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「ふにゃあ?? 獣人が気配を消してこっちに向かって来てる、かにゃ?」
にゃんこが隣を駆けながら首を捻っている。
「ふも? ふも……んん……んん(え? 何……俺……口開けれない)」
――それに臭い。匂いで頭がクラクラする……さっさと国境を抜けてこの服……洗わないと……
「何か獲物でもいたのかにゃ? まぁ〜、どこからどう見ても猫のあちしたちには関係にゃいにゃ。さっさと国境を通り抜けるにゃ」
「ふも、……ふもふも(うん、わかった)」
だが、そう言ったにゃんこが、俺が返事をしてすぐに焦りだし、悲鳴にも近い声を上げた。
「あにゃ? 様子が変にゃ……にゃぁぁ!! シュニャ飛ぶにゃぁぁ!」
「ふも?? (え??)」
だか、黒猫になり安心しきっていた俺は、自分の服の臭いの方に気を取られ、にゃんこの言葉の意味がすぐに理解できなかった。
「ジャンプするにゃ! ジャンプ!!」
「ん……んん??(わ……わかった??)」
――何だ、落とし穴でもあるのか……
シュッ!!
「む、避けるか……」
――え?
俺が跳んですぐ、俺の咥えた服の半分を切断しながら身体の下をキラリと光る何かが通り過ぎた。
――け、剣!?
そこで初めて、俺は目の前に豹の獣人がいることに気がついた。
「ふもも!?(なんでだ!?)」
――ハッ! これって隠密スキルか!!
さらにその獣人は、振り切った細長い剣の遠心力を利用し素早く身体を捻り回転させると跳び上がった俺の位置に合わせ剣を当てようとしている。
――ま、まずい!! 斬られる……
俺はジャンプしているため身体を捻ることしかできず痛みに備え目を閉じると身体にぐっと力を入れた。
その時だった……
「シュニャぁぁ! むにゃむにゃ……聖獣にゃん法猫だましにゃぁぁ!!」
パパッパンッ!! パンパンッ!!
「ぐぁっ!」
無数の破裂音と呻き声が獣人の方から聞こえ――
「シュニャ!! 今のうちにゃ」
にゃんこの声が耳に入った。どうやらにゃんこが魔法で助けてくれたらしい。
――助かった、のか……
目を開き見れば豹の獣人が跪き、目と耳を両手で押さえている。
「ふも……ふもふも……(分かった……これなら……)」
俺は跪く豹の獣人にものまねスキルを使い隠密スキルをものまねすると、前を走るにゃんこを必死に追いかけた。
「ま、待て……!」
後方で豹の獣人の動く気配がした。
「ふにゃあ!! もう立ち上がったにゃ。シュニャ急ぐにゃ!」
「ふも!? ふもも!!(え!? そんなこと言われても無理だって!!)」
猫の姿で走ることに慣れていない俺には、これ以上のスピードを望むことはできなかった。
「にゃらば……」
俺をちらりと一瞥したにゃんこは駆けながらぶつぶつと呟き始めた。
「むにゃむにゃ……聖獣にゃん法……猫まっしぐらにゃぁぁ!!」
にゃんこの叫び声と共に俺とにゃんこ自身に薄い光が包み込んだ。
にゃんこがまたもや何かの魔法を使ったようだ。
「ふも?? ふももぉぉぉぉ(え?? 何をしたぁぁぁぁ……)」
魔法がかけられると俺の足が、まるで羽でも生えたかのように軽くなり同じスピードの感覚で走っているのにぐんぐんスピードが上がっていく。
「猛獣が来る!!」
「殺れ!! 殺されるぞ!!」
「ガイル待て、馬車から離れるな!!」
「ああ、隊長。ちゃんと分かってるぜ。ありゃぁ手を出しちゃダメだ」
「でも兄貴……逃げられるがいいのか?」
「……ああ。今はどうにもできんよ」
「そうだな……」
俺とにゃんこは馬車を守るように動かない獣人族の前を通り過ぎ、取り囲もうとする人族の包囲網をあっという間に突破した。
「シュニャ、無事に越えたにゃ!!」
「ふも!(よし!)」
「とりあえずはあそこにゃ」
「ふも(そうだな)」
俺とにゃんこは無事? に国境を越えた。
運良く国境の近くには森が茂り人目を巻くには好都合だったため俺とにゃんこはその森へと逃げ込んだ。
――――
――
肩を落としたジグラが馬車へと戻ってきた。
「私は……とんでもないものに手を出したかもしれん」
「はぁ? どういう事だ?」
意味が分からないとガイルが眉間にシワを寄せた。
「うむ。ジグラ、もう少し分かりやすく教えてくれ」
「ああ、すまない。あの白猫、言葉は分からなかったが間違いなく魔法を使った」
「魔法だと!?」
カルスが目を見開き腕を組んだ。魔物ならばともかく獣が魔法を使うなど聞いたことがないからだ。
「どこかにテイマーが潜んでいたんじゃねぇのか?」
興味を失ったのか、ガイルが気だるそうに言うと自分の馬に跨った。
「いや、それはない……いや、待てよ。あの黒猫もどこかおかしかったな……」
そう言ってジグラは布切れを広げた。
「何だ、それ?」
すぐさまカルラがすんすんと鼻を近づけて眉間にシワを寄せた。
「服? それも人族男の匂いがする」
「ああ、これを黒猫が咥えていたんだ……これはどう見ても人族男の服だ……それによくよく考えれば白い獣は聖獣以外いない……はずだった……」
「ふむ……白い獣ね……」
カルスが腕を組んだまま頭を捻っていると……
「何やら先ほどから騒がしいですが、どうかしたのですか?」
馬車の小窓を開けたライオンの獣人が悩んでいるカルスたちに声を掛けた。
「はっ! これはアルーラ様。ご心配をおかけして申し訳ありません……実は……」
カルスは先ほど起こった出来事を馬車に乗るライオンの獣人に語った。
「その服を私に……」
「……はっ」
ジグラが少し名残惜しそうにしながらも、アルーラに手渡した。
「これがそうなのね……」
アルーラも少しだけ匂いを嗅ぐと……
「これは私が預かります……とりあえず国境を抜けましょう」
アルーラがちらりと後方を一瞥しそう言った。
「支援というような気配ではなさそうですし、それがよろしいようですね……」
護衛騎士たちも後方を一瞥し、後方からひしひしと感じる殺気だった人族の気配に気づきアルーラに向かって頷いた。