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「女神様お願いします!! 俺にまともに使えるスキルをください」
俺はシュナ14歳。村のはずれに一人で住んでいる。
両親は六年前に兄と妹を連れてどこかよその村に出ていった。
まあ、それには俺が今、保有しているスキルによるせいなのだが……
――――
――
この世界では『女神からの恩恵』と呼ばれる事象が起こり固有スキルを授かることがある。
それは5歳ごとに15歳まで間に起こる。つまり5歳、10歳、15歳、と最大で三回も固有スキルを授かるチャンスがあるのだ。
固有スキルは努力なしで授かる棚ぼた的なスキルなのだ。ほぼ努力しても取得できないレアスキルが多いのだ。
俺は5歳のときに〈ものまね〉スキルを授かった。その時は俺は、そのスキルについて何も知らなくて、純粋に嬉しかった。
ただ〈ものまね〉するには相手の同意がいる。
ベジタル王国では相手の同意なしに〈ものまね〉すると使用窃盗罪になるらしいのだ。
その当時、この法律が新しく定められたばかりで、大きな話題となり、この小さな村にもその話題が流れて来た。
これを俺の両親が教えてくれた。今に思えば、ものまねされたものの妬みから定められた法だということは俺にでも分かるが、当時の俺はまだ小さくわけも分かっていない子供だった。
それでも〈ものまね〉スキルを村のために使いたくて両親にお願いした。
ほんとうに当時の俺はバカだったと思う。
そんな俺を、両親も誇らしく思い嬉しかったのだろう、二つ返事で村中のみんなに話をつけてくれた。
俺は皆の同意を得て鑑定や解体スキルを〈ものまね〉して手伝いをしていった。
常に人手不足の小さな村にとって俺のやったことは大変有り難く、両親や村人からも大いに喜ばれた。
だが、それを面白くないと思ったのが、俺と同じ歳の息子がいる村長だった。
村長の息子は俺と違って5歳の時にスキルを授かっていなかった。
村長はこともあろうに俺のことを「勝手に人のスキルを真似している。努力なしに勝手に真似するずるい奴」と吹聴したあげく、村長権限を使い〈ものまね〉スキルまでその使用を禁止した。
ちゃんと同意を得ていたのに……
村長から嫌がらせはそれだけで終わらなかった。
村長の息子まで使い始めた。
村長の息子は俺と遊んでいた子供たちに「近づいたら真似される、話しても真似される、真似されたらスキルが取られるぞ」と吹聴して回った。
聞いていた親もウソと分かっているのに、村長の息子だからと、それを見て見ぬ振りをした。
俺はみんなから距離を置かれ始め、遂には避けられるようになった。
両親や兄弟は始めこそ俺を庇ってくれたが、妹の「こんな生活はもう嫌だ」と泣き付かれて、俺が8歳の頃、俺を一人を置いてこの村を出ていった。
家族を追いかけようとは思わなかった。
それから俺は、村の人を避け極力関わらないように生活した。
そして、一人で迎かえた10歳の誕生日でも俺は〈ものまね〉スキルを授かった。
またか……と思った。それからも村人には関わらないよう、ものまねスキルを使わない生活を続けた。
そして更に五年の月日が流れた。
――――
――
「俺も明日で15歳だ。今度こそ……」
明日は俺の15歳の誕生日。日付が変われば俺は固有スキルを授かる……かもしれない。
これが最後のチャンスだ。
生活に役立つスキルを授かればこんな村出ていってやるんだ。いや、俺はもう15歳になる。15歳は成人だ。なんでもできるようになる……
「何が授かっても、授からなくてもこの村を出る……」
そんなことを考え夜空を眺める。星の位置からもそろそろ、日付が変わる頃だ。
――まだか? ……まだのか? ……もしかして? ……過ぎた、のか?
「はぁ、ダメ……だった……っ!?」
――この感覚は!! き、来た……これはスキルを授かる感覚だ!!
