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第77話 狐獣人のなきごえ

 無事狩猟祭も終わり、ウィルゴは見事優勝を飾って戻って来た。

 レベル的には当然なのだが、これで少しは彼女も自分に自信が持てるだろう。

 他の参加者には少し悪い事をしてしまったと思うが、まあウィルゴがいなきゃ恐竜に食われる奴が確実に何人か出ていただろうし、それでチャラとして欲しい。

 ともかく今夜は優勝祝いだ。リーブラとディーナ、カルキノスが作ってくれた料理でささやかではあるが祝うとしよう。

 どうでもいいが俺は料理していない。出来なくはないんだが、俺が作る料理って材料適当に放り込んだ炒飯とかそういうのばっかだからな。正直見栄えが悪すぎる。

 その点ディーナ達が作る料理は見た目も味も文句の付けようがない。

 気になるのはリーブラがたまに味見のような事をしている点だな。ゴーレムなのに味とか分かるのか?


「味は分かりませんが、舌がセンサーになっておりますので触れる事で成分解析が可能です。

それを元に過去のデータと照らし合わせて最もルファス様が好む味付けをセレクトする事が出来ます」


 ……ゴーレムとは一体何だったのか。

 ミザール、マジで頑張りすぎだろ。あいつ一人でゴーレム技術を百年は進歩させてる気がする。

 おかしいな。ゴーレムっていえば自律行動する鉄や岩の塊のはずなのに、何でアンドロイドみたいな事になってるんだろう。


「はい、カッセロール出来ましたよー」


 ディーナがニコニコと笑いながら俺達の前に鍋をドン、と置く。

 鍋ごと、とは随分豪快な料理が出てきたもんだ。

 というかこれ、あれだ。フランス料理のキャセロール。

 刻んだ野菜や肉、チーズなどの材料をスープと混ぜ合わせて、耐熱容器に入れたままオーブンで焼く料理だったと覚えている。

 とはいえ、やはりここは異世界。足りない材料などは当然あるし、逆に向こうでは使わないような材料が入っている事もあるだろう。

 オーブンも向こうのような高性能なものではなく、煉瓦で造った古いタイプだろうしな。

 結果としてはキャセロールに似てはいるが、やはり別物といったところか。

 しかし……不気味なほどに類時点が多いな。まるで向こうから技術や知識が流入しているような……これは考えすぎかな?

 一応、それとなく聞いてみるか。


「ディーナ、これは?」

「カッセロールです。ドラウプニルの代表的な家庭料理なんですよ。

ただ、その定義は曖昧で肉や野菜をトロトロに煮込んで鍋ごと出せば大体カッセロールっていう扱いらしいです」

「大雑把だな」

「獣人の国発祥の料理ですからね」


 俺の知るキャセロールはかなり定義が細かかったはずだが、ここではそうでもないらしい。

 要するに鍋料理=カッセロールであり、作り方や材料はどうでもいいんだとか。

 まるで劣化コピーだな……概念だけを何も知らぬ連中に与えて作らせたら、本物とは程遠い劣化品になってそのまま普及してしまったような……。

 いや、そういえばそんな設定も実際にあったな。

 この世界の料理や技術などは女神が人類に与えたものがほとんどだが、それ故に人類は自ら発明したり試行錯誤する事をあまりやらなくなってしまった、と。

 これは本来、プレイヤーの『異世界のくせに地球と被りすぎじゃね?』というメタな質問に対して運営が用意した言い訳だったのだが、もしかすると本当にあるかもな。地球からの知識や技術の流入が。

