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すみません
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村長の指示で俺は中央広場の真ん中の位置まで連れ出された。
俺の目の前には勇者アインが立っている。勇者の後ろにはその仲間たちがいる。
アインが今から聖剣を召喚するんだとさ……
――よくもまあ、これだけ野次馬が集まるものだ。
俺は周囲に視線だけを向けた。
話を聞き付けた村人が更に集まり俺と勇者アインを囲んでいる。
――ふん。
俺が逃げれないように村長の指示でもあったのだろう。
村人から俺に対する視線は冷たいもので、軽蔑や蔑む声が耳に入る。
――にやにやしやがって……そんなに面白いのかよ……
「おい。一回だけだ。見てなかったは通用せんぞ。よく見てろよ、これが聖剣召喚だ」
勇者アインがいらない動きをして格好をつけると、最後に右手を前に突き出した。
「はあぁぁぁぁぁ!!」
アインの体が金色の光に包まれる。
しばらくすると右手に金色の光が集まり剣を型どっていく。
見ているだけでそれいかに神々しいものなのか、俺にも伝わってくる。
聖剣召喚できる者が勇者と言われるだけのことはあった。
「ぐっ」
俺は思わず生唾を飲んだ。
「子の聖剣鼠のしっぽ!!」
アインがそう叫ぶと右手には聖気を纏った聖剣鼠のしっぽが握られ、アインの左肩には真っ白い聖獣支が二足立ちしている。
アインは召喚した聖剣鼠のしっぽを軽く振り回し大袈裟に構えた。
「はっ!!」
村中に見せつけた、といった方がいいだろう。特に村の若い娘に……
案の定、若い娘たちはきゃーきゃーと黄色い声を上げ、うるさくてしかたない。
前髪を軽くかき上げたアインはドヤ顔というのだろうか? 格好つけているのだろう。
細めた目で俺を睨むように視線を移した。
俺は勇者の真正面だ、近くにいる。格好よく決めているが、鼻の穴がピクピク膨らんでいる。
――会心のキメ顔だったのだろうか? 何が勇者だ? ただのスケコマシだ。
『アイン、敵でちゅーか?』
アインの視線が俺から白いねずみに移った。
――あれは、ねずみ……ねずみと喋ってるのか? チューチューとしか聞こえないが?
「いや、ねね、違うよ。敵じゃない。これも勇者として必要な仕事なんだ。すぐに終わる。今日はそこで見てるだけでいい」
『分かったでちゅー』
二足立ち白いねずみがコクりと頷いている。
――やっぱり。
「そいつと話をしているのか?」
「そいつだと!! 僕の聖獣支に向かって、このガキ!!」
アインが俺を殺さんばかりの鋭い視線を向け、殺気を放ち威圧してきた。
「うっ」
――い、息ができない。
慌てたように白い二足立ちのねずみが短い手を振り、アインのほっぺをペシペシ叩いて注意を引き、それに気付いたアインに向かって首を振っている。
それを見たアインがねずみの頭を一撫ですると、先程まで放っていた殺気を止めた。
「フン、ねねに感謝しろよ。ねねは聖剣に宿る聖獣支だ。お前如きが気安く呼べる存在じゃない。ふん。それより早くものまねしろ。僕も忙しいんだ」
――謝っといた方がいいよな? 不敬罪って言い出したら嫌だしな。
「そのアイン様、聖獣支様とは知らず、すみませんでした。ではものまねいたします」
「いいから早くしろ!!」
「はい、分かりました。では」
俺は勇者アインにものまねスキルを使った。俺はアインと同じように右手を前に突き出した。
――ものまね、聖剣召喚!! ……っ!? ……えっ、だ、駄目だ。ものまねができない!! なんでだ?
アインの口角が僅かに上がっている。
――何かあるのか?
