37.33:世界破滅のデート日和(前)
【TAKE 5】
――どうしたもんかなー。
早坂鷹は真っ昼間から頭を抱えていた。
王都セレストの王城周辺、閑静な広場のベンチに座って、さぁどうしたものかと一人考え込んでいる。
「どうかしましたか? タカさん」
隣には同行しているマリアベルが座り、心配そうにしている。そのローブの裾は相変わらず無残に破れたままで、新しいローブを買う、もしくは補修するという目的は達成できていない。
簡単なクエストのはずだった。町が広めのRPGでも画面切り替え数回とボタンの数クリックで済む話だ。だが、王都は鷹が思った以上の危険地帯だった。
事は鷹の体感時間で数時間前、王城の手前まで遡る。
前の前の前の前の周回の話だ。
【TAKE 1】
鷹は、差し出されたマリアベルの手を握った。
ほのかに柔らかい感触が伝わり、僅かに鼓動が早まるのを感じる。
別段同年代の女性に極端に耐性がないわけではない。姉をたまに投げ飛ばしたり、姉にしょっちゅう投げ飛ばされたりと接する機会は多い。無視していいカウントかもしれないが、少なくとも生物学上は女だ。
だが、バグだらけで間が抜けているとはいえ、共に死線を潜り抜けた仲間などというのはこれまでの一般学生としての人生では得難い関係だ。しかも、これからの旅に同行するという。意識してしまうのも仕方のないことだった。
もう一人戦闘に参加していて旅に同行する女が一人いたが、それは問題外だ。
鷹はマリアベルの視点があるであろう斜め後方を向いて一つ頷くと、その手を引いて大通りに向けて歩き始めた。
城の周辺はやはり地価が高いのか、宝石店やいかにも高級そうなブティックといった、自分達にはあまり縁のなさそうな店が軒を連ねている。
人通りも比較的少なく、身なりのいい紳士や見回り中の兵士がポツポツと見える程度だ。冒険を終え、着るものを今からなんとかしようという身としては、何となく場違い感を覚える一帯だった。
「やっぱり町の真ん中ぐらいが一番栄えてるのか? このあたりはどうもピンと来ないけど」
「はい。この近くに教会の祭具を作っている職人さんなんかもいたりはしますが、一般的な買い物をするなら中央商店街になります。こう、王都が全体的に半円状で、外周に向かうにつれて庶民的な感じになっていきますね。なのでローブを買うとなると少し歩きます」
「なるほど。ま、色々あってこっちの世界の町をゆっくり見る機会もなかったし、散歩ってことで」
「そうですね。できる限りは案内します」
くすっと笑うマリアベルを見て鷹は確信した。
これはデートである。
鷹とマリアベルは別段恋仲にあるわけではないが、年頃の男女で手をつないで散歩をし、ショッピングをする。それは最早デート言って過言ではない。
そうなると旅の疲れなどとは言ってはいられない。ゲーム世界転移として発奮するには何かと不都合とバグの多いこの旅路において、珍しく素直に心躍るイベントだった。鷹のテンションは大いに上がっていた。
この時は、まだ。
王城から離れると、目に見えて人通りが多くなってきた。店も武器屋やレストランといった馴染みのあるものが増え、身なりも遠方からの旅行者らしき姿や冒険者、港から戻った船夫まで多種多様だ。
いわゆる商業地区といったところだろうか。町としての機能を求めるならこれぐらいの活気が妥当に思える。
「このあたりは生活のためというより主に旅行者や冒険者といった、下世話な言い方をすれば町にお金を落としていく人たちのためのエリアですね。装備を買うならこのあたりがいいかなと思います。観光名所も多いですよ」
「あれは?」
鷹の指差す先、小さな公園となっている一角に、両手を空に掲げた女性の石像が建っていた。憩いの場となっているのか、親子連れやカップルなどがその周りで談笑している。
察するに女神像というものだろうか。鷹の見立てではあまり女神アンゼリカに似てはいなかったが、神聖な雰囲気というものは感じる。むしろ神聖だからこそ似ていないのかもしれない。
「ああ、あれも有名な観光名所ですね。少し見ていきましょう」
頷き、マリアベルの手を引いて公園の方へと歩いていく。
