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第8話 野生のラスボス国を渡る

※変更点あり

クロスゲートオンライン→エクスゲートオンライン


( ゜д゜) 【日刊5位】

( ゜д゜ )

 時代が変わればゲームも変わる。

 1978年にインベーダーゲームが出て以来、時代とニーズに合わせてゲームというものは絶え間ない進化を続けてきた。

 2年後には初の携帯ゲームであるゲーム&ウォッチが登場し、そのわずか3年後にはファミリーコンピューターが出現した。

 と、思えばその7年後にはスーパーファミコンだ。

 プレイステーションの登場はその4年後で、それからもゲームは一つの世代を変える度に新しい物が市場を席巻した。

 そして、その時常にプレイヤーを驚かせてきたのがグラフィックの進化だった。


 8ビットのファミコンから16ビットのスーパーファミコン。

 そしてプレステに入ればCGが幅を利かせ、世代交代と共に初期の不自然さも消えて滑らかなCGが画面上の常識となった。

 国内で有名なゲームが初めてプレステ2で出したゲームを、当時の子供達は「何てリアルなCGなんだ」と驚いた事だろう。

 ところが今の子供達が同じゲームをすれば「雑なCGだなあ」と文句を言う。

 それほどにCG技術は進化し、そしてプレイヤーの目も肥えてしまった。


 だがそれでも進化は止まらない。

 グラフィックとゲームはますます世代交代と改良を繰り返し、リアルへと近付いて行く。

 実写と見紛うような出来の架空世界が画面に広がり、モデルを起用したかと勘違いしてしまいそうな架空人物がそこを走り回る。

 今はまだ実現されていないが、あるいは小説などで散々題材とされてきたVRMMOなんていうのも本当にそのうち出るのかもしれない。


 しかしそれは現時点ではまだ夢物語。

 体感全てをゲームの世界に移行するなど、まだまだ危険が多すぎて実用など当分は先だ。

 いずれは実現するかもしれない。

 しかし『いずれ』は『いずれ』であり、少なくとも今ではない。



 ――じゃあ俺は何で、こんなゲームの世界で自キャラになって、馬車に揺られているんだろうな。

 こんな事ならアバターは男にしておくべきだった。



「ルファス様、見えてきましたよ。

次の町です!」

「ああ、見えている。だからそうはしゃぐな」


 隣の席に座るディーナが興奮したように俺を揺らし、ただでさえ揺れの酷い馬車がより一層酷く感じる。

 オーク討伐の金と、ディーナがどこかでオークを売り飛ばした事で稼いだ金、合わせて5500エルを元手に俺達は現在スヴェル国へ向かう馬車に乗っていた。

 勿論ディーナが売ったのはHPを上昇させる最上質の肉ではなく、それ以外の部位だ。

 (まあ、傷が付いて使い物にならなかった奴は売ったらしいが)

 どこで売ったのかは気になるところだが、何せ彼女は転移が使える。どこで売っても不思議はない。

 簡単に移動出来て羨ましい事である。

 尚、彼女の転移は一人専用らしく他の誰かを連れては行けないらしい。

 何でも意志ある相手を転移させる場合は相手側が意識を失っているか、あるいは了承してもらう必要があるんだと。

 ディーナ曰く、心のどこかに相手への拒否感があると成立しないらしい。


 ああ、そうそう。

 HPの件だが、あれから無事残り4つのオーク肉も消費して現在は336100まで上昇している。

 少しキリが悪くてスッキリしないHPだが、まあ目を瞑ろう。


「ご利用ありやとやしたー」


 御者に代金を払い、馬車を降りる。

 そして王都を守る門の前へと歩いて行く。

 門の前には何人もの兵士が立ち、厳重な警備態勢を敷いていた。

 そういえばここ、今は12星天の一人に攻撃されてるんだっけか。

 迷惑かけてすんません。


「止まれ、そこの二人!」


 門番に呼び止められ、俺達は一度静止する。

 うん、そりゃ止められるわな。

 俺の格好全身フードだし。どう見ても不審人物だ。


「ここより先はスヴェル国領地である。通行証を提示せよ」


 通行証……だと?