周りからも俺をバカにする声がきこえるが、それどころじゃない。俺の今後がかかってるんだ。濡れ衣で罪人なんてごめんだ。
「おいおい、シュナどうしたんだ。まさか、できないのか」
村長の息子がニヤニヤとわざと集中できないように挑発してくる。
――うるさい。気が散る……
「おいおい、できないのか……」
――くそ〜、お前らうるさい……くっ、これじゃダメだ。集中しなきゃ。
俺はイラつく心を鎮めようと首を振った。
――ふぅ〜、今は聖剣だ。あれに集中する。よく見ろシュナ、何かあるはずだ。そんな気がする。よく見るんだ。よく…………っ……くっ……おかしい。何も見えねえ……なんでだよ……ちくしょう……
ニタニタ顔の村長親子が目に入る。
――くそ〜、アイツら。まだだ、まだ、諦めねぇ……絶対、何かあるはずだ……よく見ろ……ぐぐっ……よく……ぐぁっ!! な、何だ、目が、目が痛え……うぐ、ぐぁぁあ、痛え……っ…………はぁ、はぁ、ま、まだだ……
俺が目を酷使しすぎたためだろうか? 目が熱を帯びたように痛い。あまりの激痛に一瞬だけ、意識が飛びそうになったが、にやつく村長親子の顔が過ぎり、悔しさから辛うじて意識をつなぎとめた。
――はぁ、はぁ。くそ〜!! 嫌だ……諦めねぇ……ここでやめたら……俺は罪人……終わりだ、誰も助けてくれやしねぇんだから…………うぐっ……見るんだ……よく……見る……
あまりの悔しさに俺の視界が不意に歪んだ。
「おいおい、泣いているのか。あはは、情けないガキだな……」
「泣いてない!!」
俺は腕の裾ですぐに目元を拭った。
「もう、諦めな……」
「嫌だ……」
「ふん。泣こうが喚こうが……あと一分だ……分かったか」
「ぐっ……」
俺は再び聖剣に目を向けると、不思議な感覚に襲われた。
――ん? 何だ、これは……な、に? アインの方を見るのか……
その時、俺の目の奥で何かが弾けるような感覚が襲ってきた。
【シャナは派生スキル〈ものま眼〉を取得した】
――……!? ものま……眼……?
「おい、まだか?」
「うるさい、少し黙れ」
俺が〈ものま眼〉スキルを理解した瞬間、勇者アインが、身体に薄っすら金色の光を纏っていることに気がついた。
――ははは、分かったぞ。あれか!! あれは……勇……体……強……化……勇体強化だな!! よし!!
「何だと!! このくそガキが!! 勇者アイン様に向かって……!!」
「……」
俺はもう一つのものまねスキルをアインの身体に向かって展開した。
――ものまねぇぇ!! 勇体強化っ。
【シュナは〈勇体強化〉をものまねした】
【シュナは〈聖剣召喚〉をものまねした】
俺の身体が何か強力な力によって強化されていくのが分かる。
「おい!! てめぇ、今度は無視か……僕が何もしないと思って図に乗りやがって。あ〜やめだ。やめだ。お前は罪人確定だ。お前ができないことは分かってんだよ!! 聖剣召喚はものまねできねえんだよ。ははは。
生意気なお前は一生出られない独房に入れてやるよ。どうだ嬉しいだろ。あははは……
っおい!! ガキっ、いつまでやってる!! もう……終わりだと言っ……なっ!?」
――これが勇体強化の力……いける。これなら、いける!!
「聖剣召喚!! はあぁぁぁぁぁ!!!!」
俺の体が金色の光に包まれ、右手に光が集まっていくと同時に、まるで時の流れが遅くなったかのように周囲がゆっくりと動いているように見えた。
――これは……どういうことだ……
《ふにぁ? にゃにゃにゃあ!? やったにゃよ〜!!》
俺の頭に明るい何かの声が響いてきた。
――うおっ!? おかしい。こ、声が聞こえる……
《おかしくないにゃ。あちしは猫の聖剣猫の爪の聖獣支にゃよ。よろしくにゃ」
――聖獣支? 名前?
《安心するにゃ、ちゃんと神様にも認めてもらってるにゃよ。だから、早くあちしに名前をつけるにゃ! そして正式な使い手になるにゃ!!》
――正式な使い手?
