イジメっ子との戦い
さて3日目だ、流石に馬車で学校に行くのも慣れてきたな。まあ5分しか掛からないけど、後は授業中が暇なのが問題だ。どうやって暇を潰すか?寝るのも飽きてきたのだ、パラパラ漫画を本に書く・・・・・・うむ、直ぐに飽きるな。息を止めて遊ぶ・・・時計が無いのでタイムを測れないので却下だな。さて困った。
教室に向かって歩いていたら、前に立ちふさがるやつがいた。3人組の男の子だ。
「坊ちゃん、いい物持ってるな。俺達にカンパしてくれよ」
俺の進路を邪魔するとは、こいつ等馬鹿なのか?死にたいのだろうか?
「・・・・・・」
「ひゃ~はっは!怖くて声も出せないのか!坊ちゃん」
「ハハハ!ダセ~奴」
「さっさと有り金全部出せよ!」
子供が3人喚いている、もしかして俺を恐喝しようとしているのか?俺より体格は良い様だが所詮は子供、戦闘能力は低い。ならばやることは一つだ、先制攻撃!攻撃は最大の防御なのだ。
「死ね!」
「「「うわ!」」」
手に持っていたバスケットを投げつけると同時に先頭の男に蹴りを入れる。3対1なので手加減なしだ、手加減して負けると気分が悪いからな。蹴りで倒れてくれると楽だったのだが、パワー不足で倒せない。仕方無いので肘で相手の鼻を潰す、その後喉に裏手刀を叩き込んで気絶させた。今の俺は雑魚だから死んだりしないだろう、多分。
俺の突然の暴力に残りの2人は凍りついていた。この餓鬼達は暴力に慣れていない様だ、この程度の喧嘩は人外魔境では日常茶飯事。口よりも先に手が出るのがキュウシュウジンだぞ。無敵の蛮族キュウシュウジンを舐めてはいけない。
「「テメ~!!殺す!!」」
「・・・・・・」
やはりこいつ等馬鹿だ、喧嘩の時に喋ると舌を噛むぞ。勿論俺は喋らない、それにこいつ等雑魚過ぎる。2人とも俺に正対してるのだ、格闘技の経験すらないのか?俺は当然の様に後方に重心を6割程置いた半身だ。攻撃4割躱し6割の構えだ、相手が2人なので攻撃重視は危険だからな。
しかし、俺の無双はここまでだった。相手の攻撃は見えてるのに躱せない、自分の体が思うように動かないのだ、反応が半テンポ遅れる。モンハンで言えば大剣使いの様な感じだな、動きが鈍すぎる。そして攻撃力は低い。やばいな、負けるなこれは。
「加勢するぞ!」
俺の前に小柄な女の子が割り込んできた。安物のボロ服を着た女の子だ。
「ハラペコか!」
「誰が腹ペコだ!失礼な奴だな!」
善意は人の為ならずって言うが本当だな、昼飯やったら助けに来るとは此奴はいい奴だ。毎日昼飯を食わせてやろうじゃないか。少しでも一人を引き受けてくれたら勝機は有る、汚い戦い方に切り替えるぜ。
「何だお前!貧乏姫じゃねーか!」
「俺達に逆らう気か!生意気な!」
「1人に2人とは卑怯者め!騎士として見逃せない、尋常に勝負だ!」
卑怯とか騎士とか喚きながら女の子は突っ込んでいった、そしてあっという間に2人を叩きのめした。何この子怖い。そして落ちていたバスケットを拾って俺に持ってきた。
「大丈夫か?ほれ、大事な物だろう」
「おう、ありがとう」
何か少し違和感が有る、異世界なんだから俺が女の子を助けるんじゃないのか?ゴブリンや盗賊に襲われてる所を助けてハーレムを作るのが異世界なんじゃないのか?何で俺は女の子に助けられてるんだろう?
「中身を見たほうが良いぞ!中身は大事だからな!」
「おっ、おう」
バスケットを開けて見たら中身のサンドイッチが大変な事になっていた。俺が投げたから当たり前だな、まあ食える事は食える、固まってるだけだ、問題ない。女の子は中身を見て物凄く悲しそうな顔をして、そして倒れてる不良たちを蹴りまくった。
その時俺は気がついた、此奴は俺を助けに来たんじゃなくてバスケットを守りに来ただけだと。ハラペコは何時も腹が減ってるから凶暴なのだ。
「おい、そのくらいにしておけ。遅刻する」
「うむ、お前がそう言うなら我慢しよう。食物を粗末にする奴は許せんのだ!」
「・・・そそそそ、そうだな」
こいつは危険だ、俺がバスケットを投げたと知れたら殴られそうだ。俺よりも戦闘民族とはな・・・こやつは修羅の国から転生したのかな?お隣さんかもしれんな。
その後何事もなく昼休みになり、いつもの様にハラペコの隣に行く。そしてバスケットを開けて弁当を出した。
「どうした?食えよ」
「今日はどうしたのだ?野菜サンドでは無いではないか?」
「口の中を切ってるから食えないんだ、全部食って良いぞ。見かけは悪いがな」
「そう言えば酷い顔をしてるな、相当殴られた様だな」
いつもは食べられないハムサンドや卵サンドを両手に持ってハラペコはガツガツ食っていた。食欲は3人前位有るようだ、やっぱり力と食欲は比例するのだろうか?等と思いながら俺は一番柔らかい卵サンドをモソモソ食った。食べると傷口が広がるので食べにくいぜ。
「なあ、ハラペコって強いよな?」
「誰がハラペコだ!私はマーガレットだ!」
「そうか、すまんかったハラペコ」
「貴様は一々気に障る奴だな!」
彼女はこの学園の特待生なのだそうだ、俺と違って実技が優秀なのだそうだ。この学園の実技は実戦だ、つまり彼女はこの学園で上位の戦闘力を持っているって事だ。本人曰く、1年で3番目位に強いらしい。
「へ~、マーガレットは特待生なのか。優秀なんだな」
「そうだ、尊敬しろ」
「特待生って授業料免除なんだろ?何で貧乏なんだ?」
「授業料は免除なのだが寮費は払わなくては成らないのだ。家は貧乏なのでバイトして寮費を稼いでいるのだ」
「成程、見上げた奴だな。立派だ」
「・・・馬鹿にしないのか?」
「しない。尊敬する、人間はそうでなくてはいかん。他人を信用するのは阿呆だ!家族と言えども信用するな、頼れるのは自分だけだ!」
「え~!そこまで厳しくしなくても・・・・・・」
ふ~、つい興奮して本音を話してしまったぜ。まあ他人に裏切られるのも辛いが身内に裏切られるともっと辛いからな、彼女はそういう経験をさせたくないな、いい奴だからな。
「まあ良いや、朝はありがとうな。感謝する」
俺は右手を差し出した。彼女は力強く俺の右手を握り返した、ちょっと痛い。こうして俺にも友達が出来た様だ、喧嘩で負けそうな時は頼る事にしよう。