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俺は獣人にものま眼を使った。
――ふーん、スキルは人族と変わらないな……剣術や体術、それに隠密ね。
変わっているスキルといえば人化スキルか……みんな保有しているんだな……
『どうだったにゃか?』
にゃんこが横から俺の顔を覗き込んでくる。
「ん? ……隠密スキルを保有している奴がいたんだけど、スキル使ってくれないとものまねできないんだよ……」
俺は馬車に並走する黒い豹の顔をした獣人を物陰からそっと眺めた。
『そうにゃか……それは不便にゃね』
にゃんこも俺の真似をしているのか、じーっと獣人の方を眺めている。
「うーん。これでも楽になったんだぞ……なんていったって、相手がスキルを使用してなくてもどういったスキルを保有しているか分かるようになったんだから……」
――……と、言っても俺は誰とも交流してなかったからものまねスキル自体使ってなかったな。
『ふーん』
「それに今の俺は逃亡の身だろ? ……相手に持っているスキルを尋ねるわけにはいかないんだ」
――それ以前に、ものまね許可なんてくれる奴なんていない。
「逃亡に役立ちそうなスキルを保有している奴を見つけて……使用するまで気長に待つしかない……」
『面倒だにゃあ。あっちの人族はどうにゃか? 使えそうにないにゃ?』
にゃんこが検問する衛兵に右前足を向けた。
「ダメだな。あいつらは槍術スキルを保有しているだけで、ほかに役に立ちそうなスキルがない……やはり検問を抜けるには隠密スキルがいいと思うんだ。
あの獣人……隠密スキル使ってくれないかな……」
『シュニャは、あそこを通り抜ければ捕まらにゃい?』
「多分……あそこを抜ければ獣人の国になるはずだから、大丈夫と思うんだ……」
――行ったことがない国だから不安はあるけど、この国にいるよりはましだと思っている。ダメならまた別の国に行けばいい……
『シュニャ、あちしに任せるにゃ』
にゃんこがに俺に向き直るとぱっと笑みを浮かべ右前足で俺の肩をぽんぽんっと叩いた。
「もしかしてにゃんこが隠密スキルを保有してるの?」
『そうじゃにゃいにゃ。いい聖獣にゃん法があるんにゃよ』
にゃんこが自分のふわふわの胸をポンッと叩くと、両前足の肉球をぽふっと合わせた。
『むにゃむにゃむにゃ……聖獣にゃん法……猫かぶり!!』
ボンッボフッ!!
「え!?」
にゃんこの聖獣魔法は俺に向けられた魔法だった。
俺の身体はどんどん縮みはじめ目線も低くなっていく。
数秒後には、着ていた服が全て脱げ、目線がにゃんこと同じ位置にまでなっていた。
「にゃ、にゃんこ。俺に何をしたんだ?」
「にゃにゃ! 思った通りにゃ、シュニャは男前にゃ」
にゃんこが嬉しそうに抱きついてきた。
「男前って……にゃんこ、俺……なんだか身体が縮んだんだけど……ほんと何をしたんだよ?」
「ふふふ、シュニャはあちしの聖獣にゃん法猫かぶりで猫に変身させたんにゃ。あちしと同じ猫になったにゃ、お揃いにゃ」
にゃんこが俺の胸に顔を押し付け、すりすりなすりつけてくる。
「ね、ねこ!? 俺は猫になったのか?」
俺は思わず両手を見た。この場合、前足なんだろうけど、その前足には肉球がたしかにあった。
視線をだんだんと下に落とし、俺は黒い体毛に包まれていることが分かった。
どうやら俺は黒猫になってしまったようだ。
「そうにゃ。シュニャも猫になれば問題なく通り抜けれるにゃ……」
「……そうか……なるほど……」
たしかに、今の俺の姿は完全に猫だ。獣なら検問を通っても止められないはずだ。違いがあるとすれば二足立ちをしているってことだけど、それは四本足で歩けばいいだけのことだ……
「この魔法なら好きな時に解除できるから安心するにゃ」
「へぇ、さすがにゃんこだ。ありがとう。よし! これなら行けるぞ」
「にしし、あちしは聖獣だからこれくらい朝飯前にゃ。シュニャさっさと通り抜けるにゃ……」
そう言ってにゃんこが嬉しそうに俺の手を器用に両手で包み引っぱった。
「そうだな……ん? ……あれ、ちょっと待って……!?」
にゃんこに引かれ、足を一歩踏み出すと俺の足に何かが絡みついた。
「ん? シュニャどうしたにゃ? 行かないにゃ?」
「足に何か絡みいたんだけど……げっ!?」
それは俺の着ていた服だった。
――そうだった……
