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更新遅くてすみませんm(__)m
「陛下、よろしかったのですか?」
「アルーラのことか?」
「あ、いえ。王女殿下もですが、今は勇者……ではなく、聖剣使い殿のことです。
その……一度、どうにかしてお招きした方がよろしかったのではと……」
執務室で肩肘をつく王は、宰相のフィルの言葉に、分かっているだろうに、なぜ聞く、とばかりにギロリと睨みつけた。
「……仕方あるまい。あの者たちからの報告では、必要以上の接触は逆効果らしいからな、強要すればこの国を出て行くやもしれぬと釘を刺されてしまえば、いくらワシがこの国の王であろうと、どうすることもできぬわ」
「……そうですなぁ。しかし、他国の勇者たちは、人族らしく強欲で、それなりの地位や報酬を求めているというのに、聖剣使い殿はなぜに……」
宰相も分かっているのだろうが、人族の少年の行動に納得いかないのか小さく首を振った。
「うむ。基準は分からぬが、今でも聖剣使い殿が、何らかの魔物を処理してくれていることからも、我が国を嫌っているということはないと思うのだが……
はあ……いっそのこと、聖剣使い殿も、我が国に対価を求めてくれれば、こうも悩まずにすむのだが……」
「はい。まったくもってその通りです。聖剣使い殿は本当に人族なのでしょうか? 見返りを要求してくるどころか正体を明かそうともしませんからね。困ったものです」
「うむ。だからこそ、迂闊に手を出せんし、会うこともままならない。
くぅ〜、ワシだって聖獣支様とその少年に、会ってみたいというのに……」
「同感です」
悔しげに呟いていた王が、思い出したように鋭い眼差しを宰相に向けた。
「してフィルよ、手筈通りか?」
「当然です」
付き合いの長い宰相は、何を今頃言うのか、とばかりに呆れた顔で返した。
「うむ。それならよいのだ。魔王消滅後、我が国に入国する人族が増えておるからな」
「はい。十中八九、勇者でしょう。勇者は魔王の存在を感じとれると聞きます……それが消滅したとなれば、その原因を突き止めようとしている。もしくは、すでに感づかれていますな……」
「うむ」
「まあ、こちらも魔王討伐後に入国してくる人族には、特に警戒し、我々獣人族のみが嗅ぎ分けることのできる臭木で作成した入国証の携帯を義務付けました。
このことはすでに、国内の町や村の各代表に伝え、人族を迎え入れる際は、必ず提示してもらい確認するよう周知徹底させました。
あ、もちろん、我が国への入国料も引き上げております」
消臭効果を付与した手ぬぐいで丁寧に包んでいた新しい入国証の雛形を王へと手渡しはフィルはすぐに、別の手ぬぐいを取り出し自身の手をキレイに拭った。
「うっ!? うむ。当然だな」
一方、受け取った王も慌ててその入国証を自身の手から払い落とし、自身の手を嫌そうに眺めたあと、なぜワシの手に乗せたと言わんばりの、恨みのこもった目を宰相へと向けた。
嗅覚が人族よりも優れている獣人族にとってはそれほど臭木の臭いは、我慢ならないものだった。
「……えーと、それで現在定住している人族なのですが、何でも屋ギルドを介して、我がモッフモフ国の国民である証しをギルドカードに追記させ再交付させました。
これは少しでも、聖剣使い殿が、我が国の国民であるのだということを認識してもらえればと淡い期待を抱いてのことです」
「うむ。今はそれで良い」
「はい」
「しかし、今までほとんど寄り付きもしなかった人族、というよりベジタル王国民か……
この数日だけで、昨年の年間入国者数を上回っておるのだ、怪しまぬ方がおかしいというもの。これはあからさますぎて、我が国を侮っているとしか思えぬ」
「はい。まさにその通りですな。入国者の大半が冒険者とのことですので……」
「まったく人族という奴は……聖剣使い殿はものまねスキル持ちで迫害を受けていたそうだしのう、その辺から探りをいれてくるのだろうが……今さら連れ戻そうとしてもそうはさせぬわ」
「もう、いっそのこと獣化スキルをものまねしてくれませんかね……」
「ふむ。よい考えだが無理ではないのか? もともと人族と獣人族とでは身体能力の違いが大きい。とても獣化に耐えれるとは思えぬ、が……いや、しかし……聖剣使い殿ならひょっとする、か……」
「はい。可能性はあるかと……」
「ふむ。我が国に定住する人族は僅かだ。聖剣使い殿自身がそうしてくれれば有難いのだが、こればかりは考えたところで、どうしようもなるまい」
「そうですね。ただ、クマント村は街道からは外れているとはいえ、ベジタル王国、国境に近い村のひとつです」
「まあ、ここは珍しく口を挟んできたアルーラに任せてみるのもよいかもしれぬな」
「そうですなぁ。国政として従ってはいましたが、決してアルーラ王女殿下は人族に対して良い感情は持っておりませんでしたからな……実に興味……こほん。意外ですな」
「……う、うむ。まあ、無理をさせていたのは分かっておる。今は好きにさせるとしよう」
「そうですな。最後に陛下。ベジタル王国へのミスリルはどうなさるおつもりで?」
「ふん。言わずとも分かっておろう。しばらくは、あちらを真似てのらりくらりとやり過ごのも良かろう……それで何か言うようであれば、それこそ西部辺りから打ち滅ぼしてくれよう」
「はい。そちらも抜かりありません」
――――
――
「ん? シュナ殿はどちらかお出かけか?」
俺がいつものように、ギルドに向かおうと家を出ると、黒豹の獣人ジグラさん。虎の獣人カルアさん。それにライオンの獣人アルーラさんたちが短い袖の上着に、短いスボンの動きやすそうな軽装姿で朝から鍛錬をしていた。
――げっ!
