頂に登るは天使か鷲か3
「直康さんの様子はどうでした?」
「普段通りには見えたよ。ただこの終盤の時期の離脱に何も思ってないことはないだろうね」
行きつけのカフェの席に腰を下ろした英彦は右隣にいるヴァレンティーンに言う。
ドイツリーグ32節があった翌日の今日、英彦は昨日の試合で負傷退場した直康の様子を見に行ってきた。
「離脱期間はチームドクターが言っていたのとほぼ変わりなかったそうだよ」
「4か月の長期離脱ですが……。
今年は降格争いがないとはいえELへの出場権を手に入れるのは厳しくなりましたね」
左に座っているガブリエルが眉を潜ませる。
同じDF、それもSBというポジションということもあるのか、英彦より深刻に考えているように思える。
英彦も心配はしているが彼ほど深刻ではない。今季のハンブルクFは残留争いとは無縁の順位にいるからだ。
むしろ英彦個人としてはフランスの中山が活躍している現在、直康の日本代表としての立場が心配ではある──
「残り2節、7位Bレヴァークーゼンとの勝ち点差は2。6位、フランクフルトKとの勝ち点差は3。
とにかく僕たちは勝ち続けたうえで、彼らの取りこぼしに期待しよう」
昨年リーグで降格争いをしていたハンブルクFだが、今季は大躍進というべき結果を上げていた。
取りこぼしはいくつかあったものの現在リーグ8位。しかも残り2節の結果次第では、EL出場権が得られる6位に入れる可能性も残している。
今季は昨季と比べて負傷者が少なかったこともあるが、英彦を始めとする移籍組の面々が大した問題も起さずチームに溶け込んだこと、またヴァレンティーンやガブリエルといった若手の急激な成長と活躍があったからだ。
英彦もハンブルクFの初めてのシーズンだったが軽傷こそあれど長期離脱するような怪我もなくチームに溶け込みレギュラーを確保。9ゴール10アシストを上げておりゴールとアシスト両方で二桁達成も夢ではない。
「しかし優勝争いも佳境ですね。
とうとう三チームに絞られましたか」
「Lミュンヘンが負けて脱落したからな。しかしこの三チームも勝ち点に差がない。
優勝の争いは最終節にまでもつれ込むだろう」
32節終了時点での優勝争いはこんな状況だ。
1位:Rドルトムント 32試合24勝7分け1敗 勝ち点79(得失点の差)
2位:ヴォルフFC 32試合25勝4分け3敗 勝ち点79(得失点の差)
3位:Rバイエルン 32試合25勝4分け3敗 勝ち点79
4位:Lミュンヘン 32試合22勝6分け4敗 勝ち点72(脱落)
「英彦さんはどこが優勝すると思いますか。やっぱり鷲介がいるRバイエルンですか」
「僕はRドルトムントかなって思うよ。カップ戦、CLも敗退した彼らはリーグに集中できているし負傷離脱した面々もほとんど戻ってきた。
相変わらずカール・アドラーは絶好調だしね」
ガブリエルの問いに英彦はそう答える。
昨日の試合でも勝った1位のRドルトムント。CL敗退から彼らは全ての試合をクリーンシートで済ませており、若きエースストライカーであるカールは昨日もゴールを決めてこれで28得点目。得点王ランキング1位の座を堅守している。
「僕はヴォルフFCを応援しているかな。
同じ中堅クラブだったかのチームに優勝してほしいと思っているよ」
注文したコーヒーを一口飲んでヴァレンティーンが言う。
2位のヴォルフFCも昨日の試合では見事に勝利している。またカールやジークフリートと同じ得点王争いをしているヴォルフガングもしっかりとゴールを決めて通算27点目を獲得している。
「ガブリエルはどこのチームを応援しているのかな?」
「僕は別にどこでも。ただ鷲介やカールがいる2チームを注視していますけど」
難しい顔でガブリエルは言う。
どちらも同い年。鷲介は昨季──シーズン後半だけだが──同僚であり、カールは年代別代表からの付き合い。
両者とも思い入れがあるため、一概に決められないといったところだろう。
「しかしRバイエルンは昨日の試合は危なかったですね。
2-1の辛勝。それもロスタイムに入る5分前にようやく勝ち越しましたし」