周囲に商店が多く土地の余裕が無いのか小じんまりとしていたが、花壇などが品よく整えられて雰囲気はなかなかのものだ。
石像の周りには円形に整然と石が組まれて、その中心に綺麗な水が溜まっており、流れから循環している様子が見てとれた。
「これはあれか、一定時間ごとに水が噴き出したりするタイプの噴水か?」
「あら、ご存知だったんですか?」
「いや、うちの世界にもそういうのあるからさ、似たような感じかなと」
機械式でなくとも、魔法というものがあるこの世界ならばそれも可能に思えたが、どうやら正解だったらしい。
マリアベルは興味深そうに何度も頷いている。
「ふぅん、世界が違えど文化は似るものなんですね。えっと、これは悲涙の乙女像といいます。遥か昔、魔物の勢力が特に強かった時代に、悲しみの涙を流しながらも世界中を巡って人々の傷を癒した白魔道士を模した像なんです」
「なるほど。偉人を讃えた記念像ってやつか」
言われてみれば確かに、悲壮な表情の中に確かな決意のようなものが窺える顔立ちだ。だが、悲涙と銘打たれた割には涙を流しているようには見えない。
石像で涙を描いても陳腐になるからだろうか、それとも心で泣いても表には出さずに逆境に立ち向かったという表現だろうか。
鷹があれこれと想像していると、公園に備えられた時計を見たマリアベルが何やら嬉しそうな声を上げた。
「あ、すごい。ちょうど時間ですよ。いいタイミングで来れましたねタカさん」
「タイミング? あ、もしかして噴水のか?」
「はい、よく見ててくださいね」
マリアベルの声で気がついたのか、元々待っていたのか、周囲の人々も会話を控えて石像の方へと視線を集めていた。鷹も固唾を呑んで見守る。
やがて時計の長針が頂点に達した瞬間、石像に変化が現れた。
女性の像の目元から水が噴き出したのだ。
それはもう、勢い良く。上へ向けて吐き出された水はアーチ状に宙をくねり、足元の泉へと滝のように流れ落ちていく。悲涙というよりはギャグ漫画での大げさな表現のような凄まじい泣きっぷりだった。
周囲から感嘆の声が聞こえる。
「かの白魔道士プリムラ・ブルガリスは、傷ついた子供を見るたびにこのように涙を流す心優しい御方だったと伝えられています」
「流しすぎじゃねぇかな」
「おっと、まだまだこれからですよタカさん。ほら」
何がほらなのかと見てみれば、像の鼻や耳の穴からも同様に水が噴き出し始めた。しかも、一応形としては綺麗な目からの噴水に比べ、どうにも目詰まりをおこしているような不格好な出方だった。よく見れば固く結んだ唇の端からもポタポタと溢れ出ている。どう見てもよだれだ。
「出来る限り体内の水の循環を模して造られた像らしいのですが、どうも作成中にテンションが上がって目からの噴射に力を入れすぎたみたいで、いざ実装するとうまく目への経路だけを通らず、周囲の穴からもついでに漏れ出るようになってしまったそうですよ」
「ダダ漏れじゃねぇか」
水の出口が顔近辺に集中しているのがせめてもの救いだったが、救いにならないレベルで悲惨な光景だった。本人がこれを見たらそれこそ悲涙を流すだろう。
「石像を造られた伝説の職人が自分の失敗を認めず、生前のプリムラがこのような感じでボロボロ泣いていたことにしようと異説を打ち立て布教に走ったのですが、さすがに通らずに異端者として処刑されたそうです」
「いやまぁ、なんで通ると思ったんだその職人」
「でもこの泣き顔は大変にロマンチックだということで、長らく王都では愛されている貴重なモニュメントなんですよ」
「果たしてロマンチックかな」
鷹が文化と価値観の違いに戦慄していると、やがて水は勢いを弱め、顔面ずぶ濡れの石像が悲しそうな顔のまま泣き止んだ。
これが一時間で自然乾燥するのだろうかと思っていると、石像の顔面が突然赤熱し、ジュッと音を立てて一瞬で水が蒸発し、顔周りが水蒸気に包まれた。
真っ赤な顔で湯気を吹くその顔は、控えめに見ても激怒しているようにしか見えなかった。
「すごいですよね、職人はあんな構造や魔法を仕組んでいなかったのに、ある日から突然あんな乾き方をするようになったそうですよ。不思議ですよね」
「その何とかって白魔道士の怨霊だと思うぞ俺」
何事もなかったかのように談笑に戻る周囲から察するに、この挙動は至って正常なもののようだ。
