魔の手
吉日、趙淑儀は正一品「嬪」になり「懿」の徽号を与えられた。同日に王妃の従兄弟である韓奎が都承旨となった。韓家にとっては冊妃以来の慶事であり、栄転であった。
楊龍壽は左承旨、韓奎は右承旨と呼ばれるようになり妾門の楊、妃門の韓と揶揄されることもしばしばあった。両家にとっても朝廷にとっても2人の都承旨就任は大きかったのだ。龍壽と慶華は複雑な気持ちにならざるおえなかった。
このまま、龍壽が昇任しても後宮の妹の七光りとされるし、主上が昭儀を寵愛し過ぎていると言われかねないからだ。
懿嬪の元に息子の信寧君が遊びに訪れた。懿嬪は大王大妃が自分を追い出そうとしていると信寧君に話した。
「母上を追い出す前に王を追い出しましょう」
「どうやって追い出すの?」
「我々は手を汚しません。汚すのは御医たちです」
「まさか」
「医官の李久台は老いぼれの御医のせいで昇任できずにいます。李に王の処方に少しずつ薬を混ぜてもらうのです」
「すぐは殺さないと?」
「はい。弱らせてから殺さなければ意味がありません。それを疫病のせいにします。大王大妃は疫病の抗体がありませんから離宮に追い出すことができます」
懿嬪はにやりと笑った。その笑は怪しく、不気味であった。信寧君は部屋の外で控えていた李久台を呼んで母に引き合わせた。
「お前が李医官だな」
「懿嬪媽媽、さようにございます」
すると懿嬪は巾着を投げつけた。鈍い音が部屋に響く。李久台はそれを拾い上げた。巾着はずっしりと重かった。