「水曜日のRマドリー戦を見据えてレギュラーメンバーを絞ったのだろうけど、相手は降格争いをしているチーム。予想以上に粘られていたな」
鷲介とエリックはベンチ外。フランツ、ジークフリートの2人をベンチに置いた昨日のRバイエルンはアウリポリス04と対戦。
前半20分も経たず先制し、その後も優勢に試合を進めていたが追加点は奪えず。そして後半20分、一気に三枚替えをしてきた相手チーム。その直後に同点に追いつかれた。
そこから優勢だった試合は一転して互角──いや同点に追いつき勢いが増したアウリポリス04が優勢となる。Rバイエルンも一気にジークフリート、フランツの二枚を投入したが瀬戸際のあるチームの異様な粘りと執念に試合の最後まで勢いを取り戻せなかった。
しかし結果を残すのはさすがの一言だ。ファウル気味のタックルを受けつつもフランツは矢のようなスルーパスを放ち、それをジークフリートは相手DFを抜け出し強烈なシュートを追いすがるアウリポリス04のゴールに叩き込んだのだ。
ともあれこのゴールで辛勝したRバイエルンも優勝争いから一歩も引かず、またジークフリートも通算27ゴールをゲット。得点王争いにも追従している。
「さて明後日のRマドリー戦。どうなるかね」
「勝つに炉負けるにしろ厳しい戦いにはなるでしょう。昨日の試合もそうでしたが水曜日のカップ戦も接戦の末、負けていますし」
「伏兵メンヒェングラードバッハSCに2-1だったな。試合終了間際に追いつかれて延長戦で逆転弾。
なにやら雲行きが怪しくなってきていますね」
◆◆◆◆◆
「Rマドリーが優勢だろう」
昼下がりの公園にてサッカーボールで楽しげに遊ぶ子供たちを見ながら兵藤は言う。
鉄一が借りている家から近いこの公園。快晴で穏やかな気候の今日、なんとなく昼食を外で食べたくなった鉄一は行きつけのパン屋から購入した昼食をもってここを訪れた。
心地よい日差しと風を感じながらのんびり過ごす鉄一。そこへ近所に住んでいる兵藤がやってきた。当然鉄一は声をかけて彼と取り留めのない話を続けていた。
しかし二人はサッカー選手。自然と話はそれに行きつき、今最も欧州サッカー界を賑わしている話題へと行きついた。
「ですが兵藤さん、Rバイエルンはホームで先勝していますよ。それも5-3という大差で」
「3点取られているだろう。最低でも2-0で勝利すればアウェーゴール差で勝ち上がれる。
しかも次はRマドリーのホームスタジアム、エスタディオ・アルフォンス・ジェステでの試合だ」
転がってきた子供たちのボールに駆け寄る兵藤。
子供たちに投げ返し、再び腰を下ろして彼は続ける。
「バルセロナRもそうだがCLにおけるスペインクラブのホーム勝率の高さは異常だぞ。逆転する可能性は十分にある。
昨日の試合でもRマドリーは危なげなく勝利した。Rバイエルンに敗戦したショックを微塵も出さず、しかもサブメンバー主体でだ。
バルセロナに勝ち点1差で追従されているがこの調子で行けばリーグ、そしてCL制覇も十分にあり得る」
「……薄々思っていましたが兵藤さんってスペインサッカー好きですよね」
何度かCLやELの話をしたことはあるが、時折彼からスペインクラブびいきのような発言が飛び出す。
またスペインサッカーやクラブの話をしているときは普段の寡黙さが消えてなくなっていたことをいまさらながら鉄一は思い出した。
兵藤は否定せず、続ける。
「俺は数年、マドリードに住んでいたこともあるからな。
イタリアリーグも嫌いではないが守備的過ぎて少し面白みに欠ける。常に攻撃してゴール前での激しい応酬が繰り広げられるスペインサッカーの方が俺好みだ」
鷲介と同じ海外で育った兵藤。
かつて聞いた話だと料理人の父親と一緒に物心ついたころから欧州の国々を渡り歩いており、最終的にイタリアにて腰を落ち着けたのだという。
ちなみに彼の父親が経営しているレストランは首都ローマにある。月に一度、兵藤はそこに顔を出しているとのことだ。
「将来的にはRマドリーなどの三強に行きたいと考えているんですか」
「希望はしているな。ただ三強のどのチームに行けるとしたらRマドリーだろう。
あのチームはリーグの歴史に残る幾人もの優秀なGKが所属しているからな。今の正GKのビクトル選手もその例にも漏れない優秀なGKだ。
