はじまりⅤ
翌日、元子翼は世子に冊封された。そして世子嬪揀擇が公布され形だけの禁婚令が敷かれた。豪族や両班の娘たちが着飾り王宮にやって来た。その中には慶華の姿もあった。
王妃を初めとする内命婦が娘たちを面接していく。しかし、すでに世子嬪は決まっていたから真剣さはなかった。
その中で趙淑儀は異様な感情を抱いていた。後宮は揀擇に参加できないため様子を尚宮や内人に報告してもらっている。趙淑儀は思った。世子さへ生まれなければ、自分の息子はもっと愛され、そして世子になっていたかもしれない。そんな感情が胸の奥から湧き上がってきた。
「世子だけ幸せだなんて許せない…滅茶苦茶にしてやる。金尚宮(キム尚宮)!」
部屋の外で控えていた金尚宮を呼ぶと趙淑儀は手招きをした。そして耳元で囁いた。
「世子嬪を韓家の娘に変えなさい」
「淑儀媽媽!」
「世子だけが望むものを得られるなんて不公平だわ…断れば命はないわ。あなたたち尚宮の命は私が握っているのだからね」
「は、はい」
金尚宮は恐怖で身がすくむ思いだったが、なんとか立ち上がり揀擇が行われている東宮へと向かった。
ちょうど時間はお昼を回っていた。誰もいなくなった内命婦の控え室に忍び込むと机の上に置かれた教旨を見つけた。金尚宮はその教旨をすり替えて出て行った。