表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダッシュ!!  作者: 浮雲士
三部
129/194

イタリアW杯、組み合わせ決定




「しゅうにいちゃん! はやくはやく!」

「わかったよリーザ。そう急かさないでくれ」


 大仰に騒ぐ異母妹に微苦笑しながら鷲介は自宅のリビングに向かう。

 12月中旬と言うこともあってしっかりと暖められたリビングには父空也と義母サーシャに恋人である由綺。

 他には友人のイザベラ、グスタフ、そして親友であるミュラーの姿がある。

 家族と友人勢ぞろいな今日。理由はリビングのTVに映し出されている。


「ようやく来たのね。もう始まるわよ」

「イタリアW杯の抽選会。さて日本と我が母国ドイツはどのグループになるのかな」


 TVに釘付けとなっている皆。

 そう、今日──と言うか今から来年に行われるイタリアW杯の組み合わせ抽選会が行われるのだ。


「もしかして日本とドイツがグループリーグでいきなり当たったりしてね」

「怖いことを言うな。もしそうなったらリビングが凍り付くだろ」


 ミュラーの言葉に鷲介は眉を潜めて言う。


「さてまずはグループA。開催国であるイタリアの席はすでに埋まっているから残り三チーム」

「どの国が来るかしらねー」


 W杯の組み分けはWFUA(世界サッカー協会)に記録されている順位を1~4のポッドに分けて決まる。

 ざっくり言うとこんな感じだ。


 ポット1:開催国とWFUAランキング1位~7位

 ポット2:WFUAランキング8位~15位

 ポット3:WFUAランキング16位~23位

 ポット4:大陸間プレーオフの勝者3チームとWFUAランキング24位~28位


 ちなみにドイツはWFUAランキング5位なので間違いなくポット1。一方の日本は23位。ポット3である。


「ああっ!?」

「嘘!早い!」

「わあっ!」


 自分の分のコーヒーを入れようとキッチンに向かった鷲介の耳に届く、家族と友人たちの驚く声。

 まさかと思い急ぎ足でリビングに戻るや、TV画面に表示されているそれを見て鷲介は固まる。


「鷲介! 日本はグループAだ!」

「対戦国は開催国のイタリアにウルグアイ、カメルーンよ」

「んがっ!?」


 両親の声を聞いて思わず鷲介は奇声を上げてしまう。

 そして改めてソファーに腰かけTVに食い入るような眼差しを向ける。

 両親の言う通りTV画面に表示されているグループAの組み合わせはイタリア、ウルグアイ、日本、カメルーンの名がデカデカと映し出されていた。

 二人の声を聞いたとき一瞬聞き間違いかと思ったが、そうではなかった。


(何つー組み合わせだ……!)


 予想を超えた最悪の組み合わせにくらっと来る。

 開催国イタリアはもちろん他の国々も間違いなく強敵だ。だが何より、この四か国には一つの共通点がある──


(グループリーグの国々全部に俺達ゾディアックがいるとか、どんな悪戯だよ……!)


 イタリアのマリオにウルグアイのアルベルト。そして未対戦であるカメルーンの”ゾディアック”、パトリック・ミラ。

 鷲介としてはポット1と2で”ゾディアック”を要する国と対戦するところまでは想定していた。しかしまさか三カ国全て”ゾディアック”を要する国が来るとは。

 TV画面の向こうでもイタリア人のアナウンサーが戸惑った様子で話を続けている。

 無理もない。イタリアとしても日本を含めた三国は格下ではあっても侮ればやられる相手だとわかっている。力の差はあってもどの国も過酷な予選を勝ち抜いてきたのだ。弱いわけはない。

 しかもその国々全てに世界トップクラスの実力を持つ若手──”ゾディアック”を要するとなれば平然とはしていられないだろう。下手をすれば開催国イタリアとてグループリーグ敗退する可能性もあるのだから。