【シュナは〈ものまね〉スキルを授かった】
――……
「……はい? うそ、だろ〈ものまね〉スキルが三つ目って……」
シュナは天を仰いだ。
しばらくて瞳を閉じるとため息がこぼれた。
「はぁ」
確認はしとかないといけないと思い。俺は「開示」と呟いた。
――――――――――――――――――
【名前】シュナ 【年齢】15歳
【性別】男
【固有スキル】
・ものまね(まね無)
・ものまね(まね無)
・ものまね(まね無)
【スキル】
・解体 ・狩り ・鑑定
・採集 ・料理
――――――――――――――――――
「ははは……ものまねスキルが、三つもある」
――もう笑うしかない。
俺は、気づけば自嘲の笑いを浮かべていた。
――ははは……
俺は、家族がまだいる頃、自分の固有スキル〈ものまね〉について一度だけ調べてみたことがある。
〈ものまね〉スキルは、相手が使用したスキルと魔法を〈ものまね〉して使用することができる。
ものまねを使用中に、更にほかのスキルをものまねすると使用中のスキルに上書きされるのだが、その真似したスキルは感覚を掴めるためか、真似たスキルを自力で習得しやすくなる。
魔法は魔法で、見た魔法を一つしか真似できないが、それでも魔法力を消費しないで使用できる。
非常に便利で、他人から見れば羨ましくなるスキルだ。
結果、この〈ものまね〉スキルの効果を知れば知るほど、持ってる者は周りに嫌がられる。
妬まれ嫌われても仕方ないスキルだろうと家族から言われたことがある。
現に家族である兄と妹からでも俺は距離を置かれていた。
「……昔のことだ……寝るか……」
――――
――
翌朝、起きてすぐに確認したがやっぱり〈ものまね〉スキルが三つあった。
肩を落としてばかりいられない。今日からは村を出る準備に取りかかる予定だ。
干し肉をたっぷり作ってなめした毛皮を準備するんだ。干し肉は食料だが、毛皮は売り物にする。
なぜ、前もって準備をしていないのか? と思うだろうが、もちろんしていた。していたが、村の連中が数人がかりで徴収に来やがったのだ。
俺がコツコツ貯めたものをほとんど持っていった。
――どこの村が受け入れてくれるか分からないもんな。いや
スキルのことがしれたら、そこでも……
俺は沈みそうにかる気持ちを振り払うように首を振った。
――やめよう……
朝食を食べていつものように森に狩りに行こうと家を出る。
――なんだ?
村の中心、井戸のある辺りがやけに騒がしい。
俺の家は160人ほど、40軒からなる村の、少し離れたところにあった古い小屋を利用している。
以前、家族と住んでいた家は、すでに人の手に渡っているし、俺としては今の古びた小屋の方が愛着がある。決して強がってるわけじゃはない。
そのため、結構な距離を歩かないと中心地が見えない。
――村で何かあったか? 騒がしい。
ここまで聞こえてくるんだ、何かあるだろう。
俺はみんなから嫌われ相手にもされないが、それでも村の様子がいつもと違うと気になる。ほら、何かあったら逃げないといけないだろ?
そろりそろりと忍び足で中心地まで移動し、誰にも見つからないよう、更に近づくと腰を落とし、井戸近くにある家の壁から顔の半分を出して覗き見た。
――ん? あれは!?
豪華な鎧を着た20代半の金髪の超イケメンがいる。
その周りには、豊満な胸に露出が多い鎧を身に着け戦士らしい美少女が一人。
その隣にもまた、豊満な胸に体にピッタリとはりついき動きやすそうな格好をした武道家らしい美少女が一人。
――凄いげぇ……なっ、なに!?
更に、その隣にもこれまた豊満な胸に短めのスカートにマントを羽織った魔法使いらしい美女が寄り添っている。
――なんて羨ま……けしからん。
美少女たちをはべらせているイケメンに苛っときたが、騒いでいた理由も分かったし、目の保養にはなったので森に行こうと踵を返したところで――
「「「勇者様!」」」
村人が叫んでるいる声が俺の耳に入った。
――んっ、勇者様?
勇者は〈聖剣召喚〉の固有スキルを授かった者がなる。このスキルは努力では身につけることのできないスキルだ。
俺も勇者に憧れたから知っている。
勇者にはそれなりの地位、権力、富と共に、責任、義務が発生する。
地位、富、権力とは、勇者は貴族扱いになり爵位を賜り王国から毎月給金が貰える? らしい。
そして、勇者には魔物討伐や魔王討伐などの討伐義務が発生する。
魔物討伐には特別報酬があり、当然そのランクで報酬が変わるらしいが〈聖剣召喚〉が強力らしい勇者が苦戦したという話を聞いたことはない。
またそんな勇者は、当然、異性にモテる、凄くモテる。何もしなくてもモテる。
つまり、そこそこ魔物討伐をしていれば優雅なハーレム生活が待っているのが勇者だ。
このベジタル王国には五人の勇者がいると聞いていたが、その一人を今日始めて見た。
その勇者は三人の美少女に胸を押し付けられている。
「アイツがウワサに聞く勇者って奴か……」
――アイツには、あれが普通なんだろうな……ふ、ふん。……羨ましくなんてないぞ……
そんなことを考えていると、勇者の前にへこへこしながら近づく頭の薄くなった村長が目についた。
村長は自分の手をすり揉みながら愛想笑いを浮かべている。
――力のある奴には尻尾振りやがって。気分が悪い。ふん。狩りにでもいくか……
その場を離れようと、ゆっくり移動しようとしたところで、その村長と視線があった。
――うげっ。
村長は俺に向け嫌な笑みを浮かべると何やら勇者に話しかけている。
村長の話を聞き頷いた勇者は鼻の下を伸ばしながらこの村一番に美しい村娘に視線を移した。
村一番はあくまでもこの村の基準である。勇者パーティーメンバーに比べるとかなり見劣りしている。
それでもこの勇者、かなりの女好きなのだろう。村娘は満更でもなく頬を紅く染めながら俯いていた。
勇者は活躍して名声を上げる。
名声があがり評価されれば当然、周りは有事に備えその勇者と縁を結びたい。
つまり勇者は妾が多ければ多いほど名声があり、力を示すことにもなるのだ。
――まあ、あの様子では……ただの女好きだろ? ……しかし、あの村娘は村長の親族だったはずだよな?
