原案3 事故⇒異世界召喚④
解放されたサタネルは、主無き今自分が地上に留まる理由は無いと語る。
そして解放してくれた主人公に、自身の12枚の翼の内の半分を与える契約を結ぶ。
天使の翼は力の証であり、下位中位は2枚、上位は4枚、6枚以上が最高位となる。
つまり主人公は、最高位の天使に匹敵する聖属性の使い手となったのだ。
6翼となったサタネルが、長く自身を封じていた牢獄の天井を見上げる。
その口から歌声のようなモノが発せられると、天井は白い光の柱に貫かれ吹き飛んだ。
それは天より裁きの光を落とす聖属性の神代の魔法【ジャッジメント】だった。
あまりの威力に呆気にとられる一同をよそに、サタネルは飛び去ろうとする。
「お待ちください!」
だが、辛うじてだが反応できたのは王子だった。
彼は「行かないでくれ」とも「許してくれ」とも言わなかった。
それが無意味であることを理解していたのだ。
だから、ただ訪ねた。
もし、先祖が即座にサタネルを開放していたらどうなっていたか?
今のように指導者と契約してくれたのか?
それとも自分の意志で力を国民に分け与えてくれたのか?
もっと違う今があったのか?
と。
この場ではサタネル以外は気付いていなかったが、国軍の強さの源であった聖属性の加護はすでに失われていた。
力の源であったサタネルと魔法陣が失われたのだから当然であった。
そしてサタネルは「全ては過ぎ去った過去であり、もしもは無い。その問いに意味は無い」と言い残し、飛び去った。
後には呆然とする王族、困惑する異世界人、そして目的を達した主人公だけが残された。
・決別
王城は大混乱に陥った。
主だった家臣が謁見の間に集められ、王子の説明が始まる。
全てを話し終えた王子が口を閉ざすと、部屋は不気味な沈黙に包まれる。
王族貴族武官文官、更には異世界人と結構な人数がいるのだが、誰も口を開かない。
いや、開けない。
隠蔽され抹消されていた真実、これが知られれば国の根底を揺るがしかねない。
否、既に『王城に落ちた裁きの光』と『飛び去る天使』を多くの者が目撃している。
さらに将軍から警備兵まで尽くが聖属性の加護を失っていた。
今まで当たり前に使えていた圧倒的な力を失ったのだ。
国は大きな混乱に陥るだろう。
もっとマズイのは外国に知られる事だ。
天使の力という最大の武器を失った以上、モノをいうのは兵の数と質。
質はともかく数は国防に十分とは言えない。
兵が多いという事は出費も多くなるという事。
国庫にはそんな余裕が無いのだ。
これまで天使の力を以て周辺国を併呑してきた。
滅ぼされた国の民はさらに周辺の国に流れ込み憎悪を撒き散らした。
天使の力が失われたと知られれば、攻め込んでくる国は間違いなく現れる。
異世界人を使って攻めるつもりが、守る事さえ危うくなったのだ。
「そんなはずがあるか!!」
静寂を切り裂いたのは国王の怒声だった。
彼は認められなかった。
先祖の罪も、天使に見捨てられたという事実も、亡国の危機も。
そして無能と思っていた異世界人が天使と契約を結んだ事も。
そうだ全てこいつが天使に言わせたことなのだ。
こいつが天使の力を奪い追い出したのだ。
全てはこいつの責任だ。
こいつが悪いのだ。
身勝手な思考が国王の頭を支配する。
ならば、こいつは罪を償わなければならない。
天使の代わりに国の礎となるべきなのだ。
国王は決断した。
天使の契約者を人柱として使う事を。
サタネルが見ていれば思っただろう。
血は争えない、と。
王の考え方はかつての先祖と同じものだった。
もう少し冷静に行動したなら結果は違っただろう。
何しろ封印結界も変換術式も存在しないのだ。
主人公を人柱にすることは実現不可能である。
王子の説明にもあったのだが、興奮した王は既に忘れていた。
あるいは都合の悪い事実から目を背けていた。
王子は主人公を天使の代わりに祭り上げようと考えていた。
そして、どうやって説得しようか考えていたのだ。
何せ、今までの扱いが酷すぎた。
説得の言葉など思い浮かばない。
ちなみに王女は思考停止状態だった。
「その者を捕えよ!」
王子の苦悩は王の言葉で意味を無くした。
無数の槍と剣が主人公を取り囲む。