「じ……ジグラさんにカルアさん……え? アルーラさんも朝から鍛錬ですか?」
――アルーラさんってお嬢様だったよな?
「はい。身体は動かしとかないとすぐに訛っちゃうから」
そう言って目一杯身体を伸ばしているアルーラさん。
「どうだ、シュナも一緒にやらねぇか?」
その隣で、爽やかな笑みを向けるジグラさんとカルアさんが素振りしている。
いつも思うが、獣人族の人化姿って美男美女が多いんだ。この村の人たちだってそうだし。
人との交流が苦手な俺に気を遣ってくれた村の人たちが、わざわざ他の人の家から少し離れた家を提供してくれて、ようやく人との距離の取り方に慣れてきてほっとしていたのに、これだ。
名前を呼ばれて、咄嗟に彼女たちの方に向いてしまったが、気まずい俺は彼女たちから少し視線を外し――
「あ、いや、俺はギルドに行かないと……アランさんにも呼ばれてますから。それに、ギルドの依頼も受けたいですから、遅く行くと日が暮れちゃいます」
そう返したのだが、あまり効果がなかったようだ。
「もう、せっかくお隣同士なのですから、仲良くしましょう。ね」
身体がほぐれたらしい、アルーラさんがゆっくりと立ち上がったかと思うと、俺のいる壁際まで歩いてきて「にゃんこちゃんも元気かな?」と言って手を伸ばしてた。
――そ、その手は……にゃんこの頭を撫でたいってことだよな……
彼女はお嬢様で、この村にかなりの出資をしてくれたとアランさんに聞いている。
――はぁ、別に嫌なことをされるわけでもないし、無下にはできないよな……
彼女たちの家はしっかりとした造りで立派な囲いがあるのだけど、なぜか俺の家側だけ壁が低かった。
だから俺が普通に家を出て視線を少しずらせば、彼女たちの家の中庭が見えてしまうのだ。
仮にもお嬢様の家がそんなんでいいのか、とも思ったりもしたのが、誰もそのことを指摘しないところをみると、獣人国ではこれが普通なのかもしれない。
――隣との垣根が低い?
あ、そうそう、彼女たちは引っ越して来たばかりで会ったのは七日前、キレイな感じのアルーラさんがどこぞの令嬢でジグラさんとカルアさんがその護衛でついて来たそうだ。
その時、ジグラさんは王国騎士だって聞いていた気がしたが、そのことに触れていいのか判断に困った俺は、そのままさらっと聞き流すことにした。
ほら、だってジグラさんは、アランさんの妹だって知っているくらいで別に深い仲ではない。これから毎日顔を合わせるのに、気まずくなって面倒だし。
でもまあ、アルーラさんにとって、この家は別荘だと言っていたし、ずっとこの村に住むのかどうかも分からないらしいから、気にしなくてもいいような気もする。
ただ一度だけでも、村での生活や、ご近所付き合い、何でも屋の真似事がしてみたくて来たんだと、わざわざ越してきた初日に俺の家まで来て挨拶をしてくれた。
ほんとお嬢様なのに変わっていると思う。
――はぁ……なんでこんなことに……
それからだ。それから毎日顔を合わせれば隣に住む俺に話しかけてくる。
『ご近所付き合いにゃね』
――そうか。これがご近所付き合いってやつか?
『にゃんこ。いいのか?』
『しょうがにゃいのにゃ』
にゃんこも、彼女が来てから毎日のように撫でられているので、もう慣れた様子だった。
『ありがとうな』
にゃんこにはそう言うものの、正直乗り気ではない。
俺は、しぶしぶと彼女の家の壁際まで近付いてにゃんこの頭を近づけてやった。
「ふふふ」
彼女は嬉しそうにゃんこの頭を撫でている。
『なかなか、撫でかたもうまくなってるにゃよ』
『……そうなんだ』
いつ終わるのかと、撫でている彼女に視線を向けていると、不意に彼女と視線があったので――
「そ、そろそろ俺行きます。今日はほんとギルドに行かないといけないんですよ。また今度お願いします」
俺は彼女たちからの返事を聞く前に、逃げるようにギルドへ向かった。
――くぅ……ご近所付き合いって大変。もう少し露出の少ない服を着てくれないと、俺話しなんてできないよ。ただでさえ人と話すのは緊張するのに……
「アランさーん」
俺はモヤモヤした気持ちのままギルドの中に入った。
「おう。シュナか。ちょうど良かった」
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