第6話 野生のオークがあらわれた
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アイル村。
交易都市ユーダリルから徒歩で半日の距離にある小さな村で、特産品などは特になし。
日々を慎ましやかに生きている素朴な村である、とはディーナの弁だ。
左程大きくはない林を抜けた先にあるそこは、なるほど、確かに都会のような派手さは微塵もない落ち着いた村だった。
木造の小さな家が数軒建ち並び、家の前には畑が広がる。
うん、こういう雰囲気は嫌いじゃない。
「依頼書に同封されていた依頼人宅は……ああ、あそこの大きな建物ですね」
ディーナが依頼書を見ながら一際大きな家を指差す。
大きい、と言っても勿論都会の家ほどではない。
あくまでこの村の中では大きい、というだけだ。
恐らくは村長宅だろうそこに行くと、ディーナはドアを軽くノックした。
「すみませーん、依頼書を見てやってきた者ですが村長さんはご在宅でしょうかー?」
依頼人との交渉や段取り決めなどは全て自分に任せてくれとディーナが言って来たので俺は置き物状態だ。
何でも俺の口調は酷く目立つんだと。
うん、俺も自覚はしてるんだが何故か直らないんだよな。
まるでこれが長年使ってきた口調であるかのように自然と口から出てしまうのだ。
「おお、お待ちしておりましたぞ。
ささ、中へお入り下され」
ドアから出てきたのは人の良さそうな白髪の老人だ。
彼は俺の姿を見ると一瞬いぶかしむような顔になったが、それでも余程切羽つまっているのか特に何の言及をする事もなく俺達を招き入れた。
通された室内はよく見なくとも所々傷んでおり、あちこちに補強修理の跡が見られる。
床はギシギシと鳴り、村長の家でこの有様というのがそのままこの村の現状を表しているようだ。
「さ、お掛け下され」
椅子に座るよう促され、酷く頼りない木の椅子に座る。
今にも折れそうで少し不安だが、何とか座る事は出来るようだ。
俺が獣人とかだったらアウトだっただろうな、これ。
「さて、早速ですが依頼の話をしましょう。
仕事内容はこの付近にあるオークの巣の壊滅。それで間違いないですか?」
「はい。壊滅とまではいかなくとも、何とか奴等を追い出して頂ければお金は払います。
とにかくこのままでは村は奴等の食い物にされる一方で……若い女は連れ去られ、男は殺され、子供すら遊び半分に殺められる……。
農作物はほとんど奪われ、儂らはもう限界です。
何とか、あの憎き豚共を成敗して下され」
「勿論ですとも!」
ディーナと村長の会話を聞きながら俺はオークのいっそ清々しいまでの下衆さに感心していた。
オークは相変わらず設定通り、下衆な事をするのが本能のような生き物らしい。
そんなんだからお前等、主要7人類に含めてもらえず挙句モンスターとして扱われるんだよと言いたい。
吸血鬼ですら一応人類にカウントされているのにこの豚共ときたら……。
まあ、こちらとしても変に相手がいい奴だとやりにくいので逆にありがたくはある。
少なくとも、オーク達を潰しても良心は一切痛まないだろう。
「お任せ下さい、見事オーク達を巣ごと叩き潰してご覧に入れましょう!
こちらのお方が!」
ディーナがドヤ顔で俺を示す。
言っている事は勇ましいがやっている事は他人任せだ。
まあ実際戦うのは俺の仕事なのでここは黙って頷いておく。
村長が「こいつら大丈夫かな」みたいな顔をしているが、見事依頼を達成出来れば文句もないはずだ。
「お、お願いします。どうか村を救って下され」
村長はそう言い、深々と頭を下げる。
こうまで頼まれてはこちらも断れないというものだ。
元より断る気などないが、一層やる気が出る。
俺とディーナは必ずオークの巣を潰すと約束し、家を出た。
「さて、どうします? 早速殴り込みをかけますか?」
「それもよいが、まずは準備をせねばな。
余がいない間にオークがこの村を攻めぬとも限らん」
巣を潰すのは恐らく苦労しない。
何せステータスに差がありすぎるのだ。
どんなに油断して気の緩んだ戦いをしようとまず負ける事はないだろう。
しかし巣に行っている間にオークがこちらに来て、それで村長を殺されてしまえば俺達の負けだ。
依頼人が死んでしまっては依頼金も受け取れない。
「そこで、番人を作っておこうと思う」
「番人ですか?」
「ああ、簡単なゴーレムを1体な。大して強いものでもないがオークを止めるくらいならば充分だろう」
俺はディーナにそう説明し、そこらの石を材料にしてアルケミストのスキルでストーンゴーレムを作成する。
ゴーレムの強さは術者のクラスレベルに依存し、その計算式は[総合レベル÷2+クラスレベル]の端数切捨てだ。
例えば総合レベル20でクラスレベル5の奴がゴーレムを作ったならば「20÷2+5」でレベル15のゴーレムが完成するし、そいつのクラスレベルが20ならばレベル30で本人より強いゴーレムが出来上がる。
つまり低レベルのうちならば最大で自分の1、5倍のレベルのゴーレムを生み出せるわけで、序盤のうちのアルケミストの主戦力といってもいい。
