私通
昌陵君が宮廷にやって来た。善花は傍らでよくせわ世話をしていた。その善花に鄭良媛は嫉妬を感じた。善花は目鼻立ちのはっきりした美人だったから余計だった。
2人は息抜きでよく秘苑で散歩することが多かった。美男美女の歩く姿は尚宮や内人、内侍までも引き付けた。初めは意識していなかった昌陵君だったが、自分に付き従う美しい善花を意識し始めた。
満月の夜だった。鄭良媛のもとに手紙を携えた内人が現れた。手紙には昌陵君から秘苑で待っている、と認められていた。チマを翻し鄭良媛は尚宮も連れずに秘苑へ向かった。人影が蓮池の水面に揺らめく。
「昌陵君!」
鄭良媛の影が重なった。その刹那、無数の松明が当たりをてらした。月明かりよりも眩しく、鄭良媛は目を細めた。
一瞬、何が起きたのか分からなかった。それは鄭良媛に抱きつかれた昌陵君も同じだった。秘苑での「私通」騒動は嬪宮の耳に入ってきた。嬪宮は冷たく言い放った。
「良媛鄭氏、賜薬」
表情も何も変えずに言った嬪宮に側仕えの尚宮たちは恐怖を覚えて鳥肌が立った。あまりにも嬪宮は冷酷だったのである。
この秘苑での一件は全て鄭良媛の罪になった。昌陵君は被害者とされたが、何とも後味が悪かった。
世子はしばらく慶華の殿舎にも朴承徽の殿舎にも近寄らなかった。




