尚宮
大殿尚宮は慣れた手つきで夜食を用意すると立ち上がり部屋の隅に下がった。
主上は用意された夜食の膳を自分の方へ引き寄せる。そして粥に手をつけた。松の実の香ばしさが口の中に広がる。
「美味い!」
「大妃媽媽は松の実粥をお作りになるのが得意なのですよ」
「大妃媽媽を知っているのか?」
すると大殿尚宮は穏やかな表情を浮かべて小さく頷いた。
「大妃殿付きだったのか?」
「左様にございます。姓を河と申します」
「河尚宮か。昔の大妃媽媽はどんな感じだったのだ?今と変わらぬか?」
「はい。穏やかでお優しく私たちも良くしていただきました」
「そうか。河尚宮、時間があるとき大妃殿に行くと良い」
「良いのですか!」
「ああ」
河尚宮はしゃがむと両手と額を床に付けて深々と礼をした。
尚宮は正五品であり、女官の最高位である。その下に尚儀や尚正などがあり、全部で18階級に別れていた。尚宮の上は従四品の淑媛となり側室の身分となっていた。尚宮は主に三つに分けられる。第一に十五年
で尚宮になれる至密、第二に至密以外の尚宮、そして承恩尚宮がある。承恩尚宮は王から寵愛を賜った内人が就く。正式な側室ではなく、身分的には愛人であった。
昌陵君が愛した善花は今、承恩尚宮の地位にある。一方の趙淑儀は従二品であり、正一品の嬪になることが決まっていた。
嬪になると王から一字を賜ることができた。それは王の側室としては名誉なことだった。