《そうにゃ、付けてくれないと聖剣を呼び出せないにゃよ。あちしも正式に聖獣支になれないにゃ。それは困るにゃ。早くするにゃよ。
なぜか分からにゃいけど、今、すごく不安定にゃよ? 時間ないにゃよ、光が消えたら失敗する予感にゃ。失敗は嫌にゃ!!》
――ええっ!! 急にそんなこと言われても……思い付かないよ。
《ふにゃあ!! 何でもいいから、早くにゃ! 早くするにゃあ。お願いにゃよ〜》
――うーん。……にゃ、にゃんこ。でもいいか?
《ふぎゃ? ……い、いやにゃ。センスないにゃ、もっと聖獣支らしく威厳ある名前がいいにゃ》
――ええ、そんな……じゃあ……
《うにょ? にゃ、にゃ、にゃ、にゃんと!!〈にゃ・にゃんこ〉に決まってしまったにゃあ!!》
――ええ? 〈にゃ・にゃんこ〉に? 決まったの……にゃ・にゃんこ、に……あ〜、なんかごめん。
《ふにゃ、もういいにゃ。諦めが肝心にゃ。今は嬉しいからいいにゃ。サービスにゃ。あちしは寛大にゃからね。よろしくにゃ》
――う、うん。
《あちしは猫の聖剣猫の爪の聖獣支にゃよ。さあ聖剣を具現化するにゃ。猫の聖剣猫の爪、と叫ぶにゃ!!》
――うん。分かった。
気づけば頭に響く声に釣られ俺は叫んでいた。
「猫の聖剣猫の爪!!」
俺の声と共に金色に輝く聖剣が召喚された。アインの細長い聖剣と違い、すらっとシンプルな長剣。柄の部分に可愛い猫の顔が刻んである。
左肩には真っ白な猫が二足立ちしていた。にゃ・にゃんこだ。
『にゃあ!! やったにゃぁ!! あちしもとうとう聖獣支にゃあ』
そうとう嬉しいらしい。にゃ・にゃんこの可愛らしい瞳がうるうると揺らめいている。
『やったにゃ』と何度も呟きながらにゃんこが右手の肉球で俺の頭をポフポフ叩いてくる。
聖獣支らしくないなと、思いつつ、その姿がおかしくて思わず笑いそうななったが、痛くないのでそのままアレスに視線を向けた。
「ふぅ、約束。これで、いいんだよな?」
周囲を囲む村人たちにも騒めきが広がった。
「ば、バカな。そんな……あるわけない。聖剣は12本だ。すでに使い手も確認されている。13本目があるはずないんだ……
そうだよな? ねね?」
アレスはねねに視線を向けるとブルブルと震えているねねが、アレスの左肩から頭の後ろに隠れたそうにしていた。
「ねね?」
『嘘だっちゅー。何で猫が聖獣支になるでちゅか?』
「猫が聖獣支? あの猫はやっぱり聖獣支なのか……」
「分かっただろ。これは俺は間違いなく聖剣を召喚した」
「くっ。み、認めん!! 認めんぞ。お前は元々勇者じゃないんだ。早く、そのものまねを解除しろ!!」
「えっ」
「今解除すれば、今回のことは不問としてやる。早くそれを解除しろ。13本目の聖剣など僕は認めん」
「勇者様、それでは約束が……」
勇者の言葉に焦った様子の村長が、額の汗を拭きながら口を挟んできた。
「うるさい。約束も何も僕は知らん。早く解除しろ!!」
予想だにしない結果に村長親子の顔は真っ青だ。
『それはできないにゃ。もうあちしは正式に聖獣支になったにゃよ。シュニャはその使い手にゃ。解除はできないにゃ。試してみてもいいにゃよ』
「そうなのか?」
『そうにゃ』
「何だと!?」
「じゃあ……む、あれっ……ふん。あれ? 解除できない」
『にゃは。あちしの言った通りにゃよ。それに、あちしもこんなことで聖獣支から降ろされたくないにゃあ。何千年と待ったにゃから……にゃあ』
