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更新遅くてすみません。
「あー、やっぱり外の空気はうまいや」
『そうにゃね』
背伸びをする俺の隣では目を細めたにゃんこが座り、眩しそうに青い空を眺めている。
機嫌がいいのか、にゃんこのしっぽも気持ち良さげにゆらゆらと揺れている。
『今日は薬草の採取にゃよね』
「そうだね」
『川があるにゃね』
「あはは、分かってるよ。川魚捕ろうな」
『にしし』
にぱっと、嬉しそうな笑みを浮かべるにゃんこを眺めつつ、人族に絡まれるということもなく、無事やり過ごせたことにホッとしている。
結局アランさんから、人族の冒険者がクマント村を離れたという知らせを受けたのは、あれから五日後のことで、冒険者たちが意外に長く滞在するもんだから冷や冷やしたけど、びっくりもした。
というのも、この村にはちゃんとした宿泊施設がなく、いや、この村だけじゃなくほとんどの村が同じような感じで互いに空き家を利用していているらしい。
けど、人族の冒険者たちにはその利用は認めていないというか教えてもいない。
冒険者たちは、村の中央広場にテントを張って過ごす。けど、その周りにはこの村でも剣術や武術に秀でた者の家が数十軒ある。
勘の鋭い者なら常に監視の目を向けられていることも気づき居心地が悪いだろうし、さっさと王都の方に向かうだろと、気楽に構えていた。
でも今回の冒険者たちは様子が違った。なんと今回このクマント村に訪れた冒険者は四人のパーティーが四組も来ていた。しかも結構腕が立ちそうな者が……まあ、俺は見ていないんだけど……
クマント村に訪れた人族の数としては過去最高だったらしいけど、その目的はやはり獣人国に住む人族の情報を集めていたそうだ。
間違いなく魔王を消滅させた俺のことだろう。
でも、この村の人たちは俺のことを話さないでいてくれたのか、この村で嗅ぎ回ってなんの情報もつかめなかった冒険者たちは、より人口の多い町の方に向かったとぞ、とアランさんが教えてくれた。
俺は意味もなく涙がでそうになった。
アランさんは何泣きそうな顔してんだ、とからかってきたけど、こればかりはしょうがない。非難されることには慣れてるけど、その逆はどんな顔をしていいのか分からない。
でも、そんなアランさんたちも、人化した姿を見られるわけにもいかないから、まだ警戒して獣人の姿を保っている。
「シュナ殿」
「あ、ジグラさん。それにアルーラ、カルラさん」
今日も中庭で鍛錬に勤しむアルーラさんとジグラさんとカルラさん。
この三人も、いつもと違ってまだ獣人化したままだ。
そのおかげで、俺は目のやり場に困ることなく軽く頭を下げお礼を伝えた。
「新鮮な食材ありがとうございました」
「大したことじゃないですから、また持っていきますね」
ライオン姿のアルーラさんがにこりと笑みを浮かべて返してくれているのだろうけど、ライオン姿なのでけっこうな迫力と凄みがある。
「えっ、あ、はい……」
そうなんだ。アランさんから外に出れなくて困っていると聞いたらしい妹のジグラさんが、新鮮な食材を持ってきてくれた。
他にも学校が休みになって嬉しそうなリズやグリ、その友だちと、俺の家に人が集まるなんてこと前の村ではあり得ないことだっただけに、なんだか嬉しくなった。
でも、なぜかアルーラさんやカルラさんは、そのままあがりこんで、ほぼ毎日のように夕食まで一緒に食べて帰っていた。
食材を貰っている手前、早く帰ってくれなんて言えるわけもないから、俺が調理したものを一緒に食べてもらったんだけど、幸い三人とも獣人化していたから変に意識することなく、思いのほか楽しく夕食ができた。
ただ俺の料理を涙を流しながら食べる三人はいつもどんな物を食べているのか心配になったけど。
「どうだシュナ。軽くやらねえか?」