マリアベルは上機嫌なようで握った手を楽しそうに揺らしているが、残念ながら鷹は呪いの像を見て浮かれた気分から若干落ち着いてしまった。
「あ、ローブを買わないとですね。いけないいけない。私もあの方のように人々の救いになれるような白魔道士を目指さないと」
「少なくとも石像が造られるような存在にはならなくていいからな」
「やだ、そんなに名誉欲が強いわけじゃないですよ私は」
クスクスと笑うマリアベルに、鷹はフラットな表情を返した。
何はともあれ、万が一マリアベル像が造られるにしても、今の彼女のような満面の笑顔の像であることを願う鷹だった。
二人は手を繋いだまま、近くに見えた防具屋へと入店した。
表ののぼりには『魔道士応援セール!』と書かれており、いかにも好都合だ。
店内は意外に広く、鎧コーナーや革などの軽装備コーナー、変わったところで消費式の防御護符のコーナーなどもあった。恐らく、使えば防御魔法が発動するタイプのアイテムといったところだろう。
季節の特設コーナーと銘打たれたところに、のぼりに偽りなく魔道士関連の防具が多数並んでいた。三角帽に胸当て、マントと肩アーマーのセット、そしてもちろん各色のローブ。白いのも黒いのも、青も緑も金色も取り揃えられていた。
価格も手頃で、祭殿で稼いだ今なら余裕を持って買えそうな程度だ。
「さすがセールというだけあるのかな。適正価格はどんなもんなんだ?」
「……すいません、私店内だと視界がかなり遮られて近くは全然見えないです」
「あ、悪い悪い」
振り返れば後方には鎧の棚。マリアベルの視点はその向こうにあるとすれば、値段の確認どころではない。
「サイズはMでいいのか?」
「そうですね。ローブは割と幅を持たせられますから、よっぽど小柄か大柄でないならMで大丈夫です」
「でも君って胸が規格外だしさ。ごめん、心にしまうつもりが目に入ったら口走らずにはいられなかった」
「いい度胸してますね。まぁ正直に告白したから一旦は許しますが……そんな着るものに困るほどのものではないですよ」
肩をすくめる動作で、ローブの盛り上がった胸部が重たげにたわんだのを、鷹は感謝の念と共に強く記憶に焼き付けた。
とりあえず白魔道士用のMサイズであれば構わないということで二着ほど見繕い、カウンターへと持っていく。
恰幅のいい中年の店主が椅子に座っており、鷹達を見て腰を上げた。
「いらっしゃい。おや? お客さんどっかで見た顔だね」
「ん? いや、俺ついさっき初めて王都に来たとこっすけど」
そもそも誰かと知り合う機会は現状ほとんどない。他人の空似だろうか。
なんとなく鷹がそう思ってローブを差し出すと、それを受け取りながらも店主はなお食い下がった。
「いや、でも確かに……おお、そうだ! 俺の故郷のヒエン山岳を救ってくれた冒険者さんじゃあないか! そうかそうか、城で勲章でも貰ったのかい?」
「あ、やべ」
「やばいですね」
店主の言葉に鷹とマリアベルの表情が強張る。彼の口にした地名には聞き覚えがあった。イベントフラグのバグで王が口にした、鷹達が賊を倒した『ことになっている』地方のはずだ。そこの出身者のようだ。
本来そこを救った上で話しかけると、例えばちょっとしたアイテムが貰えたり、買値を安くしてくれるなど、何かしら恩恵があったのかもしれない。
だが今は、詮索したらフリーズが成立してしまう。
なんとかやり過ごそうと愛想笑いを浮かべる鷹に、健闘むなしく店主は難しい顔で首を捻り始めた。
「あれ……? でも俺はずっと王都にいて……あんたの顔をいつどこで……?」
「いやぁ、まぁあんまり気にしない方がいいっすよ」
「どどドどどめ? ぷ」
「駄目だったかー」
店主の口から発した異音と共に、周囲が一瞬で凍りついた。もちろん、手を繋いだマリアベルもだ。その手はフリーズすることで柔らかさと温かさを失い、しかし冷たいわけでもない、何も存在しないかのような奇妙な温感を返してきた。
手を繋いだままその位置に完全に固定されてしまっているため、結構な無理をしなければ外れそうもなかった。
反省会は始まらない。
バグを考察する担当の愛紗は、今頃宿で休んでいる頃だろう。