しかしクラスレベルは100が限界なのに対し総合レベルは1000が限界だ。
つまり後半になるほどゴーレムは役に立たなくなる。
即ち俺がゴーレムを作っても「1000÷2+100」で最大でもレベル600のゴーレムしか作れない。
更にここに素材による要素が加わり、レベル限界値が設定されてしまう。
素材がよければレベル600のゴーレムが作れるが、残念ながらそこらの石で出来るゴーレムなど限界レベル100がいいところ……ハッキリ言って俺の役に立つ戦力じゃない。
だがまあ、この村の護衛に残すならば多分これくらいで問題ないだろう。
「いやいや、充分すぎますって。
レベル100ゴーレムとかこの時代だと何百万エルもの値が付きますよ!?」
「そこらの石で作った工作がその値段か……」
とりあえず番人は配置した。
近付くオークは問答無用で行動不能にせよ、と簡単な命令を残して俺は村を去る。
目指すはオークの巣ただ一つ。
狙うはHPを上げてくれるオーク肉だ。
草を踏み馴らし、地図に記されたオークの巣へと歩く。
場所はすぐに分かった。
地図に記されているのもあるが、何より奴等が全然隠れていないからだ。
堂々とオークが2体、洞窟の前でベラベラと雑談しているのが見える。
一応の見張りなのだろうが、警戒心はハッキリ言って0。
自分達が害されるなど微塵も考えていないふてぶてしい振る舞いだ。
「いました。ああ、いつ見ても醜悪な姿……。
女神アロヴィナス様もきっと、とんでもない失敗作を作ってしまったと嘆いているに違いありません」
「其方、なかなかに毒舌だな。聖職者によると女神は誰でも分け隔てなく愛する慈愛の神らしいぞ」
「そんなの嘘っぱちです、妄想の押し付けです。
女神様だって好き嫌いくらいあるに違いありません」
ディーナのオークへの酷評を聞きながら俺はどうオークを仕留めたものかと考える。
1、堂々と近付いて蹴り殺す。
ぶっちゃけオーク相手に怯える要素など微塵もない。
隠れたりせず堂々と殴りこんで殲滅しても、多分余裕で勝てるだろう。
しかしこの方法だと何匹かのオークが逃げてしまうかもしれない。
2、アルケミストのスキルで巣ごと叩き潰す。
これが最も安定した方法だと思う。
攻撃魔法の使えない俺だがアルケミストのスキルならば大規模攻撃も不可能ではない。
しかしその場合巣ごと壊滅するので、オーク肉のいくつかは瓦礫に埋まる。
3、スキルを駆使して速やかに悲鳴を上げる間もなく暗殺する。
これならば逃げられる恐れもないし、オーク肉を取り逃がす事もない。
覇王とまで呼ばれたルファスがオーク如きを相手にこの戦略はどうよ、とも思うがそんな事より肉優先だ。
巣に何匹いるかは分からないがドロップ率を考えれば50匹に1、2回の割合で入手出来る。
相手の数が100もいれば3つは入手出来る計算だ。
オーク肉は一度の使用でHPを100~300ランダムで上昇させてくれるので、3回も使えば最低でも300の上昇だ。
……地味? いや、こんなんでも何回もこれ繰り返すとかなりやばい事になる。
「さて、速やかに消すとしようか」
「やっちゃって下さい、ルファス様!」
俺はアルケミストのスキルでアイテムの生成を始める。
材料はそこらの土、作るのは剣だ。
とりあえず軽く30本ほどの剣を生成し、エスパーのスキル『サイコスルー』で宙に浮かす。
正直なところ俺は接近戦の方が得意だし、極めてるクラスのうちの4つは接近戦主体だ。
いや、ストライダーも結構接近戦いけるから5つかな。
対し、攻撃魔法が使えない都合上遠距離戦はそんなに得意ではない。
アーチャーのクラスなんて取ってすらいないし、エスパーも半端に50レベルしか齧っていない。
しかしそれでも、アルケミストとの組み合わせによってそれなりに使えない事もない。
アルケミストのアイテム生成は文字通り手持ちやそこらの素材からアイテムを生成するスキル。
作り出せるものは回復アイテムから装備まで幅広く、組み合わせ次第で限りなくオリジナルに近い装備なんかも出来たりする。
今回作ったのは普通のブロードソードだが、一応俺もクラスレベル100なので伝説の武器とまではいかないが、それに近い性能の武器を造る事は可能だ。
そしてエスパーはそのまんま超能力者のクラス。
近づく事なく相手の動きを拘束したり物体を動かしたりする事が出来る。
『サイコスルー』はその最も代表的なもので、手持ちのアイテムを敵に向かって発射するというものだ。
昔の国民的有名RPGに『アイテム投げ』とか『銭投げ』とかあった気がするが、それと同じようなもんだと思えばいい。
このスキルとアルケミストとの相性は極めて良好で、腕組みしたまま無数の剣を発射しての英雄王ごっことかも出来たりする。
計30本の刀剣がオーク目掛けて発射され、その額を貫き首を刎ね、心臓を貫いて両手足を切断する。
瞬く間に全身に剣を突き刺され、針鼠のようになったオークはもう動く様子すらない。
俺は茂みから出ると刺さったままの剣を念動力で抜き、オークの解体処理を始めた。
……あれ? これドロップ率3%とか言わず解体すれば普通にオーク肉入手出来ね?