もしかしたら既に、村長の養女になっているかもしれない。村長は異常なほど権力に執着している。
自分の地位を磐石とするためなら、何でもするだろうし、あの村娘を勇者の妾に推したのだろうな。
――あの村娘も村人と結婚するより贅沢な暮らしのできるイケメン勇者の妾の方に魅力を感じたのだろう……さて、俺には関係ないことだし……
干し肉を蓄えたら、こんな村さっさと出ていってやる。
今度こそ、興味をなくした俺はその場を後にしようゆっくりと腰を上げようとした。
「おい、そこに隠れている少年」
村の中心から俺を呼ぶ男性の声がする。この村で俺に話しかける人はいない。
――嫌な予感しかしない。
俺はゆっくりと立ち上がり壁から出て声のする方を見た。
「そうだ、君だ。僕はアイン。勇者をしている」
――やっぱり勇者か、なぜ勇者が俺を?
勇者の後ろでニタニタと笑みを浮かべる、村長親子がいる。
――奴らか……
俺は苛立ちを隠し重い口を開いた。
「お……ぼ、僕に何かよ……ご用ですか?」
「ふむ。君が村人に嫌がらせをしていると聞いてね。どうしてそんなことをする?」
「嫌がらせ? お、僕が?」
「そうだ。君が村人の同意なく勝手にものまねして好き勝手に利用しているとね。
いいかい、同意ないものまねは窃盗罪だぞ」
勇者アインが目を細めやや強い口調で言う。
「それを誰に聞いたか分かりませんが、お、僕はこの村に禁止令が出てから一度も誰のものまねもしてな……おりません」
「ほう。君はあくまでも、ものまねしていないと言うんだね。だそうだよ村長」
勇者アインは腕を組んで村長に視線を移した。
「いえ。あやつは嘘を申しております。勇者様、騙されては行けませんぞ。なあみんなよ」
村長は周囲の村人に強く同意を求めると村人たちは戸惑いながらも頷いて肯定の意思を示した。
――ちっ、これじゃ、何を言っても俺は罪人だ。
「ほう、村人みんなが証人なんだな」
「そうでございます。そこでご相談があります。勇者様」
「なんだ村長?」
「実はこやつ、家の息子と同じ歳なのです。罪人にするには少しばかり可哀想と思いましね。そこで……」
村長は俺を見てにやにやと口角を上げると、ウソのような真摯な顔を勇者に向けた。
「確か、勇者様はスキルを封じる術をご存じだとか」
――ははは、そこまでして、俺のスキルが邪魔なのかよ。
俺は知っている。確か、この村で固有スキルを授かったのは俺だけだと聞いていた。
――どうやら15歳になっても、その息子には固有スキルが授からなかったんだな。あの村長は用心深い、1%でも自分の地位を脅かす不安分子は残したくないのだろう。
「ああ、確かにあるが……それは僕がその事実を見て確認すること、ベジタル王の承認がいる。僕が勝手にできるものではない」
「それならこうすればよいのでは……」
勇者と村長が何やら呟いてる。
「うむ。そうだなそれなら確認できる。それに僕の〈聖剣召喚〉はものまねできないレジエンドスキルに分類されるからな」
俺のいる位置からでは勇者たちが何を言っているか聞こえない。
「待たせてすまん。ではこうしよう少年。君が僕の〈聖剣召喚〉をものまねできたら、君のものまねスキルの実力を評価しその罪は不問とする。
ただし、それができなかったら、僕に罪を働いたと王城でスキル封じを受けて貰う。いいかい?」
「ちょっと待ってくれ、ください。それはおかしいだろ、でしょう。僕は誰にもものまねしていない」
「だが、これだけの村人が、君は好き勝手に利用していると証言している。
このままでも罪人として僕が連行することになるが、それでもいいか?」
――村長の親子が声を殺して笑ってやがる。これじゃ俺はどっちにしても罪人じゃねぇかよ。
残る道は〈聖剣召喚〉をものまねすることか。はぁ、やるしかないのか。
「分かりました。ものまね……します」
「よし。いいだろう。僕が聖剣を召喚するからそれをまねしてみろ」
勇者アインの口角が少し上がった。その後ろにはガッツポーズする村長親子がいた。