イタリアの空の下で、赤のチームは躍動する1
スタディオ・ファビオ・リーヴァ。イタリアリーグの名門、RNSミランとNASミランの二チームが共同で使用しているホームスタジアムである。
百年近い歴史を誇り、二チームに在籍したチームとイタリア代表のレジェンドであるファビオ・リーヴァの名前が冠されている。
「|フォルツァ(頑張れ)! RNSミラン!」
「フォルツァ! ロッソネロ!」
試合前だというのにスタジアムには熱狂的なサポーターの声が轟いている。
数日前──先週の土曜日にも聞いたそれに鉄一はかすかに顔をしかめながらアウェー席──Rバイエルンサポーターがいる席に兵藤と共に腰を下ろす。
「さてとCLグループステージも最終節。
両チームは共に五節で勝利しているから決勝トーナメント進出は確定している。
普通なら後々のことを考えて多少はメンバーを落としたりもするのだろうが」
「スタメンを見る限りそう言った様子はないですね。どちらもベストメンバーを揃えています」
スタジアムにある電光掲示板に表示されている両チームのスターティングイレブンを見て鉄一は言う。
ホームのRNSミランは前回と同じ4-4-2のダブルボランチであり、構成されている選手も同じだ。
GKはイタリア代表のディノ・ガルヴァーニ。RNSミランの直近四試合連続無失点の要だ。
右SBはイタリア代表のパオロ・プローディ。攻守どちらにも高い能力を持つ万能DFであり、前々回のリーグ戦では見事なゴールを、そして先日の試合ではアシストを決めている。
左SBのアルジェリア代表リヤド・マトムールはリーグ屈指の超攻撃的SBだ。先日の試合では殆ど中盤の位置にまで上がっており、ドリブルや精度の高いロングパスでRNSミランの攻撃を活性化させていた。
両CBはもはやイタリアリーグはおろか、おそらく欧州のクラブの中でも三本の指に入るといってもいい程強力な二人。クラブ、そしてイタリア代表の守備の要であるシルヴィオ・ネスタと、まだ20歳ながらクラブとレ・ブルー──フランス代表の不動のレギュラーとなっている”ゾディアック”の一人、ヴァレリー・ロベール・テュラム。両者とも守備も見事だが現代型CBの最高峰であり、リーグ戦やカップ戦でも見事なパスからアシストを量産している。
(ヴァレリー……!)
ヴァレリーの名前を見て、思わず鉄一は視線がきつくなる。いや実際、このスタジアムに入った時から機嫌は悪かった。
というのも先日の土曜日の試合で鉄一と兵藤が所属するペルージャFCはRNSミランとここスタディオ・ファビオ・リーヴァで対戦し、5-0という大差で敗れていたからだ。
地力は相手が勝っていることはわかっていたしペルージャFCは主力選手が怪我やカード累積でいなかったこと、そして試合では前半早々一人退場者がでたなど理由はいくつもあったが、さすがに5失点もすれば心穏やかではいられない。スタメンで出場した鉄一も兵藤もイタリアのメディアにはボロクソに叩かれたものだ。
正直今日、事前に試合のチケットを取っていたとはいえ試合を観に行こうか直前まで迷っていた。だがRNSミランと同じくリーグ戦では好調であるRバイエルンと、スタメンを奪い返しつつある鷲介に期待して足を運んだのだ。
「アンジェロの奴、怪我で出れないかもしれないとかニュースで言っていたが、ばっちりスタメンに入ってやがるな」
「自分たちの試合ではベンチ外でしたね。……全く」
舐めてくれたものだと言おうとして鉄一は止める。実際、ペルージャFCは0-5で負けており、何を言っても負け惜しみになるからだ。
中盤ダブルボランチはともにイタリア代表であるアンジェロ・マテラッツィとジェレミア・ロイク。チームの司令塔であるアンジェロはチームの攻撃を牽引する存在で、現在のチームのアシスト王だ。ジェレミアはアンジェロとは対照的に目立たずゴールもアシストもほとんどないが、そのパワフルな守備力は彼以上であり、ペルージャFCの反撃の半数近くを彼一人が止めていた。
両SMFは右にコートジボワール代表のアルナ・オーリエ。ペルージャ戦では強烈なミドルを叩き込んでいる。左のオランダ代表のルーク・デ・フロートは足にボールが吸い付いていると思うようなトラップを今季何度も見せている。