素振りをしていたカルラさんが笑みを浮かべ俺の方に歩み寄りると、手に持つ木剣をひっくり返し差し出してくる。
「あー、今日は無理です」
こんな俺でも、この五日間で少しは鍛えられ、遠慮のない三人の距離感も獣人化している状態なら平気になった。
「今日はやることがあるので、遠慮しときます」
俺がすぐに断りを入れると、断られると分かっていたジグラさんがカルラさんの肩に手を置いた。
「シュナ殿は、ギルドの依頼をするのでしたね」
そして、カルラさんが俺に差し出していた木剣を取り、カルラも昨日聞いていただろ。どれ、私とやるか。と言いつつ片手で持った木剣を振りはじめた。
「そういえばそんなこと言っていたな」
そのカルラさんも、じゃあ、また今度な。と元気な声で言うと、立てかけていたもう一本の木剣を手に取り、ジグラさんと向かい合うように少し距離を取っている。
「シュナさん。明日は私たちに付き合ってもらってもいいんですよね?」
ジグラさんとカルラさんに目を向けていると、すぐ側まで寄っていたアルーラさんがそう尋ねてきた。
「ん? あ、はい。それは大丈夫ですよ」
俺は夕食の時、村はずれにある黒森のダンジョン調査に付き合うことを約束している。
これはにゃんこが、そんな場所があるなら一度は調べてた方がいいと言ったからで、俺はその場所を知らないからだ。
聞けば、なんでも数十年前に一度だけ魔物が溢れ出したことがあったらしいけど、その時は討伐隊が編成され事なきを得たそうだ。
でもそれからというもの、そのダンジョンに一番近いクマント村が毎年一度は異常がないのかその調査をしていたらしいんだけど、弱いとはいえ魔物が多く出る。
そのため最低四人であたるようにとクマント村では義務づけられていたそうだ。
――このことだったんだろうな……
まあ、誰が頼んだなんて考えるまでもなくアランさんだろう。
アランさんは時折、俺の顔を見て、人数が足りないんだよなぁ、とぼやいてし、これ幸いだと思い妹のジグラさんに頼んだのだろう。
「それなら良かったです」
「はい」
――――
――
俺はアルーラさんたちと別れた後、村はずれの薬草採取場所まで駆けると、早速、にゃんこと薬草採取に取りかかった。
「よーし、ここら辺りでいいかな……いっぱいあるしね」
『そうにゃよ。早く終わらせるにゃ。川魚にゃ』
にゃんこも張り切って、俺の隣で土を掘り、薬草を根から掘り上げていく。
『シュニャ、これはどうにゃ』
にゃんこは意外にも器用で、ふた掻きほどで、薬草を根っこごと掘り上げる。
「おお、にゃんこ早いな。それに上手い」
『にしし、こんなにょ、あちしにかかればちょちょいのちょいにゃ』
「あはは……」
しばらく二人で薬草を掘り上げては採取し、指定の袋に詰めていく、それを何度か繰り返していると――
――ん!?
『シュニャ!』
殺意のこもった斬撃が二つ飛んできた。
――速い!
俺は一撃目、ニ撃目と凄い速さで飛んでくる斬撃を真横に飛び転がりながら躱すと、すぐに飛び起き、斬撃が飛んできた方に身体を向け、視線だけを動かし辺りを探った。
――どこだ。どこにいる。
『あそこにゃシュニャ。あの木の後ろにゃ』
気配察知に長けるにゃんこが俺の左肩に飛び乗り、その方向に前脚を向けた。
「あーあ、やっぱり避けるよね」
「……」
「その方が猫の聖獣支様かぁ……」
そう言いながら木の後ろから姿を現した者は俺よりも歳が下に見える男か女かよく分からない子どもだった。
「しかし、お前、ずっと具現化させてるけど、どれだけ魔力があるんだよ」
その子どもっぽい見た目のヤツがにこにこと、人当たりの良さそうな顔でこちらに歩みよってくる。
「聖剣召喚! 猫の爪」
だが俺はすぐに聖剣を召喚した。
「もう一度聞く。お前は誰だ。俺に何のようだ」
油断なんてできなかった。そいつの手にもすでに二本の聖剣が握られていた。
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