近くの長期にわたる喧嘩は初めてだ。

 あの時は岡本さんのことを悪く言われてかっとなったが、一週間ほど時間をおいて考え、自分も悪いような気もしてきた。

 

「うーん。由綺が怒るのは当然だけど鷲介の言い分にも一理あるわね。

 バレンタインのプレゼントを他の男性と買いに行くって言うのはちょっとどうかと思うわ」

「僕は鷲介が怒るのはわかる気がするなぁ。由綺は昔から誰隔てなく優しくて距離感がおかしいところがあったからね。

 今は多少は改善されているけど鷲介が嫉妬するってことは、また再発したんじゃないかな」


 イザベラ、グスタフらに電話で相談するとこのようなコメントが帰ってきた。

 そして他の友人に相談しても類似のコメントが。皆、喧嘩両成敗。早いうちに仲直りするようにと言ってきた。

 由綺はしばし考え、彼らの意見を受け入れた。よくよく考えれば自分に全く非がないとは言えない。

 いくら仕事仲間でお世話になっている先輩とはいえ、休みの日に二人きりで出かけるのはうかつな行動だったかもしれない。もし自分が鷲介に逆のことをされたらいい気分はしないだろう。せめて鷲介に一言言うぐらいはしてもよかったかもしれない。

 そう反省した由綺だったが仕事や勉強で忙しかったことや、最近の苦しむ鷲介の様子を見て、話をするのをためらった。

 鷲介が活躍した日の直後に話したほうがいいかもしれない──。そう思い、連絡を取ろうとはしなかった。

 ただそんな由綺の事情を知ったクラーラとアイリスは話を聞いた後、


「いやすぐに謝んなさいよ。ヤナギくんの調子が悪いのは由綺とのことも一因じゃないの?

 少なくとも私と喧嘩した直後のマリオはパフォーマンスは低下するわね。まぁキスの一つでもすれば回復するけど」

「わかりますその気持ち。私もたまにアーサーさんと喧嘩しますけど、どう謝ればいいか数日は悩みます。

 以前は考えすぎて一月ほど時間を空けてしまって、私が悪いのにアーサーさんが謝りに来てくれました……」

「まぁとにかく。喧嘩を長引かせてもいいことはないわね。

 悪いと思ったら謝る。そうでなければどうして喧嘩したのか話し合うべきね」

「クラーランの言う通りですね。

 自分にも非があるのでしたら、そしてまだ相手のことを想っているのでしたら自分の悪いところを謝って、どうして喧嘩したのか話し合うべきだと思います。

 喧嘩は仲を深める潤滑油とも言いますし。お互いが何を想っているのか理解するため、話し合うのは大切です」


 同じサッカー選手の、”ゾディアック”の恋人を持つ二人の意見を聞き、由綺の中の躊躇いはゆっくりと消えていった。

 ただ決意したのが数日前と言うこともあり、マンチェスター・A戦が終わった後にしようと思っていたが──


「……」


 0-1と表示されているRバイエルンとマンチェスター・Aのスコアを見て、由綺はかすかに眉を潜める。

 先のCLにて引き分けたものの、全体的に優勢だったと聞いていた。

 また遊びに誘ってくれたアイリスたちへの感謝もあったのでマンチェスターFCとユヴェントゥースTFCの試合を観戦。同時にスマホで試合経過を追っていたが、


(今からでも、駆け付けたほうが──)


 そう由綺が思った時だ。傍にいるチャーリーが言う。


「後半、始まりましたな」


 言われはっとなる由綺。視線を向ければ眼下のピッチでマンチェスターFCとユヴェントゥースTFCの選手たちが走っていた。

 そしてすぐにスマホを見ると、Rバイエルンとマンチェスター・Aの後半も開始されていた。

リーグ戦 19試合 14ゴール8アシスト

カップ戦 0試合 0ゴール0アシスト

CL 4試合 5ゴール2アシスト

代表戦(三年目)1試合 1ゴール1アシスト

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