「Rバイエルン守備陣には何としても、エミリオの奴を抑えてほしいな」
「俺としてはエメルソンさんを封殺してほしいです」
ツートップに目を向け、鉄一と兵藤は同時に剣呑な声で言う。
イタリア代表のエミリオ・フェラーラは今季も好調で現時点でイタリアリーグ得点王ランキング二位につけている。ちなみにペルージャ戦では彼にハットトリックを決められていた。
そしてベテランでありブラジル代表のエメルソン・イゼクソン・デ・ソウザはペルージャ戦で1ゴール2アシスト。5失点した半分の理由は彼の巧みなオフ・ザ・ボールの動き出しとドリブル、そしてそれから繰り出すパスが的確にこちらの守備の隙を正確に突いたからだ。
先日の試合を思い出したのか、二人とも微かな怒りを発する。しかしそれを収めて視線をアウェーチームのスタメンに向ける。
「Rバイエルンもシステムは従来通りの4-3-3。
GKは怪我から復帰したばかりのアンドレアス。DFラインはフリオにクルト、ジェフリーにジュニオールと言った今季のベストメンバーか」
「中盤3人の底はミュラー、両SMFはフランツ選手とアレン・トゥドール選手ですか」
「最近リーグ戦でもスタメンで出ることが多くなっているからなアレンは。一方でアントニオは調子が悪いことが多い。それを考慮しての選出だろう」
本職はFW──それもウイングであるアレンだが、Rバイエルンにおいては中盤で出ることが多い。
昨季は移籍してきたばかりということもあってか途中出場が多かったが、今季は半々と言ったところだ。鷲介がベンチやベンチ外の時などはFWとして出場もしておりリーグ戦では3ゴール5アシストとなかなかの結果を残している。
「そしてFWは右から柳にジークフリート選手、エリック選手ですか」
「今季スタメンを張ることが多かったアレックスはベンチ外か。先日のヴォルフFC戦の試合後、負傷したという情報があったがどうやら真実だったようだな」
「ええ。……兵藤さん、この試合、どうなると思いますか?」
「前回と同じく接戦だろう。両チームとも疲労はあるだろうがリーグ戦でも調子は悪くない。純粋な自力でもほとんど差は無いからな」
ただ、といったん言葉を切って、兵藤は続ける。
「ここがスタディオ・ファビオ・リーヴァということを含めればRNSミラン優勢だな。
またRバイエルンはあの鉄壁の守備陣を明確に崩せる作戦があればいいのだが」
「鷲介を左に移してボールを集めるのは、対処されていると?」
「されない方がおかしい。監督はあのフィリッポ・リッピだ。RNSミラン黄金期の要であり、イタリアリーグ屈指の名将だぞ」
フィリッポ・リッピ。RNSミランの監督である彼はクラブ、そしてアズーリのレジェンドだ。
現役時代CBとしてクラブ、代表共に守りの要として活躍。欧州選手権やW杯優勝の立役者の一人と言われている。
そして監督としても有能だ。十年近く前、低迷していたRNSミランにやってきてはコーチ、ユース監督として実績を上げて五年前トップチーム監督に就任。
監督二年目にして久方ぶりのリーグ制覇を果たし、カップ戦は三度の優勝。古豪と言われかけていたRNSミランを再び優勝争いに絡ませる強豪へと変貌させたのだ。
「相手の攻撃を誘発しての高速カウンター。それに俺たちもやられたからな」
「そうですね……」
先日の試合のことだ。
試合開始早々に失点した上、前半で退場者が出た後はさらに押し込まれていたペルージャFCだったが、全員一丸となっての攻守で何とか追加点は免れていた。
そして後半開始直後にペルージャFCが得意とするカウンターがさく裂し同点に追いつくかと思ったが、ゴール前で待ち構えていたヴァレリーにあっさりとボールを奪われ逆カウンターを食らい失点。
同点に追いつけるという希望を砕かれたうえに失点というダブルパンチに鉄一達は激しく動揺。そこをRNSミランイレブンは容赦なく突いてきて後半十五分の間に四失点してしまっていた。
「そういえば前回のRバイエルン戦でも似たようなシーンがありましたね」
「鷲介がボールを奪われてのカウンター。決勝点となったあれだな。
