天月府夫人
「昌陵君はまだ宮廷のしきたりに慣れていませんから慣れる意味で宮廷に泊まらせてみては」
「それは良いわね」
王妃は頷きながら言った。趙淑儀は王妃の様子を見ながら話した。
「中殿媽媽、でしたら、善花に世話をさせては?本当に気が利きますの」
「それは良いわね」
宜宗は昌陵君を気にかけていた。それは宜宗の贖罪であったからだ。また、曽祖父の過ちを自分の代で精算したい気持ちもあった。
それを天月府夫人は知っていた。彼女は宜宗の義姉である。実は宜宗には異母兄がいたのだ。天月府夫人はその兄の未亡人であった。幼い頃から宜宗を傍で見てきた彼女だからこそ、彼の気持ちに気づいていた。
その日の夜、大妃のもとに宜宗が訪れた。大妃は待っていたわよ、と言わんばかりに彼を手招いた。
「大妃媽媽、何か嬉しいことでもあったのですか?」
「中殿から昌陵君を宮廷に呼ぶと聞いたのよ。主上もそうしたいと言っていたから、ようやく中殿と心が通ったのかと思ったのよ」
「そうでしたか。中殿を冷遇したのは私の意地でした。今後はそのようなことないようにします」
「王と妃の心が通っていれば後宮で過ちを犯す事はなくなります。妻は中殿だけです」
「肝に命じます」
「趙淑儀に入れ込んでいたようですけど…あの娘に油断してなりません」
「はい…」
大妃に言われて宜宗は深く頷いた。大妃殿から足早に康寧殿へ戻ると尚膳に硯をすらせた。




