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ものまね勇者は聖剣使い  作者: ぐっちょん
第1章、俺は聖剣使い。
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11

ブックマークありがとうございます。

 村の奥へと入っていく獣人騎士を眺めていると、にやにやと笑みを浮かべながら本日、門番担当のガルドさんと、ディックさんが近寄ってきた。


「シュナ! ご苦労さん」


「くははは。疲れたろ、子どもたち、ちょろちょろ動くから」


「は、はい。まあ、でも、にゃんこがいたから……」


 肩には少しやつれた様子のにゃんこがしゅぽを動かし、俺の顔にペシペシとぶつけてくる。


『シュニャ……大きにゃ……しゃかにゃ……二匹にゃよ……』


 いつも元気いっぱいのにゃんこの声ではなく、蚊の鳴くような声のにゃんこ。子どもたちと腹一杯遊んだ結果だ。


 ――ははは……ほとんどおもちゃにされてたもんな……


『ああ、一番大きな魚を帰りに買おう。今日はありがとうな』


『わかってるならいいのにゃ……わかってるにゃら……』


「ぷ、ははは、にゃんこお前偉いな……」


「くははは。にゃんこ、俺が護衛の時も一緒に来てくれよ」


『い、いやにゃよ』


 にゃんこはぷいっとディックさんから顔を背けた。


「ほう、俺の言葉が分かるのか?」


「ははは、なんとなくにゃんこは人の言葉を理解しているみたいなんです」


 関心した様子でにゃんこを眺めるガルドさんとディックさん。


『にゃんこ、ごめん』


 俺は申し訳なくてにゃんこの頭を軽く撫でるとにゃんこは少し目を細めた。


『……うにゃ? べ、別にいいにゃ。シュナはこの方がいいにゃよね?』


 聖獣であるにゃんこは、魔力を込めれば人に言葉を伝えることができるが、その魔力は聖剣の使用者から消費されることになる。


 だが俺の場合は、ものまねスキルを介して召喚していることになっている。当然魔力なんて消費しない。

 つまり、にゃんこは話し放題なんだけど、そんなことすれば一発で聖獣だとバレてしまう。にゃんこはそれを気にしてくれていた。


『うん。ありがとう』


「だからなんですね〜、にゃんこちゃん、子どもたちに引っ掻くこともせず、ずっと遊んでくれて大助かりでした」


 隣で話を聞いていたカレン先生が、うとうとしながら迎えに来ていた母親に抱かれる子どもたちの方へ顔を向けた。


「こんなにはしゃぐ子どもたちは久しぶりです。ほら、野外学習も慣れてくると子どもたちも新しいことがしたくて湖に入ろうとしたり、森の奥に行こうとしたり……私も怒ってばかりいましたから……」


 カレン先生がしょんぼりと肩を落とすと、茶色い髪から小さく顔を出しているふわふわの熊耳がぺたんと倒れた。


「先生。まあ、そりゃあ、しょうがねぇよ」


「ああ、昔は野外学習も、先生が三人はついていたからな……一人では目の届く範囲が限られる」


「だから気にしてもしょうがねぇよ」と言うガルドさんとディックさんの意外に優しい声に、少し顔の赤い先生がこくりと頷いた。


『青春だにゃねぇ……』


『青春?』


『なんでもにゃいにゃよ』


『ふーん』


 ゴウキさんもだけど、ガルドさんと、ディックさんは村が心配だからと言って王都に行かなかった組だ。


 マレーさんに捕まった……じゃなくて捕まえたゴウキさんと違ってそして二人は番がいないと聞いている……にゃんこの物言いはこのことと何か関係あるのかね。


 ――そういえば、カレン先生はどうなんだろう?