ともあれRバイエルンがRNSミランを攻略する術を持っていないのであれば、厳しい戦いにはなるだろうな」
◆
控室を出た鷲介たちRバイエルンイレブンは真っすぐ入場ゲートに向かう。
到着すると、ゲートには先にホームチームであり対戦するRNSミランイレブンの姿がすでにあった。
前回と同じく顔見知りと会話をするチームメイトたち。鷲介の元には当然──というには非常に嫌なのだが──ヴァレリーがやってくる。
「九月以来だなヤナギ。調子はどうだ?」
「別に普通だ。お前は調子よさそうだな」
互いに刺すような視線を向けながら穏やかな口調で会話をする鷲介とヴァレリー。
「ああ、絶好調だぜ。先日の試合も5-0で圧勝したからな。
──そういえばペルージャFCにはお前と同じ日本代表の選手がいたな。しかしあのレベルで代表に名を連ねるとはな。所詮はアジア人ということか」
「テツたちが未熟なのは否定しないが俺や小野さんを一括りにするのはどうかと思うぜ」
「そうかよ。じゃあそれを今日の試合で証明して見せるんだな。──前回の時のような無様な姿を見せないでくれよ」
見下すような顔でヴァレリーは言い、背を向けて去っていく。
鷲介は大きく息を吐いて胸中に膨れ上がった怒りの炎を小さくし、列に並び直そうとする。そこに申し訳なさそうな顔をするエメルソンがやってくる。
「すまないな鷲介。あれはヴァレリーなりの激励だと思ってくれ」
「激励にしては挑発が過ぎると思いますけどね」
鷲介の言葉にエメルソンは苦笑いを浮かべる。
「怪我の具合はもういいようだな。安心したよ。
それと最近の試合を見たが前回と比べてオフ・ザ・ボールへの動きは良くなっていたよ。
まぁ俺やジークフリートには到底及ばないがな」
静かな口調の中に強い自尊心を感じさせるエメルソン。
「前回と同じく今回も俺たちが勝たせてもらう。
すでに決勝トーナメントへの進出は決めているが、やはり最後を勝利で終わるのと負けるのとでは勢いが違う。
それに二位で決勝トーナメントに進むのはもううんざりだからな」
軽い口調ながらもかすかに眉をしかめてエメルソンは言う。
去年、そして一昨年もだがRNSミランは二年連続二位で決勝トーナメントに進出しており、どちらも優勝候補と言われるチーム──RマドリーとマンチェスターFC──と対戦して敗退している。それを指して言っているのだろう。
「俺もそう思います。
それにここで前回の借りを返さないと次がいつになるかわからないですからね」
鷲介の言葉を聞きエメルソンは一瞬、視線を鋭くする。しかしすぐに笑顔となって鷲介の肩を叩き、列に戻っていった。
主審たちに呼ばれて整列し直す両チームイレブン。盛大な音楽──CLのテーマソング──が流れるのを聞きながら二十二人の選手たちはピッチに足を踏み入れる。
サポーターの声援が響く中、記念撮影や両チーム同士の試合開始前の握手を済ませ両チームのイレブンはピッチに散らばる。
慣れ親しんだ右ウイングの位置で鷲介はヴァレリーとセンターサークル内にいるエメルソンに視線を送り、小さく鼻を鳴らす。
(勝つ)
心中で必勝を誓うと同時、試合開始の笛の音がミラノの空に鳴り響く。
鷲介はジークに視線を向けると、全速力でエメルソンが下げたボールを追いかける。いきなりのプレスに驚くRNSミランイレブンだがすぐに気を取り直して味方にパスを出しかわす。
最後尾にいるシルヴィオに渡るボール。鷲介は彼にも突撃するがシルヴィオは慌てた様子を見せず前線へフィード。ミュラーに競り勝ったエミリオが右サイドに頭で落とすが、そこにジュニオールが詰め寄りミスを誘発。
こぼれたボールをアレンが広い鋭く反転してはフランツに渡し、そのフランツから強烈なパスがジェレミアのマークを外した鷲介の足元に届く。
ボールを受けると同時に前を向きゴールに向かう鷲介にスタジアムは騒めく。エリック、ジークが作戦通りに動いてくれたことによりRNSミランイレブンはその動きに惑わされ、鷲介への反応が遅れる。
一気にゴール前に迫る鷲介。しかしペナルティライン間にヴァレリーが立ち塞がる。