今の俺では及ばないだろう。だがあと5年もすれば追いつき、超える自信はある」
「言いますねー。じゃあFCトリノからの移籍の話は断るんですか」
「そのつもりだ。ペルージャが1部に昇格できないのであればオファーを受けただろうが、昨日の試合でその心配もなくなったからな」
イタリアリーグ2部に所属し1部昇格を目指していたペルージャFC。
鉄一達が所属するこのチームは昨日の試合に勝利したことにより残り2節を残して昇格圏内2位以内が確定。めでたくイタリアリーグ一部への昇格が決まったのだ。
「スペイン1部からのオファーはなかったが、イタリアリーグ1部で活躍すればオファーを出すチームもあるだろう。
守備的クラブが多いイタリアリーグだが優れたストライカーを抱えたチームは多い。1部となればこれまで以上に強力なFWと相まみえるだろう。
彼らからゴールマウスを守っていれば否が応でも俺の実力は向上するだろうしな」
「いつも通りの前向きで強気ですね」
「海外でやっていく以上、当たり前だ。
それでお前はどうするんだ。オファー、来ているんだろう」
「ええ。まさかというか予想外のところからですけどね」
大きくため息をつく鉄一。
そう、兵藤の言う通り、鉄一にもオファーが来ていた。しかもそのクラブはイタリアリーグ1部の強豪、ローマ・ルーポFCからのオファーだ。
「ローマLからオファーがあったのを聞いたときは耳を疑いましたよ。
自分はまだイタリアに来て一年どころか半年も経っていませんしね」
「だがお前の活躍ぶりを知ればオファーが来てもおかしくはないだろう。
移籍して半年で不動のレギュラーとなり出場した13試合で4ゴール5アシストの活躍。ペルージャFCの1部昇格に大きく貢献したんだ。
まぁローマLがオファーを出したのはイタリアカップ戦で対戦した時、お前がイバンを抑え込んだのも大きな要因だと思うが」
今季一部昇格を果たしたペルージャFCだがカップ戦もベスト8まで残った。
ベスト8の相手だったのはローマL。試合は3-2と敗戦したものの、ローマLの主力メンバーの一人であるコロンビア代表のイバン・パラシオに鉄一がほぼ何もさせなかった。
「あの時のイバン選手は復帰直後でしたからね」
「だがイバンは代表、クラブでも主力。ワールドクラスのプレイヤーだ。
怪我明けで本調子でなかったとはいえ18の若造に抑え込まれたのは事実。試合後のコメントでも相手監督が異様に誉めていただろう」
「勝ったからでしょうね。負けていたらあそこまで賞賛はされなかったでしょう」
「……相も変わらず謙虚だな。日本じゃ美徳だが海外じゃ嫌味ともとられかねないぞ」
「別に謙虚にしているつもりはありませんよ。イバンさんが本調子なら逆に俺がコテンパンにされていたでしょうし」
復帰直後ということもあってイバンは明らかに動きも反応も鈍かった。それでも鉄一が目を見張るような動きやテクニックを見せていた。
彼を抑え込めたのは2部とはいえイタリアリーグの難敵たちと戦ったことや昨年の夏に召集された代表合宿で小野とやりあった経験があったからだろう。
小野とイバンは共にパサータイプのMF。そして本調子となった最近の試合映像を見る限り、両者の実力はほぼ互角といったところだ。
「その口ぶりからするとローマLからのオファーは断るのか」
「ええ。光栄ですけどさすがに半年で別チームに行くのは無いです。移籍しても通用せずどこかにレンタルされる可能性の方が高いですし。
そうなるなら慣れ親しんだこのチームで1部の強豪相手と戦って経験と実力を身につけたほうがいいです」
「堅実だな。中神はヴァレンティーンFCへレンタル移籍するそうだが。
あのチームはもしかしたら来季、CLに出場するかもしれないぞ」
中神のレンタル移籍。先週出たメディアの記事に乗っていた記事だ。
先日途中出場ながらとうとう初ゴールをマークした中神。評価もうなぎ上りでスペインリーグを始めとするいくつかのリーグから移籍の話が上がっていたという。
そしてより出場時間を欲している中神はスペインリーグ強豪のヴァレンティーンFCにレンタルされることが有力らしい。かのチームは今季5位であり他チームの結果次第ではCL出場権を獲得する可能性もある。