異世界人は驚愕し、王子は慌てた。
ただでさえリーダーの一人である覇王を中心に、不信感を募らせているのだ。
これは止めになりかねない。
そして次の瞬間、主人公の背に6枚の光の翼が顕現した。
神々しい輝き。
圧倒的な魔力。
全ての者達が魅入られた。
動けなかった。
「潮時か」
そう呟くと主人公は翼を広げる。
舞い散った羽は消える事無く滞空し、一気に放たれた。
光の銃弾と化した羽はレーザーの様に謁見の間を貫き、王城を切り裂いた。
粉塵が晴れたそこに主人公の姿は無かった。
死傷者は0だった。
「ここまでだな。行こう」
覇王が声をかけると異世界人の大半が頷いた。
この瞬間、彼らは国を見限った。
国王も家臣たちも誰一人反応できなかった。
パニック状態でそれどころではなかったのだ。
覇王とその仲間たちは国境を越え、国を去った。
混乱状態の兵達に彼らを止める事は出来なかった。
一方で勇者を含む数人は国に残った。
と、言っても明確に国に付いたわけではない。
単純に踏ん切りがつかなかったのだ。
誰もが自由を求めて歩き出せるわけではないのだ。
勇者は王子に説得され、王女に泣きつかれ国に所属する事になった。
彼は天使の代わりに国の象徴となる事が望まれ、受け入れた。
対外的には「天使は勇者に力と国の守護を託し、天へと去って行った」と発表された。
国は勇者を全面的にバックアップすることを約束した。
それ以外彼らが生き残る道は無かったのだ。
・それぞれの道
主人公は気ままに世界を巡る事にした。
様々な事を見聞きする事がアイオーンの望みだったからだ。
国や組織に所属する事無く放浪し、高位存在を見つけては契約した。
聖域の守護者、具現化するほどの幻術を操る神獣『幻狼』
使用者に剣聖の技量と無限の活力を与え、代わりに心を蝕む魔剣『神斬無死』
大精霊の一種である雷火の巨人、大空の覇者たる双頭の大鷲、等々。
一国を落とせるだけの力を持ちながら、彼はあくまで個人の都合で動いた。
その在りかたを危険視した国や組織が何度も討伐を試みたが、全て逆に壊滅させられた。
やがて彼は生きた天災として認識されるようになる。
覇王は仲間と共に冒険者となった。
実力を着け、名声を高め、遂には一大勢力を築く事になる。
既存の勢力に所属する事を良しとせず、彼はあくまで自立を目指す。
彼は国の存在しない未踏破地域を切り開き、街を作った。
人が増えれば拡張し、やがてそれは小規模な国となる。
当然大国による干渉があったが、一騎当千の異世界人を多数抱える新国家はそれを跳ね除けた。
冒険者時代の伝手を駆使し、人材を集め急速に国は大きくなる。
既存の国、現在の支配者層に不満を持つ者達は彼の元に集う。
覇王、それは武を持って道を切り開く者。
敵は容赦無く倒し、味方は全力を持って庇護する。
その姿は敵には恐れられ、味方には崇拝された。
勇者はガタガタになった国を守るために奔走した。
国境の守りを固めた結果、国の中がスカスカになってしまったのだ。
勇者は先陣を切って魔物を討伐した。
国の宣伝もあって勇者の人気はうなぎ登りだった。
しかし、一部の者は懸念していた。
国は勇者に汚い裏側を見せも教えもしなかった。
盗賊退治など人を殺す仕事もさせなかった。
神輿は徹底して綺麗なままにしておいた。
純水に魚は棲めない。
穢れを知らぬ事が、いつか勇者自身を殺してしまうのでは?
彼が残酷な現実を受け入れられなくなるのでは?
そんな懸念を王子は王に伝えるが王は聞き入れない。
もはや勇者こそが国の希望。
王は失う事を極度に恐れるようになっていた。
その結果、王は王子が引くほどに勇者を過保護に扱うようになってしまった。
王子は密かに決意する。
場合によっては王位を簒奪してでも父を止める事を。
王女だけが何も考えず勇者に付きまとっていた。
勇者をこの国に繋ぎ止める。
それだけが王の期待する彼女の役目だった。
長くなりました。
OPどころか第一章分だった気がします。
主人公:個人主義。国や組織と関係なく、あくまで個人を見る。
覇王:シンプルに『敵は倒し、味方は助ける』というスタンス。
勇者:平和主義で博愛主義。敵味方関係なく弱者は助けようとする聖人気質。