下手すると眠りこけたままフリーズに気づかず、このまま数時間放置される可能性すらある。店の扉も閉まった状態で固定されているため、外に出て伝えにいくことすら叶わない。
「……仕方ない。気づいたらロードするだろうし、待つか……」
楽しいはずのデートは、残念ながら一からのやり直しとなるようだ。やり直したとして、この防具屋はもう利用できない。とんだ地雷が潜んでいたものだ。
フラグバグの影響は王だけでなく、それらのイベントに関連した人物にも及んでいたようだ。
ローブは教会でも買えるし、裁縫屋で繕うという手もあるとマリアベルは言っていた。次の周回はそのあたりを当たってみるかと鷹がぼんやり考えていると、突然視界が暗転した。
ロードだ。
【TAKE 2】
気づくと鷹は、城壁近くに立っていた。愛紗が横目で睨んできている。
悪い、と小声で呟く。別に悪くはないのだが、鷹側が原因でフリーズしたのは間違いない。愛紗は溜息をつくと、何事もなかったようにその場をやり直した。
「さて、私は馬車疲れで一足先に宿で休むけど、鷹君はマリアベルちゃんの破れためちゃエロいローブを何とかしに行くといいよ」
「あ、確かにちょっと有害ですよね」
自分の知らないところでフリーズしてロードし、即座に対応できるのはさすが大したものだと思えた。そしてまだ鷹をこのデートに送り込む気は残っているらしい。鷹としても、あんな不意打ちの事故でせっかくの機会を反故にするのは本意ではない。
「んじゃあ今度は頑張りなよ鷹くーん」
そう言って愛紗は再び機敏な動きで宿の方へと走って行った。
二度目のデートが始まった。
「タカさんはゾンビとスケルトンの境目はどこだと思いますか? いえ、ゾンビも経年で肉が落ちることで骨だけになると思うんですよ。その場合のそれはゾンビなんでしょうか、スケルトンなんでしょうか」
「待ってくれ。俺はいい天気だし何か楽しい話題はないかなって振ったはずなんだが、どうしてその質問を暴投してきた」
商業地区に再び辿り着いて、なんとなく話題を振った結果がこれだ。
鷹は雲一つない晴天を見上げた。
「あ、すいません。趣味で殴ってると、ふとそんな感傷的なことを考えてしまうことがあるんですよね。そういう思考遊びって楽しくないですか?」
「君はアンデッドが憎いのか殴るのが楽しいのかどっちなんだ」
「概ね両方ですかね」
マリアベルは得意げだ。一見すると清楚なので忘れがちだが、そもそもアンデッド中心だからとふらっと魔物の本拠地に乗り込むような少女だ。
空いた手で頭を掻きながら、鷹は一周目とは別の方向へそれとなくマリアベルを引っ張っていた。目指すは教会だ。幸いにも、四つ角に立っていた看板の一つに教会への案内が書いてあった。
「あっちに教会があるみたいだぞ。そこでいいんだよな?」
「はい。王都支部は研修で行ったことありますし、知り合いもいますからひょっとすると安値で手に入るかもしれません」
「そっか。なら最初からこっちにすりゃよかったな」
「はい?」
「いやこっちの話」
誤魔化し、鷹は教会方面へと足を向けた。やや郊外にあたるようで、人通りは多少減って見晴らしはいい。その上知っている道ということもあって、マリアベルは勝手知ったるとばかり鷹の手を引いて率先して歩きだしていた。
女神教会王都支部は、さすがにアース祭殿には及ばないものの立派で荘厳な建物だった。残念ながら、まだ他の教会を巡ったことがない鷹にはどの程度の規模なのか判断は難しかったが。
中に入ると奥では司教か何からしき年老いた僧が台の上に立ち、長椅子に座った礼拝客に何かしらを説いていた。観光客もいるのか、なかなかに盛況している。
「生けとし生けるものは皆女神の寵児。本日はどうされましたか?」
入口の脇から、落ち着いた女性の声が聞こえた。視線を向けると、初老のシスターが人好きする笑顔を向けていた。受付、というわけでもないだろうが。
彼女は最初鷹を見て、続いてその横に立っていたマリアベルを見ると、まぁ、と更に嬉しそうに笑みを深めた。
「マリアベルではないですか。お久しぶりですね」
「あ……その声はタチアナさんですね?」
「まぁ、おかしな子。声がなくとも見れば分かるでしょう」