また今季参加しているELでは準決勝まで残っており、もし優勝すれば無条件でCLへの出場権を得ることができる。
「ですね。──でも焦って身の丈に合わないクラブに行って出場できず、貴重な成長する機会が失われるのは悪手でしょう。
今はとにかく、世界のサッカーに通じる実力と知識を十分に身につけることが最優先です」
「まぁそれに関しては同意見だな。
──ところでさっきお前は俺が行きたいクラブを聞いてきたが、お前はあるのか」
「そりゃあ、ありますよ。憧れているクラブぐらい」
「どこなんだ、興味があるぞ」
興味津々といった風の兵藤に鉄一は微苦笑。
憧れているいくつかのクラブの名前を上げるのだった。
◆◆◆◆◆
「はい? 編集長、今なんて言いました?」
「水曜日のRマドリーとRバイエルンの試合観戦に行ってきてくれと言ったんだよ」
昼を過ぎたダイヤモンド社の編集部。
微笑みながらそう言う編集長の前で広助は唖然とする。
「あの、自分は先週ドイツのミュンヘンに行ってきたばかりなんですが。
確かCLセカンドレグは赤塚さんが行くはずでしたよね」
「その赤塚君なんだけど、今日どうしても外せない用事が入ったと言われてね。
ホラ、さっき慌てて早退していっただろう? 何でも家庭事情に深くかかわる重要な用事らしいんだ」
「……。何の用事なんですか?」
「うーん、ごめん。他言しないでくれって言われていてね。
僕としても話せることじゃないから、すまないね」
そう言って困った顔をする編集長。それを見て広助は用事が十中八九、赤塚の女性関係だろうと確信する。
「……わかりました。それじゃあすみませんが明日は出発の準備もあるので早めに上がらせてもらいますよ」
「うん。そのあたりは皆でフォローしておくよ。
ああ、ただ出発前に来月発売予定の柳くん特集号の記事の原本を上げておいてくれよ」
「わかりました。予定通り今日中に仕上げてメールします」
ため息交じりにそう言って広助は自分のデスクに戻ってくる。
すると隣でキーボードを打ちながら眉を潜ませていた白坂が羨ましそうな視線を向けてきた。
「先輩また海外っすかー。いいですねー」
「遊びに行くわけじゃないんだぞ。
しかし二週続けて欧州に行くのは初めてだな……」
「自分は経験あるっすよ! 大学時代、抽選で当たったCLの試合を二週連続で観に行ったことがありますからね!」
「大学時代なら若さで乗り切れるんだがな」
40歳となる広助。さすがに少しきつい。
「ところで先輩、ちょっとチェックしてもらっていいですかね」
「ほう、できたのか。どれどれ……」
白坂の席に移動し、彼が作っている特集記事に目を通す。記事の内容は日本のクラブや高校、ユース年代の将来有望な選手の特集だ。
去年のU-17代表選手たちやトップチームデビューを果たした十代の選手、Jリーグチームとプロ契約を交わした高校生たちが載っている。
「50点」
「うぇー、厳しくないっすか? せめて70点はあると思いますけどー?」
うげーっとした顔で言う白坂に広助は問題点を指摘。自分が欧州に行くまで80点──編集長に出せるレベルにしろと言って再び自分の椅子に腰を下ろす。
新しいコーヒーを飲みながら必死な顔で記事をまとめる後輩の横で広助も来月発売の柳の特集誌の原本を仕上げにかかる。
(特集とはいえたった一人、まだ18の若造のための雑誌ができるとはね)
今回ダイヤモンド社が造っている柳特集号。一冊まるまる彼一人を特集したものだ。これまでの経歴に出場した試合の結果はもちろん関係者にもインタビューをしている。
流石に一人ということもあってページ数こそ少ないが広助を筆頭に何人もの協力で内容は濃くしてある。広助が先週ドイツに行ったのも柳の試合観戦だけではなく、彼が過ごしたミュンヘンの街を調べたり、地元のファンの声を生で聞くなど取材する目的もあったのだ。
多くの人に時間がかかったこともあり値段は割高だが、すでに予約販売は完売している状態だ。他社でも同様のものを作っているそうだが、こちらも似たような状況らしい。
(本当に凄い経済効果だ)