 不可能ではない。エクスゲートを使えば地球から誰かを引きこむ事は可能であると実証されているのだから。


「これでも獣人にしては凝ってる方なんですけどね」

「そんなに大雑把なのか」

「はい。獣人は胃袋が強いですからね。

大体は軽く焼いただけの肉とか野菜とかを食べてますし、酷い時は生でも食べますし」


 生でもいけるのか。そういう所はやっぱり獣なんだな。

 俺はディーナの説明を聞きながらキャセロールもどき、じゃなくてカッセロールを食べる。

 ふむ、グラタンとかに少し近い味だな。割といける。

 まあこれは俺達が食べやすいように多少のアレンジも入っているだろうから、本当はもっと適当で大雑把な味なんだろう。


「それで、翌日以降の予定はどうしますか?」


 果物を搾って作ったジュースをウィルゴの前に配りながらカルキノスが尋ねてきた。

 俺やアイゴケロスはワインだ。

 地球にいた頃はあんまり飲酒はしなかったのだが、この身体になってからはやけに酒が美味い。

 軽く一口飲んで喉を潤し、俺はその質問に答えた。


「本来はこのままドラウプニルを発つ予定だったが、変更する。

『射手』がこの付近にいるかもしれぬと分かった以上、しばらく留まって捜索するぞ」

「Yes。明日からは手分けしてのSearchですね」

「フン、あの駄馬め、ルファス様の手を煩わせるとは。自ら馳せ参じるのが忠臣というものだろう」


 カルキノスは『射手』に対し特に思う所はないようだが、アイゴケロスは不満そうだ。

 ぐびぐびと酒を煽りながら、忠臣の何たるかをブツブツと愚痴っている。

 もしかして酔ってるのか? まだ一杯目だぞ。


「うむ。とりあえず明日は二人一組になって分かれよう。

分け方は……そうだな。余とディーナ、リーブラとカルキノス、アリエスとウィルゴ、そしてアイゴケロスとスコルピウスといったところか」

「そんな!?」


 俺が分け方を提案すると、飽きずに俺の隣にいたスコルピウスがこの世の終わりのような顔をした。

 そして憤怒の表情でディーナを睨み、ギリギリと歯軋りをしている。

 一方睨まれているディーナは顔を青褪めさせ、冷や汗をダラダラと流していた。


「あ、あの、ルファス様。チェンジお願いします。このままでは私がスコルピウス様に暗殺されかねません」

「あー……うむ、そうしようか。ではディーナはアイゴケロスと。スコルピウスは余と共に来い」

 

 どうしよう。スコルピウスがマジで重くて面倒臭い。

 再び上機嫌に戻って俺の腕に頬ずりしているスコルピウスを放置し、とりあえず今日の会談はこんなところかなと話を終える事にした。

 後は順番に風呂に入って寝るだけだ。

 どうでもいいがスコルピウスは毎回俺の背中を流そうかと聞いて来るが断っている。

 こいつを一緒に入れると何か不味い気がするのだ。

 たまに俺が風呂入ってる時に脱衣所に忍び込もうとしてリーブラに捕獲されているし。

 必ず俺の後に入ろうとするので、毎回その度にリーブラが湯を取り替えて風呂場を掃除しているし。

 夜中にたまに目が覚めると、スコルピウスがリーブラに捕縛されて天井に吊り下げられたりしてるし。

 何というか、もうリーブラが頼もしすぎて手放せない。

 これでポンコツでさえなければなあ……。

 そんな事を考えてリーブラを見ていると、彼女は何かに気付いたようにドアの方向を見た。


「マスター、田中の外に誰かがいるようです。体温や呼吸などを計測するに緊張はしていますが敵意は感じられません。始末しましょうか?」


 リーブラはそう言いながら機関銃を取り出して装備する。

 だから何でこう、すぐに排除の方向に動こうとするんだこいつは。

 今、自分で『敵意を感じない』って言ったばかりなのに、どうしたらその後に『始末しましょうか』に繋がるんだよ。


「いや、いい。まずは話を聞こう」


 敵意がないならまずは話し合いだろう、常識的に考えて。

 俺は外套で翼を隠し、ディーナを向かわせる。

 こういう場面はまず、俺みたいな怪しいのよりもディーナが向かうのが適任だ。

 彼女はパタパタとドアの所まで小走りで移動すると、ドアを開いた。

 そこにいたのは二足歩行の狐……じゃなくて、狐の獣人だ。

 獣人は顔がそのまんま、元の動物そのものだからタイプによっては普通に可愛いのが困る。

 ところで、狐の獣人ってエキノコックスとかどうなってるんだろう。

 共生出来てるって事は大丈夫なんだと思いたいが。


「コーン」

「ミズガルズ共通語でお願いします」

「あっ、はい」


 狐の獣人さんはやけに可愛らしい鳴き声をあげたが、意外とセメントなディーナの冷静な突っ込みを受けて普通に話し始めた。

 多分彼的には渾身のジョークか何かだったのだろう。冷たくされたせいで耳が垂れている。

 というか彼でいいんだよな? 獣人は性別が分かりにくすぎて困る。


「ええとですね、こちらのほうにこの名簿に書かれている方はおられますか?」

「ちょっと見せて頂いてもよろしいですか?」

「どうぞ」


 ディーナが名簿を受け取り、それから狐さんを放置してこちらへ戻ってくる。

 狐さんはキャンピングカーが珍しいのか、せわしなく視線を動かして中を見ていた。

 ディーナから名簿を受け取り、そこに書かれた名前を読む。

 そこにはビキニマッスルやシャドウ、バニーダンディ、セイといった知らない名前が並んでいるが、一番上にウィルゴの名前がある事を確認した。

 これは……狩猟祭の上位入賞者の名前か?