絶対の自信に満ち溢れた、傲慢な笑みを浮かべているヴァレリー。それに鷲介は真顔で突撃。一気に間合いが縮まりボールを奪うべくヴァレリーが動いたその時だ、
「!?」
強い自負に溢れたヴァレリーの顔が驚きのものとなる。今まさに激突する瞬間、鷲介が左後ろにいるジークにパスを出したからだ。
減速しながらヴァレリーの左側へ移動し、ジークからのロブパスが放たれた瞬間、加速。要望通りジークのパスはヴァレリーの頭上を超えて、エリアに侵入した鷲介の元へ。
「お前……!」
驚きと怒りの混じったヴァレリーの声を聞きながら鷲介は落ちてくるボールと飛び出してくるGKの位置を見て右足を振るう。
ゴール右隅を狙ったシュート。先制点──。と狙い通りの軌道を取るボールを見て鷲介が思ったその時だ、左からシルヴィオが体を投げ出すような姿勢で飛び出してきては、伸ばした左足でボールを弾く。
ゴールラインを割るボール。スタジアムから安堵の息が漏れる。
「やれやれ。念のために警戒していて正解だったよ」
体を起こしてシルヴィオは言い、近づいてきたヴァレリーに向かって厳しく言う。
「見事釣られたねヴァレリー。開始早々がむしゃらに向かってくる柳くんを見て君と一対一を挑むと思ったのだろう。
だがジークフリート達の動きをしっかりと見ていれば今のようなシーンになる可能性も考えて対処し、このようなピンチになることもなかっただろう。彼ばかりに気を取られた君のミスだ」
「ぐ……」
苦いものを噛んだかのような顔になり押し黙るヴァレリー。一方、シュートを止められた鷲介も表情を硬くする。
(こちらの狙いをあっさり看破しやがった……!)
シルヴィオの言う通り、ボールを追う姿とジーク達を見向きもしない突撃はヴァレリーを引っ張り出し彼の裏に飛び込むためだ。
試合開始直後いきなりボールを追っていたのも、ヴァレリーに一対一の勝負をしかけたのもすべては今の場面の伏線に過ぎない。
「柳くん。最近の君を見ていればこうなる可能性は十分に考えられた。
ヴァレリーは騙せても僕はそうはいかないよ」
「そうみたいですね」
シルヴィオはコーナーに向かって行くフランツと周囲をぐるりと見渡し、言う。
「さぁ、まだ試合は始まったばかりだ。存分にやり合おうか!」
現イタリアリーグ、そしてアズーリNo1と言われるDFの覇気のある言葉がピッチに響き渡った。
◆
ピッチの上空、高く舞い上がるボールはセンターラインを越えてRバイエルンゴール間近くにいるエミリオの元に届く。
ジェフリーに密着されながらもボールをトラップ、駆け寄ってきたエメルソンにパスを出す。やや浮いたボールをベテランのブラジル代表は難なくトラップし、カウンターにより陣形が整っていないRバイエルンの守りに突撃する。
周りのRバイエルンサポーターから聞こえる悲鳴。ピッチ中央を突き進むエメルソンの前にはクルトしかいない。彼を抜けば大チャンスだ。
慎重に距離を取るクルトにエメルソンも動きを調整しながら迫る。そしてペナルティアークまであと二メートルといったところでクルトは急接近。右に体を傾けたエメルソンからボールを奪おうとする。
早く正確なタックル。しかしクルトの足がボールに触れようとしたその時、ボールとエメルソンの体が左に急加速。ダブルタッチでクルトをかわし前に出る。
「! 危ない!」
「いや、まだだ!」
先程よりさらに大きな悲鳴を聞きながら鉄一は立ち上がり、隣に座る兵藤は言う。
彼の言う通りペナルティエリアギリギリのところにいるエメルソンに、アンドレアスが飛び出して前を塞いでいた。
195センチの長身を広げての突撃。それはシュートコースを塞いでおり打っても入らない。
そう鉄一が思ったその時だ。エメルソンはボールを蹴る。ボールはふわりと宙に浮き、アンドレアスの頭上を超えようとする。
先制点。鉄一の心の中にその単語が浮かび上がるが、現実はそれを否定した。アンドレアスは素早く一歩下がると頭上を超えようとするボールに左手を伸ばし、ボールを弾いた。そしてそのボールをクルトが抑え近くの味方に渡した──
「ふー。危なかったですね」
「さすが世界最高クラスと言われるGKだ。エメルソンのループも大抵のGKなら決まってはいるが、今回はアンドレアスが上を行ったな」