『ほら、シュナ。ここは気を利かせてギルドに行くにゃよ』


『え、あ、そうなの?』


『そうにゃの』


『ふーん』


「カレン先生、ガルドさん、ディックさん。それじゃあ、俺はギルドに報告があるから……長剣は詰め所に戻しときます」


「お、おう」

「またな」

「シュナさん今日はありがとうございます」


 顔だけを向け片手で挨拶を返した俺は、詰め所に長剣を返しギルドへと向かった。


『もう、そんなに急かさなくても魚は逃げないって』


『違うにゃ、気配りにゃ、あちしは空気が読めるにゃ』


『空気?』


『なんでもないにゃ』


『ふーん』


 今日も、にゃんこは知らない言葉を使ってる。意味は分からないけどにゃんこが楽しそうだからいいんだけどね。


 ――――

 ――


「おう、シュナ。護衛ご苦労だったな」


「まだ、何も言ってませんけど……」


「その顔を見れば分かる。ほら今回の報酬だ」


「……!?」


 アランさんに手渡された報酬は、聞いていた報酬より少し多かった。俺は驚きアランさんに顔を向けると――


「急に依頼したからな、少し色をつけといた……」


「……」


 急な依頼だったけど、俺は納得して受けた。それに少し色をつけたにしては多すぎる気がして俺は困惑した。


「そんな顔をするな。シュナには助けられてるからな。気になるんなら、今後ともよろしく頼むぜ。ほら、明日の分、受けるだろ? どれにする」


 アランさんがニカッと笑い俺のできそうな依頼書をカウンターに並べた。


「はぁ……分かりました……じゃあ……」


 ――薬草の採取、薬屋の調合、ボア狩りに……ん?


 俺が依頼書を選んでいると、急にギルドのドアが開いた。


 ――夕方にしてはまだ早い、いつもならガランとしている時間だ。こんな時間に誰……ぇ? 騎士!?


 ギルドに入ってきた、その人は俺が村に戻ってすぐ見かけた獣人騎士だった。


 その騎士はギルド内に入ると被っていた騎士のヘルムを取り片手に持った。


 ――うわ……


 綺麗な黒髪が腰の位置までハラリと流れた。露わになった顔立ちは、整っているが目つきが鋭く目力がすごい。睨まれたら震え上がりそうだ。


 ――あれ?


 そして、頭にはアランさんとよく似た黒豹のような耳があった。


 一瞬だが、その騎士の人と視線があった気がした俺は、慌ててカウンターの依頼書へと視線を戻した。


「おう、ジグラ。騎士のお前がどうしてここに?」


「兄さん……」


 ――アランさんの妹?


 アランさんにジグラと呼ばれた騎士が俺を方へ視線を向けている気がした。非常に居心地が悪い。これは早々に帰るべきだと思った。


「アランさん、また後で依頼を受けに来ます」


 俺は話の邪魔にならないよう、気を利かせてギルドを出るつもりだった。それなのに――


「ま、待ってくれ」


 俺はその女騎士に呼び止められた。騎士に呼び止められたからか変な汗が背中を流れた。


「そ、その白猫は君の猫なのか?」


「え?」


 思っても見なかった質問に思わず言葉に詰まってしまった。騎士って偉いよな……全身から冷や汗が噴き出るのを感じたが――


「は!? 名乗りもせずにすまない。私はジグラと言う。ここのアランの妹でアルーラ様の護衛騎士をしている」


 ジグラと名乗った女騎士が胸に手を添え軽く挨拶をしてきた。

 アルーラ様と言うのが誰だか分からないが、俺は慌てて頭を下げた。


「それで、その白猫は君の猫で……!? もしや、君が村長が言っていた、新たにクマント村の住人になった人族のシュナか? 人族にしては珍しく猫を飼っていると聞いたが……」


「は、い……シュナはお、僕です」


「ものまねスキル持ちと聞いたが……」


 女騎士は、俺とにゃんこに何度も視線を向けるも、その表情は戸惑いの色が見てとれた。


「……は、い」


 獣人国の規律なんて俺は知らない。だが、それでも獣人国では人族は住人として扱ってはいけなかったのではないのかと疑ってしまう。


 ただ、この女騎士の戸惑いも俺がものまねスキル持ちだと聞いて同情しているのではないのか。それで真実を伝えることに躊躇して……ならば……


「もしかして村長は……人族の僕を住人にしたから、咎められますか? それなら僕はこの村を出て行きま……」


 バシッ!