「そ、そんなことが……」
『それよりにゃ。そこに隠れてる聖獣支!! 顔を見せるにゃ!! よくも、よくもあちしを騙してくれたにゃあ!!』
にゃんこがアインの頭の後ろに隠れているネズミに向け、ピシッと肉球を突き出した。
『ちゅ〜』
アインの聖獣支がブルブル震えながら顔を少しだけ見せた。
『ちゅ~、ごめんでちゅ、許してくれでちゅ。悪気はなかったでちゅ』
ねずみはにゃんこに向け、ふるふると首を凄い早さで振っている。
『許さにゃい……と言いたいところにゃが、にゃまあ、今日は気分がいいからにゃ……貸し一つにゃ。そしたら許してやるにゃ、感謝するにゃあ』
『貸し一つ? わ、分かったでちゅー。ありがとうでちゅ』
「ぐぬっ、ねねまでも。だが僕は認めん。認めるわけにはいかん。こうなれば力ずくで、お前を城に連行させてもらうぞ」
「えっ、アイン様、約束したじゃ、しましたよね? ものまねできたら認めるって。これで俺は無罪のはずですよ」
「うるさい、うるさい。お前は、窃盗罪と僕の名誉毀損の罪だ。おい、お前たち。そいつをすぐに連行しろ」
「ちょ、ちょっと待って……」
勇者アインがそう言うと魔法使いらしい美女が返事をして何やら魔法を唱えた。
「バインド!!」
魔力の縄が俺を縛り付けていく。
「うわっ!!」
『シュニャ、何してるにゃ。そんな魔法、聖剣猫の爪で払い退けるにゃあ』
「ぐぁ、そんなこと……ぐぅっ、言われても……」
『早くするにゃ。ほら、手を貸すにゃ』
にゃ・にゃんこのその声に聖剣の使い方が頭に流れてきた。
――これは……うん。分かった。
「にゃんこ、ありがとう……はっ!!」
俺は聖剣に魔法を、弾き返すよう意識した。すると――
バリーン!!
俺にまとわりついていた魔法の縄が弾け飛んだ。
「わ、私の魔法が……!!」
「おいアイン!! 勇者のクセにウソをつきやがったな!! 何が名誉毀損だ、このウソつきヤローめ!!」
「てめぇ!!」
顔を真っ赤に染めたアインが俺に向かって切りかかってきた。
「おわっ!! っぶねぇ」
俺は辛うじてそれを聖剣で弾く。
「たぁ!!!」
「うぉ!!」
それを二、三度繰り返した、俺はたまらず後方に向け跳躍すると、後方にあった屋根の上に着地した。
――すげえ……ウソみたいに軽い。
まるで自分の身体じゃないみたいだった。
――へへへ、なるほどね。これなら……
すぐに、これが勇体強化によるものだと理解した。
「ウソつき勇者アイン。お前の名前は覚えたからな……」
「クソが!!」
アインが焦って聖剣が纏う聖気をムチのように伸ばしてきた。
さすがは鼠のしっぽと呼ばれる聖剣なだけあって。尋常じゃない速度でしなりながら襲ってくる。
「うわっ」
だが、身体能力の上がった俺にとっては朝飯前だっった。その剣の動きがよく見える。
「ははは、誰が当たるか!!」
俺はひらりひらりと上体だけを動かして躱していく。
「クソガキッがぁぁぁぁ!!!!」
しつこくのばしてくる聖剣に、力を込めて弾き飛ばした。
「しつこいんだよっ!!」
ガキーンッ
「ぐぁっ!!」
聖剣を弾き返されると思っていなかったアインは、体勢を大きく崩した。
――いまなら……
「ウソだらけのこんな村、出てってやるよ」
俺は一度だけ村人たちを睨むと、そのまま全力で村を飛び出した。
「クソがぁぁぁぁ!!」
後方からアインの怒声が聞こえた気がした。
「ふん」