賞賛、そして微かな嫉妬交じりのコメントをする兵藤。
「しかし戦況は俺たちが思っている以上にRNSミラン優勢ですね」
「前半開始直後のRバイエルンの先制点のチャンス。あれを防いだことでRNSミランの動きがより一層引き締まったからな」
前回勝利したことや最近のリーグ戦で好調なためか、開始直後のRNSミランは浮ついているような空気だった。
しかし危機を防いだシルヴィオが何かを叫んだあと、味方のイレブンたちに緊張が走った。そして彼らは難なくCKを防いだ。
「あ、まただ……!」
上がろうとしたが横にいる味方にパスを出すジュニオールを見て、鉄一は歯ぎしりする。
Rバイエルンの攻撃はいつもと同じ5レーンアタック。それに対してRNSミランも前回と同じ5バックとなり対抗する。
5レーンに一人ずつDFを配置する。5レーンアタックの対抗策として最もシンプルなやり方だが、RNSミラン守備陣の意識の共有の高さと前回対戦した経験によるものか、Rバイエルンが攻めにくい守りを以前に比べてより早く対応できるようになっている。
それを打ち破るためアレンや鷲介にボールを渡されるが、ジェレミアに完全に油断を無くしたヴァレリーが彼らの前に立ち塞がり自由にさせない。ガチガチに固められた守備を崩すべくフランツや下がってきたジークフリートがミドルを撃つこともあるが、シルヴィオやディノが立ち塞がりゴールを許さない。
「ジークフリートのオフ・ザ・ボールで守備陣に穴が開いたり味方がフリーになることもあるが、エリックや鷲介がそこに飛び込む前に閉じてしまっているな」
「ええ。シルヴィオとディノ、ヴァレリーの動きやコーチングでですね。柳たちもジークフリートと同じようなことをしていますが、効果は彼ほどではないですし」
「いかにRNSミランとてフルタイム今の守りが維持できるとは考えにくい。だがこのままでは先制点はRNSミランに入るぞ」
そう兵藤が呟いてすぐのことだ。ボールを奪ったRNSミランのカウンターがさく裂する。
ボールを奪い前に進んだヴァレリーから出たボールがアルナに届き、右サイドを疾走。追いかけてきたジュニオールが先回りしてペナルティエリア近くで立ち塞がるも、アルナは中にパスを出すふりをして再びサイドに侵入。食い下がるジュニオールよりはやくゴール前にセンタリングを上げる。
エリア内に飛んだボールにエミリオとクルト、アンドレアスが交錯。アンドレアスのパンチングでボールは外に弾かれるが、それをアンジェロがするっと足元に収め左サイドから中にパスを出す。
ボールの行く先にはエメルソンとミュラーの姿が。ボールをトラップした瞬間奪おうとしているのか突撃してくるミュラーだが、エメルソンはそれを見切ったかのようにボールをスルー。驚き固まる彼の横と股間を通ったボールに反転して追いかける。
必死の形相でミュラーも追いかけるが当然エメルソンの方がボールに触れるのは早く、一気にペナルティエリアギリギリ外に近づく。
右へのカットインを警戒した位置取りで立ちはだかるジェフリー。しかしそれに構わずエメルソンは左からカットインしてシュートを放つ。
緩やかなボールがジェフリーを掠めるようにゴールに向かう。ボールはゆっくりと右に曲がり鉄一が入るのかと思ったのと同時、ボールはバーに当たりアンドレアスが飛びついて抑えた。
「DFをかわすように飛び出してくるカーブシュート。あれを撃たれて枠内に飛んでいたらやられていたな」
「ええ。あと数センチ、いやミリ内に曲がっていたら……」
安堵の息が周囲から漏れるのを聞きながら鉄一は頬に浮き出た冷や汗を拭う。
同じく安堵するRバイエルンイレブンへキャプテンのフランツが声をかけているが、あまり効果は見えない。
攻めあぐねている上、今日は何度も今のようなカウンターを食らっているのだ。無理もない。
(どうする柳……!?)
深刻そうな顔をしながら汗を拭っている日本代表のチームメイトに、鉄一は心中で呼びかけるのだった。
リーグ戦 8試合 5ゴール 2アシスト
カップ戦 0試合 0ゴール0アシスト
CL 2試合 2ゴール1アシスト
代表戦(三年目)1試合 1ゴール1アシスト