「痛っ」


 俺の言葉を遮るように誰がが叩かれた音と痛がる声が耳に入った。


「おいジグラ。お前が変な言い回しするからシュナが勘違いしてるじゃねぇか」


「え?」


 どうやらアランさんがジグラさんの頭を叩いたようだ。なんで? 俺は思わず視線をアランさんに向けた。


「こいつは猫が大好きなんだ」


「兄さん、ちが……痛っ」


 またもや、何か言いたげなジグラさんの頭を……容赦なく叩いている。


「シュナ。それにな、獣人国の規律に人族を住人にしてはいけないという規律なんてないからな。安心したか」


 そう言ったアランさんがにやりと笑みを浮かべた。


「……そうなんですか、俺はてっきり……」


「バカな妹がすまん。こいつは気になったものがあると周りが見えなくなる癖があるからな……」


「兄さん、私は……」


 アランさんは、何か話そうとするジグラさんを手で制して、さらに言葉を続けた。


「ほら、ジグラ。先にここに来た要件を言え。俺も忙しいんだぞ。ほれ、早く」


 ジグラさんがジーッとアランさんを眺めた後、無言でガランとしたギルド内に目を向けて大きな息を吐き出した。


「はぁ……」


 ジグラさんがここに来た目的は二つ。近々、魔王が復活しても勇者を派遣しないベジタル王国に攻め入るためにおこなう徴兵のため。その公式文書を村長に届けに来たそうだ。


 そして、もう一つが、アランさんの騎士団への復帰。正確には蒼の騎士団の団長だと言っていたが、俺にはさっぱりだったが話し振りからも、兄であるアランさんがいたから、この村にジグラさんが来たようだ。

 けどアランさんはそれを黙って聞いていた。


 アランさんが騎士団長なんてびっくりするが、とても口を開ける雰囲気ではない。


 しばらく沈黙が続き、居心地の悪さから俺はギルドから出ようとしたんだけどアランさんが口を開き、出るタイミングを逃してしまった。


「……んで、魔王復活はどうする。陛下は何と言っているんだ?」


 ジグラさんが首を振る。


「魔王は復活したよ。そしてすぐ討伐した。だから我々獣人国にはもう時間がない、ベジタル王国がダメならハインツ帝国に同盟を求めるしかない」


 淡々と話すジグラさんはどこか遠くを見ている。


「そうか……まあ、ハインツ帝国が北で目を光らせているんだ、全兵力を向けれる獣人国と違ってベジタル王国はハインツ帝国にも備えていなければならない。

 ベジタル王国の西部は容易に獲れるだろうよ。ただ、な……」


 そう言ってアランさんは黙って椅子に腰かけた。


 ジグラさんもアランさんが何が言いたいのか分かっているらしく黙って側にあった椅子に腰を下ろした。


『ねぇ、にゃんこ。魔王が復活して倒したってどういうこと?』


『……すまにゃいにゃ、あちしもこの獣人国で魔王が復活していたにゃんて知らなかったにゃ。勉強不足だにゃ。

 だからあちしは邪因子だけを探って、魔王の魔力を見落としていたにゃ。面目無いにゃ』


『そうなんだ……』


 にゃんこがしょんぼりとしながらもヒゲをヒクヒクさせている。


『……シュニャ。今探ったら、たしかに魔王の魔力を感じるにゃ。

 倒したって言ってるけど倒せるはずにゃいにゃ。今は力を溜めるために眠っている状態に入っているようにゃね』


『それじゃあ……』


『ふふふ、もちろんにゃ。魔王は倒さにゃいとにゃ。眠っている状態にゃら好都合にゃ』


『やっぱり。危なくない?』


『眠っているから問題にゃいにゃ……にへへ。神さまに褒められるにゃ』


 にゃんこのしっぽがご機嫌に揺ら揺ら揺れている。


『ふーん、にゃんこが気になるって言っていた邪因子を排除するついでに今夜でも行く?』


『もちろんにゃ』


 ――とりあえず、夜に備えて早く寝ようかな……


「アランさん。俺、用事思い出したから、依頼はまた明日来ます」


「ん、おう、そうか。なんか気を使わせて悪いな」


「いいえ。ジグラさんも失礼します」


「ん、ああ、またな」


 その後、夜に備えてにゃんこの夕食に大きな魚を二匹と、俺の夕食に小さな魚一匹を買って帰宅した。


最後まで読んでいただきありがとうございます^ ^

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