嬪宮
世子は18歳になった。しかし、嬪宮は懐妊しなかった。世子は嬪宮を愛してはいなかった。それでも決まり事として抱いた。
かれこれ5年もそれを続けている。世子が気まぐれに手をつけた内人はすぐに懐妊して縣主を産んだから彼が不妊の原因でないのは明らかだった。
王妃張氏は嬪宮を呼んだ。
「嬪宮、世子宮揀擇をしましょう」
「母上さま!それは嫌でございます!」
「世子は18歳になるのに縣主しかいないのよ?そ、れに側室を夫に進めるのも妻の務めです」
「それは私が懐妊しないからでございますか?」
「そうです。あなたが懐妊しないからです」
王妃張氏はぴしゃりと言った。嬪宮は悲しむほかなかった。そこまではっきりと言われてしまうとは思ってもみなかったからである。
「母上さま、1つお願いがございます。媵妾として従姉妹の入宮を許してください。そうしたら側室の存在を受け入れます」
「…分かりました。側室が何人いても世子嬪、嬪宮はあなたです。正妻の立場を忘れずに尽くしなさい」
嬪宮は深々と頭を下げた。その様子を心配そうに全尚宮が見つめていた。
「嬪宮、もう下がって良いわ」
「はい」
嬪宮が部屋を後にすると王妃張氏は肘掛にもたれて大きなため息をついた。すかさず全尚宮が声をかける。
「中殿媽媽、まだ嬪宮媽媽を受け入れられないのですか?」
「全尚宮…そうよ。夫の側室は受け入れられても世子嬪だけは受け入れられないのよ…何故、あの日、教旨に韓昭蘭の名前が書かれてあったのか…何かが絡んでいるような気がするの。疑惑は疑惑しか生まないわ」
「その件は私が調べます」
「くれぐれも極秘で」
「かしこまりました」
全尚宮は忠誠心にあつい尚宮だった。この全尚宮は宜宗からの承恩を主人を裏切るわけにはいかないと言って自害をちらつかせて断った武勇伝もある。ある意味の烈女だった。王妃張氏はそんな全尚宮を深く信頼していた。