趙淑儀
後宮抹殺書に始末せよと書かれた趙淑儀は平然としていた。というより、大妃が大人しいことを良いことに権勢を誇っていた。
大王大妃はそんな趙淑儀を目の上のたんこぶのように思っていた。大妃は大王大妃に呼ばれて大王大妃殿に向かった。大王大妃が言った。
「趙淑儀が嬪になりしだい、信寧君の屋敷で暮らしてもらうわ」
「しかし、淑儀は先王の寵姫です。いくら、傲慢でもよく仕えてくれました」
「先代の後宮は宮廷を出ていくのが決まりです。それを温情で留めているだけよ」
部屋の外では趙淑儀付きの金尚宮が内心で冷や汗をかいた。後宮が宮廷を出るということは尚宮たちの仕事がなくなるということだ。
仕事がない尚宮は別の部署に回るか、寺に入るしかなくなってしまう。家族のいない尚宮は寺がついの住処になるのだ。金尚宮には家族がいない。宮廷の華やかさに慣れてしまった金尚宮は寺という辛気臭い場所には行きたくなかった。金尚宮は踵を返した。
趙淑儀は嫁の永海郡夫人を招いて梅を花瓶に活けていた。一介の内人から側室になった趙淑儀は一部の内人たちには憧れだった。趙淑儀は誰よりも美しかったし、誰よりも溌剌としていた。そこに先王、宜宗は惹かれたのである。薔薇のように華やかな美貌は大妃にはなかった。
それを趙淑儀はよく知っていた。自分のことをよく知っているから、自分の魅力について最大に引き出すことが出来るのだ。
「淑儀媽媽!淑儀媽媽、金尚宮でございます!」
半ば叫ぶように金尚宮が部屋に入ってきた。その様子を永海郡夫人は驚いた表情を浮かべて見ていたが、趙淑儀は表情も目線も変えず梅の枝を整えていた。




