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或る動騒  作者: 或る男
1/4

或る女の困惑

初投稿、地雷です。

1909/9/1 14:42 Furstenwalde


------ッ!!

声?

-----た、助けてくれっ

だれ?

いや、そもそも私は誰だ?

何故ここにいる?

そもそもここは何処だ?

周囲を見る。…瓦礫と壊れた高級品と思われる家具がある。

…いい物だったろうに勿体無い。

しかし何よりも驚いたのは壁が無いということだ。

この辺はそんな生活様式なのだろうか?

つらつらとそんな事を考える。


…現実逃避だということは解っていた。しかし、私は逃避し続けるしか無かった。

外からは人々の悲鳴と銃声が聴こえる。

家具はひどく大きい。いや、私の身長が低くなっているのだろう、相当に。

見下ろせば、白く細い腕と考えたくも無い膨らみ。…小さいというのが救いだろうか。

服は薄手で動きやすいだろう。…股の間が涼しい。

肩にかかる銀色の長い髪。

…考えたくない。しかし、考えねばならないようだ。


何故、私が、幼い、女になって、戦場に、居るのかを。



 私はただの大学生だった、少なくとも、ついさっきまでは。

私は何時もどうりに講義を受け、友人と呼べる者もいないので、独り寂しく買い物をして帰宅したはず、である。

はず、というのはどうも記憶が曖昧なのだ。

なにせ、自分の名前が解らない。にもかかわらず、友人がいない、家族もいない、などの事は覚えているのは不思議なものだ。

まるで、船食虫に食べられたかのように穴だらけなのである。

さて、私はというと少し混乱していた。何故か、この身体の持ち主の記憶が当たり前のように思い出せたのだ。

但し、断片的に。

それによると、この国はヒュルケンベルク大公国、連邦国家の一国らしい。

連邦の南部で革命とやらが起こり、この国にも波及した。

『私』はこの国の南部、フュルステンヴァルデに住む母を迎えに来たらしい。

しかし、母を見つけたはいいが外は食料を求めるデモで出ることも出来ず、とりあえず部屋で待機していた。というのが最後の記憶である。


とりあえず、状況を把握せねばなるまい。

壁際に立って外を見渡す。「壁」が無いのに壁際と言えるのかは解らない。

運の無いことにここは建物の上階のようだ、飛び降りたら死ぬだろう。

壁が無いことから考えるに、この建物は相当のダメージを受けているようだ。早く脱出せねば。

町はまさに惨状と言える。

自然災害でもここまでは破壊されないだろうと思うほどに荒れ果てていた。

街道には大量の亡骸。酷い匂い。…気持ち悪くなりそうだ。

更に悪いことに数ヵ所で火事まで発生しているようだ。

空は曇り。日没までは時間がありそうだ。

私は脱出まで一刻の猶予も許されないと悟った。

そこで、私は用意を急いでかき集める事にした。


五分ほど後、私は肩掛けバック、最低限の衣服、蝋燭、そして少ないながら現金を入手して部屋を出る。

部屋を出ると右手奥に階段があった。

三階まで階段を下ると、私は少々困った事態に直面した。

どうやら、以降は階段が崩れ落ちているようだ。危なく、足を踏み外して落ちるところであった。

この建物には階段が一つしか無い。一大事である。

私は紐状の物を窓から下ろし、それにつたって降りるのが次善の策だと考えた。

私は部屋に入り、カーテンをかき集める。

急いでカーテンをかき集めると、それを結び五六メートルほどにした。

入った部屋はいずれも無人であった。二部屋目にはマッチと缶詰、缶切りが有ったので、それを拝借した。

私は窓際に行くと、表通りは危険だと思い、路地側の部屋に向かった。

私はベッドの柱にカーテンをしっかり括りつけると、それを窓を開けてから落とした。

カーテンに強度がある事を祈りながら、それをつたって下った。


…どうやら、カーテンの長さが足りなかったようだ。二階の窓を過ぎたあたりでカーテンが途切れている。

私は、ここから飛び降りることを考えた。しかし、この身体、細い足ではとても飛び降りる気にはなれなかった。

仕方の無いので、私は窓から二階に入る事にした。

外壁を蹴り、勢いをつけ振り子の様に窓を蹴破った。

着地時に少し手を切ったようだが、そんな事を気にしている暇は無い。急いで部屋を出ると、廊下を走った。

どうやら、ここの階段は使えるようである。

階段を下り裏口に向かうと、鍵が閉まっていた。裏口のドアは頑丈そうで、とても蹴破れそうに無い。

私は大家の部屋を探した。

五部屋目に入ると、ここが大家の部屋らしいというのが解った。

執務机を探すと、すぐに鍵束が見つかった。

急いで裏口に戻り、鍵束の中から合う鍵を探すと、七つめの鍵がちょうど合うようだった。扉を開けて路地に出る。


路地に出てしばらく歩いていると、後ろから大きな音がした。

後ろを見ると、どうやらさっきまでいた建物が崩れたようであった。

私は運良く脱出できたことに安堵のため息をつき、『母』の生存は絶望的だと思った。

どちらにしろ、私は生き延びねば。

この町を脱出するために私は歩を進めた。

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