王と王妃
世子後宮揀擇を行うにあたり禁婚令が敷かれた。嬪宮に懐妊の兆しがないことを危惧していた宜宗はこの決定に賛同した。
久しぶりに宜宗は王妃張氏を誘って秘苑に散策へ出た。牡丹の花を思わせる赤い唐衣を纏った王妃は少し疲れたように見えた。
「中殿、やつれたな」
「ご心配をおかけします。嬪宮のことで頭を悩ませておりました」
「嬪宮?懐妊の兆しがないことか?」
「はい。大妃媽媽も気をもんでおられます」
「側室を迎えるのだ。安心せよ」
「恐れながらお願いがございます」
宜宗と王妃張氏は立ち止まった。王妃張氏は宜宗の瞳を見つめながら言った。
「楊慶華を側室にしてください」
「嬪宮選びで落選した娘ではないか」
「揀擇で落選した娘は宮女になれますし、楊慶華は最終選考まで残りました。最終選考まで残った娘は側室になれます」
「確かに習慣に則っている。良かろう。楊慶華を側室として入宮させよう」
「ありがとうございます」
王妃張氏はどこか安堵したような表情を浮かべた。それを見た宜宗は贖罪を果たしたような気持ちになった。それから2人は鈴なりになって秘苑を歩いた。特に会話はなかったが、穏やかな時間には変わりなかった。