はじまりⅣ
翼と龍壽が学問に勤しむころ、王妃張氏は正四品の外命婦、令人沈氏(ヨイン・シム氏)を交泰殿(キョテ殿)に呼んだ。沈氏は龍壽と慶華の生母で穏やかな性格の女性だった。至密尚宮の全尚宮(チョン尚宮)が2人に茶を持ってきた。丸い膳の上に茶器を置くと話しやすいように早々に部屋をあとにした。
「沈夫人、今日は話したいことがあって呼びました」
「中殿媽媽、どのようなことでしょう」
「世子嬪のことです」
「世子嬪?」
「あなたの娘の慶華の評判を聞いて私は思いました。慶華を世子嬪にしよう、っと」
「しかしながら、慶華はまだ幼く世間を知りません」
「私が世子嬪になったのは15の時です。それからすれば幼いでしょう。実は主上殿下が気に止めている家門があるのです」
「そうなのですか?」
「韓家(ハン家)よ。韓家は豪族で力をつけてきている…そこの娘が世子嬪、王妃となったら外戚に朝廷が乗っ取られてしまう…漢の呂后のようになります」
「中殿媽媽がそこまで考えていらしたとは…分かりました。夫にも私から話しておきます」
「ありがたいわ」
2人の会話をたまたま交泰殿に立ち寄った趙淑儀が聞いていた。趙淑儀は息子を産んだのに見向きもされず、次第に翼という存在を憎むようになっていった。