プロローグ
プロローグを追加しました。
俺は右手を突き出し叫んだ。
「聖剣召喚っ、はあぁぁぁぁぁ!!」
金色に輝く粒子が右手に集まり、俺の右手が金色に輝き神々しい光を放ち始める。
『シュニャ、今にゃ、オッケーにゃ』
「猫の聖剣っ! 猫の爪!!」
俺の右手に集まる光が長剣のシルエットを形取り、金色に輝く聖剣が召喚された。
右手に重さを感じない、シンプルな金色の長剣だ。柄には可愛い白猫の顔が刻んである。
『上出来にゃ。シュニャも、もう慣れたもんだにゃね』
俺の左肩には真っ白な猫が満足気な顔をして二足立ちしている。聖獣支の白猫にゃんこだ。
「にゃんこ、今日はどっちだ? どっちに邪因子持ち魔物がいる?」
『うーんとにゃね。むにゃむにゃ、こっちにゃ!』
にゃんこはピーンと張ったヒゲをヒクヒクさせると、自信満々に真っ暗な森の先に右前足を向けた。
「ありがとうにゃんこ。今日は時間もないし走るよ」
『分かったにゃ』
にゃんこが俺の頭をしっかり掴んだのを確認し、勇体強化をした俺は聖剣の光を頼りに疾駆する。
景色が流れるように走りぐんぐん森の中へと進んでいく。
――楽しい。
身体が思った通りに動き、楽しさを感じ始めていると、大切な何かを守るように大きなクモの魔物がワラワラ姿を見せた。
「クモ、でかいな」
その大きなクモの魔物はカシャカシャと音を立てている。不愉快な音だ。
それは、まるで仲間に合図を送っているような音にも感じた。
『シュニャどうしたにゃ? 早く行かないといっぱいくるにゃよ? ヤツはもうちょい先にゃよ』
「分かってるけど、数多くない?」
『そうかにゃ。でもシュニャにゃら大丈夫にゃ』
「そうかな……うわっと!」
俺は一体の魔物の口から放たれた白い液体を紙一重で躱した。
ジュワーッとその液体がかかった木々が溶かされ嫌な臭いを漂わせるが、俺はそれを確認しないまま大きなクモの魔物へ駆けた。
――やっぱり身体が軽い!
勇体強化された俺の身体は人の域を逸脱し目にも留まらぬ速さで駆けていた。
気づいた大きなクモの魔物が慌てたように俺に目掛、け一斉に白い液体を放ち始めた。
「遅い!!」
ジュワーッジュワーッと四方八方から聞こえるが、その液体が止まって見えるほどの領域に達している俺に当たることはない。
「そこだ!!」
俺は森の木々の合間を縫うように駆け低い姿勢から一気に跳躍し、聖剣を振り抜いた。
「このぉぉぉおお!!」
金色の閃光が走りその一振りでまとまっていた数体のクモの魔物を切断する。
圧倒的な戦力差にもかかわらず、大きなクモは逃げることなく、何かを守ろうと必死に俺の前に姿を現わす。
『シュニャ。ヤツはもうちょい先にゃ』
「分かった」
――――
――
「にゃんこ。こいつだな。こいつ殺ればいいんだな」
『そうにゃ、この魔物も魔物王……魔王になる邪因子を持っているにゃ』
俺の目の前には手の平サイズのクモの魔物が奇妙な声を上げ威嚇してくる。
もう少し魔王化が進めば黒い邪気を放ち出し、誰の目からも分かるようになるらしいとにゃんこが教えてくれたが、俺にはまだ分からない。
俺の目では、普通のクモの魔物より弱そうなクモの魔物にしか見えない。
「キ、キ、キシャー!!!!」
そのクモの魔物は周りの仲間に指示を出しているのか、耳障りな奇声を上げている。
「ムダだ。お前の周りの仲間はすでに殺った……」
そいつの周りには俺より大きなクモの魔物の死骸がゴロゴロと転がっている。
この邪因子を持つクモを守ろうと俺に襲ってきた魔物たちだ。
「安心しろ……お前もすぐに仲間のところに送ってやる」
威嚇してくるだけで何もできない邪因子を持つクモを聖剣で一突きした。
「ギギギッ……」
邪因子持ちのクモの魔物は小さな断末魔の叫びを上げると一瞬で灰になった。
「終わった」
魔王化前の魔物だからか、戦闘に慣れていない俺でも楽に倒せた。
――……不思議だよな……邪因子を持つ魔物の死骸は残らないもんな……
『シュニャ。おつかれにゃ』
「にゃんこもありがとうな」
邪因子を持つ魔物は聖剣でトドメを刺すと灰になり消滅する。
だがそれは、聖剣以外では倒すことのできない魔物だということでもあった。