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はじまりⅡ
翼は楊家(ヤン家)の龍壽と特に仲が良かった。龍壽は翼より1つ年上で面倒見が良く、史書をよく知っていた。10歳になると輔養庁は侍講院となり本格的な英才教育が始まった。
その日はよく晴れた日だった。翼が侍講院を散歩していると門の前に佇む少女がいた。淡い桃色の長衣が映える色白の肌をしていた。
珊瑚色の唇、聡明な光をたたえた瞳に翼は見とれた。
視線に気づいた少女はこちらを向いて直ぐに顔を逸らした。
「侍講院に何用かな?」
「お、お許しを。兄に届け物を…」
「兄?」
翼は少女に近づいた。少女の顔は赤らんでいる。必死に顔を見せまいとする仕草が可愛く思えた。
「どなたか存じませんが、楊龍壽に史書を持ってきたのです」
その言葉が翼には新鮮だった。自分を知らない存在があることが何故か心地よい。
「龍壽だな。龍壽に渡しておくから」
「えっ…」
少女が手にしていた風呂敷を翼は半ば強引に手に取ると体を翻し、侍講院に消えていった。