「グループAは間違いなく、今大会の死のグループの一つだね……」


 しみじみとした表情で言うミュラー。

 最初で特大の爆弾が落ちたせいか、他のグループの組み合わせはさほど盛り上がりを見せなかった。

 そしてイタリアW杯のA~Hグループの組み合わせが決定し、TV画面に映し出される。


 グループA イタリア、ウルグアイ、日本、カメルーン


 グループB フランス、ポルトガル、コロンビア、イラン


 グループC アルゼンチン、スウェーデン、アメリカ、コートジボワール


 グループD イングランド、メキシコ、セネガル、サウジアラビア


 グループE オランダ、ナイジェリア、デンマーク、コスタリカ


 グループF ブラジル、セルビア、カナダ、オーストラリア


 グループG ドイツ、クロアチア、パラグアイ、韓国


 グループH スペイン、ウクライナ、アイルランド、モロッコ 


「南米の優勝候補ブラジルとアルゼンチンは比較的楽なグループになったわね」

「欧州ではオランダ、スペインが楽な組。

 フランスとイングランド。そして我がドイツは中々に難しい組み合わせになったね」


 イザベラとグスタフのコメントに口を挟む者はいない。

 アルゼンチンのグループCとブラジルのグループF。オランダのグループEにスペインのグループH。

 これらのグループはポット1の強豪国が実力で頭一つ抜けており予選通過は固いと鷲介も思う。もちろん油断しなければという条件つきだが。

 一方のフランスがいるグループBはポルトガルとコロンビア。欧州と南米の雄と言うべき難敵二国と鷲介と同じ”ゾディアック”を要するアジア最強国の一つであるイラン。

 イングランドのグループDは北米最強であり”ゾディアック”の一人がいるメキシコにアフリカ選手権二大会連続ベスト4のセネガル。アジア最終予選では無敗でW杯出場権を得たサウジアラビア。

 そしてドイツのEグループはテクニックがあり尚且つ粘り強い、泥臭い戦い方をして近年必ずグループリーグを突破しているクロアチアに数年前に行われた南米選手権で南米屈指の堅守とカウンターで三位と言う好成績を残したパラグアイ。そして鷲介が現れるまでアジアNo1ストライカーと呼ばれていたアン・ソンユンを要する韓国。


(とはいえ、いつまでも他の国の事を考えてる場合じゃないな)


 鷲介は心中で呟き、対戦国のことを思う。

 まず開催国のイタリアはグループリーグ最大の強敵だ。どのポジションにもワールドクラス、準ワールドクラスを一人は要しており隙がない。

 イタリア伝統の守備とカウンターは健在でありEUROではベスト4で敗退したものの失点したのはその準決勝だけと言う硬さ。

 パッと思いつく有力選手はRドルトムントのステファノ、ユヴェントゥースTFCのバッジョにバレージ、ジャンルイジ。先日CLにて戦ったばかりのRNSミランのシルヴィオやディノと言ったところか。

 そしてそれにあのマリオが加わる。しかも彼らの故国であるイタリアでだ。紛れもなくAグループ最強の相手だ。

 ウルグアイはブラジルとアルゼンチンに次ぐ南米予選三位通過。しかしその予選でブラジルに対しては二分け。アルゼンチン相手には一分一敗とほぼ互角の勝負をしている。

 その中核となったのはチームメイトであるブルーノと鷲介と同じ”ゾディアック”のアルベルト、日本代表不動の右SB田仲祐希と同じNASミランに籍を置く現役最強の双子選手と言われるスアレス兄弟。

 そしてかつてスペインリーグにて活躍し、現在では母国リーグにてゴールを量産している代表のレジェンド、アルバロ・フランチェスコリ。

 南米特有のテクニックを持ち、尚且つ粘り強く泥臭い試合をする彼らは間違いなく強敵だ。彼ら相手にはイタリアとて不覚を取るかもしれない。

 最後のカメルーン。守備に不安定さはあるが、勢いに乗れば強いチームだ。W杯出場権をかけた最終予選の対戦相手エジプトにホーム、アウェイ共に先制されるも同点に追いついて十分も経たず逆転しておりさらに得点を積み重ねた。

 結果ホームでは3-1。アウェーでは5-2。トータルスコア8-3と言う見事な結果を出している。逆転した後の勢いという点ではグループリーグの中では一番といっていい。

 そんな不屈のライオンをけん引するのはRゲルセンキルヒェンの絶対的エースストライカーであるサミュエル・オリンガ。それにフランスリーグNo1快速ストライカーと言われるアンリ・エトーにRドルトムントのアルベール・オレンベ、マンチェスターFC不動の右SBであるジェイソン・ヌクルとロンドン・トッテナムの若きCBジャン・オマン=ビイクと言った面々が続いている。もちろん”ゾディアック”が一人、パトリック・ミラも彼らと共にいるだろう。


(ほんとこのグループ、死の組だわ……)


 対戦国の主要メンバーを思い返し、改めて鷲介はどんよりとする。

 鷲介要する現在の日本代表は史上最強の呼び声が高いが、そのサムライブルーでさえこのグループリーグを突破できる自信は沸いてこない。

 だが半年先のことをいつまでも悲観しているわけにもいかない。今は目の前の事に集中するべきだ。

 大きく息を吐いて鷲介はソファーから腰を上げ、ミュラーに言う。


「ミュラー、俺の部屋でLミュンヘンの研究をしようぜ」

「そうだね。W杯のことはひとまず置いておこう。僕たちが今、気にしなければならないのは週末の首位攻防戦だからね」


 頷く親友と共に、鷲介は自室に足を向けるのだった。







リーグ戦 8試合 5ゴール 2アシスト

カップ戦 0試合 0ゴール0アシスト

CL 3試合 5ゴール1アシスト

代表戦(三年目)1試合 1ゴール1アシスト

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