柳の活躍に最も沸くのはサッカーファンだが経済も同じだ。柳が出る雑誌や彼が履いているスパイクのメーカーは売り上げが例年に比べて好調。Rバイエルンのユニフォームを売っている店舗の売り上げも増したそうだ。
他にも旅行会社ではRバイエルンの観戦ツアーの数が増え、申し込む人が殺到。ミュンヘンに訪れる観光客も増えておりここ一年の間で日本人旅行客も増加傾向。
そしてサッカー留学をしようとしている少年たちも以前に比べてドイツ留学に申し込む、考えている人の数が多くなっているとのことだ。
サッカー大国の中では地味な部類であるドイツは留学人気はさほどなかったが、彼が活躍したおかげで見直されていると言っていいのかもしれない。
そして柳の影響は当然、Jリーグにも波及している。Jリーグの海外スカウトマンはリーグ創設よりなじみが深いブラジルや日本人に人気のあるイタリアやスペイン、イングランドリーグに所属していたベテラン選手を引っ張ってくることが多かった。
しかし柳が活躍しドイツリーグがメディアに取り上げられる回数や注目度が上がったせいか、スカウトマンや関係者もドイツリーグを見る者が増えたそうだ。結果、ドイツリーグ一部、または二部に在籍している選手に声をかけるということが増えているとのことだ。
現に今シーズン、ドイツリーグに在籍していた選手──それも元代表選手──が一人、Jリーグにやってきて話題となった。浦和に加わったその選手はレギュラーの座を獲得してしっかりと活躍している。
さて、ここまでは日本の事情を述べたが、ドイツでもこの一年余りで状況が変化している。
元々少ないながらも日本人が所属していたドイツリーグだが、柳という麒麟児の発掘によりドイツのクラブも今まで以上にJリーグに目を向けるようになったらしく、一部や二部のチームが有力選手をリストアップしているという記事も多くなった。
またジュニアユース、ユース年代の若手にも着目して自チームへの短期留学や入団テストを行うようなことも考慮しているらしい。
これらの変化はすべて柳が活躍したおかげだろう。そしてこの現象が起きた最大の理由は彼がファンの予想を大きく超えた活躍をしていることだ。
17歳で世界トップクラスのクラブでデビューし現在は完全な主力に定着。リーグやCLでもゴールを積み上げている。そしてクラブのみならず代表においても数度の招集と試合で主力となった。
間違いなく日本サッカー史に残る天才だ。現時点でも歴代最強のFWといっても過言──いや史上最強のFWだろう。
(さて次戦、どうなるかね)
そんな日本史上最強のFWを要するRバイエルンとRマドリーとの試合。広助としてはどうなるかわからないといったところだ。
前回の試合を見て色々思ったが、一番強く思ったのはRマドリーが真っ向からRバイエルンと相対していることだ。
一部の欧州メディアやOB、コメンテーターも言っていたがRマドリー、いやベルナベウ監督らしくない試合展開だったと。
1stレグの試合、彼が、当代最高の名将と言われるベルナベウがあまりにも動かなかったと。選手に任せすぎな試合だったと。
そんなことを考えながら広助は原本を完成させ編集長に送る。問題なしと言われ隣で四苦八苦している後輩に挨拶をして会社を出る。
「……もしかしたら、試合は予想もしない結果になるかもな」
最強のクラブが集まるCL。ベスト4まで来たチームともなればどこも強いし戦力は拮抗している。
しかし強者対決が強豪同士に相応しい一進一退、又はスコアが絶え間なく動くスペクタルな試合になるとも限らない。
サポーターたちの予想を大きく外す、覆した試合はいくつもある。そしてそう言う試合はシーズン中に必ず一つは起こっていた。
順当に行けば接戦だろう。だがそうでなかった場合は、どうなるのか。
「まぁなんにせよ、マドリードでも忙しくなるは間違いないか」
広助の小さい声のつぶやき。しかしそれは誰に聞かれることなく夜の街に溶けていくのだった。
リーグ戦 23試合 24ゴール10アシスト
カップ戦 2試合 1ゴール2アシスト
CL 9試合 14ゴール4アシスト
代表戦(二年目)7試合 13ゴール3アシスト