くすくすと笑うシスターに、繋いだ手から冷や汗が滲み出てきたのを感じた気がした。今マリアベルの視点的にはまだ教会の外だ、タチアナというシスターの姿は見えない。
「こ、こちらはこの教会のベテランシスターのタチアナさんです。私も研修の時お世話になりまして」
「なるほど。はじめまして、早坂鷹っす」
鷹がぺこりと頭を下げると、今度はタチアナは少しからかうような色の笑みに表情を変えた。出会ってから先笑顔しか見ていないが、表情豊かなものだ。
「はじめまして。マリアベルの好い人かしら? まぁまぁ人目もはばからず手なんて繋いで。隅に置けないこと」
「ち、違いますよっ。これはその、ちょっと脚を挫いてしまって!」
ぽっと顔を赤らめてマリアベルが抗議する。
可愛らしいとは勿論思ったのだが、ひどく残念なことに鷹の脳裏をよぎったのは前周回で見た、激怒して湯気を吹く乙女像の姿だった。
「あら。言われてみれば脚のところ、どうしたのです? 外傷……は、なさそうですね。挫いたと言うには派手な破れ方だけども」
「えーと、まぁ色々ありまして。あ、それでですね、今日の用事はこの」
「そうそう、聞きましたよマリアベル」
好都合とばかりローブについて切り出そうとしたマリアベルを遮るように、タチアナは少し興奮した様子で喋りだした。
何か、鷹の第六感が危険を告げていた。
「あなた、冒険者の方と一緒に南部のドラゴンゾンビの大発生を鎮圧したんでしょう? 回復より戦いが苦手で困ったものと思っていましたが、大手柄ではないですか。ああ、もしかしてそちらの方がその冒険者さんかしら」
「タカさん」
「ううん、更に盛られたな攻略済の案件」
王都の謁見でも出なかった話だ。あの後クリアしたことになったのか、王の耳には届いていない話だったのか、いずれにせよ非常にまずい。
挨拶もそこそこに切り上げようとしたが、既に遅い。
「あら? でも変ですねぇ。四年に一度の大瘴気で発生したと聞いたけれど、前回は三年前で今回はまだ……あら?」
時限発生のイベントだったようで、条件から既に矛盾が生じている。そしてそれにタチアナは既に疑問を抱いている。詰みである。
今度は教会の奥から響くオルガンの音が単音でプーーッと鳴り続けた状態で時は凍りついた。マリアベルは何か言い訳しようとした慌てた表情で固まっている。なかなかに可愛らしいものだった。
防具屋に引き続き、こうして教会ルートも潰された。
【TAKE 3】
「私は超疲れたから先に宿屋に行くけど、マリアベルちゃんはまずそのローブなんとかした方がいいかな。そして鷹君、私に何か言うことはある?」
「もうちょっと頑張ります」
「よろしい」
グッドラック。指を立てて愛紗は去っていった。
裁縫屋は鷹の知らない海賊襲撃の話をして世界を滅ぼした。
【TAKE 4】
「あー、少し落ち着いて休みたいなー。ちょっと寝ようとしたところで起こされるの、私超嫌いだから先に宿に行ってゆっくり休むよ? ゆっくり休みたいからね? 鷹君そのあたりどう思う?」
「その……今度こそ行けると思います、姉上様」
「タカさん突然どうしたんですか」
突然の姉への服従に怯えるマリアベルの手を握って、鷹は相互扶助組織である魔道士連盟の門を叩いた
デートの最中、例えばローブが手に入るなら他にどんな場所があるかと尋ね、なんとか捻り出した選択肢だ。魔道士系のジョブについた者が任意で加入する組織であるらしい。
そこでは鷹は魔道の歴史の中でも価値のある、なんらかの秘宝を掘り出して寄贈したとして迎えられ、「あれどこに保管したっけ?」と誰かが言い出した途端フリーズした。
既に四回世界を滅ぼした。その辺の魔王など及びもつかない禍々しい戦果だが、鷹としては無難に楽しくデートを楽しみたいだけである。
だが、ローブを得られそうな場所はことごとく何かしらのイベントのクリアフラグが立っており、買い物をすることすら容易ではなかった。
「……ていうかあんたら何戦隊の何レンジャーだよ」
白黒どころか七色のローブを身にまとった魔道士達の静止した姿を見ながら、鷹は誰に聞かれることもない突っ込みを入れた。
町のどこか、遥か遠くから「鷹君のアホーーーー」という声が響いたような気がした。