「あー……駄目ですよルファス様、ヒレを傷つけちゃ。
オークのヒレ――その中でも最も柔らかい部分は生命力増強の働きを持ちますが、生きている間に少しでも欠損させてしまうと効果を失ってしまうんです」
「ん? そうなのか?」
「そうですよ。
といっても、オークも結構あちこちで戦ったりしてますので既に傷付いている場合も少なくないですけどね。
綺麗にヒレ部分が残っていて、かつそれを一切傷つけず倒して取り出すなら、その総合確率は3%と言われています。
……封印されている間にド忘れしちゃったんですか?」
ディーナの説明を聞いて俺はほう、と感心してしまった。
なるほど、それで3%か。ゲーム中では一切気にしなかったドロップ率にもこういう理由があると中々面白い。
そしてこれで分かった事は、上手く倒せばこちらの技量次第では確率を上げる事も出来るという事だ。
「それは参考になる。以降気を付けるとしよう」
少し勿体無い事をしてしまった。
これだけ滅多刺しにしてしまっては無事な部位など存在しないだろうし、ヒレ部分も当然ボロボロだ。
残念ながらこの2体のオークは食料としては使えるが、HPアップには使えそうもない。
「後、オークは生命力も高いので身体への攻撃自体お勧めしません。
狙うなら首か頭ですよ、ルファス様」
「承知した。其方は物知りだな、ディーナ」
洞窟の中から一匹のオークが「交代の時間だぞ」とか言いながら出てきたので剣を一本差し向けて速攻で首を刎ね飛ばす。
するとディーナは軽く拍手をし、「お見事」と言ってくれた。
それから再びオークを解体し、今度は傷のない綺麗なヒレを取り出す事に成功する。
「見ろ、ディーナ。今度は当たりだ」
「流石ですルファス様」
『俺』だったならばこんなR-18Gな解体シーンなんてとても直視出来なかっただろうし生き物を殺すのにも抵抗があっただろう。
こんな時ばかり有り難がるのも都合のいい話だと分かってはいるが、今だけはルファスの感覚に感謝だな。
さて、まだオークは山ほどいる。
依頼達成のため、全部逃がさずきちんと狩り尽くす事としよう。
【別に覚えなくてもいい設定】
・レベルカンスト組の主な能力上昇方法
1、金でドーピング。
ゲーム中にはお金を払う事で能力値を上昇させてくれるドリンクを出す店が存在し、これを馬鹿飲みするのはこのゲームにおける基礎中の基礎。
ただしオーク肉などと違い数値固定上昇で一度に1しか上昇しない。
しかも能力値が高くなるほど金を多く取られ、ルファス級になると攻撃力1を伸ばす為に10~20万エル取られてしまう。
高位プレイヤーの金はほとんどこの店に消える。
2、魔物を狩ってドーピングアイテムを拾う。
モンスターなどが落とすドーピングアイテムはどれもレア度が高く、酷いものになるとドロップ率0、05%とかしかない。
そして嫌がらせのようにどれも落とす金が少ないので1との併用は困難。
オークは破格の3%だが、それを狙って毎日高レベルプレイヤーの誰かしらがポップ地点にスタンバってるのでこれも入手困難。
数十人のレベル1000プレイヤーが一匹のオークが出るのを今か今かと心待ちにして陣取る姿はもはやホラー。
生まれると同時にそんなのに囲まれたオークは泣くしかない。
この事を知っているだけに、ルファスはオークが狩られずむしろ狩る側になっている事に一種の感動すら覚えた。
3、錬金術でドーピングアイテムを作る。
材料はどれも入手が面倒だが↑ほどの無理ゲーではないし、頑張れば普通に入手出来て金もかからない、と一番現実的。
この事実が判明してからは錬金術レベルを100にしている事が高レベルプレイヤーの常識となってしまった。
しかし材料を落とすモンスターはどれも全然金を落とさないので、1との併用が困難になる。
当然2との併用も不可能。
という活かされるかどうかも分からない妄想設定。
設定は考えるだけならば凄く楽しい。
というか考えてる間が一番楽しい。
尚、これが反映されるかどうかは(ry