「これは?」

「アッシも詳しい事は知らないんですが、現在、皇帝の命令で上位成績者に声をかけておりまして。

もしご都合よろしければ、明日の朝十時に南の戦士用ゲルまでお越し願いたいのです」

「集める理由は?」

「申し訳ありません。アッシみたいな下っ端の伝令にはそこまでは教えて頂けないんです。

ただ、強制というわけではありませんので、もし気が向いたら……でお願いします」


 どうやらこの狐さんはただの使い走りらしい。

 俺の質問に対してもほとんど答えは返ってこないし、リーブラが何も言わないという事は嘘などを付いているわけでもないのだろう。

 しかし気が向いたら、ね。

 皇帝の命令で声をかけている、という事は即ち皇帝からの呼び出しという事だ。

 いくら国が違うからといえ、それをスルーしては冒険者や旅人はこの先非常にやり辛くなるだろうし、この国での依頼などはほぼ来なくなると考えていい。

 これはほとんど、任意とは名ばかりの強制みたいなもんだな。

 まあ俺達はいくらでもスルー出来るんだけど。


 さて、これはどうしたもんかな。

 ここで呼び出されてるのが俺やリーブラ……というかウィルゴ以外の誰かならば、あえて乗ってみるという選択を迷いなく選べただろう。

 仮に向かった先に策謀や罠があったとしても、それを強引に食い破るだけの力が俺達にはある。

 しかしウィルゴはどうだ。レベルは確かにこの時代なら破格の300だが、決して無敵というわけではない。

 七曜などもいるし、ウィルゴと互角かあるいは勝てる奴というのは結構存在するのだ。

 例えば俺が以前にパンチ一発でフッ飛ばした弱っちい魔神族だって、ウィルゴが戦えば負けてしまう可能性がある。

 必ずしもこの誘いが敵意を孕んだものであるとは限らないが、警戒するに越した事はない。


「ウィルゴ、其方の意見を聞こうか」


 考えた末、俺はウィルゴの意見を尊重する事にした。

 彼女が行くならば、こちらでサポートする。

 行かないならば、このままばっくれるし皇帝とやらが文句付けてきたら俺が相手する。

 幸い、権力だの何だのは俺達に対してあんまり効果はない。


「ええと、行ってみようかなと思います。

折角のお誘いですし、それに私でも何か出来るならやってみたいと思うんです」


 ウィルゴは乗り気、か。

 ならば俺達は全力でサポートするだけだ。

 先ほど予定変更したばかりだが、またも予定変更だ。

 アリエスを捜索から外し、ウィルゴのサポートに付けるとしよう。

 俺とディーナも危険がないと分かるまでは皇帝とやらの会話を傍受しておくのも悪くないだろう。


「分かった。そういう事だ、伝令。

ウィルゴも参加すると伝えておいてくれ」

「はい、必ずや」


 俺の答えを聞いて伝令の狐さんは上機嫌で走り去って行った。

 動くたびに揺れる尻尾が気になって仕方ない。

 多分この後も参加者を探して走り回るのだろう。元気なものだ。


「とりあえず、明日に備えて今日はさっさと寝てしまうとしよう。

そういう事だから長風呂はするなよ。余もなるべく早く上がる」

「ルファス様、今日こそはお背中を……」

「要らん」


 後は、皇帝とやらが悪意を持って招待しているわけではない事を願うばかりだな。

 俺も、一国を敵に回すような騒動は御免だからな。


※田中内での風呂のルール

・1番風呂はルファス。

・鳥バードの後、風呂に入ると変なもの(主に羽)が浮いているのでリーブラが一度湯を全部取り替える。

・後はジャンケンで順番を決める。以上。


Q、ルファスってこの世界に来てから食べた物全部『美味い』って言ってるけど、好き嫌いあるの?

A、鳥バードは何を食べても美味いと言う。

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