今の俺は猫になって体毛に包まれているが、人族に戻れば全裸の状態だ。
――忘れていた。猫化して服が脱げていたんだった。
なんとしても、この服を持っていかないと入国した後が辛い。というか身動きが取れなくてなってしまう。裸でうろうろなんてしたくない。
「にゃんこ。あのさ、俺の服……この服どうしたらいい?」
「にゃ!? それはにゃ……咥えて……そう咥えていくにゃよ」
にゃんこの目が少し泳いだような気がしたが、気のせいだろう。
「咥えて……そうだよな、それしかないか……」
俺は前足を使い、上着にパンツからズボンから全てを入れ包んだ。
――よし、これなら。
そして、俺は上着の袖を咥えてた。
「ゔっ」
――臭い、とんでもなく臭い。
それはそうである。この三日間、俺は逃げるのに必死で水浴びをしていない。この服も洗ってない。
「シュニャ、どうしたにゃ? 早くするにゃ、ぐずぐずしてたら奴が来るにゃ」
「え? 奴って?」
「ネズミにゃ。ネズミが匂うにゃよ、だんだんと近づいてるにゃ」
にゃんこのヒゲがピクピクと動いている。にゃんこはヒゲで気配を探れるのだろうか? 一瞬だけそんなことを考えてしまったが、それが本当ならそんなこと考えている場合じゃない。
「それって、アインのネズミってこと? それだったらまずいじゃないか!」
「そうにゃ、早くするにゃ」
「ゔっ、分かった」
俺は覚悟を決めて服を咥えるとにゃんこと一緒になって国境に走った。
四足走行なんてしたことなかったが、猫の身体だと違和感なく走れた。
――よし、今なら!!
衛兵はちょうど獣人族の馬車の検問を終えようとしていたところだった。
――――
――
「おい、あそこの物陰……誰かに見られてる」
黒い豹の顔をした獣人が騎乗しながら周りの獣人騎士に声をかけた。
「ジグラ、どうせ人族が物珍しさから覗いてんだろ? 気にするこたぁねぇよ」
狼の顔をした獣人が並走しながら気だるそうに返事をした。
「おいガイル、ダラけすぎだ!! 警戒だけはしとけ、アルーラ様に何かあれば我ら白獣隊の示しがつかんのだぞ」
虎の顔をした獣人がガイルを威嚇し鋭い牙を見せた。
「おお怖ぇ、カルア副隊長は怖ぇ」
「くっ、ガイル!! お前、私が女だからと思って舐めてるだろ!!」
カルアは鼻にシワを寄せ、ガイルに向かってさらに牙をむき出しにした。
「おいおい、あんまりツンケンしてるとシワが消えなくなってすぐにババァになるぜ、ヒィッヒィッヒィッ」
「くっ……ふん、任務中だから大目に見てやってるんだ、後で覚えていろよ。ガイル!!」
カルアは鼻をガイルから隠すとそっぽを向いた。
「おお怖っ!」
「こら、ガイル。あまりカルアを茶化すな。俺でもキレたカルアを止めるのは骨が折れるんだぞ」
同じく虎の顔をした獣人がガイルを戒めた。
「へいへい。すまんかったなカルア副隊長さんよ。他意はねぇんだぜ、他意は……」
「ふん。今だけは兄貴に感謝してろよ」
「こら、カルア。任務中は隊長と呼べと言ってるだろう……」
カルスがにやにやしながらカルアを戒めるが戒めになっていない。
「はいはい。カルス隊長も嬉しいくせに……顔がにやけてるぜ、くっくっくっ」
「ガイルは……おお、なに腹が痛いのか、なら仕方ないな……
次のメシの時間はゆっくりと休んでていいぞ。携帯食は消化も悪いしな、食べない方がいいだろう」
「おいおい、隊長さんよ。そりゃねぇぜ、職権濫用は良くねぇと思うが……」
「水だけ飲んどけば十分だろう……?」
「か、勘弁してくれ……」
「おい、静かに……検問だ」
しばらくすると二人の人族の衛兵が馬車の進路を塞いだ。
「止まれ!! ん? お前たちは獣人族の使者だったな」
「ああ、そうだ」
カルスが馬から降り衛兵に通行証を見せた。
「うむ、通ってよし」
衛兵はちらりと見ただけで、すぐに獣人族から離れ、元の持ち場へと戻った。
「いつ見てもずさんだよな……」
「ふん、それだけ早く追い返したいんだろうよ人族は……」
ガイルがとぼけた口調の呟きをカルアが拾い上げると鼻で笑った。
「む!?」
そんな時だった黒と白の猫があり得ないスピードで馬車に向かって駆けてくる。
黒い猫の方は口に何やら怪しい物を咥えているのが見えた。
「ジグラ!! 頼む。皆はアルーラ様の馬車を守れ!」
「ああ任せな!」
「了解!」
「分かった!」
カルスの指示に獣人族はすぐさま反応し、ジグラは馬から飛び降りると剣の柄に手を置いたまま黒猫に向かって疾走した。