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更新遅くてすみません。
――獣人国モッフモフ――
未だ、ベジタル王国からの勇者派遣要請に対する返答は平行線をたどっていた。
一度は勇者アインが派遣されるという話が上がったのだが、それも白紙へと戻っている。
「陛下!」
焦る様子を見せる宰相のフィルから陛下と呼ばれた獅子の獣人は腕を組み沈思黙考していた。
獣人国はベジタル王国に、同盟国とまではいかないが、友好国として高くない対価を払っている。
それは唯一の隣国であり有事の際に、勇者を派遣してもらう、ただそれだけのためだった。
にもかかわらず勇者は派遣されない。
獣人国に勇者はいない。誘致しようにも勇者は国に囲い込まれ手を出せない。そもそも獣人蔑視の人族には交渉すら難しい。
早々にベジタル王国に見切りをつけている重臣たちに促され、ハインツ帝国にも使者を派遣した獣人国だったが、ハインツ帝国まではベジタル王国を抜けねばたどり着けなかった。
そのため、盗賊に扮したベジタル王国軍にしてやられていた。まあ、これも色々と獣人国に不利な制約があったためなのだが――
このことも、ベジタル王国が獣人国に返答を遅らせている要因でもあるだろうと思っている。
大方、ベジタル王国は自国の行いを顧みず、蔑ろにしようとした獣人国に対する制裁とでも思っているのだろう。
「陛下、魔王復活の兆しが見られた今、そう悠長に構えられてはおれませぬぞ」
「分かっておる!」
「「陛下!」」
「……やむ終えん。アルーラを……」
「……はい」
「アルーラを……今一度、ベジタル王国へ向かわせる……その際、獣化の使用を禁止し、より強力な友好の架け橋となるよう注力させ……」
「陛下! それはなりません。それでは獣人国すべての民を危険にさらすことになります」
宰相のフィルが王の言葉を遮りゆっくりと首を振る。
それは過去の文献からも人族のいい愛玩とされるのが目に見えていからだ。数百年も隠し続けた姿、今更本来の姿をさらす必要などない、そう感じての発言だった。
本来なら、王の言葉を遮る行為は不敬罪と捉えられても仕方ないのだが、王と宰相、さらに重臣たちまでも旧知の仲。そんな発言を気にするものは誰一人いない。
「分かっておる。分かっておるのだ。だが、もう打つ手がない……」
「……陛下。今一度……今一度、魔王を討伐いたしましょう。そして時間を稼ぐのです」
宰相の声に周りの重臣たちも頷き肯定の意思を示す。
「しかし、二度復活した魔王の力は計り知れない……仮に勇者一人派遣してもらったところで手遅れになるのかも知れぬのだぞ。まあ、今の状態ではその望みも薄いがな……」
フンッと椅子の背もたれに寄りかかった王は自嘲の笑いを浮かべた。
「ははは、陛下。それくらい我々承知しております」
「フィル?」
急に笑い声を上げた宰相のフィルを王が怪訝そうに眺めた。
「陛下。ベジタル王国が友好国? はん。クソ喰らえですよ」
「フィルよ、いったい……そのような態度、まるで昔に戻ったような……」
悪態をつく宰相のフィルに、王は意味が分からないといった様子で眉間に皺を寄せた。
「陛下はいつからいい子ちゃんになられたのですか?」
「何!!」
宰相のフィルの物言いにさすがの王も鋭い眼光を向ける。大人しくしていればそうでもないが王はこれでも獅子の獣人、睨みつけるその眼光は今にも宰相の喉元を噛みつかんばかりの殺気を放っていた。
「陛下、ベジタル王国のこの地を奪いましょう」
このフィルも獅子の獣人、その睨みをさらりと流した宰相のフィルは元から広げてあった獣人国周辺の地図を指差した。
「む!?」
その地はベジタル王国の西部。ハインツ帝国にも隣接している地域だった。
「この地を奪えば、我々もハインツ帝国と隣国となります。これならば使者を容易に送ることができます」
そう、今は友好国と称してベジタル王国が必要以上の兵士や武器の持ち込みを禁止していた。
武器の使用は数名の護衛のみに限られていたのだ。
最低限の人数、しかもまともな武器を帯剣していない兵士がベジタル王国と敵対するハインツ帝国に抜けようものなら、どうぞ殺してくれと言っているようなものだ。
では正体を隠し本来の姿でベジタル王国を抜ければいいと思い至るのだが、ハインツ帝国側への出国が厳重なため、誰一人獣人だとバレるわけにいかない獣人国はなかな実行に移せなかった。