 やばい、そんなのが必要だなんて初耳だぞ。

 ゲームの時は国に入るのにそんなの……――あ、必要だったわ。

 あの時はゲーム=勢力だったから、他国に入るには一度自分の国を抜けて、それで相手側の国王の承認を得なきゃ入れない仕組みだった。

 今思えばあれが通行証みたいなものだったのだろう。

 そして残念ながら今、俺はそんなものを持っていない。

 しかしそんな無対策な俺とは違い、ディーナは落ち着いた様子で懐から紙を数枚出すと、それを門番に渡す。


「はい、こちらが通行証になります。ご確認を」

「うむ」


 何だこの有能参謀、用意の良さが半端じゃない。

 しかも俺の分まで用意してくれていたのか、まるで『心配無用』とばかりにウインクを寄越してきた。


「ふむ、国籍を持たない自由商人か。

名前はディーナと、スファル。身分証も本物のようだ」

「最近偽造証で通ろうとする輩も増えたからなあ。

まあそんなので騙せるのは節穴くらいのものだがな。はっはっは」


 節穴乙。

 俺は身分証なんて持ってないので、それ間違いなく偽造です。

 というか俺の偽名いい加減すぎやしないかな。

 スファルって……名前逆読みにしてるだけじゃないか。


「ふむ、通ってよし」

「ありがとうございます」


 無事に許可を得、ディーナが満面の笑顔を浮かべる。

 だが通ろうとしたところで再び声をかけられた。


「あ、待て。一応その外套を外して顔を見せてもらおう。

すまないと思うが、中身が魔物や魔神族でないとも限らんのでな」


 あー、うん、そりゃやっぱこうなるよね。

 しかしこれは予想出来ていた事態だし、実のところそこまで慌てる状況でもない。

 確かに俺は世界的に悪い意味で有名だが、俺の象徴は黒い翼である。

 顔だけなら写真もないこの世界じゃ気付かれる事など、それこそ当時を生きていた長寿生物以外ありえない。

 分かり易く言えば、織田信長が現代風のファッションと髪型でその辺歩いてたとして、「あいつ織田信長だ!」と気付く奴などいないという事だ。

 そしてこの門番達は翼もないし牙もない。そして耳も尖ってないときて、明らかに人間だ。

 ならば顔見せくらいは問題ないだろう。


「ああ、これは済まなかった。……そら、これでいいか?」


 俺は彼等の前でフードを取り、微笑みを浮かべる。

 先に言うと俺は決してナルシストの類ではない。

 しかし元々男だった事もあって、今の容姿が絶世の美少女である事くらいは自覚している。

 男の好みを最も知るのは男だ。

 ドキッとする仕草、表情、態度など。女のどういう動きが男心を揺さぶるかを理解出来てしまう。

 ゲームにおいてよく起こる、ネカマ女がリアル女より貢がれるという事態、その原因。

 これを武器として利用しない手などない。


「許せよ門番殿、顔を隠しておかねば道往くだけで声をかけられてしまうのだ」

「う、うむ……確かに」

「どうだろう、もう通りたいのだがよいか?」


 俺が向こうの立場なら、美人に悪印象など持たれたくない。

 たとえこれ以降もう接する事がないとしても、「あの門番は息が臭いから近付きたくない」とか言われたらかなり沈む。

 勿論それは個人差もあるし、場合によってはここで「へい彼女、そんなつれない事言わないで」とか言い出す図々しいのもいるかもしれない。

 だが良識ある健全な男ならば、ここで出す答えなど一つしかない。


「も、勿論であります! どうぞお通り下さい!」


 ま、こうなるわけだ。

 俺は再びフードを被り、今度こそ国境を越える。

 一歩踏み込んだ先から、そこにあったのは見渡す限りの水、水、水だ。

 まるで海のように広い湖が視界一杯に広がり、門から続く一本の橋が王都へと続いている。


 この国は俺がゲームをプレイしていた時は存在しなかった国だ。

 建国200年の歴史の浅い国であり、その創設者はかつてルファス……つまり俺を相手に立ち上がり世界の人々を率いてこれを討ち倒した7英雄の一人、『賢王』メグレズとされている。

 彼はディーナが言うには隠居しているものの未だ存命であり、今でもこの国に暮らしているそうだ。


 歩きながら俺は考える。

 メグレズは俺がゲームをプレイしていた当時からいた。

 一緒に狩りをした事もあるし、馬鹿みたいな話で盛り上がった事もある。

 あの決戦だって別に仲違いをしたわけではなく、単にゲームを盛り上げる為にストーリーを盛って皆で演じた……要は演劇みたいなものでしかなかった。

 たまたま俺がボス側に立ち、あいつ等が主人公側に立った。

 そして皆で盛り上げて一つの物語を作り上げた。……そう、戦いこそしたが俺達は同じゲームをプレイして同じ楽しみを共有した仲間だったのだ。


 では今、この世界にいるメグレズはどちらだ?

 俺と同じく中身は別世界のプレイヤーなのか?

 それとも、中身関係なしの俺の知らないメグレズという名の誰かなのか?

 もしそうなら、俺と一緒に狩りをしたり馬鹿話をしたりした過去は一体どうなるんだ?