今までは有事の際に勇者を派遣してもらえるものだという思いがあり大人しく従っていた(ちゃんとした文書を交わしていたわけではない)
だが蓋を開ければどうだ、再三、勇者派遣の要請を嘆願したにもかかわらず、のらりくらりとはぐらかされる始末。対価は相当払っているのにもかかわらずにだ――
軍事力ではベジタル王国にも負けるとは思っていない。
ベジタル王国は獣人国を格下と見ているが、寧ろミスリル装備を揃えて、尚且つ獣人特有の強靭な肉体、身体能力を備えている分、獣人国の方が上なのだ。人口でも負けていない。
劣るとすれば勇者がいないというだけ。それだけなのだ。
「くっくっくっ、フィル。悪くない考えだ。さて、皆はどうだ、何か意見はないか」
愉快そうに部屋を見渡した王の目に悪戯っぽく笑みを浮かべる重臣たちが見える。
「ありませんな」
「同じく」
「我々は少し力を示すべきでしたな……」
「うむ」
「では、速やかに魔王を討伐し、各自、兵力を揃えるべく行動に移せ。ベジタル王国に攻め入る準備をするのだ」
「「「「「はっ」」」」」
復活しゴブリンを率いたゴブリンの魔王は、獣人国軍によって二度目の眠りについた。
獣人の王は文献の通り明らかに強くなっていた魔王に懸念を示すも、死者の出なかった自軍を信じ、国の存亡をかけ、その矛先をベジタル王国西部へと向けた。
「我々が大人しく従うペットだとでも思ったのか、なぁベジタルの王よ」
――――
――
「シュナさん、その……ありがとうございました」
カレン先生が俺に向かってペコリと頭を下げた。
「いえ、大したことないです」
俺は背中に担いでいたずだ袋を木陰にゆっくりと下ろした。
これは先生のずだ袋だ。中には、子どもたちのお弁当や教材が入っている。
護衛としては、明らかに支障にきたす大きなずだ袋は背負わない方がいいのだけど、俺には勇体強化がある。
勇体強化は優秀で、ずだ袋の重みなんて感じない。それに、大きなずだ袋を背負う先生の足元は一見、大丈夫なようで、そうではなかった。
俺が見ているとなぜか、シャキンと背筋を伸ばしてしっかりとした足取りで歩いているのだが、いざ目を離すとふらふらと足元がおぼついていないと、見ていたにゃんこが教えてくれた。
道中はずだ袋は自分で背負うと言うカレン先生の説得に時間がかかったくらいで、子どもたちも先生と歌を歌いながら湖畔までの道のりを楽しく歩くことができたようだ。よかった。
ガルドさんと、ディックさんの言っていた通り、俺は少し気負いすぎていたようだ。
「じゃあ俺は、あそこの木陰に居ますから、何かあったら呼んでください」
「はい」
「あー、にゃんこ」
「にゃんこがいい」
「にゃんこも〜一緒」
離れようとする俺、じゃなくにゃんこを子どもたちが取り囲んだ。
「ダメよ。リズちゃん、モネちゃん。ケンくん。今日は食べれる薬草のスケッチをするのよ。はい」
カレン先生が一人一人子どもたちにスケッチブックを手渡していく。
子どもは受け取りはするものの、どこか不満げで頬をぷくっと膨らませたかと思うと、その瞳はうるうると涙目へと変わっていく。
「ああ、うーん……」
さすがのカレン先生も、子どもたちのそんな様子に堪えれなくなったのか、申し訳なさそうに眉尻を下げ俺の方を向き、にゃんこへと視線を向けた。
「あ〜、お勉強が終わった後ならいいですよ。な? にゃんこ?」
『しょうがにゃいにゃ。相手してやるにゃよ』
俺の頭をぽふぽふと軽く叩いてくるにゃんこがすまし顔そんなことを言っているが、口元がにまにましているので、相当うれしいのだろう。
その後、勉強を済ませた子どもたちはにゃんこと腹一杯遊び、楽しくお弁当を食べ俺たちは帰路に着いた。
帰り道も魔草のお陰で何事もなく村にたどり着いたのだが、村の様子が少し違う。
――ん? なんだ?
見慣れない鎧を纏った獣人が村長の家のある方へと向かって行くのが見えた。
「先生、あの人たちは誰でしょうか?」
「まあ、珍しい。王国の騎士様ね」
「へぇ、あの人たちが獣人国の騎士ね」
――あ、そういえば……
俺はふと、国境を越える際に襲ってきた獣人国の騎士たちを思い出したが、今の俺は猫の姿でもないし、関係ないだろうと首を振った。
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