 『剣王』アリオト。

 『獣王』ドゥーベ。

 『鍛冶王』ミザール。

 『冒険王』フェクダ。

 『賢王』メグレズ。

 『天空王』メラク。

 そして『吸血姫』ベネトナシュ。


 かつて俺と共に楽しみを共有した仲間達。

 7つの、それぞれの種族を代表する、俺と共にゲームを盛り上げた7人の最上位プレイヤー。

 俺はこいつ等に会わなければならない。

 上の4人は寿命で既に死んでしまっているらしいが後半3人はまだこの世界にいる。

 俺は知らなくてはならない。

 俺の他にもこの異常事態に巻き込まれている奴がいるのか……それとも俺だけが異常なのか。


「……ここが、メグレズの奴が作った国か」


 顔を上げる。

 視界に飛び込んできた王都を一言で表すならば水の都、といったところか。

 この入り口のゲートもなかなか趣向を凝らしているようで、王都よりも高地にあるおかげで全体がよく見通せる。

 といっても、この身体になってから無駄によくなった視力のおかげでもあるが、今の俺にはこの国全体をよく見渡す事が出来た。

 中央に王城があり、その王城を囲むように湖が流れている。

 そこに周囲4つの方位から橋がかかり、外枠の土地と繋がれていた。

 外枠を形成する土地も東西南北のエリアに分かれ、それぞれが橋で繋がれている。

 河が敷かれている……というよりは広大な水の上に橋と王都をぶっ建てたという例えの方がしっくり来るか。

 中央含め5つの陸地が清んだ水の上に建ち、8本の橋が互いを繋ぐ。何とも珍妙な王都だ。

 ……あ、門から伸びる橋を入れれば9本だな。


 陽光を反射して湖がキラキラと輝き、あちこちに建てられた林や木々が風に揺られる。

 また、目を凝らせばどこもかしこもが不思議な光に満たされているのが分かるがあれは……魔力というやつだろうか?

 空気中に漂う魔力をゲームではマナと呼んでいた。

 多分それだろう光が至る所で存在感を主張するその様は圧巻だ。

 流石は賢王の国。なかなか面白い様相を醸し出しているじゃないか。


「魔法大国スヴェル。

7英雄の一人、エルフの賢王メグレズによって建設されたこの国は非常に豊富なマナが特徴です。

魔法や学問の教育に力を注ぎ、世界各地から魔術師や学士を志す者が集まります。

しかし豊富なマナを嫌ってか、天翼族はほとんど訪れる事がありません。

……ルファス様、お身体に異常はございませんか?」

「問題ない。他はどうだか知らぬが、余にとってはむしろ新鮮で心地よいくらいだ」


 ディーナにそう言い、俺は周囲のマナを見る。

 今のところ不快感はまるで感じない。

 天翼族は魔の力であるマナを嫌うという設定があったのは覚えているが、俺は今のところその兆候すら感じてはいなかった。

 あるいは天翼族のマナ嫌いは案外、精神的なものが大部分を占めているのではないだろうか。

 それならば先入観のほとんどない俺が平気なのも納得がいく。


「さて、これからの行動予定ですが……まずはどこへ行かれますか?」

「無論、メグレズの奴に会いに往く。

奴には色々と問いたい事もあるしな」

「直球ですね。しかしメグレズは恐らくいるとしたら王城の中でしょう。

まさか乗り込むおつもりですか?」


 ディーナの言葉に俺は首を振った。

 ただでさえ俺の育てた魔物が迷惑をかけているというのに、そこに俺が堂々と突貫をしても混乱が加速するだけだ。

 忍びこむにしろ、城から出た所を狙うにしろ、混乱は少ない方がいい。

 ならばまずは、軽く情報集めから行った方がいいだろう。


「いや、穏便に行こう。要らぬ騒ぎを起こす趣味はない」


 ディーナにそう言い、俺はまずこの王都の事から詳しく知るべく橋から続く階段を降りる。

 ここは学問が盛んな国とディーナは言った。

 ならば歴史などを詳しく記した本などもどこかで読めるだろう。

 俺はこの200年の空白の歴史を余りに知らなすぎる。

 まずはその知識の欠落を埋めたい。

 それを考えればこの国は俺にとって好都合とも言えた。


 そうだな……まずは図書館でも探す事としよう。

 そう考え、俺は道行く人に話しかけた。



【別に覚えなくてもいい設定】

・この世界の地名

エクスゲートの世界の地名などは北欧神話に存在する地名や武器名などを多々流用している。

しかし最高神の名前が北欧神話と全く関係がなかったりと、そこまで厳密にこだわっているわけではない模様。

また、あくまで北欧神話の名に沿っているのは『運営が初期に作った都市や国、土地』であり、それ以降にプレイヤーが作った国などの名前は当然個々の好みに左右される。

だから平気で他神話の名前が出たりするし、『ジオン公国』とか『M78星雲』とか『修羅道至高天』とかいう明らかにおかしい名前の国もあった。

北欧神話がモデルなんてもう誰も覚えていないし運営も気にしていない。

むしろ運営側も北欧神話だけじゃ限界があるので普通に他神話の名前を引っ張ってきたり、その辺のジュースとか食べ物から名前を取ったりする。

結果、元々は何がモデルだったのかも分からないカオスな世界になってしまった。


運営「……まあ、ゲームの地名なんて大体そんなものですし(震え声)」

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